Ep 27:存在の意味③
「ユリオン様――今まで長い間お世話になりました」
「どうして……そんなことを言うんだ?」
まるで別れのように……ユリオンはそう感じずにはいられなかった。彼と視線を交わすエレノアの瞳には、苦悩と哀しみが満ちていた。
しばらくの沈黙の後、まるで覚悟を決めたかのように、エレノアは再び口を開いた。
「この身は、元々リゼリア様の代わりとして、ユリオン様の側にいることが使命でした。それがこの身の存在理由でもありました。けれど、今……リゼリア様、リゼが戻って来たのです。だからこの身の使命は終わったのです――」
「つまり君は、自分がもう俺の側にいる理由を失ったと思っているのか?」
「はい……」
エレノアの声はとても弱々しく、今にも消え入りそうだった。それ以上見ていられなくなったユリオンは、彼女を引き寄せ、全身の力を込めて彼女を抱きしめた。
「ユリ…オン様……?」
困惑した声で銀髪の青年の名前を呼ぶ彼女は、突然の抱擁に驚き、身体が一瞬硬直した。
「リゼが戻ったからって、俺が君を必要としなくなるとでも思ったのか……?そんなことは全くあり得ない。どうしてそう考えるんだ?」
「な、なぜなら!ユリオン様の側の場所は、いつもリゼのものでした。この身は彼女の代わりでしかありません……最初からこの身はユリオン様には相応しくないのです……ユリオン様と彼女はとてもお似合いです。この身が入り込む余地はありません。だから、これでいいのです……この身がユリオン様の側を去れば――」
「それを決めたのは誰だ?」
「えっ……?」
「君が俺に相応しくないと決めたのは誰だ?君が俺の側に立つ資格がないと決めたのは誰だ?君がもう存在する価値がないと決めたのは誰だ?」
「答えてくれ、エレノア」滅多に見せない強い態度のユリオンに、エレノアは震えた。しかしなぜか、彼の熱い視線に見つめられると、彼女の心臓は早鐘を打ち始めた。
まるでユリオンの気迫に押されるかのように、エレノアは彼の問いに従順に考えた。
「それは……それはユリオン様です」
しばらくの沈黙の後、エレノアはようやく口から言葉を絞り出し、その答えにユリオンは満足げに微笑んだ。
「そうだ、それを決めるのは俺だ」
彼は少しだけ抱きしめる力を緩め、エレノアと視線を交わした。
「エレノア。俺は君をリゼの代わりだなんて思ったことは一度もない」
「過去も今も、君が俺のために尽くしてくれたすべてを、俺はちゃんと見てきた」
「俺にとって君は、ずっとかけがえのない存在なんだ」
「ユリオン様……」
ユリオンの温もりと真摯な告白を感じ、エレノアは頬を赤らめながら彼の名前を呟いた。
「君を創り出したのがリゼだというのは確かにそうだ……でも、それがどうしたというんだ?君は同時に俺の宝物でもある――俺は君を独り占めしたいし、リゼに君を返したくないくらいだ」
「う……!」
恥ずかしさに耐えきれず、エレノアは顔をユリオンの胸に深く埋めた。髪の間から見える耳は真っ赤に染まり、彼の胸に押し付けられた頭が擦り寄るように動いて、まるで今にも蒸気を立てそうだった。
喜びと恥ずかしさが彼女の心の中で交錯し、平常心を保てず、彼女を抱きしめる銀髪の青年と視線を合わせた。
「今度は……もう二度とそんなことを言うな。エレノア、君は自分を過小評価しすぎだ。忘れないでくれ、俺もリゼも君を大切に思っていて、君の存在を認めている」
「は、はい……」
「君は俺たちを頼ってもいいし、甘えてもいい。気にするな、俺たちが君を嫌うわけがないだろう?」
「あ……うん……」
耳元に響くユリオンの優しい低音に、エレノアは腰の力が抜けていくのを感じ、徐々に力が入らなくなった。
「たとえいつか、君がやりたいことを見つけても、俺たちは君を支えるよ」
(今はこれでいい……まだ彼女を独立させる必要はない)
ユリオンは優しい表情で、エレノアの背中を軽く叩いて、彼の胸の中で泣いている少女をなだめた。
この会話を通じて、ユリオンはエレノアの心の一部を垣間見た。彼女は完全に彼に依存しており、無私の奉仕を喜んでいる。だから、もしユリオンを失い、仕えるべき『主人』を失ったなら、彼女の存在は維持できなくなる。簡単に言えば、生きる意欲を失ってしまうのだ。
NPCたちは多かれ少なかれ、このような傾向を持っており、エレノアの状況は特別なものではない。
もし完全に従順な俺を求めるだけなら、この状況は理想的かもしれない。しかし、エレノアや他のNPCたちを自分の子供のように思っているユリオンにとって、これは頭痛の種だった。
NPCたちは決して自分のために行動せず、すべてを至高の君臨者のために捧げる。君臨者の命令であれば、たとえ命を捧げることになっても、NPCたちはそれを惜しまない。
このような極端な考え方に、ユリオンは喜ぶことができなかった。
彼はNPCたちに奉仕されることを嫌うわけではないが、ユリオンはそれがNPCたち(子供たち)の全てになってはいけないと考えていた。
何がしたいのか?何が好きなのか?何が嫌いなのか?何に興味があるのか?どんな人になりたいのか?
ユリオンは心の中で決意した。エレノアたちがこれらのことを理解するまで、彼女たちの創造者であり、敬愛される主人として、自分が導きの責任を負い、彼女たちの頼りになることを。
その後、ユリオンは泣き止んだエレノアを抱きしめ、静かな夜を過ごした。
事前に<伝訊魔法>でシーエラに連絡していたため、部屋には二人きりだった。
心のわだかまりが解けたのか、エレノアは自然にユリオンに寄り添い、ユリオンがいない間に経験した様々なことを話した。その中には、リゼリアに関することも含まれていた。
ただの日常的な会話なのに、二人の心は言葉にできない充実感で満たされていた。
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