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令和から来た悪役令嬢はコンプライアンスを遵守する!

作者: 糸四季

ギャグです。お久しぶりでこんな書き殴り短編上げて申し訳ない。

(※タテスク!にて『毒殺される悪役令嬢ですが、いつの間にか溺愛ルートに入っていたようで』コミカライズ連載中! という宣伝!)


 クセのある金の髪がシャンデリアの下で輝き、海のように青い瞳がこちらを射抜く。

 


「今をもって、ラクロワ公爵令嬢・ヴィクトリーヌとの婚約を破棄する!」



 広いホールに響き渡るその宣言を聞いた時、ヴィクトリーヌは身震いした。

 幼児の頃からの婚約者である王太子に、公衆の面前で婚約破棄された絶望感からではない。

 目の前で王太子が肩を抱いているのが、男爵の養女になった平民出身の娘だという屈辱からでもない。


 これはまごうことなき歓喜だ。



「お前に拒否権はない! これは決定事こ――」

「もちろん大賛成ですわ、殿下!」

「そう、大賛せ――……ん? 何だと?」



 冷ややかだった王太子の顔が訝しげなものに変わるが、ヴィクトリーヌは気づかない。いや、気にしない。

 王太子の後ろで国王夫妻がそろって頭を抱えながら天を仰いでいるが、それすらどうでもいい。

 なんと素晴らしい日だろう。ヴィクトリーヌの中で今日が生涯の祝日となることが決定した。

 誕生日よりも誇らしい。そのくらい晴れやかな気持ちだった。



「殿下も私と同じ気持ちでいらしたのですね! でしたらもっと早くそう言ってくださればよろしいのに~」



 その場でくるくると回り豊かな黒髪を踊らせながら、歌うように言うヴィクトリーヌは誰の目にもご機嫌に映る。

 とても婚約破棄宣言をされたばかりの令嬢には見えない。

 そんな婚約者の姿に王太子は困惑顔になっていく。



「同じ気持ちだと?」

「あら? 違いました? ということは、私の演出が功を奏したということかしら?」

「演出……? お前は一体何を言っている」

「え? だって、殿下はアリス様への私の嫌がらせ行為に愛想が尽かれたのでしょう?」



 回転を止めてこてんと首を傾げるヴィクトリーヌに、王太子はハッと我に返り背筋を伸ばした。



「そ、そうだ! ヴィクトリーヌ。お前は公爵令嬢という令嬢たちの模範となるべき立場にありながら、私のお気に入りであるアリス・カッセル男爵令嬢に数々の非道な行いをしたな!」

「ええ、いたしました。それはもう本当にたくさん」

「潔いことだ。自ら罪を認めたな!」

「もちろんですわ。すべて私プロデュースの演出ですので!」



 なぜか自慢げに胸を張るヴィクトリーヌに、王太子は困惑を超え怒りをにじませ「ハァッ⁉」と叫んだ。

 王太子だけでなく周囲の貴族たちも「ぷろでゅーす?」「どういうこと?」とざわつき始める。

 ヴィクトリーヌは自分が多少はしゃいでいたことを自覚し、恥じ入るようにコホンと咳払いした。



「簡単に言うと、やらせということです」

「お前はさっきから何を言っているんだ……?」

「つまり、私はアリス様には実際に危害は加えていないということですわ」

「嘘をつくな! お前の犯した過ちはいくつも報告を受けている!」



 ビシリと王太子に指を突き付けられ、ヴィクトリーヌは「ええ、ええ。そうでしょうとも」と頷く。

 その悪びれない様子に、王太子の指先はぶるぶると震えた。



「お前がアリスに嫌がらせをしていると聞かされた時の、私の気持ちがわかるか?」



 怒りに悲しみにか、王太子は整った顔を歪めてヴィクトリーヌから視線を外す。



「信じていた幼馴染に裏切られたショックで、私は食事も喉を通らず、満足に眠ることも出来ず……」

「でしたら今日からモリモリ食べられますわね! ご安心なさって。私は本当にアリス様を傷つけておりませんので、今夜は熟睡出来ますわ!」



 罪悪感を植え付けるつもりの渾身の演説を、空気を読まない幼馴染兼婚約者に一刀両断され、王太子は今度ははっきりと怒りで指先を震わせた。



「白々しいことを! 令嬢たちとの茶会の最中、アリスに淹れたての紅茶をかけただろう!」

「紅茶はかけましたね」

「はっ! 何が傷つけておりません、だ! アリスに火傷を負わせているではないか!」

「ええ。だって、火傷は負わせておりませんもの」



 肩をすくめるヴィクトリーヌに、王太子は嘲笑する。



「何をバカな。アリスはあの後手当を受けて、腕に包帯を巻いていたのだぞ」

「包帯を巻いた医者は、私の用意したエキストラです。本当の医者ではございません」

「……は?」



 またしても、王太子と一緒に野次馬貴族たちが困惑する。

「エキストラ?」「どゆこと?」と再びざわざわする周囲に、ヴィクトリーヌは丁寧に説明するつもりで声を張った。



「アリス様にかけた紅茶はしっかり冷ましたものですので、彼女は火傷ひとつ負っておりませんでした。ただドレスをダメにしてしまったので、代わりに最高級の生地を使ったフルオーダーのドレスを着替えとしてプレゼントさせていただきましたの。ついでに湯あみもしていただいて、当家の美容部隊のメイドたちによる、全身美容施術も体験いただきました」

「でたらめを……」

「お疑いでしたら、こちらをご覧くださいませ」



 ヴィクトリーヌがパチンと指を鳴らすと素早く若い従者が現れ、掌に乗る大きさの箱をヴィクトリーヌに差し出した。



「私が開発した魔導カメラで撮影した証拠写真です」



 ヴィクトリーヌが箱の蓋をパカリと開くと、宙に突然光を帯びた絵が浮かび上がった。

 まるでその瞬間を氷漬けにして、時を止めたまま切り取ったかのような光景が王太子たちの眼前に広がっている。


 それは王宮庭園のティーパーティーの様子だった。

 数名の貴族令嬢に囲まれたヴィクトリーヌとアリスがいて、ヴィクトリーヌの持ったカップから、まさにアリスに紅茶がかけられる瞬間であった。


 なぜかその四角く切り取られた“証拠写真”なるものの隅で、ヴィクトリーヌの従者がおかしな手持ち看板を持っている。

 そこには【※紅茶は冷めたものを使用しております】と書かれていた。



「な、何だこれは……」



 呆然とする王太子に、ヴィクトリーヌはもう一度「ですから、証拠写真です」と答える。



「絵ではなく、魔導式を用いてその瞬間を像として保存したものです」

「これを……お前が開発したと?」

「ええ。自由になる時間をほぼ開発につぎ込みまして、しばらく邸に増設した工房にこもりきりになってしまいましたけれど。王太子妃教育の為に王宮に伺う時間がネックでしたわ」



 徹夜することも多かった、と開発の苦労を語るヴィクトリーヌに、王太子は呆然とするばかり。



「ちなみにこちら、来春私のメディア商会で受注販売いたしますのでご興味がありましたらぜひ」



 ヴィクトリーヌの言葉に、周りの貴族たちのざわめきはどんどん大きくなっていく。



「メディア商会って、最近五大商会入りした、あの?」

「五年前、突如立ち上げられてぐんぐん業績を上げていった、いま一番勢いのある商会だ」

「まさかヴィクトリーヌ様が商会長? いえ、オーナーなの?」

「おい、ヴィクトリーヌ様は遊び歩いてばかりいるという噂は何だったんだ?」

「王太子殿下が言い始めたんじゃなかったか……?」



 貴族たちの視線が突き刺さり、王太子の顔色は急激に悪くなっていった。

 周囲の反応をよそに、魔導カメラは別の写真を浮かび上がらせる。

 それは先ほどの写真の直後の様子と思われた。

 淡いピンクのドレスを紅茶で汚され、驚いているアリス。それを見下ろし高笑いしているヴィクトリーヌが写されている。

 そして、またも四角の端に従者が写りこみ、その手にはふたつの看板があった。


【※この後新しい、オーダーメイドのドレスに着替えていただきました】

【※汚れはこの後湯あみをしていただき綺麗に落としました】


 すぐにまた新しい写真が浮かび上がり、そこには医師と思われる老人の手当てを受けるアリスがいた。

 当たり前のように端に従者もいる。


【※演出の為に大げさに包帯を巻いておりますが、彼女は無傷です】

【※薬の代わりにローズヒップの最高級香油を塗っています】


 と書かれた看板を、無表情で掲げていた。



「な、何だこれは……」

「危害どころか……」

「至れり尽くせりというやつでは?」



 戸惑いを深める周囲の貴族たちの声が、聞こえているのかいないのか。

 王太子はハッとした顔でヴィクトリーヌに詰め寄る。



「でででは! アリスの持ち物である貴重な本を切り裂いたのは⁉」

「それはご本人の危害とは関係ありませんが、一応こちらをどうぞ」



 そう言ってヴィクトリーヌが次に見せたのは、自身が笑顔で本を破り捨てている場面の写真だった。

 その後ろで無表情の従者が持つ看板には



【※表紙だけそっくりに作った中身空白ダミー本です】

【※本物は丁重に保管しており、この後ご本人にお返しします】


 と書かれており、次の無残な姿になった本に驚くアリスの写真では、


【※ゴミは回収し再利用します】

【※これは演出であり、いじめを推奨するものではありません】


 という看板を掲げてる。

 王太子はワナワナと震え「なぜ偽物を切り裂く必要がある⁉」と叫んだ。



「フォローがかゆい所に手が届きすぎている……」

「あまりに手厚く責める隙がない……」



 動揺していた貴族たちの空気が、生温いものに変わり始めた。

 既に勝負は決している、という判断で意識統一されたのだ。

 しかし、そんな居心地の悪い空気の中でも王太子はあがくことを止めない。



「それなら、アリスを階段から突き落とした件は⁉ あれはたまたま無事だったものの、一歩間違えれば怪我では済まなかった! それに目撃者も大勢いたぞ!」



 さすがにこれは言い逃れできまい、と王太子が薄く笑いを浮かべる。

 ヴィクトリーヌはそれに満面の笑みを返した。


 王太子、絶望の瞬間である。



「当然それも心得ておりました!」



 御覧ください、とヴィクトリーヌが新たな証拠写真を提示する。

 それは王宮の階段の上からアリスらしき金髪の女性の背中を突き飛ばすヴィクトリーヌの写真だった。

 衝撃的な絵面だが、もう人々は衝撃を受けたりしない。

 誰もがまず先に、お約束のように端に写りこむ従者が持つ看板を確認した。



【※落下はスタントマンが代わりに行っております】

【※専門家の指導の元万全を期して臨んでおります】


 次のアリスらしき女性が階段を転がり落ちている真っ最中の写真の看板はこうだ。


【※スタントマンも、当然ご本人も無事です】

【※危険ですので絶対にマネしないでください】



「誰だスタントマン⁉」

「あ。私です」



 思わず叫んでいた王太子に、そっと手を挙げながら進み出る若者がいた。



「お前は……騎士団長の息子ではないか」

「はい。ヴィクトリーヌ公爵令嬢に依頼をされまして」



 照れたように答える騎士団長の息子は、まだ幼さの残る顔立ちの少年だ。

 確かにアリスと背格好は似ているが、彼はこげ茶の短い髪で、金髪ではない。



「写真に写っているのは金髪の女性のようだが」

「恥ずかしながら、初めて化粧や女装をいたしました。いやあ、動きにくさはありましたが、ドレスがかなり重装備で落下時のクッションになるとは、驚きでした」



 真面目な顔で感心する騎士団長の息子に、王太子の頬が引きつる。



「専門家というのはまさか……」

「それは父ですね! 受け身の取り方や落下速度等、指導が入りました」



 彼の言葉に王太子が勢いよく振り返ると、国王の隣で騎士団長が照れくさそうに頭に手をやっていた。

 なぜ照れるのか理解できない。

 延々と理解できないことばかりを見せられた王太子は最早発狂寸前だ。



「騎士団長まで……一体何なんだ、この茶番は!」

「ですから“やらせ”だと申し上げましたでしょう? ネタばらしまでが企画の内なので、ドッキリと言うべきでしょうか」


 わからずやの子どもに言い聞かせるようなヴィクトリーヌの口調に、王太子のいら立ちが倍増する。


「だから、何なのだ! さっきからその、やらせだのドッキリだの!」

「あら、申し訳ありません。つい前世テレビ局のバラエティスタッフだったときの癖で」

「はぁ⁉」



 王太子はきつくヴィクトリーヌを睨みつけたつもりだったが、彼女はなぜか誇らしげに胸を張った。



「不思議なことに今は公爵令嬢なんてやっておりますが、そんな立場でもコンプライアンスはやはり遵守いたしませんと」

「わけがわからない! 何の話だ⁉」



 頭から湯気が出かけている王太子の様子に、従者がすすすとヴィクトリーヌの横につき言った。



「お嬢様。ほどほどになさらないと、王太子殿下が混乱されるのでは」

「もうとっくに混乱の極みだが⁉」

「まぁ。手遅れみたいよ、ローラン」



 ヴィクトリーヌが従者の名前を口にしたので、王太子はまじまじと彼の顔を見た。

 艶のある黒髪を撫でつけ、地味ながら仕立てのよい黒の衣装をきっちりと着た男は、ひどく冷たい目をしている。

 鋭利な刃物のような印象だが、整った容貌だ。



「お前は……写真でふざけた手持ち看板を掲げていた者だな」

「はい。ヴィクトリーヌお嬢様の専属侍従、ローランと申します」

「私の良き相棒ですわ」

「相棒? まさか、私の婚約者でありながら愛人がいたのか! なんと汚らわしいっ」



 反射のようにそう糾弾した王太子に、ヴィクトリーヌは目をぱちくりさせた。



「ローラン。愛人ですって」

「お嬢様がお望みでしたら、そのように振舞うのもやぶさかではございませんが」



 胸に手を当ててそう答えたローランに、ヴィクトリーヌは扇を口に当ててしばし考える。



「そうねぇ。今は忙しいから、必要ないわ」

「それは残念。ご入用の際はぜひ」



 肩をすくめるヴィクトリーヌに、微かに微笑むローラン。

 いい雰囲気が流れかけたが、生来空気を読めない男がそれを粉々にぶち壊す。



「おい、私を無視するな!」

「殿下……愛人云々は特大ブーメランですが、お気づきかしら?」

「アリスが私の愛人だとでも言いたいのか⁉ そんなわけがないだろう!」



 コクコクコクと高速で頷くカッセル男爵令嬢。

 直前まで空気と一体化しようとするように気配を消していたが、意思表示する方向にシフトチェンジしたらしい。



「アリスは愛人ではなく、真に愛する女性、つまり恋人だ!」



 淀みない王太子の宣言に、今度は真っ青にした顔でブンブンブンと高速で首を横に振る男爵令嬢。

 このままだと首がぼろんともげてしまいそうなほど必死だ。

 可哀想になって、ヴィクトリーヌは彼女の話題を逸らそうと試みる。



「……その理屈ですと、私がローランを真に愛する恋人だと言えば許されるのですか?」

「ふざけたことを。私とお前ではまったく違う。王太子妃となる者は当然、身も心も純潔でなければならない。お前はそのどちらをとっても、私の妃になる資格などないということだ!」



 まるで裁判官が罪状を言い渡すかのように、己の正しさを疑わず前面に押し出した王太子の発言に、ヴィクトリーヌは深々とため息をついた。



「そういうところですわ、殿下」

「……何?」



 眉を寄せる王太子に、ヴィクトリーヌは広間を飾るステンドグラスで描かれた聖母を模倣するように微笑む。



「殿下。殿下はこの国の未来を担う尊き方です。大変見目麗しく、文武両道。すべてを兼ね備えた素晴らしき国の宝です」

「い、いきなり何だ。おだてたところで婚約破棄を撤回したりは――」

「で・す・が。私、以前から殿下とは少々相性がよろしくないかもしれないなと、うっすら、いえ、そこそこ……ひしひしと感じておりましたの」

「どんどんひどくなっているが……?」

「何と言いますか、価値観の相違? 殿下の言動に度々、ないわ~と思うことがありまして。きっと私よりもっと他に殿下に合う方がいらっしゃるはずだと最近は確信に近いものを感じておりました」



 突然の婚約者の告白に、王太子は少なくないショックを受け表情をこわばらせた。



「ないわ……。ちなみに、私のどんな言動にそう思ったのだ」

「数えきれませんが、そうですわねぇ。先ほどアリス様をお気に入りだと言ったり、王太子妃は純潔云々もそうですが、他にも女は男より一歩下がり、目立たず騒がず常に男を立てるべきだ、とか」

「当然だろう。夫は妻を守っているのだ。守られている妻は、夫に尽くすべきだ」

「そうそう。そういうところです」

「何がいけない⁉」



 むしろなぜわからないのか、と言いたげな顔をして、ヴィクトリーヌは目を伏せ肩を落とした。

 さながら出来の悪い息子に頭を痛める母親のような姿に、貴族たちの同情の目が向けられる。



「女が男の所有物かアクセサリーであるかのように扱うところです。男尊女卑の意識が前に出すぎでいらっしゃる。夫婦はどちらが上でも下でもありませんわ。家族ですもの。夫が妻を守るなら、妻も夫を守れば良いのです。妻が尽くすのなら夫も尽くせば良いのです。子どもが生まれれば手を取り合って慈しんでゆく。それが夫婦というもでは?」

「しかし夫には夫の、妻には妻の役割が……」

「あら。私は夫を守りますし尽くしますし、なんなら養いもしましてよ? 令和のいま、女は家に、女は後ろに、という考えは時代遅れも甚だしいですわ」



 聞きなれない言葉に、王太子が「れいわ?」と聞き返す。



「おっと失礼いたしました。多様性だコンプラだと、主義・主張の乱立で混沌とした令和から来たもので。まあつまり、誠に申し上げにくいのですが、私たちが結婚しても十中八九上手くいかないということですわ」

「申し上げにくいどころか清々しく言い切ったな」

「ですが殿下は私の話――人の話を聞かないところがございますので」

「言い直す必要はあったか?」



 婚約者の遠慮も容赦もない発言の数々に、王太子の怒りは段々と勢いがなくなり、悲しい気持ちになってきた。

 それが心当たりがあるせいなのか、ヴィクトリーヌに言われているからなのか、彼自身も判断がつかずそれがまた情けなく悲しさを助長させる。



「なので国王陛下に直談判いたしました。婚約を破棄させてほしい、と」

「そんな話、私は聞いていないぞ! 一体いつ⁉」



 王太子は父王を振り返るが、先ほどまで天井を仰いでいた国王は、いまは地面と顔面を平行にするのに夢中で息子の視線にはまったく気づく様子はない。



「学園に入りしばらくして、殿下がアリス様を追いかけ回し始めたあたりですわ」

「お、追いかけ回してなどいない!」

「まあ。自覚がおありでなかった? ストーカーとは万国共通どころか万世界共通でそういう生き物なのでしょうね」



 困ったさんね、というようなニュアンスで言われ、王太子は怒りやら恥ずかしさやら情けなさやら、様々な感情がないまぜになり震えながらヴィクトリーヌを見た。



「またお前はわけのわからないことを……!」

「殿下がストーキングを始める前までは、私も“合わないなぁ”という気持ちを抱きながらも、婚約破棄は考えておりませんでしたのよ? 幼馴染ですし、気は進まないながらも殿下をお支えするつもりでおりました」

「気は進まないながらも……」

「ですが殿下が真実の愛を見つけられたというのなら話は別。ラッキ……いえ、この機を逃してなるものかということで、殿下の婚約者という座をアリス様に押し付……お譲りしなければと!」



 こぶしを握り力説するヴィクトリーヌに、周囲が一瞬シンとなる。

 貴族たちは、今度は王太子に若干同情する視線を向けながらひそひそ囁いた。



「ちょいちょい本音が漏れているな……」

「なんだか王太子殿下がかわいそうになってきたわ」



 王太子はというと、自身が発するべき言葉を見失っていた。

 目の前の婚約者相手に何を言えばいいのか、もうさっぱりわからない。



「そうご提案したのですが、国王陛下はありえない、と。今は火遊びに夢中になっているだけで、殿下は自分の立場をわきまえているはずだから大丈夫だとおっしゃるのです」

「ち、父上……」

「王妃陛下は私を心配してくださいましたが、次の王妃は私しかありえないし、それは殿下もよくわかっているはずだと」

「母上……」



 両親を振り返り、王太子がしょぼくれた声で呼びかけるが、両親は両親でそれどころではない様子。

 強く打ちひしがれている両親に、王太子は決して彼らは味方になってはくれないことを悟り、すっかり意気消沈したように肩を落とした。



「親の欲目というやつですね。仕方ありません。ですから私、更にご提案しましたの。殿下ご自身が婚約破棄を口にされたなら、その時はすみやかにそれをお認めいただきたいと!」

「婚約、破棄……」

「そんなことにはなりえない、と笑いながら両陛下がご快諾くださいましたので、私はそこから“100日後に婚約破棄される悪役令嬢”という企画書を提出し、プレゼンにプレゼンを重ね、様々なスタッフ――人材の力を借りまして見事! 今回の結末を迎えることが叶ったのです!」



 両拳を天に突き上げたヴィクトリーヌに、ローランが涼しい顔でパチパチパチと拍手する。

 静まり返ったホールに、その拍手の音はしっかりと響き渡った。



「観客はこちらにお集りの紳士淑女の皆様。演者は殿下と私。友情出演にアリス様。スタッフ、協力者一覧は後程提出いたしますわね」



 それを提出される王太子の心情を慮り、いたわしげにため息をつく貴族が複数。

 しかし一部王太子の自業自得でもあるので、完全に味方につくわけにもいかず、貴族たちはひたすら観客としての立ち位置に徹するしかない。



「つまり……ヴィヴィは本当に、アリスに危害を加えていないのか?」



 懐かしい愛称で呼ばれ、ヴィクトリーヌは少し困った顔をしながら「先ほどからそう申し上げているではございませんか」と笑う。



「アリス……本当なのか?」



 やっと意思確認してくれたことに、アリス・カッセル男爵令嬢は安心するかと思いきや荒々しく地団太を踏むようにして王太子に詰め寄った。



「本当です本当です! というか、私は何度もそう言いました! ヴィクトリーヌ様には何もされていないと!」

「あれは、優しい君がヴィヴィをかばっているのだと……」

「全然違いますー! なんて都合の良い勘違い! ヴィクトリーヌ様のおっしゃる通り、殿下は本当に人の話を聞かないところがあると思います!」

「そんな……」



 まるで結婚直前になって恋人に土壇場で裏切られたような顔で、王太子は膝から頽れる。

 そんな王太子にヴィクトリーヌは心底不思議そうに彼の顔をのぞきこんだ。



「なぜ落ち込まれるのです? 私、殿下とは合わないなぁと常々思っておりましたが、殿下が真に愛する人と結ばれて幸せになってほしいと願うくらいには、幼なじみであるあなたを想っておりますのよ?」

「ヴィヴィ……」



 存外優しい声と言葉に、王太子がすがるようにヴィクトリーヌを見上げる。

 しかしヴィクトリーヌは聖母のような微笑を浮かべながら、



「幸せになってくださいませ、殿下」



 きっぱりと婚約者を切り捨てた。

 見事に捨てられた王太子は床に両手をつき、わかりやすくうなだれる。

「さすがですお嬢様」とローランに賛美され、ヴィクトリーヌは何のことかわからずただ首を傾げた。

 ヴィクトリーヌにしてみれば、今回の企画は自分の夢の為と、王太子への純粋な善意がちょっぴりで実行したことであり、彼を傷つけたとは微塵も思っていないのだ。


 王太子が再起不能になったところで、ようやく機能停止していたこの国のトップが再起動した。



「……こうなってしまっては致し方ない。王太子と、ヴィクトリーヌの婚約破棄を認める」

「父上⁉」



 まるで大きな戦争を終えた後のように憔悴した顔で、しかしはっきりと国王は宣言した。

 ハッと振り返った王太子の後ろでは、ヴィクトリーヌとローランがガッツポーズをしているのを、数名の貴族が目撃し震えた。



「まさか息子がこんなに愚かだったとは……。ヴィクトリーヌ、つらい思いをさせ申し訳ない。そなたにはきちんとした縁談を私が改めて――」

「あら、国王陛下。私、つらい思いはいたしておりませんので、縁談についてはお気持ちだけ受け取らせていただきますわ」



 国王の言葉を不敬にも遮り、ヴィクトリーヌは先手を打つ。

 せっかく成功した企画の意味を、終わってから台無しにされては困る。



「しかし、王太子と破談になってしまえば、恐らくあまり良縁は……」

「そうですよ、ヴィクトリーヌ。あなたのことは娘同然に思っているのです。どうか幸せな結婚をしてほしいわ」



 身を乗り出して夫に同意した王妃に、ヴィクトリーヌはにっこりと、心から喜んでいるように笑って見せた。



「おふたりの気持ちは大変光栄に思います。ですが、結婚だけが女の幸せではございません」

「何を言う! 良い結婚こそが女の最高の幸せだろう!」

「殿下……本当にあなたは、ことごとくコンプライアンスを踏み抜いていかれますのね」



 どこまでも困った人、とばかりにヴィクトリーヌは深々とため息をつく。

 王太子の横でアリスがドン引きした顔をしていることに気づきもしないとは。

 これはもしかすると、ふたりが結婚しても上手くいかないかもしれないなぁと、さすがにヴィクトリーヌも感じるところがあった。

 しかし既に婚約破棄が成立した以上、ヴィクトリーヌが考えても仕方ないことである。



「正直に言いますと、結婚している暇がないのです」

「ひ、暇だと?」

「ええ。私には夢がございます。開発したこの魔導カメラをさらに改良し、静止画ではなく動画を撮影する魔導具を完成させたいのです!」



 ヴィクトリーヌが野望を語り始めると、またローランがどこからともなく新型魔導カメラのプレゼン資料が張られた巨大看板を取り出し掲げて見せる。

 貴族たちはメディア商会の未来の商品に大いに食いつき、皆資料を見ようと巨大看板前に押し寄せた。



「これがメディア商会の新商品となるのか!」

「ヴィクトリーヌ様がお持ちのものより、更に小型ではなくて?」



 金額は、予約は可能か、と大騒ぎする貴族たちに構わず、ヴィクトリーヌは野望語りを続ける。



「さらにはその魔導カメラで、連続ドラマを撮影したい! 長時間録画を可能にしたら、長編映画も撮影したい! 前世バラエティ班でしたが、本当はドラマディレクターや映画監督になりたかったのです! そうして映像作品の素晴らしさを世に知らしめたい! そして魔導カメラを普及させ、映像作品を増やしたい! 私、撮影も好きですが、観賞も大好物なのです!」

「私の耳はおかしくなったのか? お前の言っている意味が何ひとつ理解できない……」



 頭を抱え、王太子は首を横に振る。

 悪い夢を見ているようだとうなだれたが、ヴィクトリーヌに「殿下にも良い夢を見てほしい」などと頓珍漢なことを言われ、更に頭を抱えた。


 婚約者は、こんなに意味不明な言葉を発するひとだっただろうか?

 明るくはあったが、このような勢いに任せて喋るようなひとではなかったはずだ。

 もっと朗らかであり穏やかで、慎み深いところもあり、こちらの意を組んでくれる察しの良さ、立ち回りの良さからもとても賢いひとだったはずだ。

 いつから変わってしまったのだろう?

 本当にこのひとは、自分の幼なじみだろうか?

 自分の知る、婚約者ヴィクトリーヌ・ラクロワだろうか?


 変わってしまったのは――。



「夢を、結婚よりも大きな幸せをつかむために、私は自由でいたいのです! まあ、殿下にご理解いただかなくても、もう婚約破棄は決定事項ですので問題は何もありませんけれど」



 バサッと扇を開きドヤ顔で胸を張ったヴィクトリーヌを、王太子は暗くよどんだ目でじっとりと見た。



「……いいや、この婚約破棄は無効だ」

「まあ。何をおっしゃいますの?」

「お前は……私利私欲のために、王族である私を騙したのだろう。そんな卑怯な行いが正当化されるとでも思うのか」



 妙に冷静な口調で指摘され、ヴィクトリーヌはうろんげに王太子を見返した。



「殿下に言われると釈然としないものがありますが、確かにその通りです。しかし殿下以外には周知の事実でしたし、両陛下の許可もありますので、罪に問われることはございません。それに殿下は私ではなく、アリス様を愛しておられるのでしょう? 私は殿下の望まれる結末に導いて差し上げたのですよ」

「こんな結末は望んでいない! それに王族は、側室を持つことが許されている」

「あなたの父君も祖父君も、側室は持たれずただおひとりを妃として迎えられていますが?」

「それは……」

「近頃は帝国ですら後宮を閉鎖し、皇妃を持たない流れになっておりますのに。一夫多妻の文化が残る国もあるにはありますがごく少数ですし、まず令和的になしです」



 ぼやくようなヴィクトリーヌの口調に、王太子は眉を寄せる。

 また聞きなれない言葉が彼女の口から出てきた。



「その令和というのは何なのだ……新興宗教か?」



 もしや、その令和なる新興宗教のせいでヴィクトリーヌが変わってしまったのではないか。

 そんなことを考えた王太子に、ヴィクトリーヌは少し考えてから「どちらかというと、概念でしょうか」と微妙な顔で答える。



「性や人種、異なる文化に対する差別をなくし、多様性を尊重する。稀に行き過ぎた主張が善悪を叫びますが、基本的には人は人。自分は自分。それ以上でも以下でもない。無関心と紙一重の個人主義社会を表向き理想としている時代の代名詞でもありますわね」

「なるほど……さっぱりわからない」

「例えばですが、女が騎士になってもいいですし、男が仕事をしてもしなくてもいい。結婚するか、子どもを作るかも個人の自由。男が女になっても、女が男になっても、どちらであってもなくてもいい。同性同士で愛し合っても、自分だけを愛しても、誰も愛さなくてもいい。統制や束縛、常識の押し付けを悪とする、他人に支配されない世界。それが令和です!」



 まるでプロパガンダのような熱のこもったヴィクトリーヌの演説に、ちらほらと拍手が鳴る。

 その拍手は徐々に広がり、やがて波紋が渦に変化するような勢いでホールを包み込んだ。

 これは新興宗教だろう、と王太子は遠い目になりながら確信した。



「しかし、その個人主義を否定した途端、個人は集団となって燃え上がるものでして。私の夢を叶える為に炎上は避けたいところ。炎上しては世に出せるものも出せなくなりますからね。ですから私は令和から来た悪役令嬢として、コンプライアンスを遵守するのです!」



 婚約者は新興宗教の教祖だった。

 王太子はなぜこのような状況になっているのか、自分の本来の目的は何だったのか、もうすっかりわからなくなっていた。

 いますぐ何もかもを忘れてこの場から消えてしまいたい。



「そういう意味でも、炎上芸人の殿下とは結婚できませんので。ローラン」

「はい。お嬢様」



 呼ばれた侍従が流れるようにペンを王太子に持たせた。

 意識を遠くにやっていた王太子が我に返ったのは、さらさらと許可証にサインさせられた後だった。



「……はっ! 何をする⁉」

「はい、これで殿下と私の婚約は無事破棄されました! なんと目出度き日でございましょう!」

「まるで目出度さを感じないが⁉」

「さ、皆様拍手~!」



 教祖の言葉につられ、貴族たちが「おめでとうございます!」「記念日ですね!」と笑顔で拍手する。

 王家に仕える貴族たちが宗教に染まってしまったと、王太子は愕然とする。



「やめろ! 拍手をするな!」

「殿下もおめでとうございます!」

「や、やめろ……!」



 頭がおかしくなりそうだ! と膝をついて叫ぶ王太子を貴族たちが囲み、拍手の雨を降らせた。

 国王夫妻は精神汚染をかけられる息子の姿にただ震えている。



「あ、あの。ヴィクトリーヌ様」



 ヴィクトリーヌが満足げにひとり頷いていると、おずおずと声をかけてくる者がいた。

 王太子に真実の愛認定されていた、アリス・カッセル男爵令嬢だ。



「どうしたのかしら、アリス様?」

「その……令和とは、女性が同じ女性を好きになっても許されるのですか?」

「まぁ。もちろんですわ!」



 アリスの問いかけの内容にヴィクトリーヌは大きな瞳をパチクリとさせたが、すぐにパッと輝く笑顔を見せた。



「許す許さないという問題ではありません。令和の時代において、すべてはあなたの自由なのですもの。それを責める者がいたら、コンプラ違反で炎上させてやりましてよ!」

「ヴィクトリーヌ様……」



 ウィンクするヴィクトリーヌに、アリスは目をうるうるとさせた。白い頬が紅潮し、細い体が小刻み震え始める。

 それは感動からか、安堵からか、はたまた――。



「さあ、無事番組終了を迎えたことだし、早速魔導カメラの改良に取り掛かるわよ、ローラン」



 ようやく肩の荷が下りた、とばかりにすっきりした顔をするヴィクトリーヌ。

 そんな主に、ローランは微かに口元に微笑を浮かべ、丁寧に礼をとる。



「承知しました、お嬢様」

「魔導大国のヤニクにまず向かいましょうか。研究者の方々から助言をいただきたいわ」

「御意」



 意気揚々と歩き出そうとしたヴィクトリーヌに、夢見心地といった表情をしていたアリスが慌てた。

 そして「ヴィクトリーヌ様!」と切実な声で呼び止める。



「あ、あの! 私もその……令和のス、スタッフ? として雇っていただけませんか? どうか一緒に連れて行ってくださいませ!」

「……はっ⁉ アリス⁉ 何を言い出すんだ⁉」



 精神汚染からかろうじて我に返った王太子が、貴族たちの包囲網から抜け出しアリスの腕をつかむ。

 しかしアリスはその手を申し訳なさそうに外した。



「ごめんなさい、王太子殿下。私、王太子妃にはなれません」

「な、なぜだアリス。身分の差を気にしているなら、高位貴族の養女にしてやるし、どうとでもなる。気にしなくていい。ただ君は俺に従ってくれれば――」

「そもそも、真実の愛ってなんですか?」



 雨の日になぜか道端に落ちている、ぐちゃぐちゃに濡れた汚い靴下を見るような目を唐突に恋人(のはずの女性)に向けられ、王太子は硬直する。



「……え?」

「私たち、一体いつ恋人関係になったのでしょう? 私にはまったく覚えがありません」

「何を言ってるんだアリス……私たちはずっと一緒にいただろう?」

「はい。突然王太子殿下に声をかけられるようになったかと思えば、ゆく先々で遭遇するので言いようのない恐怖を感じ、身分の差による問題以上に、何をされるのかわからない恐怖で今日までどうすることも出来ずにおりました」



 まさか恋人にされていたなんて、と信じられない様子でアリスはさりげなく王太子から距離をとる。

 その恋人(だと思っていた女性)の態度は、すでにライフゲージが真っ赤だった王太子にとどめを刺すのに十分なものだった。


 灰のように真っ白になった王太子が、再びガクリと膝をつく。



「やっぱり、古今東西ストーカーさんは思い込みが激しいものなのねぇ」



 困った人だわ、と幼馴染を憐れむヴィクトリーヌだが、なぐさめてやろうとは思わない。

 甘やかしてばかりいたからこうなったのだろう。

 辛い経験を乗り越えられたら、その時は立派な人間に……なれるかはわからないが、時代錯誤な思想のストーカーからは脱却できるかもしれない。

 周囲がすべきは手を差し伸べるよりも、見守り待つことだろう。子育てと一緒だ。


 ヴィクトリーヌは母になった気持ちでうんうんと頷き灰色の王太子に微笑んだ。



「おい。婚約破棄までしたのにフラれたぞ」

「真実の愛とは(笑)」

「さすがに殿下がかわいそうで涙が……」



 大仕事を終えたヴィクトリーヌの気が緩んだことで、貴族たちの雰囲気もつられたように弛緩していた。

 これは物語的に言うと、大団円のエピローグに当たる状況だとピンときたヴィクトリーヌは、自ら始めた企画を自ら締めくくる為に「さて」と扇を閉じた。



「先ほどの雇用のお話ですが、アリス様。構いませんわよ!」

「ほ、本当ですか⁉」

「ええ。幸いこの世界での私の立場は公爵令嬢。資金は潤沢にありますし、スタッフは常に足りないくらいですもの。むしろ助かりますわ! でも、本当によろしいの?」

「はい! 私も真実の愛を見つけましたので!」



 心から幸せそうなアリスの笑顔を茫然と見上げるだけで、王太子は彼女を引き留めることも、その名を呼ぶことすらもはや出来なかった。

 この悪夢はいつまで続くのだろうと、現実逃避することでしか己を保っていられないのだ。

 保ったところで、悪夢のような現実から逃れることはできないのだが。

 いっそ精神汚染されてしまったほうが王太子は幸せかもしれない。

 同じく、震えながら玉座から見ていることしか出来なかった国王夫妻は、憐れな息子の姿を見て思った。


 用済みとなった王太子のことなど気にも留めず、悪夢の親玉であるヴィクトリーヌ・ラクロワ公爵令嬢はキラキラと目を輝かせて手を差し伸べた。



「問題がないのなら結構。では、参りましょうか」



 令和から来た悪役令嬢の瞳には、もう明るい未来しか見えていない。

 ここから先はウェルビーイングを追求するのみ。



「ただし、コンプラ研修は必須ですので、そのおつもりで!」






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― 新着の感想 ―
[良い点] すごく笑えました!
[一言] さすが令和最新版…… 面構えが違うw
[良い点] コンプラも異世界ではヴィクトリーヌが作った謎の新語とか造語扱いだろうし正確に現実と同じ意味を持ってなくても良いと思う。 むしろコンプラも令和も新しい価値観を生み出す源となる魔法の言葉的な何…
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