Ep 21:リゼリアの過去⑤
リゼリアは両手をテーブルの上に広げ、薄紅の唇を軽く開いた。
「リゼリア……この身体は、昔の写真を元に改造して得たものなの。現実の私は、手がとても荒れていて、色も暗くて輝きがなくて、普通の女の子の手とは全然違うの。まるで枯れ木みたいで……本当に女の子の手とは言えないわ」
「……」
「髪もそうよ、化療のせいで全部抜けちゃった。せっかくちゃんと手入れしたかったのに……」
「リゼ……」
「ユリオン……?」
自嘲気味の笑みを浮かべるリゼリアは、まるで次の瞬間に消えてしまいそうな幻のようだった。もう我慢できなくなったユリオンは、彼女の広げた両手をぎゅっと握り締めた。その冷たく小さな手は、普通の女の子と何ら変わりない手だった。
「暖かい……あの時とは違う。ここに来る前は、ずっと病床に伏していて、体調はどんどん悪くなって、何も見えなくなって……病室の薬の匂いしか感じられなかった。それに……とても寒くて、暗くて、自分がどこにいるのかもわからなくて……本当に……本当に怖かった……うぅ——」
ついに限界に達したリゼリアは、ユリオンの手の温もりを感じながら、もう感情を抑えきれずに無力な少女のように泣き崩れた。
ユリオンは無言で友人の前に回り、彼女をそっと抱きしめた。
(後で彼女にセクハラだと文句を言われても構わない。今、俺ができる唯一のことなんだ。リゼ……)
抱きしめられたリゼリアは拒否の様子を見せず、彼の胸に顔を埋め、心の中に溜めていた感情を解き放った。涙がユリオンの胸を濡らしたが、彼は気にせず、優しく彼女の髪を撫で、もう一方の手で彼女の背中を軽く叩いて慰めた。
夕陽の中、二人はまるで一体となったかのように、柔らかな夕映えに包まれていた。
どれだけの時間が経ったのか?誰もはっきりとは言えない。ただ、すでに沈んでしまった太陽を見て、時間の経過を知ることができた。
リゼリアは泣き止んでいたが、まだユリオンから離れようとはしなかった。彼の胸に顔を埋め続け、その温もりを失いたくないかのように。
「ユリオンの匂い、とても安心するわ……」
「えっと……それは褒め言葉として受け取っていいのかな?」
(なんだこれは……俺の匂いが安心するって?どう返事すればいいんだ……)
リゼリアの突拍子もない感想に、ユリオンは一瞬めまいを感じた。しかし、彼女の気持ちが少しでも軽くなったのなら、それでいいとユリオンは思った。
「ねえ、リゼ……」
「?」
「君は俺たちと一緒に、ここで暮らしてみないか?地球の時のようにはいかないけど、不便なこともみんながいれば問題ないさ」
抱きしめたままのリゼリアを見つめ、ユリオンは決心した。
「今なら新しいスタートが切れる。新しい思い出を作って、見たことのない景色を楽しんで、みんなと一緒にバカをやったって誰も文句は言わない。やりたいことがあれば何でも言ってくれ。とにかく……」
「——!?」
「俺たちと……俺と一緒に、この未知の世界で暮らしてくれるかい?」
「……ユリオン。うぅ……こんな、こんな私でも……うぅ……いいの?こんな私の容姿はただの創作物で、本当の私は何も持っていない……こんな私でも……」
「君がどんな姿だって構わない、これは俺の願いなんだ。過去がどうであれ、これからはもっとたくさんの思い出を作って、大切な人たちと一緒に楽しいことがたくさん待ってるよ」
一拍おいて、ユリオンは自分のすべての感情を注いだ。
「俺は君に幸せになってほしい、リゼ。俺は……俺は絶対に君を幸せにする!」
「うん!私は……私はやるわ!」
雨が上がった後の虹のように、リゼリアの顔には魅力的な笑顔が咲いた。
彼女の笑顔を見て、ユリオンも安心したように微笑んだ。
ユリオンは道具箱からハンカチを取り出し、リゼリアの涙を優しく拭き取ると同時に、彼女の腫れた目を治すために治癒魔法をかけた。
その後、二人の間には多くの言葉は交わされなかった。お互いの気持ちを告白するような行動を取ったことに気づき、ユリオンもリゼリアも不安な気持ちで相手の顔を直視することができなかった。この沈黙に耐えきれなくなったユリオンは、急いで通信魔法を使ってエレノアに連絡し、リゼリアを部屋に連れて行って休ませるよう頼んだ。
誰もいない中央庭園には、ユリオン一人だけが残された。
彼は椅子に座り、地球とは全く異なる星空を仰いだ。
今日の話を思い返しながら、ユリオンは思考を整理し始めた。
「リゼの最後の発言からすると……彼女は地球で既に亡くなっているのかもしれない。リンオンという名の彼女は病気が悪化して死んだ、その後なぜかゲームの中の姿でこの世界に転生した。こんなことが起きるなんて……」
直接本人に確認することもできるが、ユリオンはそんな無神経な行動を取るつもりはなかった。人の傷をわざわざ抉る必要などないし、そんなことをしてはいけない。
他の仲間たちとは違い、リゼリアは「タイムトラベル」ではなく、「転生」してこの異世界に来たため、彼女はもう二度と戻れないかもしれない。たとえ戻れたとしても、彼女が使える体は存在しない。
「どうやら、これからのことを真剣に考えなければならないな」
両親を失い、現実世界で重要な人もいない彼にとって、地球に戻ることにはそれほど強い意欲はなかった。これまで戻る手段を探してきたのは、主に戻りたいと思っている仲間たちのためだった。
シーエラたちNPCが自我を持つようになったときから、ユリオンは彼女たちと一緒に暮らすことを考えていた。そして今、彼には残らなければならないもう一つの理由ができた。
(彼女を幸せにしなければ……リゼが幸せに暮らせる環境を作り上げる。彼女が失った全て、考えることもできなかった全てを、今度は俺が彼女に与えるんだ)
(でもその前に、もっとリゼと一緒に過ごす時間を増やさないと。これは彼女に関わることだから、全てを俺が決めるわけにはいかない。リゼの意見が一番大事だ)
大きな計画を実現するには時間がかかるが、友人のそばにいるだけなら、今のユリオンにもできることだ。
「でも、そうなると計画も少し変更しないと……後で美羽たちと相談しよう。一人で悩んでも仕方がない」
地球に戻る方法を探すのと並行して、ここでの長期的な生活を考える必要がある。その中には、もちろん脅威を排除することも含まれている。ある男の顔がユリオンの心に浮かんだ。
(アレキサンダー……あの野郎はいつか俺たちを脅かす存在になるだろう。今でもその傾向がある。だからこそ、何としてでもあいつを排除しなければならない。あいつに従うNPCたちも、邪魔させるわけにはいかない……)
安定した未来を手に入れるために、銀髪の青年は静かに戦意を燃やした。
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