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とある大学生と食堂

図書館で喋ると周囲に迷惑になるから、私と政宗先輩は食堂にやってきた。


食堂なんかに来るのは本当に久しぶりだった。


こんな人がいっぱいいる所なんて私にとったらダンジョン以外の何物でもない。


誰かに会って下らない話を延々と聞かされるかもしれないという苦行を強いれられながらご飯を食べるなんて御免被る。


ここは私の居場所ではない。


私のサンクチュアリは図書館である。


昼食時を過ぎた学食は空き授業で暇を持て余した生徒がちらほらいる程度であった。


お菓子や遅めの昼食を食べる者、パソコンをやる者、友達と雑談する者…それぞれ思い思いのことをやっている。


っていうかどこに座ったらいいの。席ありすぎだろ。


久しぶりの食堂に戸惑う私をよそに、政宗先輩は適当に席を見つけ「こっちこっち」と手招きしている。


流石リア充!…いや、これリア充関係ないよね。


私が席に着くと、政宗先輩は荷物を置いて席を立とうとした。


「俺、なんかちょっと腹減ったからなんか買ってくるわー。食べたいのとかある?」


「あ、いえ、お気遣いなく」


そう言うのと同時に私のお腹がグーと鳴った。そういえば今日まだ昼飯食べてないわ…


恥ずかしさのあまり赤面しながら固まってると、政宗先輩の先輩が背中を向けた。


もしかして腹の音、聞こえなかったのか?そう思ったが政宗先輩の方はカタカタと震えているのに気付いた。


「先輩、笑うんならちゃんと笑ってください」


そう言った瞬間、政宗先輩は背中を丸めて吹き出した。


ちょ、笑いすぎだろ。


周囲の人たちが「なんだなんだどうした」と言う風にこちらを見ている。


ううー余計な注目は浴びたくないのに…


政宗先輩は、こちらに向き直った。まだ笑っている。目には涙が浮かんでいた。このやろう、笑いすぎだ。


「っはーおっかしい。面白いね春奈ちゃんって」


春奈ちゃん…だと…ちゃん付けとか小学生以来だぞ…


「先輩、ちゃん付けはないです。春奈でいいですから」


「まじで。じゃあ俺のことは政宗でいいよー」


「それは無理です」


そう断ると、政宗先輩は「えーいいのにー」とぼやいていた。


「っていうかお腹すいてるでしょ。一緒になんか買いに行こうよ。奢るから」


「自分で出します」


「遠慮すんなって!年下は黙って年上に奢られろよー」


「遠慮とかじゃ…」


「っていうか早く行こうぜ、俺腹減って死にそうなんだ、春奈」


なんという順応性。流石リア充。私にはないスキルだ。自分で「春奈って呼べ」って言っておいて何だか背中がむずむずした。


うーと唸りつつ私は先輩の後を追いかけた。




食堂の入り口付近には券売機とメニューがある。


私の大学の食堂はちょっと巷でもメニューが豊富で美味しいと有名である。らしい。


私は食堂をあんま活用したことが無いのでよく分からない。いつもは購買でカップ麺とかパンとか買って済ませている。


政宗先輩はメニューの前で「うーんどれにするか」と悩んでいる。


「春奈は決まった?」


「うどんで」


うどんは学食で一番安い。ちなみに280円である。味は関西風と関東風から選べると書いてある。正直どっちでもいい。


「えー!うどんかよー。うどんもいいけど奢ってやるって言ってるんだからもっと高いのにしなよ」


「いや、自分で出しますって」


「誘ったの俺なんだから俺に出させろって!うーん、一番高いのはビーフシチューセットか。よし、これで決定な」


そう言うとスタスタ券売機の方に行ってしまう。


ちなみにビーフシチューセットは680円で学食の中では高級食に当たる。


「ちょ、先輩!ダメですよ!ビーフシチューセットなんて高いのにしたら先輩のお財布が大打撃じゃないですか!」


そう叫びつつ阻止しようとする私を見てまたもや爆笑する政宗先輩。本日二回目の爆笑である。


「超ウケルんだけど、お前!お母さんか!」


政宗先輩はしばらく笑い続けた。私はそれを抗議し続けた。周囲からは注目されていたがもうなんかどうでもよくなっていた。


最終的に今日のお昼はビーフシチューセット(680円)になった。




学食でビーフシチューセット(680円)を食べていると、先輩は通り過ぎる人々に声をかけられまくっていた。


正真正銘のリア充だと思った。


私は数人、同じ学部の子を見かけたが声をかけられることもなかった。


これといって喋ることもないので黙々と食べることに集中していた。


「ねえ、春奈って人が苦手でしょ」


突然そんなことを聞かれた。


吹き出しそうになった。普通そんなこと本人に聞くか?しかも知り合って間もない人間に。


失礼にもほどがある。


「まぁ人付き合いは得意ではないです」


息を整え、当たり障りのない返答をした。本音を言ったらドン引きされるのは目に見えている。


「人付き合いもそうだけどさ、『人』自体が苦手。そんな感じがする」


「………」


「苦手ってか正直嫌いなんじゃない?」


「……どうしてそう思うんですか?」


今まで自分が隠してきた気持を暴かれた気がした。知り合ってまだ数時間しか経ってないのに。


私の何が分かるの、私の何を知っているの、私の何を理解できるの


複雑な気持ちが胸に溢れて声が震えそうになった。


でもそれに気付かれたら何だか負けのような気がして震えないように声を出した。


「なんとなくかな。拒否されてるのが分かるんだよ、人って」


「それは…人と目を合わせるのとか苦手だし、人見知りするから…」


「それもあるけど…春奈の場合、身体から出てるんだよね。人を拒絶してるのが」


「………」


「最初は俺だけかなーって思ってたんだ。ほら、いきなり声かけちゃっただろ?警戒してるのかなって」


「………」


「だけどさ、数時間一緒にいて何となくだけど思ったんだ。この子は全ての人に対してそうだって」


気付かれた。今まで表に出したことのない自分の気持ちを、名前と学年くらいしか知らないような人に。


ちゃんと隠してきたつもりだったのに。


この人は私のこと軽蔑するかな。嫌な女だと言うかな。冷たい人って罵るかな。


まあいいか。そんなこと言われたってどうでもいいことだな。心の中で自分に言い聞かせた。


所詮気付いたところで何も変わるまい。


またいつも通り図書館で本を読むだけの毎日が待っているだけだ。


罵られたって知らない人だ。無視すればいい。


しかしいくら待っても罵声どころか非難の言葉すら来なかった。


ビーフシチューに落していた目線を上げると政宗先輩と目が合った。


先輩は微笑んでいた。


私は思わず顔を背けた。


「何があったかは分からないけどつらかったんだろ?」


「そんなことありません」


「苦しくて辛くて助けてほしいのに誰もそれに気付いてくれなかった」


「やめて下さい」


「君は十分頑張っているよ」


「やめて下さい」


政宗先輩は小さい子供に言い聞かせるように言った。


「泣いているのを隠す必要はないんだ。思いっきり泣いた方がいい」


「私、泣いてなんかいません」


ハイハイと言ってハンカチを差し出す先輩。


気がつくと目からは洪水でも起きたのかって言うほど涙が流れていた。


なんてこと…私は認めないぞ。


「これは目からビーフシチューが出てるんです!」


「まじでか」


苦し紛れの言い訳に先輩は優しく笑ってくれた。


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