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46話・寄生眼

すみません。今まで43話を投稿し忘れていました。修正したのでそちらもどうぞ。

「グゲオオオオオオオオオオッ!」

「うおおおおおおおおおっ!」


 俺が事の経緯を考察している間も、冒険者とランドジョーの戦いは続いていた。

 思いの外、連携が上手く機能している。


 その理由はスティングの指揮。


「盾持ちは前衛で堪えろ! 長物装備はその後ろから援護! それ以外は馬を守りつつ、俺の合図で盾持ちと交代っ。耐えるだけなら誰でも出来る――とにかく大きな負傷だけは避けるんだ!」


 荒々しい声音だが、彼の指示は理に適っている。

 最初こそ狼狽していた冒険者たちも、己の役割を告げられたことでいつもの調子を取り戻していた。


 一方、護衛対象の商人達は――


「だからこのルートを通るのはやめようと言ったんだ! 多少遠回りになっても安全性を取るべきだとっ!」

「モンスターなんざ何処にでも湧く! それより金をケチらずゴールドランクを雇っていれば……!」

「うぅ……もう、終わりだぁ…………」


 飛び交う怒声と悲鳴、罵詈雑言。

 馬車の中もある意味戦場だった。

 次の瞬間死ぬかもしれないのに、呑気な事で。


 まぁ、そうさせない為の俺たち冒険者なワケだが。


「フンッ!」

「グゲアアアアッ!?」


 三体目のランドジョーを斬り捨てる。

 他の冒険者も意気揚々とあとに続く。

 もちろん無傷ではない。負傷者も多い。


 それでも元々、数の上では五分五分の勝負。

 スティングの指揮と勢いが重なり、絶望的な空気はいつのまにか払拭されていた。


「おっしゃあ! いけるぞ!」

「びっくりさせやがって! 池に帰れや!」

「ウオラアアアアアアアアアアアアアッ!」


 徐々に五分五分の均衡が崩れる。

 逆転ムードが漂う中、俺は隙を見計らい索敵魔法を広範囲に使用した。


 この奇襲を手引きした、何者かを探すため。


「……そこか」


 森の奥。

 街道沿いから外れた先に、数体のランドジョーと思しき魔力を感知する。


「……ん?」


 微かな違和感。

 感知したランドジョーの魔力は四つ。

 しかし一つだけ、全く別の魔力を帯びていた。


 上から覆い被さるような魔力反応。

 その反応には覚えがある。

 加えて群れを成したモンスターの奇襲。


 ――点と点が、繋がった。


「フィジカルアップ」


 気づいた瞬間、肉体強化を施し戦線を静かに離脱。


 後顧の憂いを断つため、奇妙な魔力の元へ急ぐ。

 幸い戦況は冒険者側が遥かに有利。少なくとも「戻って来たら全滅でした」というオチは無いだろう。


 タスクもランドジョー程度に遅れは取るまい。


「数は……四体か」


 索敵魔法の反応に変わりなし。

 枝葉を切り捨てながら素早く走ること、約一分。

 視界の先に、ランドジョーたちが佇んでいた。


「……フン。やっぱりな」


 一番奥のランドジョーを見据えながら呟く。

 その個体の頭には『眼球』が引っ付いていた。

 大きさはサッカーボール程度。


 側面から触手のような管が伸びており、自らとランドジョーの頭を強く結び付けている。

 管を伸ばされた本体の目は虚ろ。


 まるで死体の如く生気を感じない。

 ……否。比喩ではなく、本当に死んでいる。

 生命活動を行っているのは、頭上の眼球。


 名を、パラサイトゲイザー。


 他の生物に寄生し体を奪う、卑劣なモンスター。

 何より特徴的なのは高い知性。

 人間の子供くらいの知性はあると言われている。


 対して通常のモンスターはお世辞にも賢いとは言えず、同族が眼球型の帽子を被っていたとしても気付かずに接してしまう。


 そうやって他種族の群れを乗っ取るのが、パラサイトゲイザーの常套手段。

 今回の襲撃もヤツの手引きに違いない。


 さて……既にパラサイトゲイザーは目と鼻の先。

 このまま魔法で一網打尽にするのが確実。

 他の冒険者に見られる心配もない。


 けれど折角だ。偶には剣士スタイルのまま戦おう。


「いくぞ――」


 まずは手前の取り巻きを倒す。


 一際強く地面を踏み、加速。

 至る所が遮蔽物だらけの森林だが、一足で宙を滑るように跳躍すれば躓くこともない。


「グゲッ!」


 距離的に最も近いランドジョーがこちらに気づく。

 しかし遅い。奴が声を発した瞬間、既に片手剣を切り上げる動作に入っていた。


 バチバチと雷迸る切っ尖が、空を裂く。


「ゲゲッ!?」

「――次だ」

「グゲオオオオオオオオオオッ!」


 瞬く間に一体を斬り捨て、残心。

 ランドジョー達の位置を正確に把握した後、再び片手剣を二度三度と振るう。


 都合、三体分の鮮血が大地を汚した。

 滑り出しは上々。

 俺は本命のパラサイトゲイザーへ冷淡に告げる。


「奇襲が出来ても、その後の集団戦はまるでダメ。所詮、モンスターの浅知恵だな」

「――」


 何本もの管が小刻みに震え出す。

 怒りを堪えるように、ユラユラと。

 そしてギョロリと眼球の視線がこちらを捉えた。


「グギギ、ギギギギギギギギギギギギギギッ!」


 返答は、激しい衝動に任せた攻撃。

 何本もの管を上下左右に展開したパラサイトゲイザーは、有無を言わせぬ迫力で一斉に放つ。


 あの管……触手の先端には麻痺毒が分泌されており、一度捕まると動きを大きく制限されてしまう。

 その間に脳を侵食されてしまえば、ご覧の通り。


 ランドジョーと同じく、哀れな傀儡の仲間入りだ。

 だが――


「荒いっ!」


 触手の網を掻い潜る。

 パラサイトゲイザーの弱点。それは寄生能力は脅威でも、本体の戦闘能力は極めて低いこと。


 触手の速度も遅く、避けるのは容易い。

 加えて煽り耐性ゼロの中途半端な知性。

 激情に任せた攻撃など、当たる筈もなく。


「ハアッ!」

「ググググググ、ギぎょッ!?」


 脳天という名の目玉へ、片手剣を叩き込む。

 ブヨブヨの眼球はあっさり刃を通し、気色悪い体液をぶち撒けながら萎んだ。


 連動するようにランドジョーの肉体も崩れ落ちる。

 宿主を失ったことで、元の死体に戻ったのだろう。

 死後も利用されるとは、少し哀れだ。


 まぁ……本来なら死んでいるのに、何故か転生している俺が言うのも何だけどさ。


「……戻るか」


 ポツリと呟きつつ、討伐証明の為にパラサイトゲイザーをランドジョーの頭から剥ぎ取る。

 さっさと戻って事情を説明しよう。


 早速、来た時と同じ速度で森を駆ける。


 数分と経たずに商隊へ到着し、スティングを探す。

 戦闘はまだ続いていたが、もう殆ど片付いていた。

 冒険者側の負傷者は増えておらず、皆壮健。


「よし! あともう一押しだ! だけど増援の可能性も捨て切れない! 最後まで油断せず――」

「その必要は、多分無いと思うぞ」

「む? 君は……って、そのモンスターはまさか!?」


 スティングはすぐに見つかった。

 彼は俺の持つパラサイトゲイザーを見て一瞬驚くも、狼狽えずに指揮を取り続ける。そして――


「――戦闘終了! 皆んな、よく頑張ってくれた!」

「うおおおおおおおっ!」

「よっしゃああああああああああっ!」

「はは! 生き残ったぞおおおおお!」


 スティングの勝利宣言に酔いしれる冒険者たち。

 負傷者も混じり、盛大な歓声を叫んでいる。

 そんな中、とある冒険者が不思議そうに呟く。


「けど、何でモンスターが徒党を組んで待ち伏せなんて……」

「ああ。その疑問については、恐らく彼のおかげで解決した。俺も詳しくは知らないけど――」


 スティングに説明を促される。

 俺はパラサイトゲイザーを掲げながら言った。


「森の奥に、パラサイトゲイザーが隠れていた。多分、ランドジョーに寄生して群れの主導権を奪ったんだろう。奇襲もコイツが絡んでいるなら納得出来る」

「成る程………うん。商隊のリーダーとして、お礼を。君のおかげで二次被害を防げた」

「偶々姿を見かけただけだ。俺の方こそ、勝手に現場を離れて悪い」

「いや、今ここで仕留めた君の判断は正しい。放置しておくには、危険すぎるモンスターだ」


 彼が柔軟な思考の持ち主で助かった。


 その後は商人達も交え話し合う。

 犠牲者の扱い等、問題は山積み。

 具体的な被害は死者数四人。馬車一台が半壊。


 一部の商人は「護衛失敗同然だ!」と憤っていたけど、最終判断を下すのは冒険者ギルド。

 兎にも角にも、まずはマトヤを目指すのが先決だ。


 遺体と荷物を可能な限り回収し、他の荷台へ移す。


「しかしよぉ、パラサイトゲイザーなんて滅多に現れねぇモンスターだぞ? 運が悪いぜ」


 出発準備の途中、近くの冒険者が愚痴を溢す。

 彼の言う通り、パラサイトゲイザーは魔獣の中でも目撃例が少ないモンスターだ。


 すると相方らしき男は虚空を眺めながら言う。


「最近、なにかとモンスターの動きが活発だからな…………あの噂もあるし」

「おいおい、それって『魔王復活』のことだろ? だはは! そりゃねえぜ! 噂以下のお伽噺じゃねえか!」

「んなこと、俺も分かってる。冗談だ冗談」


 他愛のない世間話。

 ……魔王か。

 勇者伝説の敵役も、記憶が正しければ魔王の筈。


 こちらの世界でも悪の代名詞的存在なのか?


「――よし、準備完了! 全員、気を引き締め直して再出発だ!」


 そんな事を考えていると、出発準備が整う。

 色々あったけど、こんなトラブルは冒険者稼業を続けていれば日常茶飯事。


 今日も命を拾えたことに感謝しつつ、商隊はマトヤを目指して走り出すのだった――

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