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Ep 8:模擬戦PVP④

「そうだ、ユリオン!せっかくここに来たんだから、緋月と少し手合わせしてみないか?」


「この野郎…どうせ俺を巻き込むつもりだろうが、断る」


シーラーの突然の提案に、嫌な顔をしたユリオンは即座にそれを拒否した。


「ふふ~ん、そんなこと言わないで、ユリ。私も個人的に興味がありますよ、ユリと緋月さんのどちらが強いのか。実戦訓練にもなるではないか?」


「…君はただ見物したいだけだろう、アシェリ?」


「そんなことありませんよ、何を言ってるの?」


「俺の目を見て言えよ」


アシェリは心の中を見透かされて、ばつが悪そうに顔を背けた。それでも彼女はユリオンの退路をしっかりと塞いでいた。


「会長、みんながこう言っているのだから、ちょっと私に付き合ってくれないか?」


「緋月…まだ戦い足りないのか?」


「うん」


緋月は胸を張り、自分がまだ満足していないことをはっきりと認めた。


ユリオンはため息をつき、ちらりと彼の側に立っているシーエラを見た。彼女は何も言わなかったが、期待に満ちた眼差しでユリオンを見つめていた。


(彼女の前では格好悪いところを見せられないな…仕方ない)


「分かったよ…緋月、付き合ってやる。でも、一戦だけだ、それでいいか?」


「もちろん。それじゃあ、よろしくお願いします、会長」


「はぁ……」


覚悟を決めたユリオンは、観客席から飛び降りた。


全ての魔法アイテム、パッシブスキル、装備を解除し、緋月と同じように<身体能力強化><思考加速><痛覚遮断>の三つのスキルだけを残した。


次に、彼はアイテム箱からペアのグローブを取り出した。緋月に比べて剣術が拙いため、自分の本来の戦闘スタイルで戦おうと考え、接近戦で勝負を決めるためにグローブを選んだ。


「準備はいいか?」


「できてるわ。開始の合図はどうする?」


「こちこち、私に任せて、緋月ちゃん」


ユリオンが緋月の確認に応じた後、アシェリが開始の合図を引き受けた。


「それでは、お二人とも、用意——スタート!」


合図が出されたが、対峙する二人は動かなかった。


緋月は以前と同じように体をやや前傾させ、鞘に納めた刀の柄に手をかけ、静かな雰囲気を全身に漂わせていた。


(あれは『居合』の構えか?)


緋月と対峙するユリオンは、彼女の雰囲気が以前と全く違うことに敏感に気付いた。


目の前にいるはずなのに、なぜか緋月の気配が極めて薄く、まるで環境と一体化しているかのようだった。


「——!」


(消えた!?)


まるで魔法のように、ユリオンの視界から緋月が突然消えた。


<思考加速>を発動させていたおかげで、彼は反応する余裕があり、視覚だけでは緋月を捉えきれないため、聴覚に集中した。


(いた、ここだ!)


かすかな風切り音をユリオンが捉え、その音の軌跡に沿って迷わず手刀を繰り出した。


カン——!


刺すような音が響き、ユリオンの手刀が彼の腹部を狙った鋭い刃と交差し、軽い痺れが手のひらに伝わった。


突撃を防がれた緋月は驚いて目を見開いたが、すぐに態勢を整え、再びユリオンと距離を取った。


(さっきのは一体何だったんだ…なぜ突然彼女を見失ったんだ?視線を逸らしてはいないはずなのに)


明らかに緋月の技の正体を突き止めないと、受け身では不利すぎる。そこで、ユリオンは自ら攻めに出ることにし、戦いの中でより多くの情報を収集しようと決めた。


ユリオンは小刻みな歩調で、緋月の動きを注視しつつ、試しに彼女へ接近した。


「やあっ!」


「ぐっ——」


接近して約2メートルの位置で、緋月は即座に水平斬りを繰り出した。<思考加速>のおかげでユリオンは瞬時に反応し、受けることなく小さな動きで斬撃をかわした。


(どうやら2メートルが限界だな。これ以上近づくと彼女の領域に入ってしまう。さて、どうするか?)


「!?」


ユリオンが考える余地も与えず、緋月の姿は再び消えた。


先ほどと同じパターンだが、今回は左側からの攻撃だった。さらに緋月は移動音を抑えて、距離が極限まで縮まるまで音を立てず、そこで初めてユリオンに斬りかかった。


完全には避けきれず、ユリオンの腕には浅い傷が刻まれた。


(くそっ、一体どうやっているんだ?以前シーラーが苦戦していた理由が分かる、緋月を甘く見すぎた…)


ユリオンが苦戦している間にも、観客席にはどんどん人が集まってきた。


会長であるユリオンと、同じく君臨者プレイヤーの緋月との模擬戦ということで、そのニュースはたちまち<方舟要塞>全体に広まった。


NPCの半数以上がこの稀有な対決を観戦しに来た。


その中にはユリオンの部下たちや、Xランス王Xを除く全ての君臨者プレイヤーも含まれていた。


「すごい…こんな技まで使うなんて、さすが緋月様」


「主君の姿が少し違和感がある。反応が一拍遅れているようだ。エレ、汝はその理由を知っているのか?」


観客席に並んで立つ二人の美少女は、戦況を熱心に観戦していた。緋月が何をしたのかを理解した騎士少女——エレノアは、思わず感嘆の声を上げた。それに気づいた狐耳美人——美羽もすかさず尋ねた。


「あの方…緋月様は、ユリオン様の呼吸に合わせて攻撃のタイミングを調整しているのです。人間の精神はずっと集中し続けることはできず、必ず隙が生じる。その隙を狙っているのです。具体的に言えば、ユリオン様が瞬きをする瞬間に位置を調整し、視界の死角から攻撃しているのです」


「そんな巧妙なことができるとは…エレ、汝も同じことができるか?」


「スキルを使えば不可能ではありませんが…緋月様はスキルや魔法を制限された状態でこれを成し遂げています。私では彼女の境地には及ばないでしょう。だが、ライインロックならば可能かもしれません」


「そうか…そう考えると、主君がこれほど長く耐えているのはすごいわね」


「うん、美羽の言う通りわ」


戦況を見渡していた二人は、ユリオンの敗北が時間の問題であると認識しているようで、さらにはその後どのようにして主人を慰めるかを考え始めていた。まるで自分たちが戦場にいるかのように、彼女たちの顔色は険しかった。


「がんばって、ユリオン」


エレノアと同じ顔立ちの銀髪の少女は、自分にしか聞こえない声で、ひそかにユリオンを応援していた。彼女はエレノアの創造者であり、ユリオンの親友であるリゼリアだ。


彼女の紅玉色の瞳は、劣勢に立たされているユリオンを固い決意で見守っていた。その瞳の中にいる青年は、刻まれた傷が増え続けているにもかかわらず、少しも気を挫けていなかった。その鋭い眼差しはまるで獲物を狙う鷹のように、攻撃の機会を見極めていた。


(ついていける!時間はかかったが、ついに彼女の動きを読み取ることができた)


ユリオンは<思考加速>によって延長された時間の中で、緋月の脚の動きを観察していた。具体的には彼女の脚の筋肉の動きを見ていた。ストッキングを履いているため、緋月の脚の筋肉のラインは非常に鮮明だった。


数回の交戦を経て、体に小さな切り傷が増えたものの、ユリオンはついに緋月の移動の兆候を読み取ることができた。彼女の脚の筋肉の動きに注意を払えば、移動の方向を予測することができる。


この情報を得たユリオンは、積極的に前に出て、攻勢を続けた。


(彼女が突然消える技はまだわからないが、これで少なくともその技を使わせないようにできる。リズムを自分のものにするんだ)


「くそっ!ユリオンのやつ、なんでまだ倒されてないんだ?これじゃ俺の面目が立たないじゃないか!」


一方的に押されている自分とは異なり、ユリオンも劣勢にあるものの、そのパフォーマンスは明らかに自分よりも優れていた。嫉妬心に駆られたシーラーは、不意にその思いを口にしてしまった。


(くそっ、シーラーのやつ、聞こえてるぞ…後でお前を片付ける)


激戦の最中にありながら、<思考加速>を常に発動させ、さらに鋭い聴覚を持つユリオンは、シーラーの不満を聞き逃さなかった。


(このままではダメだ!一方的に消耗させられているだけだ。この状況を打破しなければ、確実に敗北してしまう)


防御に専念していても、緋月は防御の隙を見つけ出し、確実にダメージを与えてきた。


一撃一撃は浅いものの、ダメージは大きくなくても、累積されるとかなり厳しい。見た目にはユリオンの服はすでに大きく赤く染まっており、非常に恐ろしい様相を呈しているが、まだ行動力を失うほどではなかった。


(技術的には彼女と大きな差がある…どう避けても攻撃が当たってしまう。その一方で緋月はまだ元気だ——そうだ!)


まるで命を捨てる一撃を放つかのように、ユリオンは両足に力を込め、正面から緋月に向かって突進した。


「——!?」


彼が突如として攻撃を仕掛けてくるとは予想外だったのか、緋月は驚きの表情を浮かべた。


けれど、それでも彼女は動揺しなかった。刀を構え、ユリオンの左腕に向かって斬りかかった。


重力に引かれるように、刀身は正確にユリオンの腕に食い込んだ。彼は全く避けるつもりがなかったからだ。それだけでなく、ユリオンは刀刃が傷口を広げるのに任せ、さらに緋月に向かって進んでいった。同時に斬られた腕を動かし、斬撃の力を分散させ、緋月がすぐに腕を切り落とせないようにした。その結果、彼女の刀は筋肉と骨に挟まれてしまった。


「今だ――!」


ついに相手を攻撃範囲に引き込んだユリオンは、すぐに空いている手で拳を振る姿勢をとった。身を引くことができないと察した緋月は、一方の手を離して拳を受けることにした。


「うっ!?」


予想に反して、緋月の脇腹に強烈な衝撃が走り、彼女の体は大きく吹き飛ばされ、完全にバランスを崩した。


その衝撃の正体は、ユリオンのサイドキックだった。距離が近すぎて、強引に緋月の視界を狭めており、彼女の注意はユリオンの右拳に集中していたため、視界の死角からの蹴りを見逃してしまったのだ。


(油断した!会長はずっと拳を出していたから、蹴りが来るなんて思わなかった…早く起き上がらないと!)


「あっ――」


倒れている緋月が起き上がる前に、ユリオンは飛びかかり、傷ついた腕で彼女を押さえつけ、蓄力を捨てて最速で彼女の顔面に拳を向けた。


「緋月、終わりだ――」


拳が緋月に触れる直前、ユリオンは動きを止め、彼女の敗北を宣言した。


「はあ…分かった…会長、私の負けだ」

本作をお読みいただき、誠にありがとうございます。


これからも引き続き頑張って執筆してまいりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。


最後に――お願いがございます。


もし『面白い!』、『楽しかった!』と感じていただけましたら、ぜひ『評価』(下にスクロールしていただくと評価ボタン(☆☆☆☆☆)があります)をよろしくお願い致します。


また、感想もお待ちしております。


今後も本作を続けていくための大きな励みになりますので、評価や感想をいただいた方には、心から感謝申し上げます!

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