贈り物
雪が舞い降る夜
街はイルミネーションで輝く
恋人と見られたらロマンティックだろう
僕は独り賑やかな街を歩く
淋しいなんて感情 もう忘れてしまった
暗い路地裏 天使と出会った
凍えた天使 今はもういない
きっと夢だったんだ
痺れた腕 君の温もりを覚えてる
天使がいたベッド
ヒトツの白い羽根を見つけた
僕はその羽根を掴み涙した…
バイト帰り、いつもと変わらない路地裏を歩いていた。
ふと空を見上げればゆらゆらと雪が降ってきた。
これ以上寒くなる前に帰ろうと早歩きになる。
十字路を曲がるとふと目がいった。
女の子が震えながら小さく丸まり凍えていた。
「どうかしたんですか?こんな寒い日に外に居ては死んでしまいますよ?」
無言の彼女を気にせず話だした。
「家まで送ります。どこですか?行きましょう?」
口を開こうともしない彼女。
見かねて家へ連れていくことにした。
「あまり広くはないですが、気が済むまで居ていいですよ。」
彼女は静かに微笑んだ。
その笑顔に見惚れていると、彼女が不思議そうな顔で僕の顔を覗き込んできた。
僕はあわてて冷静を装おった。
「お腹は空いていませんか?空いているようなら何か作りますよ?」
彼女は無言で首を横に振った。
「そうですか。それならもう遅いですし、寝ましょうか。あなたはベッドを使ってください。私はソファーで寝ますから。」
彼女はまた横に顔を振った。
「私の事は気にしないで下さい。たまにソファーで寝るのもいいものですよ。」
それでも彼女は首を横に振った。
どうすればいいか困りかねていると、ふと彼女が震えているのに気が付いた。
「寒いですか?暖房少しあげますね。」
彼女は違うと顔を横に振った。
もしかして彼女は寒くて震えているのではなく、なにかに脅えて震えているのではないかと思った。
「それならベッドで一緒に寝ると言うのはどうですか?それなら納得してもらえますか?」
半分冗談のつもりで言ったのだが、彼女は納得したのか笑顔で返してきた。
「本気で言ってるんですか?確かに言い出したのは私ですが、何もしない自信はないですよ?」
呆れながら言うと、彼女は一度首を傾げ、それでも笑顔で返してきた。
「わかりました。それでは寝ましょうか。」
お互い向かい合うようにベッドに横になった。
【ありがとう…】
僕の胸に埋まりながら、小さな声で彼女は呟いた。
初めて聞いた彼女の声はとても寂しそうで、守ってあげたいという衝動にかられ、彼女を力一杯抱き締めた。
彼女もそれが嬉しかったのか、抱き締め返してきた。
その瞬間、僕は無意識に彼女を仰向けにし、その上に覆い被さっていた。
そのとき僕は、頭で考えるよりも先に体が動いてしまった。
「言ったはずですよ。かるはずみな行動をされたら何もしない自信はないと。」
頭ではわかっていた…こんな事をしてはいけないと。
それでも体が勝手に動いてしまった。
自分のやっている行動を頭で理解したときには、自己嫌悪に陥った。
なのに彼女は逃げるわけでもなく脅えるわけでもなく、ただ僕に微笑んだ。
そして彼女は僕の唇に口付けをした。
ただ重なるだけの一瞬の接吻。
でも僕の理性を飛ばすには充分だった。
一度離れた唇にもう一度口付けた。
今度は深く長い接吻。
もう抑えがきかなくて、僕は彼女の全てに口付けた。
途端に可愛い声でないた君。
感じている彼女の顔が、声が、全部が愛しく思えてまた深い長い接吻をした。
舌の動きがたどたどしくて、それがまた可愛い。
小さい身体を抱き締めると、温かくて何かが満たされていくようだった。
僕は無我夢中で君を求めた。
長いようで短かった時は過ぎ、疲れきった僕達は抱き合うようにして、深い眠りについた。
朝起きたたら隣にいたはずの君がいなくなっていた。
君を腕枕してた腕が痺れている。
ベッドには君の温もりがまだ残ってる。
ふと、君が寝ていた所をみると、一枚の天使の羽根。
それを見つめて、流れ落ちる一滴の涙。
きっと君は僕にこの事を教えるために来てくれたんだね。
その時聞こえた君の声。
【ありがとう】
聴き間違えだったのかもしれない。
それでもいいんだ。
君との思い出が僕の心に残っているから。
この冬一番寒い日に出会った僕達。
一夜の夢だったのかもしれないけれど、きっと神様がくれた僕への贈り物だったんだ。
僕は名も知らぬ君との思い出を胸に、これからを生きていくよ。
ありがとう…