《2日目》信じられねぇよ
俺が死んだ《世界》でこいつらは生きていけるのだろうか?
鈴奈は……ずっと独りだったみたいだし寂しがりやだ。大丈夫だろうか?
恵美は……しっかり者だが寂しがりやだ。俺がいなくなって大丈夫か?
相棒は……あいつも寂しがりやだ。俺の死が原因で病気が再発とかしないだろうか?
あれ……寂しがりやしかいなくね?
……そりゃそうか。俺はそういう奴を見過ごせないし。
ああ、不安が尽きねぇ。
✳︎
両親は二人ともいなかったので僕らは夕飯を自分達で用意することにした。
「私と鈴奈ちゃんで料理作ってくるから」
「わかったよ」
「楽しみにしててね〜」
二人がノリノリで台所に向かう(フラグ)と優輝は少し真面目な雰囲気で話し出した。
「さっきのあれ、嘘だろ」
「さっきのって?」
「恵美に言っていた電話の話だ。いや、もっと前の記憶が混線する話辺りから嘘だな」
やはり優輝には嘘が通用しなかった。わざわざ二人きりの時に話してくれたわけだし、僕は大人しく事実を認めた。
「そうだな、ゴメン」
「……本当はどうして恵美に電話したんだ?」
僕は言いたくなかった。たとえ別の《世界》でも優輝が死んだ事を教えたくない。鈴奈も《元の世界》の優輝とは関わりは深くないことが分かったし僕が黙っていたらバレないことだ。そう思っていた。
僕が黙っていると優輝はため息をついた後、つまらない表情で質問してきた。
「お前、俺が死んだと思ったんじゃないか?」
「……なんで分かった」
「お前、俺に電話した時に《死んだと思った親友が生きてた》って言ったよな。恐らくその親友は《別の世界》の俺だろ。だから恵美に俺の事で電話したんだろ」
「……お前なんで学年成績が下位なんだよ。もっと上いけんだろ」
《あの日》の最初の方でも言ったが優輝は頭の回転が早かった。つまらなさそうな表情を続けていた優輝は寝癖全開の頭をぽりぽりかきながら口を開いた。
「ついでにお前この《世界》の人間じゃねーな。大方二日前ぐらいから《別の世界》から来たろ」
「なッ!」
まさかここまで見抜かれるとは思わなかった。
優輝はきっと疑問に思ったんだろう。何故僕が恵美に優輝の安否を質問をしたのか。なぜ僕が突然《世界》の事を知ったのか。そして何故鈴奈に《ifルート》に似たような《世界》の事を訊いたのか。そして記憶が混戦していない事。
そして優輝はこれだけの情報で気づいたんだろう。僕が《別の世界》から来ていたら全て辻褄が合うことに。
「その反応はマジみたいだな」
「! 鎌かけたのかよ」
「実は記憶の混線が嘘かどうかも分かってなかった。お前が認めたからこそ、ここまで分かったんだ」
「よく信じられたな」
「ああ、こんな事、普通信じられねぇよ。信じたくもない」
優輝はずっとつまらない表情をしていた。信じたくないのも分かってたつもりだった。突然自分の親友が別の《世界》の人間になっていたわけだ。たとえ姿形が一緒でも記憶が違う。少しだけだが、それだけで全然違う。僕はみんなを騙していたのだと思った。
僕は優輝に信じたくないと、否定されたんだと思った。僕は一気に罪悪感と後悔に押しつぶされた。
「そうだよな、突然親友が別人に変わってたら嫌だよな。信じられないよな……ゴメン」
「あぁ? 俺が信じられねぇのはそんな事じゃねえよ」
「え?」
「わかんねぇのか?」
「うん」
僕の言葉に優輝は一気に表情を変えた。眉間にシワを寄せ。拳を握りしめ、僕に向かって怒鳴りつけた。
「俺はお前に信用してもらえてないことが信じたくなかった! なんでこんな大変な事を相談してくれなかったんだ!!」
「え?」
「どこの《世界》の出身だとか関係ねぇよ! お前は何処の《世界》だろうと俺の親友だろうが! だから俺をもっと頼りやがれ‼︎信頼しやがれ!!この馬鹿野郎が!!!」
僕は数秒間ポカーンと放心してしまった。そうだった。こいつはこうゆうやつだった。
「そうだよな……僕は馬鹿だな」
「ああ、頭イイけど大馬鹿野郎だコノヤロウ。どうせまた無駄に悩んでたんだろ。優輝を殺したのは僕だ〜なんて言ってな」
『こいつの勘はなんでこんなに鋭いんだよ』
「よく分かったな」
「お前と恵美や鈴奈の事はなんでも分かるさ」
「分かりすぎてて怖いよ」
僕らは笑い合った。最初から優輝に相談しておけば良かった。優輝なら分かってくれるし、真剣に向き合ってくれる。恵美だって話せば絶対に分かってくれる。二人は僕の親友なのだから。
「まだ全部は話せないけど、悩んだ時は迷わず相談するよ。もちろん恵美や鈴奈にも」
「そうしろ。その代わり俺のテスト手伝ってくれ、相棒」
「まったく、お前は何処まで主人公なんだよ」
「勇者とでも呼んでくれ」
「他の《世界》で本当に勇者をやってそうで怖いよ」
ぐぅ〜、と二人同時に腹の虫が鳴いてまた笑った。とりあえずお腹が減ったのでキッチンの二人を見に行く事にした。
そこにあったのは(やっぱり)地獄だった。
「クサッ! なんだこの紫でボコボコ気泡を出してる液体と個体の中間みたいなものは!しかも紫の靄がかかってて前がすげー見えずらい。てか目がいたい! なんというお約束なんだ!」
もはやダークマターだ。元はなんだったのだろうか、今でもすごく気になる。
「二人は何処に……」
キッチンを歩いてると足に何かが当たった。足元を見ると二人が青い顔をして倒れてた。
「大体想像つくけどなにがあった!」
「……《世界の記憶》を使って……料理を作ったはいいけどなんだか凄いものが出来ちゃって……」
「……二人に食べさせる前に味見してみたら……」
そこで二人の意識は落ちた。
「……主人公に味見をさせる何処ぞのヒロインより百倍マシだよ。なあ勇者様?」
「あ、どうした相棒?」
そこには口いっぱいに紫の液体(危険物)を頬張る勇者がいた。
「結局主人公も食うのかよ」
「ゲテモノほどうまいって言うし……ウッ!」
その行動は勇気を通り越してもはや無謀だよ。もちろん三人目の意識不明者が出たのは言うまでもあるまい。
何故か勘が鋭すぎる優輝ですが《世界》に関する能力がある訳ではありません。彼は一般人です。
まあ、ニュータイプの領域に片足突っ込んでる気はしますが…




