Ep 15:二人で過ごした午後③
部屋を出た二人は、同じ城内にある露天の場所――中央庭園にやって来た。
この庭園は<方舟要塞>内で最も人気のある場所の一つで、数名の景観デザイナーによって作られた。西洋のイギリス風のレイアウトと、雰囲気を演出する噴水や花々が、非常にリラックスできる環境を醸し出していた。デザイナーたちは、訪問者がいつでもティーパーティーを開けるように多くのテーブルと椅子を配置しており、とても人間的な配慮がされていた。
ゲームの時代には、一日の疲れを癒すために、わざわざログインしてこの中央庭園でリラックスするメンバーもいた。
二人は空いているガゼボを見つけ、座るとすぐにメイドが来て世話を焼いてくれた。
「かしこまりました。お二方のご注文を承りました。少々お待ちください」
メイドに礼を言った後、リゼリアは少し困ったようにユリオンを見つめた。
「ユリオン、ちょっと気になることがあるの……」
「どうしたんだい、リゼ?」
「うん……周りが急に静かになったと思わない?私たちが来てから、こうなったみたい」
「ああ、君も気づいたんだね」
彼らが庭園に足を踏み入れる直前まで、先に到着していた<方舟要塞>のNPCたちは、午後のティータイムを楽しみながらおしゃべりしていた。
しかし、ユリオンとリゼが現れると、元々賑やかだった雰囲気が急速に冷え込んだ。NPCたちはひそひそと話し始め、ちらちらと二人の方を見ている。
ユリオンがNPCのシフト制を導入して以来、多くのNPCが休日にここで休むようになった。リゼリアによれば、彼女と他の4人の仲間もここで茶会を開くことがよくあり、最初はNPCたちも気まずそうだったが、次第に慣れてきたという。
「つまり、問題は俺にあるってことか……?」
疑問を抱くユリオンは、自分を指さしながらリゼの意見を求めた。
ユリオンはここに来ることがほとんどなかった。通常は拠点で会長室にいるか、指揮部などを巡回している。
そのため、彼は珍しい顔を見てNPCたちがこういう反応を示しているのではないかと推測した。
NPCたちの様子が気になりすぎたユリオンは、こっそり聴覚を強化して彼らの話を聞こうとした。進化人種である彼にとってそれは難しいことではなかった。そして――
「あれは……ユリオン様とリゼリア様だ。二人はデートしているのかしら?」
「私たち、先に退散した方がいいかも。二人の邪魔をしたら悪いし……」
「これは<方舟要塞>の未来に関わる大事なことだ!美羽様に報告するべきかな?」
「とりあえずエレノア様に知らせておこう」
「私はフィリア様に連絡するよ……」
「二人って本当にお似合いだよね」
状況を完全に把握したユリオンは、全身が不自然な感じになった。
(こいつら、何考えてるんだ?ただのティータイムでデートと勘違いするとは……いや、一般的にはそう見えるのか?いやいや!こんなこと考えてる場合じゃない。リゼが気づく前に、何とかして彼らを黙らせないと)
注目を浴びて、ユリオンはまるでスキャンダルに巻き込まれた芸能人の気分を味わっていた。
「ユリオン、顔が硬いよ。何かあったの?」
「いや、何でもない。気にしないで」
表情を隠すために、彼はわざとらしくティーカップを手に取って一口飲んだ。
「そうだ!聴力を強化して彼らが何を話しているのか聞いてみる?」
「それはあまり良くないと思う……大丈夫、だいたいわかるよ。たぶん俺があまり来ないから、どう反応していいかわからないんだと思う」
NPCたちにとって、ユリオンを含む‘プレイヤー’は尊い存在だ。彼らは全身全霊でプレイヤーに奉仕し、『君臨者』と呼び敬う。その中でもギルド長のユリオンは、NPCの心中で全てを支配する絶対的な存在――『マイティドミネーター』なのだ。
ユリオンがこれらの状況をリゼリアに説明すると、彼女は納得した様子を見せた。
「なるほど……それで、どうするの?」
「心配しないで、俺に任せて」
「彼らを追い出しちゃだめだよ」
「……リゼ、本当に心を読めないのか?」
「君がわかりやすすぎるだけよ」
女性の直感の恐ろしさを再び実感したユリオンは、他の方法を考えざるを得なかった。
「仕方ない、直接彼らに話をするしかないな」
苦心の末、ユリオンは立ち上がり、自分たちを覗き見しているNPCたちに向き直った。
「皆――そんなに固くならなくていい。ここに来たのは公務を処理するためじゃない。君たちと同じようにリラックスしに来ただけだ。だから、気にせずくつろいでほしい。ここ<中央庭園>は、忙しい日常から一息つける場所として作られたんだ」
「もしわれのせいで汝たちが楽しめないなら、それはわれにとっても残念なことだ」
ユリオンの言葉は、NPCたちの間に波紋を広げた。
「そんなことないです!ユリオン様の責任ではありません!」
「ユリオン様のご厚意にありがとうございます」
「御心のままに。ユリオン様が気にさわりませんなら、私たちもありがたくここにいます」
「ユリオン様、かっこいい……」
人々が徐々に普段の様子に戻っていくのを見て、ユリオンはようやくほっとした。そして椅子に戻り、顔を手で覆って笑っているリゼリアと目が合った。
「ふふっ、ユ、ユリオン、君――」
「何も言うな……頼むよ、リゼ」
羞恥心がほとんど爆発しそうなユリオンは、恥ずかしさのあまり顔を覆った。しかし、リゼの笑顔はますます深まっていった。
「ふふ、君も大変ね」
「……わかってくれるなら、それでいい」
元々はただの新人事務員だったユリオンだが、突然NPCたちの『王』として奉られることになり、この立場の変化に伴い、『王』としての風格と言葉遣いを学ばざるを得なかった。
数名の側近と接する時はさておき、今は他の仲間たちが作った多くのNPCがいるため、言動には常に気を配り、王者としての姿を演じ続けなければならない。
だが、いくらなんでも、親しい友人であるリゼの前でその姿を演じるのは、ユリオンにとって予想以上の精神的ダメージを与えた。それはまるで、自分の中二病ノートが友人に見られてしまったようなものだった。
「ユリオン様、リゼリア様、こちらがデザートでございます。ごゆっくりどうぞ」
「うん、ありがとう」
「い、いいえ、お気になさらず。何かご要望がありましたら、いつでもお申し付けください」
まだ動揺が収まらないユリオンの代わりに、リゼリアが静かにメイドにお礼を言った。しかし、メイドは突然顔を赤らめた。二人の会話を邪魔したくないのか、メイドはその場を離れ、遠くで指示を待つことにした。
「彼女、ランスのメイドだろう?」
「あ、ユリオン、復活したの?」
「まあね……もうこの感じにも慣れてきたかな」
まだ暗い表情のユリオンに、リゼリアは微笑んだ。
「ふふっ、お疲れ様、『会長』」
「どうして急に緋月の真似を……?」
もうこれ以上からかわれたくないユリオンは、目の前のチーズケーキに集中した。黙々とデザートを食べるユリオンを見て、リゼは彼がただ照れ隠しをしているだけだと気付き、微笑みながら一緒にデザートを楽しんだ。
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これからも引き続き頑張って執筆してまいりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
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