零、「おじさん」
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この作品はフィクションです。実在する団体・個人・地域などとは関係ありません。
なお全シリーズを通して全編付け焼刃の警察知識でお送りしています。
かつファンタジー表現がメインなので、本格的な刑事小説やミステリを読みたい方向けではありません。それでもいいよって方はどうぞ。
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|零|
三年前、僕のおじさんが死んだ。変死だった。
現場は彼の「研究室」で、「研究資料」のせいでひどく散らかってはいたけれど、誰かと争った形跡もなければ、何かがなくなったりもしていない。それでもおじさんの死はとてもおかしかった。
死因は窒息死。しかし、おじさんの首に残されていた跡は、よくある人の手形や縄目なんかじゃなかった。
それを何と表現すればいいのかはわからない。ただ、警察のほうでは、何か尖った装飾のある幅の広い布状のもの、という結論を出した。そして、死体の第一発見者である僕に、心当たりはないかと尋ねてきた。
今にして思えば、僕は疑われていたのだろう。
もちろん僕は犯人じゃない。わかりません、と答えるしかなかった。結局とくに僕に不利な証拠や証言がとれなかったということで、僕はすぐに解放された。
……僕にわかるのはそれだけだ。あとはそっちで好きなように調べてほしい。
ああ、でも、そういえばひとつ思い出したことがある。
あのとき警察には言わなかったことがあるんだ。というのも、僕自身そのことに気づいたのは去年の暮れになってからだったから。
まだ連絡はしていないよ。
違うな。これは僕に深く関わることだから、警察には知らせたくなかったんだ。そちらに保管されてしまったら、僕が「それ」を見ることができなくなってしまうからね。
そう、現場から、ひとつだけなくなったものがある。
それはおじさんの「著書」だ。この世にそう何冊も存在しない、とても貴重な代物だよ。
昨年、警察の手が引いてからおじさんの研究資料を整理し始めたんだ。そうしたら著書が見つからなかった。慌てて家中探したけれど、ついぞ見つかっていない。
そして僕はおじさんが死ぬ前日にそれを目にしている。ということはつまり、おじさんを殺した犯人がそれを奪い去ったということだろう。
僕は自分の手でそれを探したい。それを今でも犯人が手元に置いているかどうかも気になっている。そう、要するに犯人自身を捜しているようなものなんだ。
おじさんは、自分の著書に殺されたのさ。