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 蛇口から流れ出る水に手をくぐらせながら、ぼんやりとその様を眺める。知らず溜息が零れた。

 駄目だと思う。ここのところ、ふとした瞬間に物思いにふけってしまう。今は多分大丈夫だけど、みんなに知られたら心配をかけてしまうだろう。もし調理中だったら怪我もしてしまうかもしれない。実際体もどこか気だるいし、体調も心に引きずられつつある。

 これじゃあ駄目だ。そう思うのに、流れ出る水のように奥底に仕舞おうとした言葉が勝手に零れてきてわたしの思考をかっさらう。

『アルフは生きてるよ』

 大好きな兄貴分の声が脳裏に響く。

 意味がわからない。どうして今更そんなことを言うのか。きっとわたしを安心させる為だとは思うけれど、それでも彼らを少し恨んでしまう。そんなことを言うくせに、居場所は教えてくれない。わたしにどうしろって言うの。わたしはどうすればいいの。……折角、上手く忘れたふりをしていたのに。

「リリアンさん」

 水に晒したままだった手に大きな手が触れて、ハッと我に返る。隣を見上げれば、気遣わしげにわたしを見つめる闇色の瞳。

 ルカさんが自らわたしに触れることは滅多にない。歩く時に繋ぐ手だって、わたしが差し出すから重ねるといった様子だ。多分あまり他者と接触しない民族なのだろう、ニホン人は。

 その彼が自ら触れたということは、もしかしたら何度も呼んでくれたのかもしれない。心配をかけてしまった。

 咄嗟に謝って笑みで誤魔化そうとすると、ルカさんはほんの少し眉を寄せて重ねられた手を見る。

「リリアンさん……熱い?」

「へ?」

「タイオンケー、ない?」

「……?」

「……うん、ない。わかった」

 蛇口の水を止めてから、濡れていない方の手でわたしの腕に触れた。男の子らしく骨ばった手が躊躇いがちに、けれど確認するように腕に触れる様子をぼんやり見守る。タイオンケーってなんだろう。ニホンにはよくわからないものばかり溢れている。

 ルカさんは何か考えるような顔をして、そっと溜息に似た吐息を吐いた。

「マルヴさん呼んでくる」

「えっ、え? ルカさん待って、ねえ、どうして?」

「リリアンさん待て」

 踵を返して食堂を出て行こうとする彼を追いかけようとすると、ルカさんが振り返って強い口調で命じる。待てって。多分まだ活用が上手くできないのだとは思うけど、待てって。わたし犬じゃない。反射的に足を止めてしまったわたしもわたしだけど。

 ルカさんは呆然とするわたしを視認して、本当にマルヴおばさんを呼びに行ってしまった。

 なんと言うか、ルカさんが出て行った日の帰りにおんぶするかどうか一方的な押し問答を繰り広げた時と同じ顔だった。「あなたが乗るまで動きません」って無言で語る感じ。ルカさんも案外頑固だったりするのかなあ。

 一人残された食堂ですることもなく、なんとなく食卓に着く。体が重くてだるい。体と心は繋がっているって聞くけれど、本当なのだろう。思わず突っ伏して溜息を吐いた。

 ルカさんにつれられてやってきたマルヴおばさんに叱られるのは、すぐ後のことだった。



 発熱しているらしい。どうりで体が重いわけだ。

 あれからどういうわけがすっかり体が動かなくなってしまって、ルカさんにわたしの部屋の寝台まで運んでもらい、おばさんが忙しなく口を動かしながら濡れた布や氷嚢を用意してくれて、いつの間に呼んだのかお医者様が優しく診察してくれた。発熱の他にたいした症状もなく、一日休めば治るだろうと言われた。何かあればすぐ連絡するようにと言って去っていったお医者様を見送れば、予想通りのマルヴおばさんのお小言が始まった。だからちゃんと息抜きしろだのおばさんが若い頃にはなんたらかんたらといろんなことを言われたけれど、正直右から左に流れていくばかりで記憶には残らなかった。ただ今日が定休日でよかったな、と安堵をしていた。これならお店も心配ない。

「それじゃあルカ、後は頼んだよ!」

 言いたいことは言い尽くしたのか何か予定があるのか、マルヴおばさんはそう言い残して出て行った。

 ルカさんはそれから少し遅れて部屋を出ると、そんなに時間が経たないうちにすぐ戻ってきた。玄関の鍵を閉めてくれたのだと思う。いい子。

 寝台の傍に寄せた椅子に座った彼に手を伸ばして、綺麗な黒髪を撫でる。何度かやったことのあるそれに彼はいつも猫のように目を細めていたけれど、今回ばかりはどこか不服そうである。

「……リリアンさん、苦しい?」

「んーん。へーき」

 へらりと笑って見せる。事実苦しくはなかった。だるさがあるだけ。処方してもらったお薬が効いているのだろう。

 ルカさんはおもむろにわたしの額に乗った布を取って、水桶に浸してから絞る。それを綺麗に畳んでからそっと乗せてくれた。ひんやりして気持ちいい。

 ちらりと時計を見る。思ったより時間は経っていない。ルカさん退屈じゃないかな。わたしの世話ばかりではつまらないだろう。

 外出されるとこっちが心配になるからまだ駄目だけど、家の中なら好きにしてくれて構わない。そう言おうと口を開くと、わたしより先に彼の声が降ってきた。

「リリアンさん……俺、邪魔? いない方が、いい?」

 息を飲んだ。夜空のような瞳があまりにも切なく揺れるから。

 無意識のうちに首を横に振る。手探りで彼の手をぎゅっと握った。

「傍にいてください。ルカさんがいてくれて、わたしは嬉しい」

 この手から伝わればいい。わたしにとって彼がどんなに大切な存在か。彼はもう、かけがえのない人なのだ。

 じっと黒の瞳を見つめ返すと、ルカさんは少し目を丸くして、安堵したように細く息を吐く。

 もしかしたら、わたしは彼を不安にさせていたのかもしれない。彼にここを気に入ってほしいと、故郷のように感じてほしいと思いながら、わたしは彼にそうさせるだけのことをできていただろうか。

 わたしは彼のことを知ろうとするくせに、彼には何も教えなかった。それは彼に一線を引いているように感じさせたのではないか。居場所を与えながら、彼を孤独なままにしているのは……わたしだ。

 気づいた途端、胸がきゅうっと苦しくなった。申し訳なくて堪らない。何をするにもわたしは経験不足だ。こんないたらない小娘に拾われて、ルカさんも辟易しているかもしれない。それでも、一緒にいてほしいと思う。わたしは我侭だ。

「ルカさん……お話、しよう」

「……大丈夫?」

「うん。ルカさんと話がしたい」

 気遣わしげな眼差しをしっかりと見つめる。ルカさんは少し迷う素振りを見せて、けれどわたしを視線を合わせてくれた。少し嬉しくなってしまう。

「ルカさんは、家族がいるの?」

「うん。……お父さんと、お母さん」

「そっかあ……どんな人?」

「……難しい。上手く言えない。でも、大切にしてくれた。……好きだった。すごく」

 黒い瞳がたおやかに細められる。恋しさは染みていても、寂寥は感じない。懐かしむようなその瞳には、ご両親の顔が映っているのだろうか。

 素敵な人なのだろう。だってルカさんのご両親だもの。根拠のない自信が胸のうちにあって、そんな自分につい笑ってしまう。そんなわたしを不思議そうに彼が見下ろした。

「わたしはね、四人家族なの。お父さんと、お母さんと、お兄ちゃん」

「……どんな人?」

「簡単に言えば……お父さんは厳しい人、お母さんは優しい人。お兄ちゃんは……元気な人、かな」

 本当は一言で表すなんてできないけれど、ルカさんにはまだ少し難しいかもしれないから、無理矢理表すならこんな感じだろう。

 父は生真面目な人で、礼儀や規則をとても重んじる人だった。おまけに頑固で、一度こうと決めたらよっぽどのことでもない限り揺るがない。

 反対に母は穏やかな人で、常に優しく微笑んで場を和ませるのが上手だった。父を立派な巨木に例えるのなら、母はその青い葉を包み込むそよ風だろうか。

 厳しい父と優しい母は二人で一対。お互いに足りない部分を補って、行き過ぎた部分は抑えあって、娘から見てとてもお似合いの夫婦だった。

 八歳年上の兄はその二人の子だと言うには少々やんちゃで、愉快犯な兄貴分たちと一緒に悪戯をしかけては父とマルヴおばさんから説教をされることが多々あった。兄はヘンリーさんとハーヴィーさんを実の兄のように慕っていたし、また年の離れたわたしを過保護すぎるくらいに大事にしてくれた。

「たくさん怒られたし喧嘩もしたけど、わたしの自慢の家族だったよ。わたしも、家族が大好きだった」

「……今、は?」

 ルカさんが静かに問いかける。それはこちらを窺うような声音で、どこか怯えているようでもあった。

 わたしはそんな彼を安心させるように微笑む。

「いなくなっちゃった」

 漆黒の瞳が僅かに見開いた。目頭が熱いのは、熱の所為に違いない。

「両親は死んだ。兄さんは、消えちゃったの」

「……え」

「お父さんとお母さんは五年前……わたしが十二歳の時にね、馬車に轢かれて死んじゃった」

 まだ朝の早い時間だった。

 いつもは一緒に起きて一緒に店に向かうのに、その日のわたしは買ってもらったばかりの小説を読んでいた所為で夜更かしして、ようやく父に叩き起こされたのはもう家を出る時だった。どうしてもっと早く起こしてくれないのと慌てて身支度を整えながら詰ると、自分で起きるのが当たり前だと父に叱られた。朝食を食べてからゆっくりおいで、と母がのんびり言う。食卓には少し冷めたスープとパンが用意してあった。

 両親が結婚して、この街に移り住んだ時に作った食堂。元々料理上手な父が調理場に立って、愛想のいい母が客に対応する。物心ついた頃から店の賑やかであたたかい雰囲気が大好きで、十になる前から本格的な手伝いを始めた。お給料なんか当然なかったけれど、わたしはちゃんと一人の従業員として認められていたのだ。

 だから寝坊してしまったことにものすごく落ち込んで、すぐに追いかけるからと言って両親を見送った。母はよく噛んで食べるのよと笑い、父は走って転ぶなよとわたしの頭を撫でた。それが、両親と交わした最後の言葉だった。

 荷馬車の御者が、急ぎだと言われて連日ろくに休みもとれずに走り通しだったそうだ。御者は青褪めた顔を涙でぐしゃぐしゃにしてわたしに謝ってくれた。何度も、何日も。そのお陰か、御者を恨む気持ちは少しも沸かなかった。だから責めることもしなかった。それでも御者は自ら職を辞したらしい。雇い主の人から聞いた。

 気持ちが追いつかないまま葬儀を終えて、それからの日々はあまり覚えていない。それだけ虚ろな毎日を送っていたと思う。家から一歩も出なかった気もする。

「きっと、毎日マルヴおばさんやヘンリーさんたちが来てくれたと思う。いっぱい心配かけたと思う」

「…………」

「でも、お父さんたちが死んじゃって二月くらいかな。ヘンリーさんとハーヴィーさんがね、突然王都に行くって言って……わたし止めたの。行かないでって。泣きながら」

 口振りからして観光にでも行くような、軽い調子の報告だった。だけどわたしには二人まで手が届かない場所に離れてしまうようで、怖くて仕方なかった。

 わたしの独白を黙って聞いてくれるルカさんに微笑む。上手く笑えた気はしなかった。

「だけど二人は行っちゃった。『俺たちは好き勝手生きるから、リリィも好き勝手生きろ』だって。ひどいでしょう。……でもね、二人のお陰で、自分が何をしたいのか、考えることができたの」

 わたしがしたいことは、泣くことでもみんなに心配をかけることでもなかった。わたしはまた、あの大好きなみんなの笑顔に囲まれたかった。その中で、わたしも笑いたかった。

 両親が亡くなって半年後、『フィーリア』を再開した。経営術は両親の見よう見まね、一人ぼっちの再スタートだった。最初はまばらだった客足も、元からの常連さんがまた通ってくれるようになって、新しいお客さんも増えた。そして今、たくさんの人たちに支えられて、大切な店は大好きな笑みに溢れている。

「お父さんとお母さんが死んじゃったのは悲しくて寂しいけど……あのお店を残してくれたから。わたしは今も生きていけるし、笑っていられる。すごく感謝してるの」

「……お兄さん、は?」

「兄さんはね……いつだろう、わたしが八歳の時かな……本当にね、ある日突然、いなくなっちゃったの」

 朝起きて顔を洗ってから食卓に着く。向かいに座った両親が、今日はあの人が来るはずだだとかだったらあの食材を買わないとだとか店について話している。いつも通りの朝だ。

 寝坊気味の兄を起こしにわたしが行かされるのもいつものことで、あいつはいつになったら自分で起きられるんだ、と父の苛立ったような呆れたような声を聞きながら階段を上がった。

 兄の部屋は、両親とわたしの部屋の間だ。

 昔はそうでもなかったのだけど、兄が十歳になった頃からか、勝手に部屋に入ると怒られた。だから扉を開ける前にノックして声をかける。

『もう、お兄ちゃん。またお父さんに怒られるよ。入るからね?』

 寝ている兄が返事をしてくれたことはなかったから、その日もいつも通りだろうと勝手に扉を開けた。

 けれど兄はいなかった。開けっ放しの窓から朝日が差し込んで、爽やかな風が吹き込んだ。

「お父さんたちと、おばさんたちと……みんなで探したの。でも見つからなかった。さらわれたのか、自分で出て行ったのかもわからない。……なんにもわからないまま、消えちゃったあ」

 一月も経つ頃には、誰も兄の話をしなくなった。塞ぎこむわたしを気遣ってか、あえて触れないようにしていた。それは両親もそう。兄に注がれていた分の愛情もわたしに注いで、大切に大切に育ててくれた。

 ふとルカさんを窺うと、ひどく申し訳なさそうにわたしを見つめているのに気づく。心当たりがあって、わたしは眉尻を下げて笑った。

「そんな顔しないで。もうルカさんは怒ってないよ」

「でも……」

「いいの。ルカさんは帰ってきてくれたもの」

 ルカさんが出て行ったあの日。確かに兄の出来事と重なって、必要以上に取り乱した自覚はある。

 怖かった。彼も兄のように消えてしまったのが。また大切な人を失うのかと思うと、怖くて仕方なかった。

 だけど彼は今、ここにいる。わたしの傍にいる。

 彼にとってそれは望んだことではないかもしれない。他に行き場がないから、仕方なくここにいるのかもしれない。

 それでもいい。彼がいてくれるだけで、わたしの孤独は癒される。

「……お店の名前、『フィーリア』ってね、わたしが生まれてから変えたんだって。兄さんとわたしの名前が入ってるの。アルフィーとリリアン。お父さんたちは多分、わたしたちにお店を継いでほしかったんだと思う。だから、わたしだけで少し申し訳なく思ってる」

「……それから、お兄さんは?」

「音沙汰なし。行方不明。……親が死んだことも、知らないんじゃないかな」

 兄が失踪した時のわたしはまだ幼くて、両親なら他にもっと知っていることもあったかもしれない。けれど、それも今となっては無意味な憶測。兄が生きているのかも、両親の訃報を知らせる術もわたしにはわからない。わからない、はずだった。

「でもね……こないだ、ヘンリーさんとハーヴィーさんが言ったの。兄さんは生きてるって」

 兄貴分の声が蘇る。

 『アルフ』は兄の愛称だ。兄はこの呼び名を気に入っていたのか、ごく親しい人にしか許さなかった。わたしが知る限りでは、両親とわたし、そしてマルヴおばさんたち一家。ヘンリーさんたちも当然そう呼んでいた。

 知らず、握ったままの手に力がこもる。ルカさんは、微かに震える手を優しく包み込んでくれた。

「口止めされてるんだって。だからこれ以上教えてあげられないって。……でも、多分、教えられてもわたしは何もできなかった」

 兄が生きている。その知らせは素直に嬉しかった。だけどそれ以上に、困惑の方が強かった。

 どうして帰ってこないのか。どうして連絡をくれなかったのか。どうして、突然いなくなったのか。

 聞きたくて、でも怖くて聞けない。

 大好きな兄が別人になってしまっていたら。もうお前なんか家族じゃないって言われたら。そう考えたら何もできなくなる。

 九年という空白の時間は、あまりに長すぎた。

「嫌になるでしょう。こんな弱虫。ごめんね、ルカさん。情けなくて」

 黒い瞳を見上げる。伝わっただろうか。伝わっただろう。だから彼は、こんなにも苦しそうな面差しをしている。

 そんな顔しないでほしい。わたしまで苦しくなる。

 口を開こうとすると、それを阻むように彼がぎゅっとわたしの手を握る力を強めた。

「リリアンさん。俺じゃ、駄目?」

「……え」

「俺、よかったと思ってる。リリアンさんに、拾われて。助けてもらった。今、俺が笑うのも、楽しいのも、全部……リリアンさんのお陰。ありがとう。……俺、リリアンさんも、マルヴさんも、サムさんも……みんな、好き。ここが好き」

 濡れた漆黒の瞳がひたむきにわたしを見つめる。きゅうっと胸がはちきれそうになった。

「俺……ここに、いたい」

 限界だった。ぽろぽろと涙が零れ落ちる。彼が驚く気配がした。だけど涙は止まらない、止められない。

 うろたえるルカさんの手をきつく握る。

「わたし……わたしも、好き。ずっと、ずっと思ってたの。ルカさんが友達に、家族になってくれたらって」

「リリアン、さん」

「ごめんね、我侭で。でも家族になってほしい。出て行きたくなったらいつでも出て行っていい。たまに手紙をくれてね、たまに帰ってきてくれたらいい。無茶を言ってるのもわかってるけど、でも、もう、一人ぼっちは嫌……っ」

 熱の所為か泣きじゃくっている所為か、自分が何を口走っているのかもよくわからない。ただ彼を繋ぎとめるのに必死で。

 人生に別れがつきものなのはわかっている。それでも一人で迎える朝も、無言でとる食事も、何年経っても慣れない。いつだって、寂しさを埋めてくれる誰かを求めていた。

 彼の優しい声が名前を呼ぶ。見上げれば、涙で滲んだ視界の中で泣きそうに笑う黒髪の男の子。

「俺はいるよ、傍に。ずっと。……リリアンさんが、嫌って言うまで」

 そんなの言うわけがない。そう思っても言葉にならず、漏れるのは嗚咽ばかりで思考は次第にまどろみに沈んでいく。

 そっと、壊れものを扱うように大きな手が頭を撫でる。それにどうしようもなく安堵して、心地好いまどろみに身を預けた。

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