Ep 14:二人で過ごした午後②
二人きりの理由に触れると、リゼリアは少し真剣な表情を浮かべた。
「ユリオン、今日の会議でユリオンが言った『結果は自分が責任を取る』ってこと、覚えてる?」
「ああ……あれか、どうしたの?」
リゼが言っているのは、先ほどの会議で同盟勢力<諸国連盟>との接触について話し合ったことだった。対立する可能性があるため、結論を出すのが難しかった。そこでユリオンは、皆の負担を軽減するために、どんな結果になっても自分が責任を取ると言ったのだ。
「ユリオンがそう言っているのは、私たちに負担をかけたくないからだって分かっている。でも、ユリオン……それじゃあ全部の責任が君にのしかかってしまうんじゃないの?」
「これがギルド長の義務だよ……そう言っても、納得してくれないんだね」
「当然でしょ。ユリオンって、いつも無理しちゃうんだから」
「一応、自分なりに分別はあるつもりだけど……」
「ふん――」
朱色の瞳が不満げにユリオンを見つめる。その強い視線に、ユリオンは気まずそうに口を閉じた。
「毎回そうだよね、どうしてそんなに無茶するの?」
「……話せば長いんだ」
「ゆっくり聞くから、教えてくれない?ユリオン」
「はあ――君は時々、本当に強引だな」
「ユリオンのせいよ……放っておいたら、ユリオンは絶対に無茶するから」
リゼの瞳には譲らない強い意志が宿っており、誤魔化すことはできないと悟ったユリオンは、静かにため息をついた。
「以前、君がゲームを離れてすぐに、俺は先生の後を継いで<遠航の信標>のギルド長になった。このこと、他の誰かから聞いたことがあるかい、リゼ?」
「うん、緋月が教えてくれた」
ユリオンの言う『先生』は、<遠航の信標>初代ギルド長である『隐士教授』のことだった。ユリオンはその後を継いだのだ。
「俺はずっと――ギルドが衰退したのは、自分にも一因があると感じていた」
「え……」
ユリオンの発言に、リゼは目を見開いた。
「確かに、ゲームの人気が落ちたり、メンバーが現実の事情で忙しくなったりしたことも大きな要因だ。でも、俺はよく思うんだ。もし先生だったら……何か方法があったかもしれない。あの人は個性豊かな変人や問題児もまとめ上げることができたから……」
「人生経験や他人への寛容さ、そしてゲームに対する理解力でも、俺はあの人には敵わない。正直……今でも分からないんだ、どうして俺を選んだのか?他にもっと適任の人がいただろうに」
過去の出来事を思い出しながら、ユリオンは苦笑した。
「ユリオン……」
(初めて……彼がこんなに辛そうな表情をするのを見た)
彼の顔には笑顔が浮かんでいたが、リゼにはそれが無理に作った笑顔だと分かった。目の前の青年は、悩みを抱えながらもそれを表に出さず、自分に負担をかけまいとしていたのだ。
(……本当に、不器用な人。でも、もしかしたら私にも責任があるのかもしれない)
リゼリアが<Primordial Continent>を始めた時から、そしてその後も、彼女は様々なことでユリオンに頼っていた。彼女にとって、ユリオンは信頼できる先輩であり、頼りになるパートナーだった。それが、ユリオンが自分の弱さを彼女に見せない理由かもしれなかった。
(ユリオンはいつも頼りになる姿を保っていて、他人に頼ることが苦手だし、心を開くことも少ない。それは私のせい……?)
そう思ったリゼの顔には、少し陰りが差した。
「君はね――」
「きゃあ!?」
ユリオンは突然手を伸ばし、リゼリアの頭に手を置いた。そして彼女の髪型を乱すように、少し荒っぽく撫で回した。
「また余計なことを考えてるんだろう?」
「ユ、ユリオン!!」
驚いたリゼは慌てて彼の腕を叩いたが、その力は小鳥のように弱々しかった。
「うう――髪がぐちゃぐちゃになっちゃった。ひどいよ、ユリオン」
「ごめん……」
リゼの目には涙が浮かび、不満げに彼に訴えた。やりすぎたと感じたユリオンは、素直に頭を下げて謝った。
「でも、ちゃんと言っておかないといけない。リゼ、君のことを負担だと思ったことは一度もないよ。君にはたくさん助けてもらったし、ゲーム外の能力も鍛える機会をもらった。もし君との時間がなかったら、副会長すら務められなかっただろう。だから、本当にありがとう」
「うっ……い、いいえ。ユリオンも私をたくさん助けてくれたから」
こんなに率直に感謝の言葉を受け取って、リゼは顔を赤らめた。
「とにかく……自分が先生と比べて至らないところが多いからこそ、少なくとも倍の努力をしなければならないと感じているんだ。ギルド長としての責務と義務、ギルドを守り、メンバーが安心してギルド生活を楽しめるようにすること……ギルド長として、少なくともそれを果たさなければならない」
「だから、そんなに無理をしてるの……?」
「無理だとは思っていないよ。ただ、これが自分の仕事だと感じているだけさ。ギルドの選択に責任を持つのは、ギルド長の義務だよ」
「そうかもしれないけど……ユリオン、君は自分を追い詰めすぎてると思う」
「……」
彼が自分の指摘を否定しなかったのを見て、リゼリアは続けた。
「ユリオン、君が私たちの会長であることは確かだけど、忘れないでください。私たちはみんな<遠航の信標>のメンバーでしょう。君はすべてを一人で背負う必要も責任もないよ」
「もっとみんなに頼ってもいいんよ。もちろん、私にも頼ってください。何と言っても、私は君のパートナーから!」
「これまでは一方的に私が君に頼っていたけど、ユリオン……私も、君の力になりたいんだ!」
彼女は全力を尽くすように、ユリオンの手をぎゅっと握りしめ、心の中の言葉を絞り出した。
「……魅力的な提案だが、俺はこういうことがあまり得意じゃないんだ」
ユリオンと目を合わせ、リゼは彼の戸惑いを感じ取った。
「ユリオン、私はずっと君を見ている――」
「……え?」
「目を離すと、君はきっと無茶をするから。だから……君が無理をしているのを見つけたら、私はできる限り助けに来る。たとえ君が拒んでも、勝手に助けるよ」
ユリオンは、リゼリアという少女が一度決心したら、どんな困難に直面しても簡単には引き下がらないことをよく知っていた。彼女の揺るぎない信念は、過去にも何度もユリオンを励ました。
「それじゃ、かえって君に迷惑をかけるような気がするけど……」
「むぅ……私、そんなに頼らない?」
「ははは、それはどうかな。でも、そうだな……次にこういうことがあったら、君に相談するよ――‘パートナー’」
「ふふ、それでいいんだ」
それなりに満足のいく答えをもらって、リゼは満足そうに口元をほころばせた。
「言うだけじゃだめよ。また適当に流そうとしたら、私は本気で怒るから」
「了解――リゼ、君は時々……本当に強引だね。ああ、もし君が勝手に動くと、かえって事態が複雑になりそうだ。だから、それを避けるためにも、君にちゃんと言うよ」
「ぐぬぬ……どうして逆に説教されるの……」
不満が募るリゼは、反撃に出ようとしたが、その結果はどうやら悪くはなさそうだった。
「勘違いだよ。一緒に何か食べに行こう、好きなものを言ってくれ」
「む……ユリオン、そんなことで私を納得させるつもり?」
「そうは思っていない。でも、いらないか?デザートでも、お茶でも、好きなものを選んでくれ。」
「欲しい!」
リゼへの感謝と詫びの気持ちを込めて、ユリオンは彼女と肩を並べて部屋を出た。
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