Ep 16:方舟要塞の夏祭り②
<ヒュドラ>支部の掃討戦が終わった翌日――
一人で<方舟要塞>に戻ったユリオンは、会長室で前日の作戦に関する報告書をまとめていた。その<ヒュドラ>支部の壊滅作戦はユリオンの独断で行われたため、事前に仲間たちと相談していなかった。また、王国の高層と密接に結びついているため、適切に処理しないと王国全体に影響を及ぼす可能性があった。
「ふぅ――やっと一段落だな……」
書類作業から解放されたユリオンは、椅子の背もたれに体を預けて、長く息をついた。
「お疲れ様です、マスター。お茶をどうぞ」
「うん、ありがとう」
天使のように白い羽根を持つ青髪の少女、フィリアは手際よくお茶のカップを差し出し、軽くお辞儀をした。
彼女のあまりにも丁寧な態度に、ユリオンは少し困ったように笑った。
(実際、そんなに敬意を示さなくてもいいんだけど……)
フィリアが近侍として任命されてから、ユリオンが<方舟要塞>に戻るたびに彼女は必ず側にいる。フィリアだけでなく、彼女の部下である新.禁衛軍<天数序列>も、常に4人を近くに配置する。現在、部屋には2人しかいないが、残りの2人は外で待機している。
ユリオンは拠点内にそんなに厳重な警備は必要ないと表明したこともあるが、フィリアは「主人の安全を守るのが<禁衛軍>の最重要任務です」と言って、いつも却下されてしまう。
「……」
彼はカップを持ち、まだ温かいお茶をすすった。
「まあまあ」とユリオンが最初に感じた感想だったが、それだけにとどまった。エレノアと比べると、フィリアの技術は高いとは言えず、茶を好まないユリオンでも違いが明らかに感じられた。
「失礼いたします、マスター……お茶の味が合わないでしょうか?」
ユリオンが黙ってお茶を飲んでいるのを見て、フィリアは不安そうに質問した。
彼は最初はそのまま誤魔化そうと考えたが、フィリアの真剣な眼差しを見て、正直に言うことに決めた。
「……美味しいけど、もっと精進が必要だね」
「はい、心に留めておきます。次回は満足していただけるお茶をお出しできるように努めます」
彼女は深く頭を下げ、決意を込めた声で答えた。
フィリアが気を落とさなかったことに、ユリオンは内心でホッとした。
美羽からの情報によれば、フィリアが『近侍』に任命されてから、私的にエレノアに頻繁に相談して、自らの秘書としての能力を磨いているという。彼女はもともと下級NPCたちの教官として徹底した『武人』であり、今は新たな役割に適応するために努力している。
ユリオンは自分と重ね合わせてしまった。もともとは新人職員だったユリオンが、この世界に来てすぐに数百人のNPCたちの『王』となり、今もなお適応に努力している。主人と従者が同時に立場の変化に直面していることに、ユリオンはフィリアに対して特別な親近感を抱いていた。
なぜかフィリアが視線を横目で送り、何かを言いたげな様子を見せていた。
「……」
「うん?どうした、フィリア?」
彼女が自分をじっと見つめているのに気づき、ユリオンは少し困惑して尋ねた。
「ええ…何、何でもありません!」
「?」
彼女の視線は彷徨い、声も自然に上がっていた。普段は表情の変化が少ないフィリアが、このように落ち着かない様子を見せるのは珍しい。
さらに、門のそばにいる2人の<天数序列>の護衛も、フィリアを気遣っているようで、彼女たちも何かを知っている様子だった。
フィリアがなかなか口を開けないため、とうとう耐えかねた護衛の一人が提案した。
「ユリオン様、もう昼です。昼食の準備をお手伝いしましょうか?」
「もうそんな時間か?時間が経つのが早いな……」
(体質が変わってから、時間の感覚がぼやけてきた気がする)
最高階種族『進化人種』として、ユリオンは睡眠や食事を必要とせず、全身全霊で仕事に集中するうちに時間が経つのを忘れることが多い。
とはいえ、食欲が全くないわけではなく、過去と同じように美味しいものを楽しむことができるのは幸いだ。
朝から現在まで、フィリアを含む護衛たちがずっと付き添って休むこともなく守ってくれていることを思い出し、ユリオンは部下の意見を受け入れることに決めた。
「確かに。せっかくの機会だから、君たちも一緒に食事に行かないか?」
「そ、それは……マ、マスター――」
「うん?どうした、フィリア?」
彼が皆を食事に誘おうとしたその時、フィリアが突然声を上げた。
彼女の呼吸は速く、顔色も少し赤みがさしており、普段の凛々しいた表情が消え、焦りが見て取れる。
その時、ユリオンは気づかなかったが、ドアの両側に立つ二人の少女禁衛も静かにフィリアを応援するポーズをとっていた。
フィリアが少し変わった様子を見せたので、ユリオンは黙って彼女が話し終わるのを待った。
ついに、フィリアが決心したように口を開いた。
「マスター、もしよろしければ——」
【( •̀ ω •́ )✧ヤ――ホー~~~ユリユリ~~聞こえますか?】
【アシェリ……?どうした、何かあったのか?】
フィリアが言葉を続けようとしたその時、ユリオンは友人のアシェリからの通信を受けた。彼女は普段<伝訊魔法>で連絡してこないため、ユリオンは少し興味を持った。
主人が仲間と通話しているのを見たフィリアは、口にしかけていた言葉を飲み込むしかなかった。
彼女の表情には少し残念そうな様子がありながらも、どこか安心しているようにも見える。
【w(゜Д゜)wユリ、今どこにいるの?暇?】
【暇ではある……それで、一体どうしたのか?】
【(o゜v゜)ノ早くこっちに来て、ここで待ってるよ~~】
【╰ (╬▔皿▔)╯ちょっと、切らないで!!一体どこなんだ!?】
自分が必要なことを伝えたと思ったアシェリは、ユリオンが話し終わる前に<伝訊魔法>を中断した。あまりにも気まぐれな友人に、ユリオンはふっとめまいを感じた。
彼は再び連絡を取り直し、会う場所を確認した。それは<方舟要塞>の四大区域の一つ、『レジャーエリア』だった。
「はぁ――無駄にエネルギーを消耗してしまった……」
呼吸を整えた後、ユリオンはフィリアたちに向き直った。
「アシェリから連絡があって、これからレジャーエリアに行くことになった。君たちは先に休んでいてくれ――」
「失礼いたします、マスター。私たちも同行させてください」
「……拠点内の警備はそこまで厳しくする必要はないと言ったはず。適度に休むことも大切」
「禁衛として、マスターの側を離れるわけにはいきません。それをご理解ください」
フィリアは深く頭を下げ、その後ろにいる二人も同様の動作をした。
彼女の目には譲れない意志が込められていた。
「わかった。それなら頼むぞ」
「はい!」
こうして、5人の美少女禁衛に付き添われて、ユリオンは改装中のレジャーエリアへと向かった。
本作をお読みいただき、誠にありがとうございます。
これからも引き続き頑張って執筆してまいりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
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