Ep 8:故郷を守る英傑たち②
ギルド<遠航の信標>現在の組織構造は二層に分かれている――
ユリオンを頭とし、頂点に位置する「君臨者」として尊敬される7人のプレイヤー、そして彼らに従う400人以上のNPC。NPCの間にも上下関係はあるが、彼らは例外なくプレイヤーに絶対服従の態度を持っている。
装飾が施された会議ホール内には、目立つ5人の男女が長テーブルの周りに座っていた。
彼らの後ろには、それぞれ数名の護衛担当のNPCが控えている。
「ユリ~、こっちこっち!やっと来ましたね」
「よお、ユリオン。久しぶりだな」
「ユリオン会長、待ってたよ。早く座ってください」
「出張お疲れ様、会長」
「ユリオン、こちらへどうぞ」
室内に入ってきたユリオンに気付いた5人のギルド仲間――アシェリ、シーラー、千桜、緋月、リゼリア、次々に彼らに挨拶をした。
ユリオンが短く応え、リゼリアの隣に座る。彼女は銀色の髪を片側にポニーテールに結び、礼装を身にまとい、まるである国の姫君のような姿をしていた。
「お久しぶりです、ユリオン様」
「ああ、久しぶりだな…エレ」
リゼリアの後ろに、彼女ととても似た容貌の少女、エレノアが敬意を込めてユリオンに挨拶をした。
彼女について話していたばかりのユリオンは、少し気まずそうに顔を背けた。
「?」
短い視線の交錯で、リゼリアはユリオンが何か心配事を抱えていることに気付いた。
彼女の紅玉色の瞳には、少し心配そうな色が浮かんでいた。
彼女だけでなく、洒落た装いのエルフ少女――アシェリもユリオンの異変に気付いた。そのため、彼女もいつものように話しかけなかった。
参加メンバーが全員席に着くと、みんなを召集した本人――美羽が巫女装束をまとって視界に入った。
しかし、ユリオンの注意は彼女ではなく、後ろに立っているエレノアに向かっていた。
(エレのことに気付けなかった、部下たちの人間関係に注意を払っていなかった。もしフィリアが教えてくれなかったら、たぶん気付かなかっただろう。その後も彼女にちゃんと感謝しないといけないけど、最後に何か言っていたっけ?まったく聞いていなかった……大丈夫かな?)
(はあ、ギルド会長としてもNPCたちの主人としても、まだまだ道は長いなあ――)
会議が始まろうとしているにもかかわらず、ユリオンの思考はフィリアとの会話内容に留まっていた。特にエレノアを見た後、自責の念がさらに強まった。
自分の役割を果たせなかったことに腹を立てていた。ギルド会長の肩書を持ちながらも、部下間の問題に気付けず、ましてや調停もできなかった。もしフィリアが教えてくれなかったら、自分は今も何も知らなかっただろう。
(職務を怠っていたのは、俺自身だったな……)
機嫌の悪いユリオンに、他のメンバーも注意を向けた。
「ユリ……ねえ、ユリオン!」
「はあ!?うっ……びっくりさせるなよ、リゼ」
驚いたユリオンは、少し不満そうに隣のリゼリアに文句を言った。
「ふむ――ユリが心ここにあらずだったから。何かあったの?」
「ああ……ごめん、心配かけた。大したことじゃない、後で対処するよ」
「……ユリオン、本当に無理してない?」
「大丈夫だよ、本当に困ったことがあったら、必ず君に助けを求めるから」
「うん、約束だよ」
ユリオンの言葉に完全には納得できないリゼリアだったが、ひとまず追及しないことにした。もし後でユリオンの悩みが解決しなかったら、強硬手段を取ってでも彼の口を開かせる決意を秘めていた。
我に返ったユリオンは、仲間たちの視線が自分に集中していることに気付いた。
リゼリアだけでなく、彼の機嫌が悪いことに気付いた数名の仲間たちも心配そうな目を向けていた。
「すまん、みなん…少し調子が悪くて――」
ユリオンは誠実に頭を下げ、会議に参加している仲間たちに謝った。
「大丈夫、大丈夫~ユリ、また仕事し過ぎたんじゃない?社畜生活に慣れすぎるのは良くありませんよ」
「仕事中毒のよくある症状だな。ユリオン、たまにはリラックスしなきゃ。会議が終わったら、一杯飲みに行こう!」
悠々とした表情のアシェリが、軽快な調子で先に応じた。
そして、ヴァンパイアの特徴を持つ青年、シーラー・エロスも、友人の立場からユリオンを誘った。
千桜と緋月も口を開かなかったが、微かに頷いて同意を示した。
(こんな仲間がいて、本当に幸せだ)
仲間たちの善意に、ユリオンの心は少し軽くなった。
主人が元気を取り戻したのを見て、美羽は安堵の笑みを浮かべ、会議を進行し始めた。
アレキサンダー・シャルルマーニュ・ナポレオン――かつてギルド<遠航の信標>のメンバーだった彼は、異世界に到着して間もなく、自身の200名以上のNPCを率いてギルドを脱退し、大陸南西の亜人国家<諸国連盟>に拠点を築いた。
世界統一の覇業を成し遂げるために、彼は数日前<諸国連盟>領内で軍事行動を開始し、3,000頭の魔物で構成された軍隊でその国を威力テストした。
最初、彼らの進軍は非常に順調で、平均レベルがlv400の魔物軍は何の障害もなく、いくつもの亜人の集落を制圧した。密集した木々と複雑な環境も、魔物たちには全く影響を与えず、亜人たちは地理的優位を失った。
しかし、樹海の内側に進軍すると、アレキサンダーの魔物軍は次々と奇襲を受けた。
「以上が特殊部隊――<天数序列>より持ち帰りたる情報に存じます。続きまして、諸位の大人方、<イメージ水晶>に記録せし画面をご覧申し上げます」
事の経緯を会議参加者に伝えた後、狐耳の少女、美羽はテーブルに置かれた半透明の水晶球に魔力を注入した。ちなみに、凪率いる<忍者小隊>は現在休暇中のため、ユリオンはもう一つのNPC部隊、総合能力が高く探索経験も豊富な<天数序列>を派遣しており、隊長はフィリアである。
その後、水晶球に記録された映像が三次元投影の形式で再生され始めた――
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