表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

とある大学生の話

『今週の日曜彼氏とデートするんだ』


『わあ素敵ぃ!どこに行くのぉ』


『この前開園した遊園地ぃ。知ってるぅ?』


『知ってる知ってるぅ!あそこさぁ、この前誰かのPVでも使われたんだよぇ!いいなあ!』


耳に入るのは実にくだらない内容ばかりである。


貴様ら一体ここに何をしに来ているのだ。自慢話か?


生憎私はここには学問を習得しに来ているのだ。


貴様らのチャラチャラした内容なんぞ耳に入れ頭で理解するために使うエネルギーすらもったいないから早々と席を立たれい。


そんな事を言えるわけもない。




キャンパスにいて耳に入るのは彼氏がどうした彼女がどうした最近の音楽は素敵だこの間の映画感動した…実にくだらない。


キャンパスにいて目に入るのはオシャレ女子の秘訣だの最新のスウィーツだのお勧めのデートスポットだのの雑誌の記事…実にくだらない。


いつしか親に言われた事がある。


「あんたって本当につまらない子」


至極その通りだと思った。


趣味もなければ特技もない。やりたい事もなければ欲しい物もない。


恋人がいるわけでもなければ結婚願望もない。正直結婚も子供も今の自分には人生の荷物にしかなり得ない。


将来の夢は公務員で一人アパートか何かに住めればいいと思っている。


都内に住めば交通が発達しているから車もいらない。免許もいらなければ保険料もかからない。


大学のキャンパスに通っているのにたかだか就活や身分証明の為に30万前後を出して免許をとる友人は正直バカだと思う。


「居酒屋とかでさー免許証とかあった方が楽なんだよ」


って言ってるのをいつしか聞いた事があるが居酒屋などに行かねばいい話である。


「コンビニとかでさータバコ買う時楽なんだよ」


と言ってる奴もいたが煙草?全く持って愚の骨頂。身体に悪影響しか及ぼさない葉っぱの為になぜ金を出さねばならないのだ。私には理解できん。




こんな考えの人間が大学で上手く適応できるかと問われれば普通は「できぬ」と答えるだろう。


しかし人間は嘘がつけるのだ。


「キャーこれ超可愛いと思わなぁい?」


と問われ、本当は「はぁ?目ん玉腐ってんじゃねーの」と言いたいところを


「うん超可愛いー」


と言うことも可能なのだ。


全く持って問題なくリア充な大学生活を遅れているように見えているだろう。


表面上は。


最初は確かにこれで上手くやって行けていた。


「可愛い」


「楽しい」


「面白い」


本当はそう思っていなくても口に出すことによってなんとなく自分は本当は楽しいのかも…と思えていた。


しかし自分の心を騙すのに最近限界が来たのである。


何を見てもくだらなく見える。


友人の顔が全員同じに見える。特に女子なんて最悪だ。化粧のせいで見分けなんてつくわけない。


集合写真で自分を探すのだって一苦労だ。


それを隠すためにさらに一生懸命自分を誤魔化し仮面をつける。


自分の顔には一体何枚の仮面があるのだろう?きっと何重にもなって素顔なんてきっと埋もれてしまっているに違いない。


自分の素顔などんなだった?どんな風に笑う?どんな風に怒る?どんな風に泣く?


そんなことも感じられないほど鈍くなっていしまっていた。


きっと自分が泣いていても、流した涙が仮面に吸収されて誰も自分が泣いていることに気づいてなんてくれないのだろう。


気付いたら自分は人と距離を置くようになっていた。


遊びに誘われても何かと理由をつけて断った。


一緒にご飯を食べようと誘われても用事があると言って断った。


他の人と一緒にいたくなかった。


その人の汚い部分を通して自分が悩んでしまうのが嫌だった。


一人でいたいのに独りでいるのもつらい。


自分の居場所はどこにもないと思った。


助けてくれる人もここから救い出してくれる人もいない。


きっと自分が死んでも「ああ、あの人死んだの。残念だね」位にしかきっと思われないことがとても虚しく思えた。


自分を必要としてくれる人が欲しかった。


だけど自分は誰とも喋りたくなかった。


我が儘な自分。きっと誰も私のことを受け止められる人はいないだろう。


そう思って私は本に逃げた。


紙と文字だけが私を受け止めてくれる。そう思ったのだ。


私はそれから図書館に籠った。


ラノベ、古典、漫画、ミステリー、恋愛…何でも読んだ。


たくさんの本を読んだ。たくさんの本たちが私を受け止めてくれた。それだけだった。


受け止めただけど受け入れては入れなかった。理解してはくれなかった。


いくら読んでも私の心は満たされなかった。晴れなかった。虚しくなるばかりだった。


それでも外の世界に行くよりはずっとマシだと思っていた。


そんなある日、一人の男の人が私の席の隣に座った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ