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とある☆物語 real star  作者: さのすけ/ゆのすけ
3/3

第三歯

「長かったですね、トイレ」

チェンの声に蛍が赤面する。慰鶴が慌てて両手を広げた。

「うん、ゾウみたいにでっかいのが」

「黙りなさい!」

蛍に一喝され、慰鶴が困惑する。完璧にフォローしたつもりだったようだ。

蛍はため息を吐くと、教室を見渡した。

半数が相手を見つけたようで、楽しげに話をする三人組の間をまだ相手の決まらない半数がさ迷っている。余り者で人数を満たすことになるだろうと考えていた蛍は、選択の余地をみつけて口角をあげた。

「さっさと見つけるわよ」

颯爽と教室に踏み入る蛍の視界の隅に、黒髪の少年が映る。蛍が思わず足を止めた。

透き通る白い肌、艶のある黒髪がどこか現実離れしているように感じる。彼は三人組など興味ないというように、自分の席で読書にふけっていた。

「どうしたの、蛍」

首を傾げる慰鶴は、いつの間に用意したのか、忙しそうに菓子を摘んでいる。

「燃費が悪いわね、あなた」

「ネンピ?蛍も食べる?」

「それどころじゃ…そもそも授業中なんだけど」

「校長先生が食べてもいいって」

また意味のわからないことを、とぼやいて蛍は視線を黒髪の少年に戻した。

目を離した隙に、彼は数人の生徒に囲まれていた。先を越されたと駆けだす蛍だったが、その不穏な雰囲気に急ぐ足を止めた。

「名前、何て言うの?」

「どこの学科希望?」

「俺達と組まない?」

次々と話しかける生徒達に、しかし少年は答えない。彼はちらりと生徒を見やると、すぐに視線を本に戻した。取り巻きの中でも体格のよい生徒が顔が引きつらせる。

「何すましてんだよ!」

生徒が本を奪い取ると、少年はようやく顔をあげた。青い瞳が静かに生徒を見つめる。

「青い瞳・・・?」

「おい・・・こいつ、カラスじゃね?」

生徒の言葉に教室が静まり返る。少年は茫然とする生徒から本を奪い返すと、何事もなかったかのように本を開いた。マイペースに画面を見つめるチェンのぬこぬこ動画の音声と、少年がページを捲る乾いた音だけが無音の教室に不気味に響く。

「カラス族って滅びたんでしょう?」

誰かがぽつりと呟いた。強力な魔力を持つ一族、カラス族はその強い魔力を巡る争いの中で滅びたと伝えられている。しかし少年の容姿は、カラス族の特徴に驚くほど当てはまった。

「黒い髪に白い肌、そして青い瞳・・・もし本当にカラスなら放っておけないけど」

そんなことがあるはずが無い。

他の生徒も蛍と同じ考えに至ったようで、少年に集中した視線は徐々に散り教室は賑わいを取り戻した。

言いだした生徒達だけが「カラス族なら強力な魔法使ってみろよ」と言い続けていたが、語気には嘲笑が含まれている。

生徒達を完全に視界から消していた少年だったが耳に入る騒音は消しようがないようで、彼は本を静かに閉じると席を立った。

「おい、待てよ」

生徒が伸ばした右足に少年が躓く。バランスを崩した少年はガタンッと音を立てて机にぶつかると、そのままそばにいた蛍に突っ込んだ。少年が倒れ込む勢いと驚きに仰け反る蛍を慰鶴が支える。

「蛍、大丈夫?」

慰鶴の声に我に返ると、蛍は「えぇ」と短く返事をして目前の少年を見上げた。艶やかな黒髪から仄かに甘い香りがする。

「あんたは大丈夫?」

訊ねると少年は小さく頷いて、ぽつりと呟いた。

「ごめん」

途端に教室が静まり帰り、続いてあちらこちらから黄色い声が湧き上がる。

小鳥のさえずりのように美しい声は、たった3音節で教室内の女子を虜にしたのだ。

―――カラス族かどうかなんてどうでもいいわ・・・この声、使える!!

蛍は不敵な笑みを浮かべると、少年に足を掛けた生徒に向ってずかずかと歩み寄った。蛍の勢いに生徒が僅かに退く。蛍は大きく息を吸うと「教室中に聞こえる声」で力強く言い放った。

「あんた達、あたしのチームメイトに何してんのよ」

先程まで孤立していた少年を堂々とチームメイトと宣言する蛍に、教室がざわめく。蛍の隣で少年が青くなるが、蛍の後ろでは慰鶴が「こいつ、チームメイトだったのか」などと納得している。

「俺、チームメイトじゃな」

「お前ら、俺達の仲間に何すんだ!」

「そうよ、あたし達の『大切な』チームメイトなのよ!」

否定しようとする少年の言葉を企む蛍と、蛍の言葉を鵜呑みにした慰鶴が遮る。

俺の後ろに隠れて、と慰鶴が少年を背後に押しやる。名前も知らないんだけど、と困惑する少年に、しかし彼らは聴く耳持たずで、蛍が友情演説に夢中になる傍らで、慰鶴は少年の取り巻きに立て続けにラリアットを放っている。

どうしようもない状況に唖然とする生徒達の向こうで、どうしようもない男が動いた。

「はーい、そこまで」

チェンがパソコンを閉じ、気だるそうに立ち上がる。彼は慰鶴の足元に白目を剥く生徒を確認すると、にやりと不気味に笑った。

「んー・・・慰鶴君、やり過ぎです。彼らにも問題がありましたから、大目にみますけど。さて僕は動画に飽きたので、すぐにでも医務室に向かい彼らの『治療』に当たりたいのですが、みなさん三人一組はできましたか?」

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