Ep 11:故郷を守る英傑たち⑤
<方舟要塞>の会議室内――
ギルド<遠航の信標>のメンバーたちは、長いテーブルを囲みながら魔法アイテムを通して<諸国連盟>内の戦局を見ていた。
「彼らの話を聞くことはできないが、これだけの成果でも十分だ」
3D映像の放映が終わると、クリスタル型の魔法アイテムはその動作を停止した。銀髪の青年、ユリオンは椅子にもたれかかり、緊張していた身体をリラックスさせた。
「現地の平均レベルをはるかに上回る魔法や大規模な魔法アイテム……どうやら、<諸国連盟>の主要戦力は樹海の内部に集中しているようね」
「その可能性は高いわ。でも、それが彼らの最大戦力なのかしら?もっと詳しい情報が手に入ればいいんだけど……シーラー、君はどう思う?」
ポニーテールの美しい女性、千桜は思案しながら感想を述べ、それに同意する緋月は、恋人であるシーラーに意見を求めた。
「うーん、素晴らしい!獣耳娘の楽園がついに守られた!」
「シーラー……誰がそれを聞いたの。場を考えろよ。緋月、落ち着いてくれ。シーラーは……まだ矯正の余地がある。後で修正すればいいさ」
欲望を無意識に口にしてしまったシーラーは、恋人の怒りを買いそうになった。幸いユリオンが止めたおかげで、会議が中断することはなかった。
「会長、ご安心を。私は場をわきまえてあるから――」
「そ、それは良かった……」
緋月の顔には完璧な笑顔が浮かんでいたが、その笑顔がユリオンには恐ろしいものに見えた。
(怖い……目が全然笑ってない……)
「シーラー、後で少し時間を頂戴」
「ひっ!?」
穏やかな口調でありながら、緋月の言葉には抗いがたい圧力が含まれていた。言い間違えたことに気づいたシーラーは、有名な絵画<叫び>のような絶望的な表情を浮かべた。
「さて、話を戻そう――実は、俺はあの森から空に向かって放たれた光柱が気になっている」
「あの光柱は……ええと、あの竜人族のNPC……名前なんだっけ?」
「彼の名前は眠竜で、アレキサンダーの策略家だ」
「ああ、そうだった。ありがとう。ところで、眠竜は複数の防御結界を展開していたけど、全く役に立たなかったみたいだね?」
「相手の攻撃術式の階級が上だったんだ。それが貫通するのも不思議じゃない」
「いやいや、それが問題なんだよ!あのNPCはlv1,000だ。彼の防御結界を打ち破るなんて、相手も同じく最高レベルの存在ってことじゃないか?」
ユリオンの無関心な態度に、シーラーは呆れ果てた。
明言はしなかったが、実戦派のユリオンもシーラーと同じ見解を持っていた。
(問題は、こちらがどう対応するかだ……アレキサンダーより先に、<諸国連盟>の人々と接触するか?それとももう少し様子を見るか……?)
今回の戦争で相手がこの世界の水準を超える力を示したことを考慮し、ユリオンはアレキサンダーが再度進軍を決定する前に、<諸国連盟>と接触して詳細な情報を得る必要があると考えた。もしかすると『地球に帰る』手がかりが見つかるかもしれない。
「ユリオン会長、相手は戦争を終えたばかりで、とても警戒している状態だ。無闇に接近すると、余計な疑念を招く可能性がある。特に……亜人族は人族に対してとても警戒している」
「わかっている……」
「だから、しばらく様子を見るべきだと思う」
ユリオンの考えを見抜いたかのように、千桜はまず観察票を投じた。
「私も千桜先輩の意見に賛成だ。この敏感な時期に相手を刺激する必要はない」
「私はむしろ向こうに行ってみたいです。亜人の文化や民族衣装に興味があるの」
「俺も!そこは獣耳……コボッ、歴史ある国だし、意外な発見があるかもしれない」
観察派の緋月とは異なり、アシェリとシーラーは積極的な行動を支持していた。
こうして、現在の『観察』と『干渉』の票数は2対2となった。
まだ決まっていないのは、ユリオンと彼の右腕であるリゼリアだけだった。
「正直言って、俺は向こうに調査に行くほうがいいと思っている。理由は……アレキサンダーが再び進軍を決定したら、<諸国連盟>の人々が持ちこたえられる保証はない。すでに一度敗北している以上、次は本気で来るだろうから、この貴重な手がかりが途絶える可能性がある」
「あ……」
「もちろん、千桜の意見にも賛同する。無闇に接触すると、逆に侵略の元凶と見なされる可能性がある。それだけは避けなければならない……」
「そうですね……軽率に決めるべきではない」
ユリオンの心配を聞き終えた千桜は、苦笑を浮かべながら頷いた。先に積極的な干渉を支持していたアシェリとシーラーも、恥ずかしそうに再考を申し出た。
「どうやら、結論を出すのは難しそうだ。ここは一旦会議を終えて、後日改めて話し合おう。皆にはしっかりと考えてもらいたいが、あまりプレッシャーを感じないでほしい」
「最終的な決定や責任は、すべて会長である俺が負うべきだ」
今回の投票結果は、ギルドの今後の方針に直接影響するものである。出席者たちが決議に至らなかったため、<遠航の信標>の会長であるユリオンは一時的に会議を終了すると宣言した。
会議から解放された一同は、短い雑談を交わした後、次々と会議室を後にした。
そのまま会長室に向かい、公務を処理しようと思ったユリオンだったが、出る前に友人でありパートナーでもあるリゼリアに呼び止められた。
「どうしたんだ、リゼ?」
「……少し一緒に来てくれる?」
サイドポニーの銀髪の少女は、ユリオンの問いには答えず、彼の袖を引っ張った。
(え……一体どうしたんだろう、また何かで怒らせてしまったのか?)
気分が悪いとすぐに頬を膨らませるリゼリアの癖が、ユリオンには懐かしかった。
(仕方ない、しばらく付き合ってみるか)
彼はリゼリアに従い、彼女の部屋へと向かった。護衛の騎士少女――エレノアも彼らの後に続いた。
冒険者としての活動を始めてから、ユリオンとリゼの時間は少なくなった。実は彼も、リゼリアを一緒に外に連れ出そうかと考えたことがあったが、現状を把握しきれていないことへの懸念……いや、過保護過ぎたのだろう、安全性が確保されるまでは彼女を危険にさらしたくなかった。
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