少女が銃士を目指すわけ
ある一人の少女がこの国の首都であるパニナサに乗り合い馬車でたどり着いた。
「此処で一旗上げれば、義父樣達に楽をさせることができるわ」
同乗者の一人がそれを聞いて訊ねる。
「お嬢ちゃん、一旗ってどうするつもりですか」
「それは銃士隊に入り名を上げるつもりですが」
彼女がそう答えた。
「そうかい、ガンバレよ。嬢ちゃん」
その同乗者がエールを言う。
「はい、わかりました」
彼女は笑顔で答え、早足でその場を離れた。
彼女は周りを見渡して呟く。
「何処に行けば、銃士隊の試験を受けられるのだろう」
その時、助けを求める叫び声が響いた。
彼女はその声が聞こえた場所へ向けて走り出す。すると、そこには、ゴロツキに絡まれている親子連れがいる。
「あなた達、なにをしているのですか」
彼女が声をかけると、そのゴロツキ達は彼女を睨みつけた。
「なんだ。小童」
「その人達から、離れなさい」
彼女は睨み返して、言った。
親子はその言葉を聞いて言う。
「駄目です。危ないです」
「大丈夫です」
彼女がそう言って、腰の剣に手をかけようとすると、ゴロツキ達がニヤリと笑いかけるが、ある男性が現れて、剣を抜こうとした彼女の手に手をそえた。
「此処では不用意に、剣を抜いてはイケないよ。お嬢ちゃん」
その男性は彼女が入りたいと言っていた銃士隊の制服を着ている一人の五十代後半の男性が現れる。
「アトラス様」
親子の母親がその男性を見て声を出した。
「やあ、スタシスさん、大丈夫ですか」
アトラスと呼ばれたその男性が、女性に声をかける。
「アトラス様、ありがとうございます」
「なんだてめい、邪魔するな」
ゴロツキ達かアトラスを睨みつけると、彼は言った。
「私は銃士隊アトラス隊隊長のアトラスだ。これ以上の狼藉は許さない」
「アトラス隊だと」
ゴロツキ達はその名を聞きつけると、恐怖し始める。
「引くのなら、今回は勘弁してやる、さっさと失せろ」
その言葉を聞くと、ゴロツキ達は慌てて消えて行った。
「ありがとうございます。アトラス様」
「すいません、思わず、剣を抜こうとして」
母親が頭を下げて、少女の方も頭を下げる。
「そうだな、簡単に剣に手を掛けるのはいけないよ。それだと、憲兵や銃士になれないよ」
アトラスが彼女に静かに言った。
「わかりました。以後、気をつけます」
「ところで、キミの名前は」
アトラスが訊ねると、少女は襟を糺して口を開く。
「わたしの名はジャンルク・サヤナスです」
「そうか、ジャンルクか、がんばれよ」
ジャンルクが答えると、彼は笑いその場を離れて行った。
「ねぇ、あなたは銃士隊に入りたいの」
スタシスが訊ねると、彼女は答える。
「はい、銃士隊に入り名をあげて、私を育てくれた義家族を再びこの首都へ暮らせる様にしたいからです」
「そうなのね、頑張ってね」
スタシスはジャンルクに笑いかけた。
「それでは、失礼します」
彼女は宿屋へ向けて歩き出す。
その後ろ姿を、スタシスは考え深く見つめた。