2025特別編――君臨者と闇のゲーム
浮遊都市<方舟要塞>全域――
真っ白な雪の花が空から舞い降り、広大な浮遊都市を薄い銀砂で覆ったかのように飾り付ける。
夜の街では、煌びやかなイルミネーションと装飾が輝きを放ち、祝祭の鮮やかな色彩を都市の隅々まで染め上げている。
通りを歩く人々も、祭りのテーマに合わせた衣装に身を包み、景色と見事に調和している。
「思ったよりも賑やかだな。」
ユリオンは紅茶を飲みながら、窓越しに外の通りを眺めていた。
彼は現在、自分の城内の寝室におり、ゆったりとしたバスローブを身にまとい、くつろいだ様子だった。
「まさか異世界でクリスマスを過ごせるなんて、あいつらのおかげだな。」
出来事を思い返しながら、ユリオンの顔には微笑みが浮かんでいた。
1週間前、アシェリを中心とした数名のギルド仲間が、彼にある企画を提案してきたのだ。
その企画の内容は、<クリスマス>をテーマに、この都市で盛大な祝祭を開催することだった。
ユリオン自身はこの件にあまり興味を持っていなかったが、仲間たちの強い要望に押され、最終的には了承することにした。
「子供たちの絆を深めるいい機会だよ。」って説得されてしまっては、ユリオンも断る理由がなかった。
その時、浴室の方から聞こえたドアの開く音が、ユリオンの思考を現実へと引き戻した。
間もなく、白金色の長い髪を持つエルフの少女が、バスローブ姿で中から現れた。
彼女はユリオンの方へ目を向け、すぐに魅力的な微笑みを浮かべた。
「お待たせしました、ユリオン様。」
「いや、そんなに長く待っていたわけじゃないさ。」
ユリオンは微笑みながら手を差し伸べ、彼女に自分のそばに来るよう促した。
その意図を理解したエルフの少女――シーエラは嬉しそうに駆け寄り、彼の手を取り、身体をぴったりと寄せた。
彼女は身体を預けるようにユリオンに寄り添い、顔には溶けるような甘い笑みが浮かんでいる。
ユリオンは彼女の髪を撫でる。その仕草は、まるで壊れやすい宝物を扱うような優しさに満ちていた。
シーエラは目を細め、胸に湧き上がる心地よさに身を任せるのだった。
「ん…?何か見ていらっしゃるのですか?」
ユリオンの視線に気づいたシーエラは、不思議そうに首を傾げた。
「いや、ただ考え事をしていただけだ。それより、シーエラにとってみんなとクリスマスを過ごすのは初めてだろう?どう感じる?」
「とても素敵だと思います。普段と違う景色が見られますし、ユリオン様と一緒にお祭りを楽しめることが、あたしには本当に幸せなことです。」
「そうか。それは良かった。君が楽しんでくれているなら嬉しいよ。なら今日は仕事を忘れて、思い切り楽しもう。」
「はい〜楽しみにしています。」
そう言うと、シーエラはそっと目を閉じ、頬を赤らめた。まるで何かを待っているような仕草に、ユリオンはすぐに彼女の意図を理解し、ゆっくりと顔を近づけ、その柔らかで瑞々しい唇に優しく口づけを落とした。
浴びたばかりの湯で汗と汚れを流したばかりだというのに、二人の熱は再び高まりを見せ始める。シーエラは身を捩らせ、肩に掛かった布を少しずつずらし、白い首筋と胸元の谷間が露わになった。
健全な精神を持つ男なら、これを前にして理性を保つのは不可能だろう。
ユリオンは無言のまま手を伸ばし、その豊かな果実を下から上へと撫で上げた。
「……」
「んっ…あぁ…」
片手では包みきれない、柔らかで魅惑的な双丘は、彼の手の動きに合わせて形を変え、わずかに揺れる。
シーエラの息遣いも次第に甘さを帯び、その唇から漏れる吐息は、二人だけの空間をさらに濃密なものへと変えていく。
欲情に濡れた瞳で見つめられたユリオンは、一瞬、心が締め付けられるような感覚に陥った。
この愛らしいエルフの少女は、まさに魅惑の化身だ。二人きりになるたびに見せる彼女の求めるような仕草は、ユリオンに「エルフ」というよりむしろ「サキュバス」ではないかと思わせるほどだ。
「ふぅ…あっ…ユリオン様、あたしもう…」
シーエラの体は異常なほど火照り、甘い香りが漂い始める。それは理性を奪い、欲望をかき立てる香りだった。
「ベッドに行こうか。」
「……はい、お願いします。」
シーエラは微笑みを浮かべ、ユリオンに全身を委ねた。
ユリオンは彼女の柔らかくも曲線美を描く体をそっと抱き上げ、寝室のベッドへと向かおうとした、その時――
コンコンコン――
「ユリオン様、お時間が近づいておりますが、ご準備は整いましたか?」
客室側から扉を叩く音と共に、若い少女の声が聞こえた。通常であれば寝室にいる者には届かない距離だが、ユリオンとシーエラの聴覚は常人を遥かに超えており、容易に察知することができた。
「どうやら、後回しにするしかなさそうだな。」
ユリオンは苦笑を浮かべながらシーエラを下ろし、お詫びとして彼女の頬にキスをした。
そして寝室の扉を開け、客室の方へ向かって歩き出した――
「……ちっ」
立ち去る前、ユリオンは背後から小さな舌打ちの音が聞こえたような気がしたが、それを自分の聞き間違いだと思い、深く気に留めなかった。
彼を呼びに来たのは、水色の短髪を持つ騎士少女、エレノアだった。
彼女はいつもの姿ではなく、赤と白の毛皮装飾があしらわれたクリスマス衣装を身に纏っていた。
シーエラに煽られた情熱がまだ冷めきらない中、ユリオンは一瞬、この可愛らしいクリスマスの少女をそのまま寝室に連れ帰りたいという衝動に駆られた。
「あれ?ユリオン様、どうかなさいましたか?」
「いや、なんでもない……」
ユリオンは軽く首を振り、内心の動揺を隠そうとした。
エレノアはそれ以上深く追及することなく、穏やかな口調で用件を伝えた。
「まもなく開幕式が始まります。広場までお越しいただけますか?」
「わかった。着替えたらすぐ行くよ。」
エレノアが言及した「開幕式」とは、ユリオンを含む7人の君臨者が広場で部下たちに祝典の始まりを宣言する簡単な式典のことだった。
7日間にわたるこの祝典は、今日、つまり12月25日から始まり、月末まで続く予定だ。さらに、大晦日には盛大なカウントダウンパーティーが行われ、多くのイベントが予定されている。
全てのイベントが終了すると、<方舟要塞>は休暇モードに入り、翌年の1月末まで全員が休息に入る。その間の防衛は高位の従魔とゴーレムが担うことになっている。
話を現在に戻そう。ユリオンは2人の少女に付き添われて広場に到着した。式典の流れを事前に確認し、仲間たちと共に挨拶を済ませ、無事に開幕式が終了した。
その後、ユリオンはリゼリアと共に祝典を回り、華やかな花火を鑑賞した。その間、修羅場に巻き込まれているライインロックを偶然見かけたが、しかし、この点はそれほど重要ではないため、細部は一旦省略する。(※この内容は他の番外編で補足する予定である。)
祝典の初日はまだ終わっていないが、ユリオンの次の数夜の予定は既にびっしりと詰まっていた。例えば、翌晩はシーエラと、翌々晩はエレノア、その次は美羽やティナといった具合だ……
皆と一緒に祝典を回るのも楽しいが、ユリオンは恋人たちと二人きりの時間を作ることも必要だと考え、このようなタイトなスケジュールとなった。ちなみに、夜の侍寝相手はその日のデートを共にした少女が務めることになっている。
※※※※※※※※※※
深夜、<方舟要塞>の城内――
数人の若い男女が、とある部屋に集まっていた。この部屋の主はアシェリ、金色の髪を長いツインテールにまとめた、魅惑的な容姿とセクシーな体つきを兼ね備えたエルフの少女である。
アシェリを含め、この部屋にいる7人は<方舟要塞>の統治層、すなわち<君臨者>と呼ばれる人々だった。
これだけの面々が集まれば、何か重要な会議が行われていると思われるかもしれないが、今の状況は全く違っていた。
君臨者たちは低いテーブルを囲んで座り、和やかな雰囲気の中、それぞれの手には数枚の白紙のカードが握られていた。そしてペンを持ち、何かを書き込むことに集中しつつ、お互いが書いている内容を見ないよう注意を払っていた。
数分後、全員がペンを置き、手にしていたカードを次々とテーブルの中央に置かれた箱の中に入れていった。
すべての準備が整い、茶色い短髪の軽薄系イケメン「シーラー・エロス」は、周囲を見回し、微笑みを浮かべた。
「みんな準備ができたようだな。それじゃあ、早速始めようか。」
「ちょっと待って、シーラー。始める前に、もう一度ゲームのルールを説明してくれる?」
声を発したのは、淡いピンク色の短髪の少女で、両側に華やかな角が生えている、それは魔人族の特徴だった。
その少女こそ、シーラーの恋人である――緋月。
せっかく集まったので、シーラーの提案で、みんなでゲームをしてリラックスしようということになった。
緋月が確認したかったのは、まさにそのゲームのルールだった。
「大丈夫、俺に任せて。」シーラーは自信満々に胸を叩きながら、説明を続けた。
「さっきみんなが箱に入れたカードには、いろいろな『指示』が書かれていて、そのカードを引いた人は指示に従わなければならない。それと、みんなには番号の書かれたネームプレートがあるから、その指示はその番号に関連していることもあるかもしれない。大体そんな感じだ……」
シーラーがうっかりルールを一つ忘れたことに気づいたシーエラは、ユリオンの後ろに立ちながら発言した。
「ちょっと補足させてください。ユリオン様のご指示により、『暴力』や『セクハラ』に関する指示は無効となります。では、他に質問はありますか?」
「「「ない。」」」
皆が一斉に答えるが、シーラーはなぜか肩を落とし、顔に少し落ち込んだ表情を浮かべた。
「それじゃあ、私から始めてもいい?」
最初に動き出したのはリゼリア。彼女の紅玉のような瞳がキラキラと輝き、このゲームにとても期待している様子だった。
彼女がまるで子供のように無邪気な表情を見せると、みんなは優しい目でその要求に同意した。
リゼリアは説明通り、手を箱に乗せて魔力を注ぎ、するとカードが出口からポンと飛び出した。
「今までの成長過程について話してみて。」
「「「……」」」
リゼリアがカードの内容を読み上げると、ユリオン、シーラー、緋月、アシェリの表情が瞬時に固まり、彼女の後ろに立っているエレノアもまた複雑な表情を浮かべた。
リゼリアの幼少期はあまり楽しいものではなく、体が弱く病気がちだったため、苦しんだことが多かった。彼女の過去を知っている数人は、彼女にそのことを口に出させることができなかった。
そのことに気づいたリゼリアは、恥ずかしそうに顔を赤らめた。その時、ユリオンが自ら口を開き、沈黙を破った――
「うーん、そうだね。俺も気になるから、リゼ、始めてくれる?」
「ユリオン様!?」
彼の意外な発言に、エレノアの声が慌てたものに変わった。
しかし、ユリオンはそれを気にせず、説明を続けた。
「君は初心者からギルドの<最強狙撃手>に成長した…その経歴、エレノアたちもきっと興味を持つと思うから、少し話してくれないか?」
ユリオンの意図を理解したエレノアの表情が和らぎ、逆にリゼリアは少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「うーん…『最強』とか、ちょっと大げさじゃない?」
「俺はその評価は的確だと思うよ。まあ、それは置いといて、どうする、リゼ?」
「ふふ~わかった、できるだけ簡潔に話すね。」
自分を気にかけてくれるユリオンに微笑みながら、リゼリアは<Primordial Continent>での初心者時代の経験を話し始めた。
その内容には、例えば、野外で迷子になり、崖から落ちたこと。地図が使えず、街で迷ってユリオンに探し回らせたこと。ベテランプレイヤーに騙されて高レベルの魔物エリアに行って囲まれたこと。低レベルの魔物と必死に近接戦をして、10秒以内に逆転されたこと。狙撃の練習中にターゲットを外し、反撃を受けたこと。戦闘中にユリオンを支援しようとして、何度も誤射してしまったこと……
その数々のエピソードに、みんなは大笑いし、部屋はすぐに笑い声で満たされた。
「そ、それじゃあ、次は僕だ。失礼するよ…」
次に手を出したのは、筋肉質な体を持ちながらも、なぜか少し縮こまった表情の金髪の男性――『Xランス王X』。
「……5号と抱き合って、感想を大声で言ってくれ。」
(これ、誰が書いたんだ――!?)
現場の男女比は3:4、つまり彼は恐らく女性の知り合いと抱き合わなければならない。そして、その上で感想を公然と述べなければならない。軽い社交不安を抱えるXランス王Xにとって、これはまさに災難だ。
(くそ、なんでランスにあんなカードが出るんだ!これがいわゆる幸運のスケベってやつか?羨ましい運だな……)
一方、この『指示』を書いたシーラーは悔しそうに拳を握りしめた。
(待て、5号って誰だ!?まさか緋月か…いや、ダメだ、早く対策を考えないと!)
シーラーは不安そうに5号の正体を確認し、目線はある銀髪の青年に向かった。
その通り、5号はユリオンだった。
ちなみに、みんなの番号は次の通りだ。
リゼリア(1号)、Xランス王X(2号)、シーラー(3号)、緋月(4号)、ユリオン(5号)、アシェリ(6号)、千桜(7号)
自分の恋人には関係ないと知ったシーラーは、表情が和らいだ。それだけでなく、彼は悪戯っぽく笑みを浮かべ、苦い顔をしているユリオンを見つめた。
「うーん…なぜまた会長様なんだろう……」
「……こっちのセリフだ。」
ユリオンは仕方なさそうにため息をつき、立ち上がってXランス王Xの隣に歩み寄った。『指示』自体はルールに違反していないため、彼らには拒否する権利はない。
ユリオンは無表情で冷たい目を向け、Xランス王Xに早く終わらせるように促した。
「う、うう…!」
悲壮な表情を浮かべたXランス王Xは、重い気持ちで立ち上がり、ユリオンを抱きしめた。その動きは非常にぎこちなく、顔色もやや青白かったが、どうしても嫌がっているのが分かる。
ユリオンは無表情で、さっさとこの茶番を終わらせたいと思いながら、全身から圧力を放っていた。
この珍しい光景を見た仲間たちはみんな声を上げて笑い、シーラーは涙を浮かべて笑っていた。
「ハハハ~これは惨いな!いやいや、感想は?早く感想を言ってよ、ランス~みんな待ってるよwwww~!」
「…すごっ…」
「なんだって?そんな小さな声じゃ聞こえないよ。」
邪悪な軽薄男に催促され、Xランス王Xの顔はさらに青ざめ、最終的に彼は諦めたように大声で叫んだ。
「すごい!すごくしっかりしています!会長様の三角筋!僧帽筋!広背筋!菱形筋!脊柱起立筋は本当にすごい!!服を着ているから分からないけど、筋肉のラインははっきりしていて、形や充実感も一番!まさに黄金比です――わああ!!!」
「おい!そんなに詳しく説明は必要あるのか!!」
言いようのない不快感が心に湧き上がり、ユリオンは反射的に拳を振り下ろし、Xランス王Xを吹き飛ばした。彼は空中で3回半回転した後、力なく地面に叩きつけられた。
その間、皆は笑いが止まらなくなり、ユリオンは無言でシーラーを睨みつけた。
シーラーは笑顔を保ちながら、手を箱に伸ばした。
「ハハハハ~疲れた、めっちゃ疲れた…ふああ、ハハ~よしよし、次は俺だね?ちょっと見てみよう――うわ…」
カードに書かれた文字を見た瞬間、シーラーは笑顔を失った。
「どうしたんだ、シーラー?なんで笑わなくなったんだ?笑続けろよ。ん~?顔が悪いぞ、何かいいもの引いたのか?早くみんなに見せてくれよ~」
笑顔がユリオンの顔に移り、彼はシーラーに近づき、先の仕返しをしようとした。
シーラーは無言でカードをみんなに見せ、その後ユリオンが内容を読み上げた。
「『胸部』についての見解を話す……ふ、ハハハハ、これってお前にぴったりじゃないか〜!よかったな、シーラー、さっさとお前の大見解を発表してくれ〜ハハハハ〜!」
(一体誰がこんなことを書いたんだ〜!?)
立場が一瞬でひっくり返り、シーラーは内心で怒り狂い、こんな無茶な指示を出した者を非難していた。
(ふふ〜。もともとユリをからかおうと思ってたけど、シラシラが引いちゃったか。じゃあ、緋月ちゃんはどう反応するかな〜?楽しみだな〜)
この『指示』を書いたのはアシェリで、彼女はシーラーと緋月を見比べながら、笑みを深めた。
(どうしよう……もし公共の場で女性の胸部について話すことになったら、社会的に死亡だ……いや、その前に緋月に制裁されるだろうな、どうしよう!?何か方法は……あ〜!)
シーラーが思い悩んでいるうちに、しょんぼりしたXランス王Xが元の位置に戻ってきた。
その時、シーラーの脳内に電流が走った。彼は喉を清め、皆に向かって口を開いた。
「形が重要だと思うんよ〜」
「ほお〜」
緋月が微笑みながら目を細め、シーラーは背筋が冷たく感じた。しかし、彼は止められなかった。今止めたら死ぬだけだ。
「そう、形!胸筋はただ大きければいいわけじゃない。もちろん十分に大きな胸筋は加点項目だけど、その形が滑らかで自然か、左右のバランスはどうか?胸筋の間の分かれ目がしっかりしてるか?胸筋の大きさと形が体全体のバランスに合ってるか?それがすごく大事な評価ポイントなんだよ」
「「「「……」」」」
シーラーが発言を終えると、女性陣が複雑な表情でシーラー、ユリオン、Xランス王Xを見つめていた。
ユリオンは無意識に腕を組んで胸を隠し、Xランス王Xは恐怖を感じた目でシーラーを見ていた。
その気配に気づいたシーラーは、無意識に身を縮めた。
「お、お前らどうしたんだ?俺何か変なこと言ったか――」
「シーラー……ちょっと離れてくれないか?」
ユリオンは嫌悪の表情を浮かべ、困惑するシーラーを睨みつけた。
「はあ?あ、やばい!違う、違うんだ…!みんな、聞いてくれ、説明させてくれ――!!!」
シーラーはようやく気づいた。自分が性癖に異常がある危険人物だと誤解されていることを。
その次はアシェリ。彼女が引いたカードには、至ってシンプルな内容が書かれていた。
「子供の頃の夢を話す……私はね、きれいなものが大好きなの。服とか、アクセサリーとか、人とか、模様とか、そういうものに大時間を費やすことが私の一番の夢だったわ」
「それってもう叶った夢じゃないか?」
みんなが一致して頷き、ユリオンの意見に賛成した。
アシェリは静かに微笑み、勝利のサインを送った。
次に千桜が引く番だ。彼女はカードを見てしばらく考え込んだ。
「私より背が低くて、笑顔が無邪気で、心が純粋で、私に甘えたり、よくお願いをしてくる、そしてできれば『千桜先生』って呼んでほしい、そんな感じかな」
「いやいや、何を引いたんだ!?」
シーラーは思わず口を開き、千桜は驚いて手の中のカードをテーブルに落としてしまった。
カードには――『自分の好きな異性のタイプを言う』と書かれていた。
「「「「……」」」」
部屋には静寂が漂い、皆が目をそらし、千桜はその隙にカードを素早く取り戻した。
「つ、次は、私ね。はい、引くわよ!」
緋月はわざと活発な声を出して、微妙な空気を払拭しようとした。
「力強いポーズを決める……これ、会長が書いたんでしょ?」
「え、えっと、何言ってるんだ?ハハハ、そんなこと覚えてないよ〜」
ユリオンは目を逸らし、しかしその動きで緋月は自分の考えが正しいと確信した。
「力強さね〜ハハハ、面白そうだ!緋月、君、筋肉見せるつもりか?俺は『カニポーズ』をおすすめするぞ、胸筋をしっかり見せつけられるからな」(※『カニポーズ』は、ボディビルの大会でよく見られるポーズで、選手の胸筋、肩、上腕、前腕の筋肉の発達を強調するためのものだ。)
(シーラー、お前は命を捨てるつもりか!?)
緋月の視線がシーラーに向けられると、ユリオンはホッとしながらも、無茶をしているシーラーのことが心配になった。
緋月は満面の笑みで立ち上がり、シーラーに向かって歩き出した。
「いや、もっと直接的な方法があるよ」
「え?わあああ――!」
次の瞬間、強烈な圧迫感がシーラーの顔を覆った。
緋月は細い指でシーラーを掴み、彼の体を持ち上げた。
「いたったったった、す、すまん……!ヒ、緋月〜――!」
「確かに『力強さ』が感じられるわね……」
アシェリはこの愚かなカップルを見て感嘆し、シーラーの声にわずかな楽しさを感じた…それがただの錯覚であってほしい。
「で、次は俺か?順番がすっかり狂っちゃったな…」
ユリオンは苦笑しながら手を箱に伸ばし、次の『指示』を書いたカードを取り出した。
「会場で最も軽い体重の人を背負って、腕立て伏せ10回やれ……これ、何だよ?」
それを聞いて、部屋の中の人々……特に女性陣は、鋭い視線をユリオンに向けた。
女性にとって体重に対する関心は男性以上に強いからだ。
でも、女性の体重に触れること自体が禁忌で、『最も軽い』女性を選ぶことなど禁忌中の禁忌だ。
(……少しでも間違えると大惨事になるな。)
彼はこの危機的状況を避けるため、頭をフル回転させて、巧妙な計略を思いついた。
「それじゃ、シーラー――」
「あらあら〜ユリ、何してるの?こんなズルい方法使って、君も狡猾すぎじゃない?」
「……」
ユリオンの計画は、アシェリにすでに封じられていた。
(さて、どうすればいいんだ……)
時間稼ぎのため、ユリオンはスキル<思考加速>を発動した。
通り抜けられない状況なら、一番安全な選択をしないと、誰にも恨まれずに済まない。
「ふう……」
彼は深く息を吸い、左側に座っている少女に視線を集中させた。
「え?」
彼女が視線に気づき、リゼリアは目を少し大きく開けた。
「リゼ……お願いしてもいいか?」
「ぷっ、ぷっ!ユリ、ほんとにずるいわね。」
アシェリは不満そうに頬を膨らませ、ずるい方法を使うユリに抗議した。リゼリアは非常に親しみやすいため、ほとんどすべてのギルドメンバーと良好な関係を保っており、彼女を選べば誰も異議を唱えることはなかった。
アシェリの不満の声を無視して、ユリオンは再度リゼリアに確認した。
「うん……わかったわ。」
彼女は恥ずかしそうに頷き、その後ユリオンの後ろに従って席を立った。
二人は少し歩いてから、ユリオンが脚の先を地面につけ、手のひらで体を支えた。
それを見たリゼリアは、慎重に横向きに座ってユリオンの背中に乗った。彼女の頬は赤く染まり、声が少し震えていた。
「こ、こうでいいのかな?あの、私重くないかしら……?」
「全然重くないよ。むしろ、君は本当に軽いな、最近ちゃんと食べてるのか心配になってきたよ。」
「うう…そう言われると、なんだか恥ずかしいな…」
リゼリアは恥ずかしそうに太ももをこすったが、その動きがユリオンに思いがけない影響を与えた。
(柔らかい……違う、そうじゃない!俺は何を考えてるんだ、落ち着け、深呼吸――うっ、あ!)
背後から続く刺激に、ユリオンの心は乱れていった。
リゼリアの体型は細身で、シーエラのように胸が大きいわけではないが、それでも女性らしい魅力に満ちている。特に今の状況は、ユリオンの考えをさらに確証させるものであった。間近に迫る長く美しい脚や、背中にぴったりと乗ったしなやかなお尻だ。
ユリオンはその柔らかく弾力のある感触をもっと楽しみたかったが、これ以上続けていたら、ある部分が完全に制御不能になりそうな気がした。仕方なく、10回の腕立て伏せを急いで終わらせ、この気まずい状況から抜け出さなければならない。しかし、体はまるで動かないかのように固まっていた。
「おい――あっちの二人、くっつかないで早く始めなさいよ〜」
アシェリは悪巧みの笑みを浮かべ、少しからかうような口調で言った。そのおかげで、ユリオンはついにその抗しきれない誘惑から解放された。
彼は急いで10回の腕立て伏せを終え、リゼリアを背中から降ろした。
その柔らかさが少し名残惜しかったが、ユリオンはよく理解していた。このまま続けたら、皆の前で「杭打機」になってしまうかもしれないので、どんなことがあってもそれを避けなければならない。
小さなハプニングがあったが、ゲームは順調に進んだ。
数ラウンド後、ユリオンのターンが再びやってきた。彼は箱からカードを取り出した。
「一気に紅茶を飲み干す。なんだ、これ簡単すぎじゃないか。」
カードの内容を読んだ瞬間、シーエラが微笑んだ。
「え、それ誰が書いたんだ?そういえば、紅茶準備してた?」
「どうもないみたいだけど、飲み物で代用する?」
シーラーとアシェリが話している間に、シーエラはトレイを持ちながら、優雅にユリオンの横に来た。
「ユリオン様、もしよろければ、このワインに変えてもよろしいでしょうか?」
「まあ、俺は構わないけど…ワインで大丈夫なのか?」
ユリオンは仲間たちに確認したが、誰も反対しなかったので、彼はシーエラの好意を受け入れることにした。
「ありがとう、シーエラ。それじゃ、いただきます――ふぅ……」
彼はワインを一気に飲み干し、長い息を吐いた。
ワインの度数は低く、通常なら一杯を急いで飲んでも酔うことはない。しかもユリオンは「毒免疫」の能力を持っているため、アルコールが彼に影響を与えることはないはずだ。
本来なら、そうであるはずだった……
「うっ…」
シーエラから渡されたワインを飲んだ後、強烈なめまいが襲ってきた。
ユリオンの意識はぼやけ、目の前のものが歪んで見え、焦点を失ったカメラのようだった。
(ま、待って、これ…!?俺、酔っ払ったの…!?どうして俺が――)
強烈な眠気が彼の思考を鈍らせ、完全に考えが止まった。結局、彼は力なく机に伏せ、完全に動けなくなった。しかし、意識は完全に消えることはなく、半分寝て半分起きているような状態になった。
「ユリオン様、ユリオン様――」
シーエラは心配そうに彼の肩を揺すったが、ユリオンは反応せず、まるで眠っているようだった。
彼女の目には心配の色があったが、口元には不適切なほど微笑みが浮かんでいた。それを察したアシェリは、思わずくすりと笑った。彼女はシーエラの演技に協力し、シーンを演じた。
「あら〜ユリ、疲れたのかしら?シーエラちゃん、彼を部屋に『休ませる』ことができるかしら?」
「ご心配いただき、ありがとうございます、アシェリ様。ユリオン様を部屋までお連れしますので、皆様、どうぞご理解ください。先に失礼いたします。」
残りの6人の君臨者に別れを告げた後、シーエラは慎重にユリオンを支えながら部屋を出た。エレノアは黙って後ろに回り、ユリオンのもう一方を支えて三人でユリオンの部屋に向かった。
「シーエラ、ユリオン様…大丈夫でしょうか?」
「大丈夫です。意識は完全には失っていません。ただ、しばらく動けなくなっているだけです。」
シーエラは自信満々にエレノアの質問に答えた。
彼女は妖艶に唇を舐め、そして続けて説明した。
「美羽が特別に調整したワイン、効果が予想以上に良かったわ、ほんとに助かりました。」
そう、ユリオンが先ほど飲んだワインは美羽が特別に調整したものだ。そのワインは、使用者の筋力と防御力を短時間で大幅に強化し、その効果の間に強力な回復能力も付随している、いわゆるバフアイテムだ。
しかし、このアイテムには厄介な負の効果がある。それは、使用者の意識がぼんやりとして、半分寝て半分起きているような状態に陥ることだ。この状態は「毒素」によるものではなく、アイテムの持つデバフによるものであり、ユリオンの「毒免疫」能力を回避できる。
シーエラの説明を聞いたエレノアは軽くため息をついた。
「はぁ、彼女がこんなものを作るなんて…才能の無駄遣いかしら…?」
「だから今夜は彼女に先に来てもらうつもりだったの。あたしはあまり気が進まないけど、すでに話をつけているから、もう後戻りはできないのよ。」
シーエラは仕方なく肩をすくめ、開き直ったような表情を見せた。
その時、エレノアはふと思い出したことがあり、シーエラに確認を取った。
「そういえば、ティナたちも後で来るんでしょうか?」
「そうだよ、だから彼女たちが来る前に、先に楽しんじゃおう。」
二人はお互いに微笑み合い、いつの間にか目的地に到着していた。
部屋のドアを開けると、サンタの衣装を着た狐耳の少女が前に歩み寄り、迎えてくれた。
「やっと参られたか、妾は待ちかねておったぞ。」
そこにいたのは美羽だった。彼女は先にユリオンの部屋で三人の帰りを待っていた。
「お待たせしました、みんな待ちきれないようですね。じゃあ、さっそく始めましょうか。」
シーエラはにっこりと微笑み、二人の仲間とともに、意識が朦朧としたユリオンを寝室に連れて行った。
今年のホワイトクリスマスの夜は、きっと眠れない夜になるだろう。