Ep 32:一時的な同盟④
私は、最初の構想により近づけるために、前の数話のキャラクターのセリフを調整しようと思っています。彼らの口調や言葉遣いがより自然になるように修正する予定です。作品を長い目で見ていただければ嬉しいです。応援、よろしくお願いします!
<方舟要塞>の城内会議室には、美しく作られた長いテーブルが置かれている。
七人の男女がそのテーブルの両側に座っており、彼らはこの浮遊都市の最高権力者『君臨者』たちであり、その周囲には数人のNPCが侍立している。
ギルド長――ユリオンの招集で、残りの六人の君臨者が緊急会議に出席していた。
議題は<アルファス王国>で発生した『勇者召喚』についてである。
茶色の短髪で困惑した笑顔を浮かべたヴァンパイア青年、シーラーはぼんやりとした記憶を探りながらユリオンに確認を求めていた。
「勇者って……あれか?昔の異世界モノによく出てきた、魔王を倒す役目のやつ。たまに悪役になることもある、あの『勇者』ってやつ?」
「シーラー、悪役になった場合、それを『勇者』と呼ぶことはできないだろう……?」
「ユリオン、あんたの考え方、ちょっと古くね?もう一世代どころか二世代前から、アンチヒーロー系の映画とか流行ってんだぜ?『勇者』が『悪役』になるなんて、もはやお決まりのパターンだろ?」
「またこんな役に立たない知識か……もしかして、これもエルフィナのあの古めかしいやつがお前に教えたんだろうな?」
二人が話を脱線させていくのを見て、黒いワンピースに身を包み、ポニーテールのエルフ少女、千桜は半眼で彼らを制しにかかった。
「シーラー、お喋りは会議が終わってからにしてください。ユリオン会長、本題に入っていただけますでしょうか?」
礼儀正しい口調ながら、千桜の声にはなぜか圧倒的な迫力が込められていた。シーラーは思わず乾いた笑いを漏らし、ユリオンは気にしないふりをして軽く咳払いをすると、議題に入った。
ユリオンはまず事態を簡潔にまとめた。おおまかな内容は以下の通りだった。
王国は何らかの理由により、儀式を通じて5人の異世界人、つまり勇者を召喚したという。
ここまで話すと、シーラーの隣に座っている魔人少女、緋月が手を挙げて発言を求めた。
ユリオンは「どうぞ」と頷いた。
「質問です。あの『勇者』たちは、私たちと同じく《Primordial Continent》のプレイヤーなのか?」
「ああ。さっき凪から伝わってきた情報によると、あいつらは確かに『プレイヤー』だ。」
「戦力は?」
「そこはまだわかってない……今のところ、レベルしか把握してない。最大レベル(Lv1,000)が1人、残りの4人はLv900、Lv888、Lv777、Lv767だ。」
相手の戦力を優先的に気にするなんて、さすが緋月だな。そう思いながら、ユリオンの顔に苦笑いが浮かんだ。
「ユリ、これっていつ起こったこと?」
その質問を投げかけたのは、柔らかな金髪をツインテールに結び、華やかなワンピースを身にまとったエルフ少女、アシェリだった。
「今日だ。正確に言うと、午後1時頃かな。」
「短時間でこんな情報を掴むなんて……凪ちゃん、頑張りすぎじゃない?」
「……言いたいことは分かる。でも、今は特別な時期だ。そうせざるを得ないんだ。」
状況が許すなら、ユリオンもナギにこんなに休みなく作業を続けてほしくはなかった。アシェリの心配は、ちょうど彼の罪悪感を掻き立てるものだった。
『戦力』を確認する最良の手段は、直接相手と戦うこと。次に、相手の実戦での動きを観察することだ。
ユリオンは後者を選んだ。しかし、勇者たちが今日に到着したばかりで、王国側も実戦の機会を設けていない。
そのため、ユリオンはこれを確認するのに数日かかると考えていた。
その時、ユリオンの隣に座っていた銀髪の少女、リゼリアが少し心配そうな口調で質問を口にした。
「ユリオン、王国に《Primordial Continent》のプレイヤーがいるなら、王宮で調査してる凪ちゃんたちは、今も安全かな?」
「今のところ問題ない。ターゲットの中には最大レベルのプレイヤーもいるが、おそらく『偵察特化型』じゃないだろう。そんな状況では、凪がバレるはずがない。」
「そうなんだ……よかった。」
凪たちが無事だと知り、リゼリアは安心して息をついた。
しかし、すぐに彼女は新たな疑問を抱いた。
「召喚されたのは、プレイヤー5人だけかな? つまり……彼らの周りにNPCや、ギルドの拠点とかはないのかな?」
その質問を投げかけられると、アシェリと千桜は無意識に表情を引き締めた。
二人はよく知っていた。もし相手が数百人のNPCを引き連れて転移していたら、それは間違いなく大きな脅威となることを。
「凪たちにしっかり確認させた。今のところ、召喚されたのはプレイヤー5人だけだ。」
先の懸念が消え、アシェリは安堵のため息をついた。しかし、千桜はまだ何か考え込んでいる様子だった。
その後、千桜はリゼリアから話を受け継いだ。
「ユリオン会長、王国が『勇者』を召喚した目的は何ですか? 今後もまた召喚する可能性はありますか?」
「表向きは、シルド……あの辺境都市で起こった竜災と、魔物軍団が《諸国連盟》に侵攻したことによる国防問題だ。具体的な理由はまだ深く追究していない。今はそんなことに人手を割く余裕がない。」
彼は少し間を置き、それから続けた。
「そして、他の『勇者』が現れるかどうかについては、短期的には心配ない。勇者召喚には古代の魔法アイテムが必要で、それは現代の技術では再現できない。しかも、一度使うと壊れてしまう。少なくとも100年は待たないと、元に戻って再使用できるようにならない。」
「その点については、ひとまず心配しなくていいんですね……ええ、分かりました。ありがとうございます。」
ようやく安心した千桜は、ユリオンに微笑みを向けた。
しかし、ここでユリオンは話を切り替えた。
「とはいえ、俺はあいつらをこのまま見逃すつもりはない。」
「現時点で、俺たちは『勇者召喚』についてほとんど知らない。王国が後に他の方法で<Primordial Continent>のプレイヤーを召喚する可能性があるかもしれない。」
「それに、人を連れてくる方法があるなら、しっかり研究すれば、人を元の世界に戻す方法も見つかるかもしれない。」
地球に戻りたいと思っていた千桜は、ユリオンのその言葉を聞いて、目を輝かせた。
「確かに。ユリオン会長、それなら、王国勢力に『勇者召喚』に関する情報を全て吐き出させる必要があると思います。」
「もちろんだ。俺はあいつらに全てを自白させる……一滴も残さず、情報を搾り取るまでな。」
紅玉色の瞳に一瞬、鋭い光が宿った。それだけで、ユリオンがどんな思いでこの宣言をしたかがうかがえる。
金色の長髪が獅子のたてがみのような筋肉質の男、Xランス王Xは、少しユリオンに圧倒されたようで、やや堅苦しい口調で話し始めた。
「あ、あの…会長殿……それで、我々は王国と直接戦争をすることになるんでしょうか?」
「そうしたいのは山々だが、それでは無関係の者まで巻き込んでしまう……今回の件では、関係者だけに責任を取らせたい。」
「それはつまり……?」
「勇者召喚に同意した国王、王子、そして宰相を含む大臣たち。それに、召喚儀式を実行した宮廷魔術師と、『勇者召喚』に関する情報を握っている全ての者だ。」
ユリオンの主張を聞き、リゼリア、緋月、シーラーはそれぞれ頷いて同意を示した。
しかし、千桜は思案深げに唇を噛んだ。
「ユリオン会長、もし私たちが本当に先述の人物たちに手を出したら、王国の権力構造は……。指導者を失った国では内戦が起こる可能性があります。最悪の場合、滅びるかもしれません。そうなったら、アレクサンダーさんは黙って見ているとは思えません。」
「君は、あいつが俺たちの王国に対する行動を侵略行為と見なすことを心配しているのか?」
すでに《遠航の信標》を離れた元ギルドメンバー——アレクサンダー・シャルルマン・ナポレオンのことを千桜が持ち出すだろうと予想していたのか、ユリオンの表情には一切の動揺が見られなかった。
同じ考えを持っていたシーラーは、両手を頭の後ろに組んで、気軽に同意を示した。
「俺もそう思うよ。あの野郎は大陸全体を征服しようとしてるんだ。もし俺たちが王国を併合しようとしてるって思ったら、確かに傍観してないだろうな。」
「会長、何か対策はあるんですか?」
ユリオンに何か考えがあると察した緋月は、すぐに話題を彼に振った。
「あいつに気づかれずに王国への攻撃を完了するのは、ほぼ不可能だ。だから、俺には提案がある——アレクサンダーと同盟を結び、ついでに王国の後始末も全部あいつに押し付ける。」
「えっ、ユリオン、マジで言ってるのか……? あいつと……?」
予想外の提案に、シーラーは呆然とし、自分が幻聴を聞いたのではないかと疑った。
同じように感じた緋月も、ユリオンに疑問の視線を向けた。
「理由は三つある。まず第一に、これまで集めた情報を総合すると、この大陸には俺たちと敵対できる勢力は存在しない可能性が高い。この前提で考えると、地元の勢力と関係を築くよりも、戦力が俺たちと同等のアレクサンダーと友好関係を結ぶ方が得策だ。利益と損失の観点から見ても、こちらの方がメリットが大きい。」
「第二に、アレクサンダーはもともと大陸各国を敵に回すつもりだった。俺たちが介入しなくても、いずれ王国に侵攻するだろう。だったら、協力という名目で、彼に恩を売る方がいい。それに、そうすれば俺たちは堂々と王国の重要人物に手を下せる。」
「最後の一点……あいつの征服計画はなかなか進展していない。つまり、現在のアレクサンダーには何の未練もなく、損失を被る心配もない。しかし、一度国家を領土として手に入れたら、後顧の憂いが生まれる……俺が言いたいのは、あいつも廃墟の上に国家を築きたいとは思わないだろう、ってことだ。」
ユリオンが最後に挙げた理由に対して、アシェリ、千桜、Xランス王Xは首を傾げ、彼の言っていることが理解できないようだった。
残りの三人は、彼の本意に戦慄を覚えた。
そう、もしアレクサンダーがユリオンたちに宣戦布告した場合、ユリオンは迷わず彼の所有する都市や領地を無差別に破壊するだろう。つまり、アレクサンダーが敵対するなら、全ての努力が水の泡になる覚悟を持ち、廃墟の上に国を築き、国民一人もついていない亡国の王となるしかない。
「これは本当に……怖いな。でも、これで確かにあいつは簡単には動けなくなるよな。」
「交渉の材料にはできないけど、今後の戦争回避に必要な抑止力としては十分だと思います。」
「うん……でも、できれば事態がそこまで発展しないことを願ってる。」
シーラー、緋月、リゼリアが順に意見を述べる中、彼らがあまり心配しすぎないように、ユリオンは再び補足した。
「結局のところ、それは最終手段だ。必ずそうなるわけじゃないからこそ、事前にあいつと接触する必要があるんだ。」
聖国<神托騎士>からの情報を得る前に、アレキサンダーとの同盟を結ぶという考えは浮かばなかったかもしれない。
「理由は分かったよ。でも、ユリオン、アレクサンダーを説得する方法はあるのか? あいつ、前に俺たちと口約束した『不可侵条約』を破ったんだぞ。そんな簡単に同盟を受け入れるとは思えないけど。」
「……あの件については俺も反省している。結局のところ、当時は俺たちもこの世界に来たばかりで、情報が圧倒的に不足していた。それはアレクサンダーにとっても同じだ。おそらくあいつは今でも、この地の戦力を完全に把握していない。だから、周辺国を利用して俺たちを牽制しようとしたんだ。でも、もし五大国が同盟を結んでも、我々には脅威にならないと知ったら……あいつの戦略も自然と変わるだろう。忘れるな、あいつは俺たち以上に利益と損失にうるさいんだ。」
ユリオンは、これだけではシーラーを納得させられないと分かっていたので、さらに続けた。
「そして、彼が約束を破った理由についてだ。俺は、人間性の問題以外にも他の要因があると思う。むしろ、そっちが主な理由だろう。」
「えっ……俺は単にあいつが性格悪いからだと思ってたけど、他にも理由があるのか?」
緋月とアシェリも、シーラーの考えに同意しているようだった。アレクサンダーが彼女たちの心の中でどんな立場にあるかは、容易に想像がつく。
「あの時、俺はあいつと交渉する材料が十分じゃなかった……ただ早くあいつを追い払いたいと思ってたから、そこを見落としてたんだ。」
ユリオンの説明によると、『不可侵条約』を結ぶための材料は、ただの下級騎士から得た基礎的な情報だけだった。ユリオンを介さなくても、アレクサンダーは簡単にそれを手に入れられるものだ。そんなものの価値は限られており、アレクサンダーにとって大きな利益にはならず、むしろユリオンたちに協力する価値がないと思わせてしまったのだ。
「双方の協力は、本来『互恵関係』を築くべきものだ。まさか講師が何度も繰り返していた内容を、こんな形で思い出すことになるとはな……確かにその通りだ、ユリオン。」
話の流れを変え、シーラーは目を細めてユリオンを見つめた。
「お前がもう一度あいつを交渉のテーブルに着かせたいなら、きっと十分な切り札を手に入れたんだろう? もったいぶらずに、早く聞かせてくれよ。」
久しぶりに彼から感じる迫力に、ユリオンは無意識に神経を引き締めた。
その後、ユリオンは集めた材料を詳細に列挙し、それをどう活用するかについて、何度も議論を重ね、夜明け前にようやく骨子をまとめた。ちなみに、主に協議を担当したのはシーラー、緋月、ユリオンの3人で、他の4人はこの分野が得意ではないため、議論には参加せず、主に聞き役に徹していた。
最終的にこの決案は、全員一致の結果で通過し、早ければ3日後にアレクサンダーと接触する予定だ。