Ep 20:方舟要塞の夏祭り⑥
激しい肉体運動を終えたシーエラは、喉の渇きを感じ、水分補給をしたいと提案した。
そのため、ユリオンは彼女を連れて、近くの屋外レストランへ向かうことにした。
移動中、水路のそばに立つ狐耳の少女が、ユリオンの目を引いた。
その少女は美羽で、普段の巫女服とは異なり、成熟したセクシーな黒い水着を着ていた。
彼女は静かに遠くを見つめ、その背中はどこか寂しげに見えた。
ユリオンは足を止め、声をかけるべきかどうか悩んでいた。
その時――
「ユリオン様、あたしが先に席を確保しておきますので、どうぞお先に失礼します」
「……ありがとう、シーエラ。それでは後で会いましょう」
「うん、後で会いましょう〜」
ユリオンの心を見透かしたようなシーエラは、微笑んで彼に感謝の意を示した。
今日の来場者は少なく、実際にはレストランで「席を確保する」必要はないのだが、シーエラがこう提案するのは、明らかに自分と美羽が二人きりになる機会を作りたかったからだろう。
エルフ少女の気配りに、ユリオンは心から感謝。
迷いを捨てて、美羽に声をかけることにした。
「美羽、君も来ていたんだね」
「ええ……あら〜主君、その装いはよく似合っていますよ」
「あはは……ありがとう。珍しく、君が巫女服を着ていない姿を見ることができて、本当に似合っているよ、美羽」
「ふふ〜お喜びいただけて、妾も嬉しゅうございます」
ユリオンと話している美羽は、先ほどの寂しげな表情は見せず、笑顔で応じていた。
彼女は賢く、表情を隠すのが得意で、問題なさそうな態度を装っている。
ユリオンが彼女の心情を探ろうとしても、多分彼女の巧妙な隠し方に引っかかるだろう。
もし交流が得意な人なら話題をどう切り出すか理解できるかもしれないが、ユリオンはそのタイプではない。
「美羽、あの……さっき君は何を見ていたの?」
少し迷った後、ユリオンは率直に尋ねることにした。どうせ隠しきれないだろうと考えた。
「主君にご報告申し上げます。妾は……ただ見惚れてしまいました」
「見惚れ?」
美羽の答えに、ユリオンは首をかしげた。
「このような場所、妾は生まれてこの方一度も見たことがございません。あの趣深い施設も、巧妙に考えられた建築の配置も……さすがはアシェリ様、これほどの造りを再現されるとは」
彼女は下からユリオンを見上げ、その人形のように精巧な横顔に、甘い笑顔を浮かべた。
「なるほど……これが主君がご覧になった景色なのですね……<Primordial Continent>とは異なり、主君のお住まいの世界でしか見られない造物を目にすることができるなんて……妾は本当に幸運な者でございます」
彼女の真摯な目は、これが表面的な言葉ではなく、心からの感想であることを伝えていた。
ただ自分のことについて理解が深まっただけで……正確には、自分に関連することについてこんなに喜ばれていることに、ユリオンは心が温かくなった。
感情を抑えきれず、ユリオンは突然両手を伸ばして、美羽の柔らかな体を抱きしめた。
「主、主君!?」
「美羽――」
貴重な物を扱うように、ユリオンは愛おしそうに美羽の背中を撫でた。
「今夜は、一緒にいてほしい。君がほしいんだ――美羽」
「――!」
優しい言葉が耳に響くと、狐耳の少女は肩をわずかに震わせた。
愛する主人からの求めに、美羽は驚きの目を見開いたが、すぐに我に返り、申し訳なさそうに顔を下げ、ユリオンの視線を避けた。
「主君……妾よりも、他に誰かがいるではありませんか。もう少しご考慮ください」
「……なぜそう言うの?」
普段は自分に仕えてくれる少女が、ここで自ら引き下がるのは異常なことだ。
『もし美羽をこのまま見送ったら、後で後悔するかもしれない』という考えは根拠がなく、完全にユリオンの直感から来ている。
「先ほど、作戦中に失態をして……主君に余計な心配をかけてしまいました。今の妾は、主君の愛を受ける資格がありません……」
ここでユリオンは、彼女が抱えていた悩みの理由に気づいた。
以前の<侵入者殲滅作戦>で、美羽がうっかりして敵に原初級アイテムで胸を貫かれたことがあった。もし続けて戦っていたら、美羽が勝つのは間違いなかったが、彼女が負傷したのを見て、冷静を失ったユリオンが戦闘に介入したのだ。
「資格がないって……誰が決めたんだ?俺は君に資格があると思っている、それで十分じゃないか?それとも、俺の判断が間違っているとでも?」
「そんなことはありません!主君……ですが、本当にこれでいいのでしょうか……?」
「どうしてダメなんだ?俺が欲しいのは君だ。君の代わりは誰もいないから、自分を軽く見ないで、美羽」
「主君……」
この真摯な告白を聞いた美羽は、再び顔を上げ、ユリオンと目を合わせた。
「不才ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
頬が赤く染まり、少し恥ずかしそうな甘い笑顔を浮かべた。
このタイミングに合わせるように?遠くの空に、いくつかの光が上がった。
それはアシェリが用意した花火で、現実の花火の作り方は知らなかったため、発射型の魔法アイテムを使って似たような効果を出したのだ。
「美しい……」
空を見上げる美羽は、子供のような純真な笑顔を浮かべていた。
「うん、本当に美しい」
ユリオンは、花火に照らされた美羽の美しい横顔を見つめていた。
一つ一つの光が点灯し消えていく中で、抱き合う二人はまるで一体になったかのようだった。
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