【超短編小説】家庭災園
晴れた休日に家で座ってばかりいるのもな、と思い表に出てみたものの特に目的が無い。
大体、休日くらいは「何かしなきゃ」と言う感覚から逃れて自由でありたい。
予定や義務に拘束されない、スローなライフを過ごしたいのだ。
高校生くらいの頃は家にいたくなかったから、意味もなく表を歩き回っていた。
家にいない事が主目的だったので、歩き回る目的は外に出てから考えるのだ。
あの頃は仮初の目的を作るのが上手かったと思う。
レアな煙草を売っている自動販売機を見つけるとか、ドクターペッパーを売ってる自販機を探すとか。
あの頃は実際にそれがやれた時代だった。
今はもうそうじゃない。
煙草で言えば廃盤が増えたし、ドクターペッパーや変なジュースも当時よりは市民権を得ている。
体力的な意味では低下の一途を辿るし、もうあの頃とは何もかもが違う。
それに、街を歩けば同年代の人間は大抵が子連れだ。
俺のように早々と繁殖を諦めた、反社会的態度の人間には生き辛い時代でもある。
それでも部屋から出て街を歩き始めた。
休日出勤の労働者や、家族サービスに余念のない子連れとすれ違う。
もしかしたら俺にもああ言う未来はあったのかも知れない、なんて事を考えながらポケットに手を入れて、煙草を止めた事を思い出した。
まぁ住宅街に入り込んでしまったし、仕方ない。
やれやれ、とため息を吐いたところで少し先の生垣に幟が下がっているのが見えた。
こんな所になにか店があるのだろうか。
流行りの隠れ家的なやつか?幟を立てたら隠せてないが、何の店だろうか。
久しぶりに未知と遭遇して少しワクワクしながら近づくと、それは茶色い麻布に黒い文字で営業中とだけ書かれた、味気も素っ気も無い幟だった。
何屋なのだろうか。
戸建て住宅を囲む垣根の門は開け放たれており、幟はその垣根の中から生えている柿だかの枝に垂れ下がっていた。
中を覗くと、住宅の縁側にエプロンをした中年の女が座っていた。
中肉中背で十人並みの容姿だったが、疲労や鬱屈と言ったネガティヴな印象が薄い女で、しかし魅力的かと聞かれるとそうでもない。
女は、俺に気づくと軽く頭を下げて挨拶をした。
俺も頭を下げて会釈を返し、女の前に広がる小さな庭先に置かれた台に視線を投げた。
台の上には様々な厄災が置かれていて、
「怪我」「不倫」「クビ」「食中毒」「破産」などそれぞれが透明な袋に詰められている。
俺は縁側に座っている女を見た。
「これはご自身で作られているんですか?」
すると女は
「えぇ、この家の裏で家庭災園をしているので」
と言うと、ご要望があれば専用の厄災もお作りしますよと笑った。
俺は台に並べられた厄災の中から「遺産争い」を手に取り、近々会う奴に渡してみるかと考えて笑みを浮かべた。
今度は俺もベランダで厄災を育ててみようかな。




