Lesson1 男女を見分ける魔法(2)
始まりは暗いですが、ちゃんとギャグテイストにしますので頑張って読んでください。
あっれ~なんか強烈な拒絶を食らったんだけど?
そんなに忙しかったのかな?
それにしては手を出すことにもあんなに全力で拒否るってどういうこと?
「……何かある?」
そういうことになる?
師匠がいうんだからこの家の住人には直接会う必要があると思うんだけど……。
「まっ、壊せばいいか!」
いい感じに巻き割り用の斧が出しっぱなしになっていたし、あとは上手いことやって隙間から覗き見て、それから質問をすれば条件達成のクリア。
――ガッ!ガッ、ガコッ! 何度か屋根を叩きようやく開いた穴から様子を伺ってみる。
「どれどれ?」
「――」
「~~ん? 騒がしい?」
気付かないのはおかしいと思ったけど、それにしても異常かな? さっきの人と最低あとひとりはいると思うけど。
「だか、らってめえは無能なんだって言ってんだよ!!」
見えてきたのは男が女の人を殴っている光景だった。
「そもそも追い払うのにいちいち時間取ってんじゃねえ! 邪魔だから消えろで済む話だろうがよっ!?」
なるほど。だから、見られたくなかった。もしかしたら見られることで起こることから私を守ろうとしたのかな?
いや、ああいうやつは他人には干渉しないか。被害はあの人の身にだけ降りかかる、そういうことかな。
う~ん、見てて楽しい光景では確かにないけど、これが本当に師匠が見せたい光景なのかな? 正直私はあまり感情が動かないんだけど。
いや、もちろん可哀想だとは思うけど助けを求められたわけでもない赤の他人の不幸なんてどこにでもある話だし、私は戦う力を持っているわけでもないし。
「いいかっ、おまえは何をやっても駄目なんだ! だから逆らわずにいれば生かしてやるっ! 逆らうぐらいなら大人しく死ねぇぇ!!」
いるだよね、こういう勘違い野郎。私もよく相手したわ。フルボッコにしたけどね。
さて、どうしようか。助けるのは簡単じゃないけど出来なくはなさそう。屋根を壊される音にも気付かないほど自分の世界に没入、現実逃避しているのなら不意をつけばいける。
こっちには武器もあるわけだし。
あそこまでいってるんなら、泥酔してるのかな?
だけどな~、人助けって私の柄じゃないんだよな。
でも放置すると師匠がうるさそうだしな。
「いいか、てめえは女で俺は男!! 大したことのねえ女が男に逆らうな!! 女は男の道具にもなれねえんだってことを覚えとけ! ボケが!!」
「――ああん?」
「はっ? あんた今何て言ったの?」
「んだ、てめえ。いきなり他人の家の屋根を壊すやつのセリフか? まずは金払うのが先だろうが!?」
「あんたの感情なんてクズ過ぎてどうでもいいけど、さっきあんた女は道具にもなれないって言った?」
「だったらどうした?」
「その人は何?」
「こいつは俺の女房だよ。使えねえゴミで、俺のことを好きだっつーから一緒にいるだけの存在だ」
そういって何も発さない奥さんの髪を引っ張るも抵抗も少しばかりの苦悶の声すら出さない。
ああ、まるで人形だ。反応しないことでしか存在意義を見いだせない人形。
理解できないけど、本当に昔は好きだったんだろう。それが壊れて、でも元に戻ってほしい。そんなことを考えて耐えているのかもしれない。
「――――バッカじゃないの?」
そんなことをしたって殴られた事実が変わる訳じゃない。傷が消えても、痛みを忘れるわけでもない。傷すら消えないかもしれない。それなのに耐える? しかもその理由に男だから?女だから?
「言いたくないけど、見ててイライラするわ」
「そうだろうこいつは人をイラつかせる――」
「あんたも黙れ」
「ねえ、わかってる? 私はここで何が起こっていても別に興味がないの。だから、私は出ていってもいい。でも、あなたはそれでいいの?
言っておくけど、耐えたところでそいつはもう元には戻らないし、あんたも戻れない。だけど、ここで私に助けを求めないと次は本当に死ぬまで殴られるかもしれない。もう誰も助けに来ないかもしれない。それでも耐えるの?」
ここまで言っても反応はなかった。きっと反応しないことでしか自分を守る術を思い付かないのだろう。
「おい、用が済んだならさっさと出ていけ」
「あなたはもう戦えないのかもしれない。もしかしたら、昔は良いところがあったのかもしれない。でもね、私はそんなことに興味がないの」
ただ、思う。こいつは私の世界には要らない。
「ーーあんたは男?」
「見てわからねえのか? 男に決まってんだろ?」
「ーーにひっ、にひゃひゃひゃひゃ!」
ああ、そうか。だから師匠は私をここに寄越したんだ。やっぱり師匠は間違ってなかったんだ。
「良いことを教えてあげる。私は魔法使い。それも禁術とされる【魅了魔法】の使い手」
「【魅了魔法】? そんな魔法は聞いたこともねえ」
「そりゃそうでしょうね。言ったでしょ、禁術だって。当然情報どころか存在すら隠されている魔法よ。そして今、その魔法をあなたに使ったわ。そうしたらあなたはーー男じゃないそうよ?」
「はあ? 何を言って――お、おいっこれはなんだ!?」
「さあ? 何かしら」
目の前で青白い光に包まれている。これがこの魔法の力なのか、初めて使ったからよくわからないが、私がやったことだけは間違いないだろう。
「わかることだけを教えてあげる。あなたは私の世界には要らない」
【魅了魔法】っていったって全員が私に好意を持つようになるわけじゃない。そもそも使うかどうかを決めるのは私なんだから私がいてほしくない人に使うわけがない。
「あなたがどこに行くのかは知らないけど、私と関係のない場所ということは間違いないはず、それじゃあ、さよなら。二度と会わないでしょうけど」
「――えっ? あ、あの人は?」
「ようやく口を開いたのね。それで、あの人って?」
閃光が消え、視界が開けるとそれまで一言も発していなかった彼女が何かを探すようにキョロキョロしていた。
「あの人は――あれっ?」
「変よね。私もなの。さっきまで何かがいたと思ったのに、それがなんだったか覚えてないのよ。とりあえずここに来た用事を済ませるていい?………あなたは女ですか?」
(フィルぺ視点)
「ようやく、男女を見分ける魔法の習得が完了したようね。それにしても面白い結果になったわね」
本来は男女を見分けるだけでしかも【魅了魔法】の力の一部に過ぎないから人をどうこうする力なんてないんだけど、これもチリの才能かしら?
「【魅了魔法】の解釈は色々あるけど、端的に表現すると発動した人間に取って都合の良い世界を作り出すこと……異性にモテる。誰からも好感を持たれる。それも熱狂的で狂信的に」
だから暴走しやすい。
周りがイエスマンになるのが最大のメリットとデメリットを兼ねているから。
「だけど初っ端からこんな強制力を発揮するなら考え直さないといけないかも」
チリが魔法を発動させた瞬間対象が世界から拒絶されるのを感じて慌てて回収したんだけど……。
「これは、何かしら?」
一見すると土の塊。人の形にも見えるんだけど人にしては何かが削ぎ落とされたような。
ハニワ?
『おい、これはどうなってんだ!?』
「驚いた。生きてるの?」
「当たり前――ってヲタはなんだ?」
「……何よヲタって?」
『知らないヲタについて聞きたい。聞きたいだけなのに』
「なんだか嫌な予感がするんだけど、チリが魔法を使う度にこんなのが出きるのかしら? 早めに次のレッスンをして、コントロールを覚えさせないと」
『ヲタって何だ――』
「そうね。早急に美的センスを磨きましょう。そうなるとちょっと段階は飛ぶけど、次の魔法は決まりね。早速呼び戻さないと」
その前にチリが来た時に私の美的センスを疑われないようにこれはどこかに隠しましょう。チリに世話をさせれば一石二鳥(?)かしら?
ちなみにフィルぺよりも先にネタバレすると『ヲタ』は当然ヲタクではないです。チリから男でも女でもないとされたので『おれ』『あたし』から取ってます。