表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

義母は悪役令嬢様

乙女ゲームよくわからなくて、想像で書いてます。すみません。

わたしはマリナ・エル・S。8歳。

アルストロメリア王国の姫である。

このたび王の弟にして皇太子たる父が再婚し、新しい母ができた。

彼女はエリーザといい、見た目はきつそうだが、美しい方だった。

しかし、彼女は様子がおかしかった。


「あら、ごめんなさい!わたしとしたことが!」

あたりの女性をにらみ、たまに意地悪をする。

いくら父が人気者でも、嫉妬は良くない。

「絶対ヒロインになんて渡さないんだから……!」

新しい母であるエリーザ様は、まわりにも目もくれず、ある女性ばかり睨んでいた。

それは、あの優しいので有名なとある貴族令嬢、ネーラ様。彼女を「ヒロイン」と影で呼び習わし、かなり敵対心を燃やしている。ヒロインなら、いい意味にも感じるが、エリーザ母様はそれがまるで悪い言葉かのようにいつも扱っていた。

ネーラ様は貴族社会ではかなり下層の令嬢で、いじめられることも多い。しかし、とても優しく、誰にでも分け隔てない。階級を意識しないあたり、貴族らしくないとも言われるが、影では人気が高い。時折必死の形相で誰もいない廊下を駆けずり回ってもいるし、私や周りのことをたまにいないかのように扱うが。奇跡のように不思議といつも気が利いて、一部の男性たちにはとくに、評判がいい。

しかし、それも母には気に食わないようだ。


「良くないですわ、あんなの。マリナはあんなふうにならないようにね」

「ネーラ様のどこがそんなに?」

「だって、誰にでもいい顔をして、愛されようと計算高いし。人によって細かく態度や雰囲気を変え、趣味まで取り繕う。あれは攻略サイトの丸暗記……ただの予測とデータに基づくものにすぎないのよ」

「お母様?なんのことですか?」

「……なんでもありません」

母は気まずそうに黙り込んだ。母は私にだけはこんな話をしている。よくわからないが、ネーラ様にも聞いてみようかな……?


植物園で青い薔薇に水をやるネーラ様。わたしは明るい日差しのなか、そこへ駆け寄った。ネーラ様は微笑んでこちらを見た。わたしは大きな声で、元気よく挨拶すると、まっすぐ単刀直入に聞いた。

「ネーラ様、『転生者』って、『攻略サイト』ってなんですか?未来予測や人心掌握のためのチート、カンニング行為?だって、母は言ってましたけど」

途端にネーラ様は笑顔のまま硬直した。そして小声で早口に言い出した。

「わ、わたしはただ、みなさんを心配して……貴族の方々には、良くしていただいてますから……だから……」

よくわからないが、どうやら、なにかの言い訳をしているようだ。

母いわく、ネーラ様はタイミングが良すぎるところがあるらしい。

宮廷に出入りする商人や詩人の方々、魔術士様や騎士隊長様や現王様、その弟でわたしの父。ネーラ様はなぜかそういった、とくに若くて女性に人気の高い男性ばかりに、助け舟を出すという。見計らっているかのように、タイミングよく出くわしては彼らと語らい、偶然持っていた所持品が彼らにとてもよくお気に召し、不思議と一言一言のどの発言も、彼らの心をしっかりと掴んでいるようだ。

ただの偶然、といえば間違いなくそうだ。どう見ても。

しかし、母が言うような『チート』……つまり、ズル行為ならば、やはりいただけない。ズルはよくない、と大人たちにはよく言われているからだ、わたしにも。


やっぱり、きっとネーラ様はずるいんだ。

わたしは母に聞きに行った。

母なら、きっとそんなネーラ様をなんとかしてくれるはず……。

すると、母は書斎で誰かと話していた。

「近寄らないで、あなたにはもう関わらないわ!」

「わたしにはわかるよ。あなたは底辺令嬢ネーラを憎んでいるに違いない。あなたの伴侶である皇太子に近づき、好意を寄せられていてもおかしくはない。」

「でも、あなたと関わったら、フラグが……!イベントが進んでしまう……だから、近寄らないで!」

「ふふ。なんのことやら。」

見慣れないフードの老人は窓越しにわらった。

ところで、ここは3階のはずだが、外から話しかけるとは……?高位の魔術士なのかしら?それなら、国が召し抱えていないなんて、不思議だ。

「とにかく、これを。あなたがこれを手放せば、どうあれたちまちあの者の手に渡り、あの者を傷つけるはず。」

「だから、これを受け取ったら、わたしの娘がやがて衆人の面前で証言してしまう!わたしが悪の魔術師とつながっていると!」

母は本棚の隙間からのぞくわたしを探すように、首を巡らせた。母はわかっているのか?

「いるんでしょ、マリナ。母さんはなにも受け取ったりしないわ!だから信じて!」

わたしは思わず息を潜めた。悪の魔術師はにらむように部屋中を見渡した。そして、物陰のわたしを見すかしたように、笑った。

「あの小娘か……それくらい、いますぐ消してさしあげるけど?」

「やめて!それはそれで、夫になんと言われるか!わたしはこれ以上疑惑を積み重ねるわけにはいかない!」

母は叫んだ。エリーザ様は義理の母なので、私にもとりわけまだなにかの思いはないが。

悪の魔術師の老人は笑った。

「しかし、もう作ってしまったからね。この『憎しみの水晶玉』は。わたしも、もてあましてるんだ。あんたが買うと思って作ってやったんだよ。……はは、わたしを知ったが運の尽き、か。あなたはまるで悪役だ。運命からは逃れられんよ。」

老人はそう言うと、母の手にむりやり、濁った水晶玉を渡そうとした。

「これは、あんたがいちばん憎む者を傷つける……あんたはこれが欲しいはずだ。わたしにはわかるよ。」

「やめて!」

わたしはあたりを見回した。だれか母を助けてくれる人は……。

そこへ、ネーラが現れた。近くの廊下を必死に走る様子は、いつもの上品で優しい雰囲気ではない。しかし、よく見る光景だ。

「イケメン魔術師ハル様のお昼寝の時間までに、偶然を装いお茶会を……!そしてこれを……!」

「ネーラ様!」

わたしはその前に囁きながら立ちはだかった。ネーラはびっくりした様子で立ち止まる。

「ま、マリナ姫様……どうされたのですか?」

非常に焦った様子のネーラを、わたしは手を引いて連れ込もうとした。私は焦りで半泣きになっていた。

「大変なの!助けて!」

「う、マリナ様は王弟の娘さん……逆らうわけには……でも、こんなイベントあったっけ?」

わたしはネーラを連れて書斎へ戻る。魔術師は逃げ回る母ににやにや笑いかけながら、魔法を唱えていた。

「あ、あなたは!」

「ん?あんたは……」

「げ、ヒロイン……!」

母はネーラを見て思わず言ってしまったようで、すぐさま口を抑えた。

「ちょうどいいわ、助けて!」

母はすぐさまネーラの後ろに隠れた。そこへ魔術師の魔法が発動し、濁った水晶玉はネーラの手へ飛んでいった。

「あ、これって……あれ?」

「そう、あれよ。」

母はネーラの背後で笑った。ネーラは青ざめた。

「わ、わたし違います!これを持つべきは……悪の魔術師とつながる悪役令嬢のはず!そしてなんだかんだで、わたしは悪役令嬢のいじめから庇われて、皇太子様に愛されることに……」

「やっぱり……!あんた何を企んでるの?だれが悪役令嬢よ!カンニングヒロイン!」

「きゃー!」

取っ組み合う母とネーラ。すると、ふとネーラはつぶやいた。

「あ、いつも攻略チャートから外してたけど、いま近くに皇太子様が……」

「……何をしている?」

「あ」

廊下からの声は、皇太子たる父のものだった。

あっけにとられ、母とネーラは取っ組み合ったまま硬直した。

すると、ネーラの手から滑り落ちた水晶玉。

「これは?」

父はそれを拾い上げた。悪の魔術師は言った。

「それは、私から受け取った持ち主が、最も憎む者を傷つける……」

「なに?」

水晶玉は、不穏ないかずちを発し、それは部屋中を包んだ。

「キャー!」


目を開けると、父は真っ黒コゲになっていた。

「お父様!」

わたしは驚き、すがって泣いた。

「まさか、ネーラが憎んでいたのは……」

「どういうことだ、ネーラ」

父はネーラを睨んだ。

「こ、皇太子様は……ルートによっては……わたしの最推しのイケメン魔術師様を……悪の魔術師と間違えて処刑するから……イケメン魔術師様を救うには、皇太子様を惚れさせ、ギリギリでフッて、すぐにイケメン魔術師様の好感度上げを頑張らないとだし……好きでもないあんたのために、遠回りすろのがいつも苦痛で……でも、『アルストロメリア・ファンタジア』にしか、『ハル様』はいないから……!」

「ああ……そういえば、攻略難易度高いからね、彼は。隠し攻略対象だものね」

いつの間にか、母は憎しみの炎を目から消し、落ち着いてうなずいた。

「だけど、『憎しみの水晶玉』がわたしから発動するなんて。まさか、転生者が、悪役令嬢エリーザ以外にもいるの?」

「……きっと娘ね。王弟の娘マリナ。」

母は言った。わたしは驚いて振り返った。

「いえ、わたしは何も知りません」

「わたしにさんざん愚痴られてたでしょ。わたしはあなたにもネーラの秘密を喋ってしまった。だからマリナの行動は変化した。転生者でなくても、わたしの影響を受けたから……。」

「とにかく、どういうことだ」

父は怒った様子で言った。すでに書斎からは、いつしか悪の魔術師の老人は消えていた。

「わたしはネーラに憎まれ、いつか魔術師を処刑すると妄執され、そして魔法で焼かれたわけだが……。」

「ひぃ」

ネーラは青ざめた。魔術師の男性が好んでいたらしき青い薔薇が手から落ちた。

「待ってください、しかし彼女はわざとではありません!」

母は言った。

ネーラはほっとしたように母を見た。

「いつもごめんなさい、エリーザ様。あなたの夫を、わたしの推しのためにいつも惑わしたりして……これが最善のチャートな気がしますわ」

「な……わたしの最推しの王弟様を丸コゲにしといて!なんて厚かましい!」

「あ、す、すみません!」

ネーラは母に頭を下げた。

その背後で、父はイライラしたようにネーラを睨んでいた。

わたしはこっそり青い薔薇を拾った。ネーラはそれに気づかない様子で、父に別室に連れて行かれていた。母もついていっていた。

「この薔薇……ネーラ様、いつも……」


後日。

王弟である父の発言により、結局、ネーラは追放されてしまった。

驚きから悔しさへ変化していくネーラの表情を見ながら、わたしは父の座る玉座の近くで、椅子に座っていた。言われるがまま、いつものように。するといつもなら背景の一つのようにわたしに目もくれないネーラは、今日ばかりはわたしに目を向けて言った。

「ああ、マリナ様……あなたなら、わかってくださいますね。わたしの推しの魔術師ジャマダハル様は、異国で生まれて戦禍から逃げ、たゆまぬ努力の末、王宮に召し上げられたいわば、不幸属性のイケメン……彼は本来ならば、今頃わたしを『憎しみの水晶玉』で傷つけていたはずの悪役令嬢エリーザの証言から、悪の魔術師とつながっていると疑われて、あなたの父に憎まれ、処刑される運命でした。わたしがかわりになれるなら本望ですが……しかし……」

「おい、早口で何を言っている」

父は焦ったように言った。魔術師ジャマダハルは青ざめた表情で、無言で目をそらしている。

「ジャマダハル様、どうかご無事で」

「……話しかけるな、妄執の令嬢よ」

魔術師ジャマダハルはネーラに冷たく言った。ネーラは凍りつくように固まった。

悪役令嬢といわれた母は、父の横で、余裕そうに微笑んでいた。自分が手を汚させられず、『推し』というものであるらしき父も奪われず、色々ホッとしたのだろう。わたしが目を向けると、それに気づいて微笑んだ。今までにはなかったこと。わたしは驚きに、わずかに身を震わせた。

気づくと、わたしは思わずネーラに声をかけていた。


「ネーラ」

「……マリナ姫様?」

「ジャマダハルに、あなたが落としたもの、あげとくね」

「……ありがとうございます」

「それは……まさか」

「はい、あなたが求めていた青い薔薇です。もうわたしはいなくなりますが、姫様から受け取っていただければ」

「……ネーラ、おれは王宮務めをやめる」

すると、ジャマダハルは立ち上がり、背を向けた。

「え」

「家族を救うための薬のため、この国に入りこんで研究していたが、それが手に入れば、目的まであと少しだ。感謝する。おまえが追放されるなら、おれもついていこう」

「!」

ネーラは驚きと戸惑いに表情を変えた。

「わ、わたしのために?このタイミングで?ちょっと早いけど……逆転ハッピーエンド!?」

ネーラは泣きそうな顔から、一転満面の笑みに変わって言った。

「わーいやったー!」


青い薔薇を持ってネーラとジャマダハルは国を去った。

「うんうん、推しが違って取り合いにならないなら、よかったわ。あの子もよく見れば彼のため必死になってただけで、悪い子じゃなかったのよね。夫は一度丸コゲにされたけど……」

母は満足げだったが、父は言った。

「そのことだが、悪の魔術師とやらは本当にいたようだな?おまえがネーラを憎み、倒すためにあの水晶玉を受け取りそうになったと、ネーラは言っていたが」

「な!」

「わたしは魔術師というものが嫌いだった。怪しい術がではない、幼い頃から、なんども彼らの事故に巻き込まれていたのだ。そして、今回も……。そこで、なんならひとり残らず、この国から解雇すべきだと思っているのだ」

「え……」

母は悲しそうに凍りついた。

すると、わたしは言った。

「お父様、お母様は悪の魔術師を嫌っていました。ネーラ様を憎んだのも、あなたを思ってです。悪の魔術師はそれに付け入ろうと……しかし、絶対に触れられたくもなさそうでした。仲間だなんて、絶対に思わないであげてください。」

すると、母はほっとした顔をした。そして大声で付け足した。

「そ、そのとおりです!わたしたちのマリナ姫は見ていました!」

父は難しい顔をしていたが、やがて眉間のシワを消した。

「……そういうことならいいが。もしエリーザが悪の魔術師とつるんでいたようなら、わたしはエリーザをも追放してしまうところだった。マリナ、教えてくれて、ありがとう」

「ありがとう、マリナ!」

「……うん!」


わたしたち一家は、そうしていつしか以前より穏やかになっていた。悪役令嬢などと母は言われていたが、すっかりだれにも優しくなった。ネーラばかり睨んでいた目は、あれ以来ずっと、わたしや周りにもよく向けられるようになった。

そして、あれきりなにもそれらしき発言はしなくなった。フラグだの、攻略だの、転生者だの……。結局、それらは実際のところ、よくわからないままだった。『アルストロメリア・ファンタジア』とは?まあ、もうわからないし、気にしないけど。

それからは、わたしは王弟の娘として、幸せに暮らした。


お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ