Ep 22:このゴブリンはちょっと強い?③
彼らがさらに内政に関する話を進めようとした時、黒髪の美しい少女が入口から部屋の中央の舞台へと歩いてきた。その少女はシーラーの従者、イリスで、彼女の後ろには数頭の魔物が従っていた。
魔物の種類もさまざまで、人型、昆虫型、獣型、そして四足の龍型の巨獣が混ざっていた。魔物たちの隊列は非常に整然としており、野外では決して見られない光景であったが、これこそが魔物たちが『制御』されている証拠であった。
「え……あれは何だ?」
観客席にいたユリオンは、舞台下に並んでいる魔物の中に一頭の異常な人型魔物が混じっていることに気づいた。
それは体格が成人男性とほぼ同じゴブリンで、外見上は周囲の同種のゴブリンと何ら変わりなかった。注目したのは、魔アイテムを使っているユリオンがそのレベルをうまく読み取れず、代わりに『???』という明らかに干渉された結果が表示されたからだった。
「美羽、あれは隠匿スキルを使う亜種ゴブリンなのか?」
「申し訳ありません、主君。妾身の見立てでは、おそらくそのようなことはござらぬかと存じます。今日の実験に投入された魔物は、すでにレベル確認を済ませており、識別できぬ個体は存在しないはずにございます」
美羽の明確な答えを受け、ユリオンの心中の疑問は一層深まった。
(実験を中止すべきか……いや、万が一相手に察知されて、我々がその特異性を見抜いたことが分かれば、ただ刺激するだけだ。現段階で何の被害も出ていないのだから、ここは静観するしかない……)
ユリオンの指示のもと、実験は通常通り進行した。
前半の『改良魔物』対『原種魔物』の部分は順調に進み、正面からの交戦では全体的に改良魔物が優勢で、個々の魔物のみが原種に劣っていた。
テスト結果を詳細に記録し、実験は後半の『戦闘員』対『改良魔物』へと順調に進んだ。
その時、舞台のそばに控えていたイリスが突然観客席のユリオンに向かって歩き出した。
「イリス、何用にて主君を訪ねられたのか?」
ユリオンが口を開く前に、美羽がイリスの目的を問いただした。その言葉には棘があり、イリスの接近を快く思っていないようだった。
「え……そ、その、ユリオン様。私……次の対戦実験に、ぜひご参加いただきたく……お願いできないでしょうか――」
「従者の身にて、主君に命じるとは如何なことぞ?汝……己の立場を理解せぬや?」
イリスの意図を大まかに理解した後、美羽は不満げに眉をひそめた。彼女の身から溢れ出す怒りが、イリスの額に冷汗を浮かばせた。
地位上では二人ともユリオンの側近だが、実力的には従者であるイリスはNPCの美羽には遠く及ばなかった。さらに、イリスはユリオンが創造した存在ではないため、美羽は彼女が自分の名を直接呼ぶことを許さなかった。
「ちょ、ちょっと待ってください、美羽様!私にはそのような意図は決してありません……」
「それならば、職務を怠りこのような無礼な行動を取った理由を説明せよ」
美羽の厳しい問いに、イリスの顔から徐々に血の気が引いていった。
「待って、美羽――」
この時、イリスを助け舟を出したのは、美羽の隣に座っているユリオンだった。
「しかし、主君……」
「大丈夫だ。ちょうど彼女に確認したいことがある」
微笑みながら美羽を宥めたユリオンは、不安げに座っているイリスに顔を向けると、同時にその笑みを引っ込めた。
「イリス、次の質問には正直に答えてもらう。もし一言でも嘘をつけば、ここで終わりだ。それに、君の上司である緋月にも責任を問うことになる。だから、よく考えて答えてくれ」
「承知しました……」
「君が私に直接出陣を求めたのは、あの変なゴブリンのせいか?」
「――!?」
ユリオンは視線を送り、レベルを識別できないあのゴブリンを示す。偶然にも、そのゴブリンも彼らの動向を窺っていた。
イリスの驚愕の表情から、ユリオンは自分の質問が的を射ていることを確信した。
「何を躊躇うのか?さっさと主君の問いに答えよ」
「あ…はい、ユリオン様、おっしゃる通りです」
美羽の促しに、イリスは慌てて答えた。
「それでは、もし私が出陣しなかったら困るか?」
「はい……困ります」
「最後の質問だ。誰かに『命令』されて私を誘ったのか、間違いないか?」
「……はい、その通りです」
ここで美羽の怒りが完全に爆発した。
「何たる無礼者よ!汝、誰に仕えているのかを忘れたのか?他人の指示に従い主君を誘い出すとは、許し難き罪なり!」
「美羽、落ち着いて――」
ユリオンは急いで手を挙げ、激怒する美羽を制止した。もし介入しなければ、美羽は既にイリスに攻撃魔法を放っていただろう。
「されど、主君……彼女は名目上、貴殿の側近にございますが、忠義を尽くさず隠し事をするは、罰せられるべき事にございます」
「はあ……美羽、よく考えてみてくれ。俺以外に誰が彼女に命令できる?誰が彼女に命を懸けてこんなことをさせられる?」
「――!?」
頭に浮かぶ名前の中から、美羽は即座に二人を選び出した。緋月とシーラーだ。緋月の性格を考えると、彼女がこんな小賢しいことをするとは思えない。したがって、シーラーの疑いが強い。
美羽が伝訊魔法で自分の推測をユリオンに伝えると、その考えが主君と一致していることに気付いた。
【主君、妾の考えでは、これはシーラー様の仕業かと存じます……如何に対処されるおつもりでございますか?】
【彼の意図に従う。恐らく特別な魔物を用意して、俺を困らせるつもりだ。ならば、俺は実戦の心構えで臨む】
つまり、ユリオンは最初から全力を尽くすつもりだ。
【美羽、お願いがある】
【ご命令を】
【あの人に連絡してくれ。良い改良魔物があるから、手合わせしてもらえるようにと】
【御心のままに】
名前は出されなかったが、美羽はすでにユリオンが誰を指しているか理解していた。
手元の情報だけでは、あの特別なゴブリンがシーラー本人であるかどうかは断定できないが、それがシーラーと関係があることは間違いない。
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