その1
ダンジョンは楽しいのう。
このアスファルトとコンクリートに囲まれた現代社会から離れて、何もない自然を満喫できる場所はダンジョンが一番じゃ。
うっそうと茂る森、流れる川、小鳥の囀る声に狼の遠吠え、それから……山!
ダンジョンでは魔法が使えるから、山の上までひとっ飛びなのじゃ。
普通なら前日から準備して、休日を丸々使って登るのじゃが、ダンジョンじゃ何も気にせず景色を楽しめる!
お陰で今日も、清央高校からの帰り道に寄ったダンジョンで、近くの山から景色を楽しんでおる。
……ええのう、自然は。
広大な自然を、山の上で独り占め。
しかも、魔法で楽に楽しめるのじゃ。
お陰で、好きな漫画を持ち込んで、景色を見ながら読める訳でのう。
ちなみに、この喋り方も今読んでる『忍者とヤクザ』の主人公サイドにいる長の喋り方じゃ。
この台詞で喋っておる間は、自分が前川恵美でなく漫画のキャラクターのような気分になれるからの。
中々、カッコいいと思うのじゃが、同級生からは変な目で見られてのう……
とはいえ、のんびり景色を眺めるにも限度があるのう。
これでもワシは、清央高校一の優等生として知られておる。
じゃから、のんびり景色を見て一日過ごすなんてのは、どうしてもできないからのう。
仕方ない、今読んでる巻を読み終わったら帰るのじゃ。
鞄に漫画を詰め込み、ダンジョンの入り口までひとっ飛び。雲を突き抜け、あっという間に到着じゃ。
途中、ゴブリンの群れと戦っている冒険者に向け、氷魔法で代わりに殲滅してやった。
いい事をすると気持ちええのう。
それにしても、ダンジョンと言っても洞窟だけじゃないのう。
広大な草原から、マグマ渦巻く火山、青い海が広がる砂浜もあるのじゃ。
中には観光目的で来る人もいてのう。
どうしてそんな世界と、ワシのいる世界がゲートで接続されたのかは……難しくて分からんのう。
~~~~~
信じられない光景を見た。
20……いや、30匹はいるゴブリンが、一瞬で全滅する光景を。
僕達3人パーティーが全滅を覚悟しながら剣を構えていたのに、一瞬で形成が逆転……というか勝った。
何が何だか分からないまま、僕達はただ立ち尽くしていた。
何だったんだ、アレ?
頭の中が混乱に包まれている中、リーダーである僕、清央和香は状況を確認しようと辺りを見回した。
……っても、何も確認しなくていいな。
周りにいるゴブリン達は、上から降ってきた氷の槍で全滅。
そして上から氷魔法を放った人は、僕達への攻撃を器用に避ける腕前がある。
しかも、倒したゴブリンに見向きもせず、僕達の元へ立ち寄ろうともしなかった。
ゴブリンから採れる素材なんかいらない程の金持ちか、あるいは僕達に譲ったか……
気になった僕は、空にいるであろう冒険者を探そうと顔を上げた。
あぁ、あれか。
見上げた先にいたのは、悠々と冒険者ギルドへ繋がるゲートへ飛んでいる冒険者の姿。
空高く、まるで映画かアニメのヒーローのように飛んでいる、黒いナニカ。
たわんでいる様子から察するに、魔術師のローブか何かだと思う。
魔法使いか、だからあんな空高く飛べるのだろうな。
……いや、無理でしょ。
飛行スキルは達人クラスでも、3階建てのアパートを飛び越せるのがやっとだ。
ビルを軽々と飛び越せる飛行スキルなんて、聞いた事がないよ。
こんなチート持ちの冒険者が、すぐ上にいるなんてな……
「……どうする? 剣でも拾っておくか?」
ボケっとしている僕へ、安藤が声をかけてきた。
冒険者グループの前衛で、最近剣を買い替えたいらしい。
だからか、彼はゴブリンの持っている剣から品質のいいものを一つ、強引に死体から奪っている。
冒険者の規定では、魔物の素材や防具類は倒した者が手に入れていい決まりだ。
横から勝手に奪い取っていい決まりはない。
しかも、念のためにとダンジョンを探索する冒険者には、確認用のためのカメラを身に着ける義務がある。
だからゴブリンを倒して僕達を救った人に断りもなく、剣を採ったりしてはいけないのだ。
……でも、肝心要の人はギルドの方へ飛び去って行ったからなぁ。
「勝手にとるのはダメだけど……放置した素材は自由に取っていいし……」
「なに迷ってるのよ。気になるなら拾ってギルドへ届ければいいでしょ? ゴブリンを倒したけど放置した人がいるって報告して。受け取らなかったら3日もすれば私達の物よ」
後衛で魔法使いの推名がそう言いながら、ゴブリンシャーマンの杖を手にしてる。
もう目の前にある杖が、すっかり自分の物になったと確信しながら。
……まぁ、本当に戦利品が欲しいと思ってるなら、ペイントボールなり発煙筒なりで所有権を主張するしな。
「……まぁ、この数いるゴブリンを倒す冒険者が、わざわざゴブリンの落とし物を拾ったりしないか」
「ご親切に群れを殲滅してくれた奴だ。必要なのは感謝の心ってな奴かもしれないぜ? なら、拾わない方が悪いだろうよ」
「そうよ。マクナリーバーガーでアルバイトするのが嫌になって、3人で始めた冒険者でしょ? ここで稼いでおかなくて、いつ稼ぐのよ」
「確かにね。なら、僕もゴブリンの短刀でも……いや、ここは拾わないでおこう。助けた人に渡すんだ」
僕がそう言うと、二人は驚きの目で見つめてくる。
なんでやめるんだと言いたげに。
というか言ってきた。
「いやいや、今になって怖気付く必要はないだろ。問題になったら言えばいいじゃねぇか」
「ゴブリンを討伐した人は現場を離れたのよ。規約なら私達の物になってもおかしくないじゃない」
「それはそれ、これはこれだよ。あのね、このゴブリン達を殲滅した人は魔法の天才だし、親切にも僕達に分け前を残してくれるような人だよ? なら、魔法の極意とかも教えてくれるんじゃないかな」
「魔法の極意って……魔法スキル持ちは全員、気難しいって話だぜ。素直に教えてくれるか?」
「そんな人ばかりじゃないわよ、失礼ね。でも、素直に教えてくれるか怪しいのには同意ね」
「だからこそ、ゴブリンが落とした物を持っていくんだよ。臓器の中にある魔石とかなら欲しいかもしれないし」
「放っておいたのに?」
「欲しいけど、わざわざ取りに行くのも面倒ってよくある話だよ。それに剣や杖なんかは必要ないぐらい強い訳だし、渡そうとしてもいらないと言われるだけだよ」
「なるほど、お礼を伝えながら必要な物は手に入れるって訳か。流石はリーダー、立ち回るのが上手いぜ」
「運がよければ新しい魔法も教えてくれるかもね。なら早速、ゴブリンの魔石を取り出してギルドへ戻らなくちゃ。念のために横取り防止用のペイントボールも投げておかないと」
そうして遺体から魔石を取り出し、僕のバッグに集めて入れた。
お陰で手が血だらけになったし、魔法使いの椎名は愚痴だらけで煩かったけど……その価値はあったと思う。
まぁ、肝心の命の恩人は、名前も姿も知らないのだけど。
集め終わってギルドへ戻った頃には、もう家へ帰っているみたいだし。
結局、集めた魔石に剣と杖はギルド預かりになった。
一応、このまま持ち主が現れなければ、これらは僕らピュアクランの物になるけど……どうしよう、探したほうがよさそうかな?
~~~~~
土曜日!
それは、学生冒険者にとって夢のような日じゃ!
朝から晩まで冒険し、洞窟の奥から山の上まで!
どこだろうと冒険し、疲れは回復ポーションで帳消しじゃ!
……なのに、どうしてワシは冒険者ギルドで足止めされてるのじゃ。
「すみません、貴重な休日というのにお待たせしてしまって」
「いや、それ自体は構わんがのう。ワシにお礼をする必要がないだけじゃ」
「お気持ちは分かりますが、その意図を対面で伝えなければならないのです。規則ですので」
「じゃがのう……」
冒険者ギルドに入って、受付を済ませて後は出発まで。
じゃが、そんな時に受付嬢から別室へとご案内されたのじゃ。
聞けば、この前倒したゴブリンのお礼がしたいとの事。
素材をこちらで集めたから、受け取ってほしいらしいのう。
面倒じゃ、こちらは暇潰しがてら倒しただけじゃがのう。
とはいえな、すみませんとペコペコ頭を下げる受付嬢を見ると、文句を言う気もなくなるのじゃ。
どうせ対面で会って、いらないと言うだけじゃからのう。
ほんのちょっとじゃ、ほんのちょっと足止めされてるだけじゃ。
じゃから、今は大人しく我慢するとするかのう。
なんて思いながら、別室で今日観光する場所を地図の上で検討している時。
部屋のドアが開かれてな、三人組のパーティーが入ってきたのじゃ。
同じクラスメイトでな、ピュアクランとかいうパーティーで冒険している奴らがのう。
最近はバイト代わりに冒険者で稼ぐという人もいるからのう。
じゃが、何が悲しゅうてまったりのんびり過ごせる異世界で働くのか。
同じクラスメイトながら、まるで意味が分からんのう。
「こんにちは……って、前川さんだったんですか。この間、僕らを助けてくれた人は」
「助けたつもりはないぞ。ほんの暇潰しじゃ」
「そのお陰で全滅する所を助けられたんです。本当にありがとうございました」
「構わぬ。それとお礼はいらんからのう、あるだけ邪魔じゃ。さて、これで冒険に向かって構わないのじゃろう」
「いえ、少しお待ちください。ちょっとお聞きしたい事がありまして」
「なんじゃ? ワシがいらんと言ったら所有権はそちらに渡るんじゃろう? それとも、この口調かのう?」
「そういう話ではなくて……まぁ、割と前から口調は気になっていましたけど、そんな話ではありません。ズバリ、あなたの強さの秘訣は何ですか?」
「……なるほどのう、そういう話なのじゃな」
冒険者は慣れた防具しか使わん。
使い慣れた道具じゃないと安心できんしのう。
魔物共の武具はすぐ壊れるわ、杖はワシの魔力に耐えられんわで最悪じゃ。
まぁ、最近は手荷物なしで冒険に出ているからのう。
そんなことなど、目の前にいる三人も分かっておるじゃろう。
なのに、わざわざお礼を申し出てきたのじゃ。
その理由なぞ、ワシから技術を学びたいと思っておるのがオチじゃろう。
……面倒だのう。
こんなことは、前にもあったのじゃ。
ワシから魔法を学びたいと付き纏われるわ、教えられることなど何もないと申すれば文句を言われるわ。
無下に扱うと大変じゃろうし、かといってワシは力任せに魔法を振り回してるだけじゃから教えられることなどない。
じゃが、こ奴らが素直に話を聞くかどうか。
「教えられることなぞない、というのが本音じゃな。というより、ワシは自身の魔力任せじゃから基本魔法しか使っとらんぞ」
「でしたら、横から冒険を拝見させて頂くだけでも構いません。それなら文句もないと思いますし」
「……お主ら、空は飛べるのじゃ?」
「飛べはしませんけど……走れば何とか?」
「なるほどなるほど……参ったのう」
こ奴らの動きが速ければ、きっとゴブリンを倒して飛んでるワシを追いかけてるじゃろう。
だがのう、こうしてギルドにワシが来るのを待っとるということは……
じゃが、ここで断ろうと学校で付き纏われる可能性があろう。
どうせこ奴ら、ワシしか知らない魔法やテクニックがあると思っておるじゃろう。
断ろうと後を追われるのは避けられないかもしれないのじゃ。
ならば……それ以外の方法で解決するかのう。
「嫌じゃ……と言いたくなる気持ちもあるが、お主らが再び囲まれ死なれては、ワシの目覚めも悪くなろう。指導は無理じゃが、それ以外で強くさせる方法はある」
「本当ですか!? ありがとうございます」
「待て待て、タダでとは言わん。少しの金と、ゴブリンの魔石が必要じゃ。それさえあれば、お主らに用意できるブツがあるからのう」
連中が欲しいのは、圧倒的な力じゃ。
その為に、こんな回りくどい方法でワシに近づいたのじゃろう。
じゃが、ワシが使っておる魔法は基本的な魔法だけじゃ。
高位の魔法は試験もあるし、そもそも大学に進学しないと学べないからのう。
かといって、まるで指導をせず別れたら、学校でしつこく付き纏われるじゃろうな。
じゃからこそ、手っ取り早く強くなれる方法を伝授しようかの。
それも、ゴブリンの魔石一つで強うなれる方法をのう。
「魔石ですか? あれは確かに魔力のサポートをしてくれますが、ゴブリンから採れた程度では意味ないと思いますよ」
「知っておる。じゃが、ワシのような魔法使いの手にかかれば便利な道具に早変わりじゃ。ついてこい、面白い物を見せてやるぞ」
ゴブリンの魔石を渡されたワシは、三人と共に冒険者ギルドを後にする。
向かうは町の宝石店、最近じゃ魔石の加工で有名になった店じゃ。
そう、魔石。
今やルビーもサファイアもエメラルドも、あのダイヤモンドさえもが宝石店で大安売りされておる。
それもこれも、異世界で採れる魔石が原因じゃ。
こんな石、ワシのような魔力のある者には不要じゃがの。
そうじゃろうが、他の魔抜けには有用じゃ。
ワシが魔力を注ぎ込んだ魔石なら、尚更じゃろう。
そうして着いた店は、マジカルマニ。
昔はいかにも潰れそうな店じゃったが、今や魔石の加工で日々大忙し。
連日、冒険者で溢れとう店じゃ。
店内も外壁も現代ダンジョンに合わせ、木造風に改装しておる。
人も仰山雇って大忙しじゃ。
ワシとしては昔の、工房で宝石を整えている様子を見せてくれた、のんびりとした雰囲気の頃が好みじゃったのだがの……
まぁ、そんな事より今は魔石じゃ。
これに魔力を込めて性能を高めピュアクランの奴らに渡せば、ワシは明日にも冒険できるじゃろう。
折角の土曜日が潰れるのは嫌じゃが……まぁ、のんびり冒険のための犠牲と思えば仕方ないじゃろうな。
「いらっしゃいませ……あれ? 前川ちゃん、随分と久しぶりね」
「数年ぶりぐらいじゃの。最近はこの店も儲かっておるからのう、のんびり見学ともいかなくなったんじゃ」
「いいじゃない、私は構わないわよ。それに冒険者としても割と有名な貴女が来ると、店の売り上げにも直結するし」
「じゃから嫌なのじゃ。目立ったらのんびり冒険できなくなるじゃろうが」
「目立つのが嫌って人は、そんな口調しないわよ。またアニメの影響?」
「変というな。『忍者とヤクザ』という有名な漫画のキャラじゃぞ」
「あぁ、あれね。でも……普通はキャラが好きでも口調まで真似しないんじゃない? 痛いし」
「……ここじゃのうて別の店に依頼するかのう。ピュアクランの皆よ、行くぞ」
「ちょっと待って、悪かったから! 相変わらず好きなキャラに影響されるなと思っただけだから! ごめんって、悪気はなかったのよ?」
「はぁ……まぁ、お主の腕は確かじゃからな。今日はゴブリンの魔石を加工してもらいたい。できるか?」
「ちょっと忙しいけど……できるわね。代わりに特級冒険者も通う店ですってホームページに書いてもいい?」
「名前を隠してくれたらの。では、頼むぞ」
そうしてワシは店長である魔奈に、ゴブリンから採られた魔石を渡す。
この店まで歩きながら魔力を込めた魔石をの。
魔法というのは異世界で使えるものじゃ。
現実世界じゃ、ワシみたいな天才じゃろうと料理の炎ぐらいしか出せん。
じゃが、体内で生成した魔力を込めるぐらいなら、特に問題なくやれるのじゃ。
まぁ、ゴブリンの魔石とかいう脆い石に込めようなら、すぐ壊れてしまうがの。
店長である魔奈なら、その心配もないという訳じゃ。
「ありがとうね。これで評判が稼げるわ。最近では雨後の筍みたいに競合が沸いてくるし、ホント困っていたのよ」
「どうしてじゃ? お主の腕は並大抵の物じゃないであろう?」
「それが最近は安くても構わないって人が増えたのよ。今ではエイオンタウンですら宝石店があるのよ。売るだけじゃなく加工までしてくれる店がね」
「どこもかしこも、大変な事ばかりじゃの」
「だから私もホームページにYっていうSNSに、最近はYourTubeまで始めたの。あぁ、宝石磨いて販売してとやってた頃が懐かしいわ……」
「お主も大変じゃのう……ワシも冒険する度に、他の冒険者から付き纏われるからの。気持ちはよくわかるぞ」
「あなたのはどちらかというと、冒険して無双して、おまけに口調も……いや、何でもないわ」
「気にはなるが、見逃すとしよう。取りに来るのは明日で構わぬか?」
「えぇ、土日は忙しいから少し待たせるけど、それで構わないなら。取りに来るのは貴女?」
「それでも構わぬが……コレはお主らが欲しがっている物じゃぞ。ワシは明日も冒険に出たいのじゃ、そちらに任せてもよいか?」
ピュアクランの方を振り向くと、三人とも怪訝な顔をしてワシを見つめておる。
何じゃ、何が不満なのじゃ。
「あのー、一つ質問なんですが、本当に魔石程度で強くなれるのですか?」
「ゴブリンから採れた魔石に込められる魔力なんて、火の玉一つが精々でしょ? 沢山あれば嬉しいのは事実だけど、それだけで強くなれるなんて……」
そう話しかけてきたのは、リーダーの和香と椎名じゃ。
女の方は検知した魔力的に魔法使いじゃろう。
まぁ、ゴブリンの魔石なぞギルドによっては1つ1円で買いたたかれる物じゃ。
疑いたくなる気持ちはよう分かる。
じゃが、試しに込めた魔力を取り込めば、これにどれだけ力を込めたか分かるじゃろう。
「仕方ないのう。魔奈、彼女に魔石を渡してやれ」
「いいの? 今ここで使うのは勿体ないんじゃない?」
「試して見せなければ信じないじゃろうし、疑われたままというのは気分が悪いのじゃ。なに、一つあれば十分じゃろ」
というより、一つしか使えんと言った方が正しいじゃろうな。
魔力というのは、本来、この世界になかった力じゃ。
それを体内に取り込める以上に詰め込もうなら、直ちに爆散してしまうじゃろうな。
慣れたら飛び散った肉片からも再生できるのじゃが……それを求めるのはちと酷じゃ。
「それなら、この小さいのがいいわね。あまり大きすぎると耐えられなさそうだし……はい、どうぞ」
「こんな魔石一つで耐えられないって、そんな訳ないでしょ。魔力を吸収したって……ん゛っ!!!」
瞬間、彼女の体が光った。魔力の光じゃな。
これぐらいで漏れるなら、もう少し抑えてやった方がよかったのかもしれんのう。
まぁ、多少の漏れに耐えるのは魔法使いにとって修行になるし、この程度なら構わぬがな。
「す……凄いわね。慣れるまでは大変そうだけど、これを持ち運んでいれば緊急時も切り抜けられるかも」
「じゃろ? これだけの品は他の宝石店じゃ、絶対に手に入らないじゃろうな」
「でも、これを加工するのは大変じゃない? 下手したら割れちゃうでしょうし」
「なぁに、店長はプロじゃ。この程度の魔石など容易く扱えるじゃろう。但し、加工費用はそちら持ちじゃがな」
「このレベルの物なら加工なしでも持ち運びたいけど……痛いのよね、未加工のは」
魔石の加工が流行っておるのは、未加工じゃ扱い辛いからじゃ。
普通の小石のようにザラザラしておるし、魔力を込めたら尖っている個所から突き刺すように魔力が流れ込んでくるのう。
じゃから、魔奈みたいな加工師が丁寧に丸くしておる。
こうすれば持ち運びやすくなり、ピアスやネックレスのように身に着けられるからの。
……さて、後はピュアクランの連中に任せればいいじゃろうし、ワシはそろそろ退散するとするかのう。
渡した魔石が気になって、店内にいる冒険者共がこちらを見ているからの。
これ以上、冒険者に付きまとわれるのは御免じゃ。
「それじゃ、ワシはそろそろ失礼するとしよう。後のことはリーダーである和香に任せるからの」
「えっ、もうですか? まだ魔石の使い方も教わってませんし……」
「使って慣れるんじゃ。詳しいことならメンバーの椎名に聞けばよい。では、サラバじゃ!」
「あっ……逃げた」
挨拶もそこそこに、店の扉を開けて出る。
何人か後を付けてくる者もいたが、近くの家を飛び越えて逃げてやった。
悪いのう、ワシは現実世界でも魔法が使えるんじゃ。
さて、後はのんびり冒険に出かけるとするかのう。
~~~~~
ワシにとって冒険は、自然を満喫する手段じゃ。
魔物を倒し、依頼料を稼ぎ、剥ぎ取った品を売る。
こんなアルバイトや仕事代わりの冒険なぞ、絶対にやりたのうないわ。
朝から面倒には巻き込まれたが、後はピュアクランの問題じゃ。この話はお終い。
さて、今日はどこでのんびり休むとするかのう。
誰にも邪魔されぬ、誰も近付けぬ場所。
それで景色も美しいとなると……あそこがよさそうじゃな。
三つほど山を越えた先にある、動物達の水飲み場。
滝壺のお陰で低級の探知魔法じゃ、ワシの姿は音にかき消されて追えん。
それに滝の音が自然のASMRとなり、心地よく昼寝できるのじゃ。
今日はここで昼寝して、滝を眺め、本を読み……あぁ、楽しみじゃのう。
冒険者ギルドに向かい、手続きを終わらせ、早速とばかりに空を飛んで目的の山へと向かうとする。
この大地を見下ろす景色も素晴らしくはあるのじゃが、飛んでいる所を冒険者に見られたら敵わんからのう。
仕方ない、急ぐとしようかの。
景色はまた今度、明日にでも楽しめばいいのじゃ。
そうして辿り着いた滝壺で、近くに散らばっておる枯葉を風魔法で集め、簡易なベッドにしてしまう。
家から寝袋でも持ち込めばよいのじゃが、それじゃ風情がないからの。
それに、寝心地が気に入らんなら水魔法でベッドを作ればいいのじゃ。
ふむ……まぁ、悪くはないの。
こうして横になって、のんびり森を眺めたり、滝の流れを見つめたり……最高じゃ。
そうして暫くのんびりしていた時、ふと思い出してポケットから魔石を取り出す。
連中から渡された魔石の一つじゃ。
全て渡してもよかったのじゃがの、どうしても気になってのう。
この魔石を直接食べたら、どんな風に魔力が取り込まれるのじゃろうか。
大抵の者は、魔石を手に持ちながら、あるいはピアスやネックレスから取り込むのじゃ。
じゃがのう、魔力は臓器みたいに取り込まれるのじゃから、どうにも非効率でな。
これを食えば、胃から直接取り込まれるという訳じゃ。
という訳で、口を強化魔法で耐えられるようにしてな、魔石を食べてみることにする。
……残念じゃが、この方法はダメじゃ。
不味い、口の中がジャリジャリするのう。
確かに胃から直接、魔力が取り込まれる感覚はするがのう、後味が悪すぎるのじゃ。
皮膚より遥かに速く吸収できるのじゃが、なしじゃなし。
ワシはたまらず、池へ口をゆすぎにむこうた。
まっ、こんな無茶ができるのも、異世界のお陰じゃ。
体に問題が起ころうとも、回復魔法で何とかなるしのう。
体が千切れようと、炎に焼かれ氷に貫かれ、あるいは雷に打たれようと無事じゃ。
こんな無茶はワシにしかできんが、それも含めて感謝しておる。
異世界へ繋がるゲートを開けてくれた、天才科学者にはの。
空の青さが濃くなろうて、段々と夕焼けの赤に染まっていく。
この貴重な人生という一日を無駄遣いする快感、たまらんの。
とはいえ、あまり遅くなるとギルドの職員に怒られよう。
名残惜しいが、そろそろ帰る時間じゃ。
魔法で再び空を飛び、ギルドに繋がるゲートまで直行じゃ。
未成年では、日を跨いで異世界へ潜れないからのう。
夜の星空を見れるのは18歳から、それまでの辛抱じゃ。
そうしてゲートに辿り着き、中へ入ってギルドへと戻る。
後は無事に帰ってきた証明の手続きを済ませ、家に帰って晩飯……
なんて思っていると、また朝のように職員が話しかけてきた。
「すみません、少しお時間宜しいでしょうか」
受付の前で、職員さんが申し訳なさそうに話しかけてくる。
そして、受付の後ろじゃ冒険者が勢ぞろいしてこちらを見よる。
興味津々とか、期待とか、そんな目じゃ。
そして、手には魔石や、魔石入りのピアスやネックレスを持っておる。
……こいつら、宝石店のマジカルマニから追っかけておるのか。
「時間か……仕方ないのう、少しだけじゃぞ」
こうしてワシは、連中の魔石に魔力をする事となった。
金は取らんから、冒険中にワシの邪魔をするなと警告してな。
全く……のんびり冒険とは、こうも難しいものじゃったのかのう。




