Ep 18:二人で過ごした午後⑥
夜の帳が下りる――
リゼリアを部屋に送り届けた後、ユリオンは会長室に向かった。
滞在中に溜まった様々な書類を処理し始めたが、<諸国連盟>内の戦況により、彼の仕事量もかなり増えていた。
<思考加速>などのスキルで効率を上げることはできるが、各部署の責任者に指示を出し、そのフィードバックを待つ……こういった業務はどうしても短時間では終わらない。状況は常に変化しており、リーダーとしてのユリオンができることは、ただ状況を把握し、適切な対策を見つけることだけだった。
そのため、彼は冒険者の仕事を一時中断し、しばらくの間<方舟要塞>に留まって公務に専念することにした。
「ユリオン会長、もう遅いだよ……また徹夜するつもりか?」
「うっ……ああ、もうこんな時間か。時が経つのは早いな」
共に仕事をしていた千桜に指摘されるまで、ユリオンは時間が経っていることに気づかなかった。
部屋に掛かっている掛け時計が示す時間は午後11時だった。現在<方舟要塞>で使用されている時間システムは地球と同じく24時間制を採用している。異世界がどのように運行しているかは不明だが、それはどうでもよいことだった。
「まだ11時か、それほど遅くはないな。もう少し書類を片付けようと思っていたんだが――」
「今日の分はもう終わっだでしょう?私が手配したんから。それに、仕事は終わりがないんだ。適度な休息も必要だ。あまりにも文書業務を抱え込みすぎると、ギルドの長期的な発展に良くないよ」
「俺だってそうしたくないさ……でも人手が足りないから仕方がない。それに、たった数日離れただけでこんなに書類が溜まるとは思わなかった……これからは冒険者の仕事に戻っても、毎日一定量を処理しないといけないな」
ゲームの終盤、たった3人だった<遠航の信標>が異世界に転移した後、NPCたちが自我を持つようになり、人数が一気に千人以上に増えた。それに伴い、山積みの書類仕事も増えた。
問題は、ユリオンの手下のNPCの大半が戦闘や生産に特化した人材であることだった。つまり、文書業務に適した人材が圧倒的に不足していた……
「文書業務の人材は育成を試みているけど、効果が出るには時間がかかる。そうだ、他の人に借りてみるのはどうでしょう?」
「何を借りるんだ?」
「もちろん、人材だよ。アシェリとランスの手下には、事務処理が得意な部下がいるはずだ。試してみる価値はあると思う」
千桜の提案はユリオンにとって一つのヒントとなったが、すぐに新たな問題に気づいた。
「アシェリはともかく。ランス……あいつが本当に人手を貸してくれるか?あいつは自分が作ったNPCたちを後宮や愛妾のように扱っているんだぞ。そんな簡単に頷くとは思えない」
「一日中何もしない、侍女といちゃつくだけで会議にも出席しない人間が、君に反発する勇気があると思う?」
「……厳しいな、でも間違ってはいない」
話題の中心人物であるXランス王Xもまた、<遠航の信標>の7人のプレイヤーの一人で、アレキサンダーにも劣らぬ重課金プレイヤーだった。
彼が真面目な性格の千桜に酷評される理由は、美色に耽溺していることだった。異世界に来てからというもの、彼はほとんどの時間を部屋に引きこもり、自分が作った美女NPCたちと歓楽に耽っていた。
そのため、ユリオンの内偵によると、彼のNPCたちの間での評価は全プレイヤー中最低であり、彼の武芸の高さ以外に評価される点はなかった。正確に言えば、彼の部下のNPCを除けば、他のNPCたちは彼をそのように評価していた。
「ユリオン会長、もし会いに行くのが嫌なら、私が代わりに行っても構わないよ」
「いや、大丈夫だ。俺が話をしに行くよ」
(毎回彼に会うたびに侍女と激しく絡み合っているところを見るなんて……千桜にそんな光景を見せたくないな)
仲間の精神衛生を考えて、ユリオンは重い心で決意した。
「ではそういうことで。ユリオン会長、早く片付けて帰って休んでください。それとも、リゼに迎えに来てもらいたい?」
「子供じゃあるまいし……それに彼女を呼ぶ必要がどこにある?」
ユリオンの問いに、千桜は呆れたように目を細めた。
「はあ……本当に鈍いだね」
「ん?何か言ったか?」
「いいえ!さあ、早く行きましょう」
少し苛立った様子の千桜は、強引にユリオンを会長室から追い出した。
ユリオンは思わず、彼女が自分とNPCの子供たちに対する態度の違いに驚嘆した。
言うまでもなく、こんなことを本人の前で言うわけにはいかなかった。
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