《3日目》遊園地
午前六時ごろに起床した。ふだんより早く起きたのでまだ少し眠かった。
せっかく早起きしたことだし昨日の鈴奈の話で気になっていたことがあるので優輝が起きていない間にルーシーに質問することにした。
『ルーシー?』
『あと五分……』
神様は寝ぼすけらしい。
『そんな定番なことを言ってないで起きてくれ』
『ん……もう、なに? こんな朝早くに』
いつまでも眠たそうにしていたルーシーには悪いが質問をすることにした。ルーシーとの会話は喋る必要がないので歯を磨きながら話すことにした。
『どうして鈴奈には《世界の記憶》があるんだ?』
『ああ……そのことね。ふぁあ……ムニャムニャ。二度寝させて』
『頑張って睡魔に勝つんだ』
こういうところは子供っぽいな、と思いながらルーシーを起こした。まだ眠そうなルーシーはボソボソと呟いた。
『どこから話したらいいんだろ? あの子は数ある《世界》の中で最も異質な存在だし』
ルーシーはう〜んと唸りながらしばらく悩みながら、話す内容をまとめたようだ。
『まぁ結論だけ言った方がいいかな、うん。彼女の《世界の記憶》は私が与えた力なの』
そんな気がしていた。こんな力を得るためにはルーシーにお願いするのが一番だ。というよりルーシーにしか不可能だ。
『《別の世界》の鈴奈が《世界の記憶》を望んだから与えたのか?』
『さすがだね。そのとおりだよ』
『まだ鈴奈について分からないことが…』
僕がまた質問をしようとするとルーシーは遮るようにいった。
『ところでどっちの《世界》に残るか決めたの?』
『……それはまだだけど』
『君のするべきことは友達の謎の解明じゃないよ。自分の《世界》の選択をしなくちゃ』
『……それもそうだな』
『じゃ、おやすみなさい……』
ルーシーに無理やり話を終わらせられてしまった。まあ彼女の言ったことはもっともだが。
「おはよう、起きるの早いんだね」
寝癖をなおしていると恵美に声をかけられた。まだ少し眠たそうだった。
「おはよう。恵美こそ早いな、きちんと寝れたのか?」
「うん、ぐっすり眠れたよ」
恵美は僕の隣に立って歯を磨き始めた。パジャマ姿の恵美を見れただけでも朝早起きしたかいがあったと言うものだ。
「今日はどうするの?」
「どうって?」
「さすがに丸一日中勉強はキツイからどこかに行こうかなって思って」
「なるほど」
そもそもこの時はまだテスト二週間前…いや日曜になったから約一週間前か、とにかくそこまでみっちり勉強する必要はない。朝に少し勉強して昼から外出することにした。
「遊園地でも行くかな……」
「あれ? テーマパークはあんまり好きじゃないんでしょ?」
「たまには行ってみたくなるさ」
「ふ〜ん、へんなの」
正直僕はそこまで乗り気でもないがこの一週間で少しでも多くの出来事を経験して《元の世界》か《ifルート》、どちらを選ぶかを決めたかった。
いや、もしかするとできるだけ鈴奈と優輝に恋人らしいことをさせてやりたかったのかもしれないな。《元の世界》ではもう叶わないかもしれなかったから。
朝ごはんは僕が作ってみんなで食べた。もちろん殺人料理ではない。そのあと適当に勉強をしてから遊園地へ行った。
「フフ、この風……この肌触りこそ遊園地よ!」
「なんか一人テンションがすでにおかしいけどスルーの方向で」
遊園地はそこまで人気があるわけではないのですんなり入場できた。ついでに僕は遊園地がそこまで好きでもないのでテンションは普通だ。女性陣はちょっと高め。あとなんか無駄にテンションの高い戦士が一人。
「さて、なにからいくの?」
「俺は白いのをやる……!」
「ああ、ジェットコースターな。僕は苦手だからパスで」
「えぇ〜、一緒に行こ〜よ」
「そうだよ。赤信号みんなで渡れば怖くない、だよ!」
「それ使い方ちょっと違う」
ベンチに座ると恵美と鈴奈が手をひっぱってきた。両手に花とはこのことか。さて僕は女の子に二人にこんなお願いをされて断れるだろうか、いや断れない。
「わかったよ。せっかく来たんだし楽しまないとな!」
「さすが!」
「レッツゴー!」
「いい目をしているな」
僕は決心を固め、白い悪魔に乗り込んだ。そしてすぐに後悔することになった。
「おえぇゔぉええっぷ……ゲホッゲホッ!」
ジェットコースターから降りた瞬間からこのざまだ。しかし最初のアトラクションでノックアウトしてしまうとはさすがに情けなすぎる。
「ちょっと大丈夫なの!?」
「酔い止めがなければ即死だっ……おろろろろろろ」
「ちょっと休もうか……」
「僕は大丈夫だから三人で楽しんでくれ……うぷっ」
「強がらなくてもいいよ、私がついていてあげるから。優輝と鈴奈ちゃんは二人で遊んで」
「わかった。無理すんなよ」
優輝と鈴奈がどこかに行った後、僕と恵美はベンチに座った。
しばらく休んだら恵美が話しかけてきた。
「ごめん、まさかこんなにジェットコースターがダメだなんて知らなくて……」
「いや、いいさ。しかし結構ながい付き合いなのに知らないことは知らないものだな」
恵美は少し間をあけて若干照れ臭そうに言った。
「知らないことと言えばさ、好きな人とかも知らないんだよね」
なぜだろうか、今回も唐突に聞かれたが優輝のときと違いそこまで動揺しなかった。
「……どうしたんだよ、突然」
「優輝や私の好きな人は知ってるのに一人だけ分からないのはスッキリしないな〜って思って」
とくに深い意味はなかったようだ。恵美の質問には答えずに僕はぐったりと体をベンチに預け、空を見上げた。
「……空が青いな」
「いきなりどうしたの?」
「ただ、青い空を眺めることができるのって実は幸せなことなんだなって思ってさ」
「そうかもだね……って誤魔化さないでよ!」
「ははは、ばれた?」
僕は空を見上げたまま答えた。
「そんなに急がなくてもいつか知る時がくるよ」
「いつかって?」
「近いうちに、必ず」
恵美には伝わらなかっただろうがこれは僕の決意表明だ。必ず《ifルート》にいるあいだに伝えて見せるという決意を僕は恵美と青い空に誓った。




