Ep 20:リゼリアの過去④
「ユリオン、私の本名を覚えてる?」
「えっ…ああ、確か『リンオン』だったよね?」
「うん、やっぱり覚えてたんだ」
「ふふ、君に印象的な自己紹介は忘れられないよ…。ネットゲームで本名を名乗る人なんて初めてだったから」
リゼリアとの初めての出会いを思い出し、ユリオンは笑みを浮かべた。
当時、副会長になったばかりのユリオンは、ある日突然、前会長の『隠士教授』に呼び出された。
そこで彼はリゼリアという少女に初めて会い、新任の初仕事として、その新人の世話を任された。なぜユリオンに世話を頼んだのか、前会長は詳しく説明しなかった。
ネットゲーム初心者で、人見知りもするリゼリアは、緊張しすぎて自己紹介で失敗してしまったのだ。
「わ、私は…『リンオン』です!よ、よろしくお願いします!」
緊張で顔を真っ赤にした少女は、前会長に指摘されて初めて、自分の本名を口にしてしまったことに気づいた。その後もパニックになり、しばらくの間、ユリオンと会長は彼女を落ち着かせるのに時間を費やした。
「ははは、あの時は本当に驚いたよ。22世紀にもなって、ゲームに全く疎い新人を見るとは思わなかった」
「むむ——あの時のことを思い出さないでください。意地悪…」
「でも、それは貴重な思い出だよ。あの時の新人が、今では最も信頼できるパートナーになったんだ。先生の紹介のおかげで、本当に感謝している」
「ええ、私も…<Primordial Continent>を通じていろいろな人に出会い、今までにない生活を経験できたのは、教授のおかげです」
現実でも大学教授を務めていた前会長は、自分の名前を「隠士教授」としていた。ちょっと変な感じがするかもしれないが、確かに彼のイメージにはぴったりだった。過去にはユリオンとリゼリアをよく世話してくれて、ユリオンは彼を「先生」と呼んでいた。
「リンオン…私の名前はリンオン。でも今の私はリゼ…」
「……」
まるで何かを確かめるように、リゼリアの目はぼんやりしていた。何を言えばいいか分からないユリオンは、彼女の話を続けて聞くことにした。
「ねえ、ユリオン。君の目に映る私は、どんなふうに見える?」
なぜそんなことを聞くのか…元々そのまま言おうとしたユリオンだったが、リゼリアの真剣な眼差しを見て、その問いの意図を考え始めた。
「ふふ~難しく考えなくていいよ。見たままを言ってくれればいい。あ、でもセクハラはダメよ。」
「シーラーじゃないんだから、そんな馬鹿なことするわけないだろ…」
ユリオンの真剣な表情に気づいたリゼリアは、少しお茶目な口調で警告し、ユリオンは半目で反論した。
(見たままを言う…つまり外見のことか?うーん…難しいな。女の子の容姿を評価するなんて本当にいいのか?)
リゼリアの決意を見て、これ以上避けられないと悟ったユリオンは、腹を括った。
「銀色の髪…ルビーのような瞳、白く見える肌…とても綺麗だよ…」
まるでボス戦を超える難題に直面するように、ユリオンは頭を絞って言葉を考えた。
「そう…」
予想通りの答えをもらったのか、リゼリアは少し視線を逸らし、寂しげに微笑んだ。
「現実の私…リンオンとしての私は、そうじゃないの」
再びユリオンと視線を合わせ、リゼリアは言葉を整えた。
「私ね…物心ついた時から、体があまり丈夫じゃなかった。しょっちゅう病気して、いろんなことを人に頼らなきゃならなくて、家族にも迷惑をかけたの。それで学校も…小学校を卒業したら退学したの。あの時は大泣きしたけど、仕方なかったんだ。自分で自分を面倒見れないんだから」
「うん…」
まるで全ての希望を捨てたように苦笑するリゼリアの姿に、ユリオンは胸が締め付けられる思いだった。最も信頼する仲間なのに、彼女のことを何も知らなかった自分。どんな言葉で彼女を慰めたらいいのか分からず、無力感に苛まれる彼は、拳を握りしめ、その手が白くなるほどだったが、もちろんその手はテーブルの下に隠されていたため、リゼリアに気づかれることはなかった。
リゼリアの告白を聞いて彼女の過去に心を痛める一方、ユリオンの心の中にあったいくつかの疑問も解けた。
彼女が時々、公会の仲間たちを羨ましげに見ていたことや、自分が作った三人のNPCを自分に似せてデザインし、私服をセーラー服——女子高生の制服に設定していたこと。リゼリアは間違いなく、自分の願望をエレノアたちに投影していたのだ。
「だからあの時…君は去ったの?なぜ…なぜ、君は——」
ゲームの時期、リゼリアの突然の失踪は驚きだった。彼女は去る前日にエレノアをユリオンに託し、そして何も言わずに去り、再び連絡が取れなくなった。この事実の背後には、こんなにも重大な理由が隠されていたとは。彼女と日々を共にしていたパートナーとして、ユリオンは心に不満を抱いていたが、リゼリアの涙を見た瞬間、冷静さを取り戻した。
(違う、これが俺の言いたいことじゃない!苦しんでいるのはリゼなのに、何を文句を言っているんだ…情けない!彼女はその時、い俺を心配させないために、これを言わなかったんだ)
「…ごめん、君を責めるつもりはなかったんだ。ごめん、リゼ。俺…その時、何も力になれなくて、ごめん…」
(俺には何もできなかった…だから彼女は俺を頼らなかったんだ。もっと頼りになるように、先生のように…)
ユリオンの推測では、リゼリアを紹介した前会長は全てを知っていたに違いない。しかし彼は彼女の考えを尊重するため、最低限の内容だけをユリオンに伝え、口を閉ざしていたのだ。
「そんなことないわ!ユリオンは私にたくさん助けてくれたのよ……不器用な私に対して、ユリオンは一度も文句を言ったことがないし、アシェリや他の子たちとも仲良くしてくれたわ。それに、エレ、紅音、シェスティのような可愛い子たちも残してくれて、ユリオンのおかげでギルドにいた時は、本当に夢のように楽しかったの」
「そうか……君の役に立ててよかったよ」
(はあ……むしろ彼女に慰められてしまった、まったく……俺は一体何をしてるんだ?)
リゼリアの言葉は彼に少しの救いをもたらしたが、それでもユリオンは自分の未熟さをさらに悔やんでいた。
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