Ep 17:リゼリアの過去①
「以上が、忍者小隊からの全報告です」
<方舟要塞>内の会長室にて、銀髪の青年――ユリオンは椅子に座り、部下がまとめた情報を聞いていた。
報告内容はアレキサンダー勢力が<諸国連盟>で引き起こした戦争だ。魔物軍を動員して他国を侵略し、さらには自国の所在地<アルファス大森林>からも出軍した。この一連の内容に、ユリオンの眼差しは鋭くなった。
「そうか、ご苦労だった…ゆっくり休むがいい。それと、この件については俺の許可なしに他人に話すな。知っている者にも伝えてくれ」
「承知しました」
部下が去るのを見送った後、ユリオンは椅子の背にもたれ、深く息を吐いた。
「ユリオン様、大丈夫ですか…少し休まれますか?」
「主君、どうぞご安心くださいませ。妾たち共々、主君に策を献じましょう」
声をかけたのは、まるで天女のように美しい二人の少女だった。一人は白金の長髪に、赤い宝石のような瞳を持つエルフの少女。もう一人は巫女服を着て、ふさふさの尻尾と狐耳を持つ成熟した美女だった。
「大丈夫だ…ありがとう、シーエラ、美羽。君たちに俺の取り乱した姿を見せてしまって」
「そんなこと言わないでください!ユリオン様、ギルドのことを心配しているだけで、決して取り乱してなんかいません」
「シーエラが申す通りにございます、主君が我らの君主ゆえに、この事に心を砕かれるのです。ゆえに、主君の憂いを晴らすことこそ、妾の役目にございます」
二人の少女が一生懸命にユリオンを慰める姿に、彼は苦笑を浮かべた。
彼を怒らせたのは、アレキサンダーの侵略行為ではなかった。それよりも、彼が自分との<互いに不可侵協定>をこんなにも早く破り、自分たちを罠にはめようとしていることだった。アレキサンダーが約束を守らないことは予想していたが、それにしても早すぎる。このため、ユリオンの計画は乱されてしまった。
「君たちがそう言ってくれて嬉しいよ。今は怒っている暇はない。早急に対策を考えないと…実は一つの策を用意していたが、アレキサンダーの動きが速すぎて、詳細をまだ詰めていない」
「さすがは主君!それでは、妾にお教え願えますか?」
ユリオンは美羽の提案に頷き、計画の説明を始めた。
「以前に倒した聖国の調査隊を覚えているか?彼らの遺体と装備は残しておくように命じた、今も拠点に保管されている」
「はい、その時に他の幹部に説明しました」
「確か…リゼリア様に手を出した愚か者たちのことですか?妾はシーエラより聞き及びました」
彼は軽く頷き、その意図を続けて説明した。
「元々、彼らをゾンビのような不死者にして、元の装備を身につけさせ、その後でそれを使ってアレキサンダーの拠点を暴こうと考えていた。しかし、この計画にはまだ解決していない重要な点がある」
「主君が仰るのは、如何にして大きな注目を集め、そして如何にして異変とその拠点を結びつけるか、ということですか?」
彼の軍師である美羽は、鋭い直感と洞察力でユリオンの疑問を完璧に指摘した。
「その通りだ。ただ、そこに聖国の装備をしたゾンビが突然現れても、大きな注目を集めることはできない。何せ人がほとんど通らない森林の端だし、どうしても聖国の注意を引く必要がある。その国は謎が多いから、自国の部隊が失踪したことを知れば、積極的に調査を行うだろう」
「確かに難しい問題ですね…発見される前にアレキサンダー派に消される可能性があります」
「シーエラの申すことに違いございません。影響力を拡大する必要がございます。現時点ではこの森を無関係にするのは難しいかと…妾の見解では、逆にこれを利用するのはいかがでしょう?」
何かを思いついたように、美羽は手持ちの扇子を閉じてユリオンに提案した。
「美羽、何か考えがあるのか?聞かせてくれ」
「承知いたしました。妾の見解では、この事が各国に広まれば、必ずや大きな注目を集めることでしょう」
「その通り、それがアレキサンダーの目的でもある」
「その折には、森の外周に人々が常駐し、更なる動きを観察し、迅速に自国へ知らせることとなりましょう。その際、もし一軍のゾンビが日々この森とアレキサンダーらの拠点を往復しておれば、傍観者は如何に思うでしょう?」
「彼らが拠点を森林から移していると考えるだろう…それが何度も続けば、後を追ってゾンビの進行方向を確認したくなる」
「仰せの通りにございます」
美羽の意図を理解し、ユリオンは満足げに微笑んだ。
「このアイデアは確かにいい!視線をそらすだけでなく、相手の作った不利な状況を利用するなんて……さすがは俺の第一の策士、美羽がいてくれて本当に良かった」
「誠に光栄にございます!」
主人からの賞賛を受け、美羽は満足げに笑みを浮かべる。一方、シーエラは少し悔しそうに唇を噛んだ。
(美羽は本当にすごい。こんなに早く対策を思いつくなんて。それに比べて、私は……)
「でも、これだけではまだ安心できない。大規模な組織の動きは常に遅い。だから、民間で関連する噂を広める必要があると思う」
「主君の仰ることは?」
美羽が首をかしげると、ユリオンは二人に考えを伝えた。
「冒険者のチームを組織して、地元の人々に混じって活動するつもりだ。情報を集めると同時に、名を上げることも必要だ。もちろん、俺が直接指揮する。アレキサンダーの進軍はまだ始まったばかりで、広範な注目を集めるには時間がかかる。その間に名声を積み重ね、計画内容を噂の形で広め、多くの市民に聖国の装備を着たゾンビがアレキサンダーの拠点近くをうろついていることを知ってもらうんだ」
「ユリオン様、どうか私も同行させてください!きっとお役に立てると思います」
美羽に先を越されたくないのか、シーエラはすぐに同行を申し出た。
「ふふ、主君の眼識は流石にございます。妾も主君のお側に仕えたい所存です」
続いて美羽も負けじと申し出た。
「美羽、君の気持ちは嬉しいが…君にはまだ指揮所の仕事がある。今回は申し訳ないが、一緒に来てもらうことはできない」
「どうぞお詫びなどなさらぬよう!妾身が考えが及ばず、任務を忘れてしまいました。主君のご寛恕を願い上げます」
「ありがとう、気にしないでくれ。君が公務を気にかけてくれて、俺も嬉しいよ。君のおかげで仕事がずいぶん楽になっている」
「お役に立てることが、妾の光栄にございます」
真剣に謝る狐人の少女に、ユリオンは微笑んだ。実際、彼のために常に努力している美羽は、多方面で彼を助けてくれていたので、ユリオンは心から感謝しており、一時的な失言で不満を抱くことはなかった。
「シーエラ、お願いできるかな?」
「はい!必ずや任務を果たします」
シーエラは胸に手を当て、敬意を込めてお辞儀をした。
その後の時間、彼と二人は人選を続け、その後、空っぽの会長室を離れ、ユリオンの部屋へと向かった。
本作をお読みいただき、誠にありがとうございます。
これからも引き続き頑張って執筆してまいりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
最後に――お願いがございます。
もし『面白い!』、『楽しかった!』と感じていただけましたら、ぜひ『評価』(下にスクロールしていただくと評価ボタン(☆☆☆☆☆)があります)をよろしくお願い致します。
また、感想もお待ちしております。
今後も本作を続けていくための大きな励みになりますので、評価や感想をいただいた方には、心から感謝申し上げます!