《その日》青くて、蒼くて、碧い空
主人公の話を聞いている感覚で読んでいただけると幸いです。
私は世界を創造した。一つではなく沢山。世界の可能性を……人の可能性を見てみたかったから。彼らは色々な可能性を示してくれた。
楽しいこと、嬉しいこと、哀しいこと……。
あなたはどんな可能性を見せてくれるの?
◆
今日は僕が経験した《その日》の話をしよう。退屈しのぎにでも聞いていってほしい。
たしか……中学の夏だった。太陽の光がイヤというほど降り注ぐ《その日》は、ため息がでるほど青くて、蒼くて、碧い……そんな空だった。
「優輝の所為でまた学校に遅刻しそうじゃないか!」
「悪い! 宿題がなかなか終わらなくてさ~」
《その日》の僕は学習能力が備わっていない寝癖全開の親友といつものように通学路を走っていた。しばらくすると管理人さんが掃除する校門が見えた。『またか』とでも言いたそうな顔をする管理人さんに走りながら挨拶をすませ、ダッシュで校舎に入り三階まで駆け上がった。
「ギリギリセーフ!」
なんで朝から毎日疲れてんだろ、とか思っていたが結局僕は三年間これを続ける羽目になる。今となってはいい思い出だ。
「あんた達! また遅刻寸前に来て! いつか痛い目にあうよ!」
喋りかけてきたのは教室に滑り込んだ僕らを待っていた黒髪ロングのもう一人の親友、恵美だ。僕は彼女が好きだった。
「大丈夫! 俺にはこいつがついてるしな」
「そんな無責任な……」
しかし、そんな僕の恋心には意味がなかった。恵美は優輝が好きだったからだ。相談をされたのだから間違いないと思っていた。なんとなくそんな気がしていたのでショックはあまりなく、その時は恵美を応援していた。
「そこの三人、HR始めるから座れ」
無駄話を続けていたら担任の先生に叱られたので僕と優輝は素直に謝った。
「「あーい、すいまてぇーん」」
この時流行っていた芸人のギャグだ。下唇を突き出し眉を寄せて目をそらす。この上ないぐらい人をバカにする心がポイントだ。
「次同じことしたらこの世から欠席させるぞ〜」
ニコニコ笑いながらをサラッと殺害予告された。まぁわかるだろうけど先生はこの芸人が大嫌いだった。今はどうしてるんだろうか、あの芸人。
「本当にすみません……」
恵美が頭を下げて心底申し訳なさそうに謝った。
「お前は可愛いから許す!」
「「おいコラ」」
先生の性別は女だ。ついでに既婚者。
「可愛いは正義! キリッ!」
「キリッ! じゃないです。あと獲物を狙う鷹の目で恵美を見ないでください」
優輝が恵美を隠すように移動した。が、逆効果だった。
「優輝……あんたもその寝癖を直して女装さしたら……グヒ、グヒヒ……」
「先生! その一線は越えないでください!! 戻れないところまで行ってしまう!!」
今度は僕が二人を庇うように先生に立ちふさがった。
「どきなさい、さもないと……欠席にするわよ!」
職権乱用とはこのことである。ついでにクラスメイトはと言うと……。
「先生は本気だ!」
「ああなった先生は止められないッ……!」
「ど、どうすればいいの?」
「HRを……HR始めるしか方法はない」
「馬鹿野郎! あいつらを見捨てろって言うのか!」
こんな感じに騒いでいた。正直こんな事は日常茶飯事だったのでみんな悪ノリし始めていた。
「くっ……卑怯な手を!」
「私に構わず二人とも逃げて!!」
必死に叫ぶ姫。立ちふさがる魔王。絶体絶命の二人の勇者……そして奇跡が起きた。
「一時間目の授業始めるぞー」
結局魔王は一時間目の先生が来たので教室を去って行った。これが後に語り継がれる『神の降臨』である。なんの話だコレ。
「たとえ私がいなくなっても第二第三の魔王がー」
「さっさと魔王城へ帰ってください」
その日の授業が終わり、部活の無い僕ら三人はいつものように帰ることにした。
「再来週のテスト……どうしよう……」
「優輝は国語苦手すぎだよ」
寝癖頭を抱えながら優輝が唸る。優輝は頭の回転は速いが成績は良くなかった。ゲームやスポーツ、その他色々僕より勝る優煇に僕が唯一優輝に勝っている分野だった。
「何とかしてくれ!」
「まったく……」
「私もちょっとわからない場所があるのよね~」
「わかったよ。次の土曜日に僕の家に集合。それでいい?」
「「ハーイ!!」」
二人の(無駄に)元気な返事を聞きながら僕は少し昔の事を思い出していた。
小学生の時、僕は体が弱かった。体が弱い分勉強を頑張っていたが周りの人達はそれが気に入らなかったらしい。
僕はいじめられていた。
そんな絶望の日々から助けてくれたのが優輝と恵美だった。その時から二人は僕の体の調子が良いときは遊んでくれた。彼らと遊ぶことは余命宣告されていた(両親の会話を偶然聞いてしまった。両親は僕が事実を知らなかったと今でも思っている)僕の一番の楽しみでもあった。
しかし小学四年生のある日、僕の容態は急変した。なぜか急に体の調子が良くなった。当時の僕は詳しい病状を聞かされていないので死ぬ前に自由な時間を与えられたのか、と勘ぐったがそうじゃ無かった。奇跡的な回復力をみせた僕は無事退院した。
『そういえばどうして急に病気が治ったんだろう?』
中学生の僕はまだわからなかったが今ではその理由もなんとなく推測できている。が、確証が無いので語るのはやめておこう。
「じゃ、私今日は用事あるから」
恵美は別の道から帰り、僕らは二人で帰ることになった。
「なあ、お前好きな奴いる?」
「ブフォアッ!」
しばらくして唐突にそんな質問をされ壮大にふいてしまった。僕はリンゴより赤い顔になっていただろう。
「い……いきなりなんだよ?」
「なんとなく」
今思うとなんとなくできいたわけではないと思う。優輝はたぶん悩んでいたのだろう。
しかしこの時の僕はテンパり度MAXだったので逃げることにした。
「アッ! 用事ヲ思イ出シタ! マタ明日ナ」
見事な棒読みと同時に全力で走り出した。
「まて! 逃げるな!」
「嫌だね! 全・力・疾・走!!」
「四字熟語使ってないで止まれ!」
余談(?)だが全力疾走は四字熟語では無く二字熟語の合成だ。
二人で一緒に毎日ダッシュで登校しているので体力は同じぐらいかと思ったが、幼い頃は殆ど運動していなかった僕の方が体力が劣っていると考え僕は止まる事にした。
『適当にやり過ごそう……』
「話す気になったか」
優輝が追いついたので走りながら用意しておいた原稿用紙一枚分の台詞を言うことにした。
「いな「嘘だな」」
言えなかった。
『こいつできる……!!』
「なあ、俺の好きな人も教えるからお前も教えてくれよ」
「……」
正直どう答えたらいいかわからなかったので黙っていた。しばらくして僕の沈黙をどう捉えたのか、優輝は続けた。
「俺……A組の鈴奈が好きなんだよな~」
僕はかなり動揺した。
「え……?」
「ほら、俺は言ったから次はお前の番だ……って、なに早足になってんだよ」
「うるさい」
この時なぜかすごく腹が立った。
「もしか「違う!」」
『僕が怒る理由はない、むしろチャンスじゃないか……』
そう思うのにモヤモヤは晴れなかった。全然、むしろ曇っていくばかりだった。ふと、空を見上げると清々しいまでに雲がなく、太陽の光が眩しかった。そんな空にすごく嫌気が差した。
「……なんでだよ」
僕は太陽の輝きから目を逸らすように俯いた。
「……!」
落ち込む僕には必死に叫ぶ優輝の声が聞こえなかった。
キキィイィイ!!
『何の音だ?』
遠い世界のいらない情報が頭に入りイライラした。しかしそれは確実に迫っている悲劇の情報だった。
「バカ! 前を見ろ!」
「えっ?」
我に返り、前を見ると巨大な鉄の塊が視界を覆い隠していた。
ドン!
全力で走ってきた優輝に僕は押され前に勢いよく倒れ込んだ。
────ドサッ!
これまで僕がいた場所で聞いたことのない音がした。鉄の匂いが鼻を突き、遠くからサイレンの音が鳴り響いていた。その後のことはよく覚えていない。
ただ、
《その日》の空は赤くて、紅くて、朱い色に染まっていた。
それはまるで鮮血のように───




