Ep 15:群魔の軍勢⑥
「「「グゥゥ——!!!」」」
狼の遠吠えが戦場に響き渡り、一群の魔狼が大部隊から離脱した。敏捷な動きで狼群は石弾を軽々と避け、不規則な行動路線で虎人の村に接近してきた。彼らは周囲の木々を盾にして一部の攻撃を遮るなど、高い知能を見せ、虎人たちを驚かせた。
その群れの魔狼は、一般的なものよりも体が三倍ほど大きかったが、素早く動くことに問題はなかった。魔狼の種類も統一されておらず、三つの頭を持つものや、二本の尾を持つもの、毛色が鋼鉄のような異形の狼獣もいた。
「攻撃をやめるな!重戦士たち、盾を構えろ!他の者たちは、まず近づく狼群を片付けろ!」
後方の衛兵に敵軍を牽制し続けるよう命じ、タイゴルは軽装の戦士たちに、迫り来る狼群に突撃するよう指示した。
「崩岩斬!」
「断骨!」
「震撃!」
武器を振るう戦士たちからは、異なる色の光が全身に溢れ出た。力強い攻撃は魔狼に軽々と避けられたが、攻撃が地面に接触した際に発生した衝撃波は、魔狼のバランスを崩すことに成功した。
「今だ!」
「覚悟しろ、狼ども!」
「おおおお!この斧を受けてみろ!」
この機を逃さず、虎人戦士たちはすぐに第二段階の攻撃を仕掛けた。数頭の魔狼が避けきれず、粉々に砕かれた。
(ふむ…魔力を感じないが、あの光のエフェクト…もしかしてスキルか?亜獣人もスキルを使えるとは、これは意外な発見だな)
半透明の姿を保つ眠竜は、戦う虎人たちを評価する目で見ていた。
彼が言及した<スキル>は魔法とは異なり、魔力を消費せずに使用できる。オンラインゲーム<Primordial Continent>では、低級スキルは繰り返しの訓練で簡単に習得でき、個人の才能に関係ない。また、瞬時に発動できるが、クールタイムがあるため連発できないのが欠点だ。
(魔法の才能が驚くほど低いが、スキル…使えるとはいえ、低級なものばかりだ。ただ、これでは脅威にはならない。初戦の相手としては、まあ、合格だな)
眠竜は微笑みを浮かべた。元々、彼は亜獣人に何の期待もしておらず、それはただの道端の石ころのように簡単に蹴飛ばせる存在だと思っていた。彼らに力を注ぐのは、純粋に時間の無駄だった。しかし、虎人たちの戦いぶりは…眠竜の考えを覆すほどではないが、多少の楽しみをもたらすものだった。
戦場に戻ると、速攻法で敵をすぐに制圧できないことに気づいた魔狼たちは、すぐに方針を変えた。彼らは距離を取り、虎人戦士たちを取り囲んだ。
「は!怖くなったか?畜生め」
「効いたぞ、逃がすな、追撃だ!」
「早く片付けろ、大部隊が来る前に!」
「待て!無闇に動くな!」
狼群の動きが変わったことに気づいたタイゴルは鋭く制止したが、残念ながら一歩遅かった。
「「「グゥゥゥ!!!」」」
双頭双尾の数匹の魔狼が全身から青い光を放ち始めた。瞬く間に強烈な雷光が魔狼の体から発散し、突進中の虎人戦士たちに直撃した。
「うわあああああ!!」
「ま、魔法か!?ぐあああああ!!」
「まずい——ぐあっ!」
反応が間に合わず、戦士たちは次々と地面に倒れた。彼らの皮膚は焼け焦げ、一息はあるが、反撃の余力は失われていた。
「「「ガォォォ!!!」」」
容赦ない。距離を取っていた双頭の狼が大きな口を開け、力尽きた虎人たちに襲いかかった。動けない戦士たちはただ成す術もなく、喉を噛み切られるか、鋭い爪で内臓を引き裂かれるしかなかった。
これは始まりに過ぎない。残りの魔狼たちも動き出した。次に動いたのは数頭の三頭狼で、それらは大口を開けて、風、火、岩の三種の魔法弾を放った。攻撃を受けた虎人たちは、その場で命を失うか、四肢を吹き飛ばされた。
瞬く間に、戦場は悲鳴で満ちた。
「くそっ!魔法攻撃が効くなんて、一体どうなっているんだ!?」
「俺たちは魔法に免疫があるはずだろ、なぜ奴らに傷つけられるんだ!?」
「さ、助けてくれ——うわっ!!!」
虎人族は生まれつき魔法耐性を持っており、肉体で第5位以下の魔法を防ぐことができる。たとえ5位の魔法を受けても、戦闘力を失うことはない。大陸の大多数の者が使えるのはこの階級の魔法なので、彼らは自分たちが魔法攻撃に免疫があると思い込んでいた。
でも、彼らを襲った魔狼は6-7位の魔法を使っており、虎人たちの抵抗力を突破するのは易いだった。
「慌てるな、すぐに退却しろ!後衛、網を撒け!」
タイゴルは戦士たちに隊列を整えるよう呼びかけ、城壁上の部下たちに特殊な植物で編んだ巨大な網を魔狼の方へ投げるよう命じた。
意外な反撃に魔狼の群れは一瞬ためらい、その隙に逃げる機会を失った。大部分は網に絡まり、魔法で切り裂こうと試みたが、その速度は遅かった。
この網は魔力耐性を持つ植物で編まれており、魔狼たちを長くは引き留められないが、反撃の時間を稼ぐことができる。
「今だ、矢を放て!」
タイゴルの命令で、塔上の弓兵たちはすぐに矢を放ち、激しくもがく魔狼を正確に射抜いた。網の範囲から逃れた魔狼も、地面に張り巡らされた網に動きを妨げられていた。
タイゴルはこれらの特製の網を城を守るための秘密兵器として温存していたが、この時に使用するのはやむを得なかった。
しかし、いくつかの魔狼は飛んでくる矢をまったく気にせず、真っ直ぐ虎人たちに突進してきた。その魔狼たちの毛はとても異常で、硬質で鋼のような光沢を放っていた。
「俺たちを舐めるな!喰らえ!」
「油断するな、奴らも魔法を使うかもしれん!」
「スキルを使え!敵の数は多くない、早く片付けろ!」
キィン——!
魔狼に斬りかかった刀刃がその体に触れる瞬間、鈍い音が鳴り響いた。
「硬い、何なんだこれは!?」
「手が痺れる、なんでこんなに硬いんだ?」
「まるで鎧を着ているみたいだ——まずい!」
強力な一撃を受けた魔狼たちの体はわずかに揺れただけで、すぐに踏ん張り直し、鋭い爪と牙で目標を襲った。
一方、攻撃の衝撃で戦士たちの腕は一時的に痺れ、守勢に回り、急所を守るしかなかった。
「ふざけるな!同胞に手を出させるものか!」
一人の虎人戦士が隙を見せ、狼に襲われそうになったその瞬間、タイゴルが大股で駆け寄り、魔狼の首をがっちりと締め上げた。
「グオォォ!?」
四肢を必死に振り回す鋼狼は、逃れようと必死だった。しかし、力で勝るタイゴルはさらに腕の力を強め、一気にその首をねじり上げた。
パキッ——
鋭い音が鳴り響き、鋼鉄のような毛を持つ魔狼は糸が切れた人形のように動きを止めた。
「すごい、さすが族長!」
「よし、俺もやるぞ!」
「敵の力は俺たちより弱い、絞め殺せ!」
族長の行動に刺激され、虎人戦士たちは次々と防御力に特化した魔狼と組み付き、締め上げて殺していった。
その間、正面の魔物軍は動きを止めた。これは眠竜の指示だった。もし魔狼の突撃と同時に進軍していれば、瞬く間に全ての虎人を殲滅できたが、それでは情報収集ができなくなる。
(迅速に判断を下し、未知の敵の弱点を見つけることができる。指揮官としての素質は悪くないが、正面からの戦いを選択するのはあまりにも不合理だ。これは大きな減点だ…ん?)
眠竜が虎人の行動を評価している最中、一つの通信が彼の思考を遮った。
【獣相手にこんなにも時間がかかるなんて、お前は本当に恥さらしだな】
彼が口を開く前に、荒々しい男の声が嘲笑を放った。眠竜は瞬時に相手の正体を理解した。
【恥さらし?セレベト、お前に医者を紹介しようか。目を治療してもらえよ?】
彼に通信用の魔法で連絡してきたのは、先ほど会議室で対立していた同僚、セレベトだった。嘲笑されても、眠竜は平淡な口調で反撃した。
眠竜が全く動揺していない様子に、セレベトは不満げに鼻を鳴らした。
【お前は本当に余裕だな。これは我々の初陣だぞ。もしみっともない戦いをしたら、あの方が許さないぞ】
【ご心配ありがとう。私の活躍をお楽しみに】
【おいおい、心配なんかしてないぞ。自惚れるな!ただアレキサンダー様が不機嫌になって、俺にまで被害が及ぶのが嫌なだけだ】
【その方を第一に考えるとは素晴らしい。ところで、口では心配してないと言いつつも、わざわざ連絡してきたのは、アレキサンダー様も観戦していることを伝えたかったんでしょう?】
【ちっ、それがどうした?】
【その方が観戦していると知って、さらにやる気が出った。だから感謝しますよ、セレベト。お前も思ったよりも気が利くんだね】
【だ・か・ら、俺のためじゃないってのに…まあ、いいか。お前と争うのはバカらしい】
挑発を善意の忠告と受け取られ、セレベトは力が抜けた。
【それで、お前はどうするつもりだ?あんな連中、軍隊を動かして粉砕すればいいだけだろう?】
【それは難しくではないが、アレキサンダー様のご命令には情報収集も含めている。ただ粉砕するだけでは価値ある情報は得られない】
【つまり、情報を搾り取ってから掃討を始めるわけか。まどろっこしいな。それで問題ないのか?】
【責任は私が取る。問題がない。ここまで、全て予想通りだ】
【そうか、じゃあ見守るとしよう。はっきり言っておくが、お前がやり遂げられなかったら、俺が出ていくぞ――文句ないな?】
【ふふ、それならおそらく出番はないでしょう】
連絡を切った後、眠竜は再び戦場に集中した。
(セレベトが連絡してくるとは、アレキサンダー様も我慢の限界か…もう少し情報を集めたかったが、そうもいかないようだ)
主人が焦れていると推測し、眠竜は魔物の軍勢に強襲を命じた。
全軍突撃――命令が下されると、足を止めていた魔物の軍勢が一斉に猛攻を開始した。
先陣を切るのは、カブトムシ型の虫魔物たち。彼らの巨大な体はサイに匹敵し、勇猛な突進の姿は戦車を彷彿とさせる。
本作をお読みいただき、誠にありがとうございます。
これからも引き続き頑張って執筆してまいりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
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