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44話・冒険者ギルド

「っおい! そっちに一体いったぞ!」

「了解」


 短い返答で済まし、腰から下げた片手剣を抜く。

 反りのない片刃は日本刀にやや近い形状。

 陽の光に照らされたその剣を正眼に構えた。


「グゲゲゲゲゲゲエエェェェェ!」


 耳障りな声を発するのはワニ頭のモンスター。

 充血した瞳。紫色の鱗。鋭い牙と爪。

 一目で危険生物と分かる親切な造形だ。


 そんな二足歩行の獣は大顎を開け迫り来る。


「ゲゲゲエェェェェ!」

「フンッ!」


 振り下ろされた右腕を、片手剣で弾く。


 瞬間、重たい感触が柄を経由して伝わった。

 生身とは思えないほどの硬度は流石モンスター。

 打ち合い続ければ刃毀れは必至。


 しかし――


「ギョ…………エッ!?」


 突然、ワニ頭の動きが止まる。

 顎を開けたまま、無防備に。

 俺は瞬時に喉元へ片手剣を突き刺した。


 ズプリと、刀身の半ばまでが喉に沈む。


「ギ、グ…………」


 瞳はすぐに生気を失う。

 絶命を確認した後、乱雑に剣を引き抜く。

 血塗れの刀身は微かに雷を帯びていた。


 モノに属性を授ける魔法『付与エンチャント』。


 俺の場合はもちろん雷。

 対象の体に流し込み、動きを封じる。

 皮膚がどんなに硬くても関係無い。


 属性以外にも重さを付与したり、逆に軽量化することも出来る便利な魔法だ。

 ――特に、敵味方が入り乱れる戦場においては。


 俺は出来る限り視野を広げ、周辺を俯瞰する。


「クソッタレ!? 何だこの数は!」

「楽な護衛依頼じゃなかったのかよ!」

「文句を言う暇があるなら一体でも多く殺せ! 本当に全滅するぞっ!」

「ああっ!? お、俺の腕がああああああっ!?」


 怒号と悲鳴が跋扈する戦場。

 数台の馬車を守るように戦う『冒険者』たち。

 彼らを襲う大量のモンスター。


 ワニ頭の正式名称は『ランドジョー』。

 人型のワニ、としか呼称出来ない見た目。

 身長は小柄な個体でも百七十センチはある。


 大きいヤツは二メートル近い巨体だ。

 現在、そのランドジョーの群れに襲われている。

 左右からの挟撃という、最悪のカタチで。


「……ハァ」


 どうして、こんな事態になってしまったのか。

 俺はこの依頼を受けると決めた、昨日の出来事を思い出す――




 ◆




 この国には『冒険者』という職業がある。


 冒険者を管理する【ギルド】へ寄せられた依頼に従い様々な場所へ赴く、言わば何でも屋。

 時に山奥。時に密林。時に近所の庭先へ。


 依頼の種類も多種多様。

 自分に合った依頼を受けるのが長生きのコツだと、一年前に死んだ先輩冒険者は言っていた。


 彼の死因はモンスター。

 現代の冒険者稼業において、最も多い依頼がモンスター討伐。つまり命懸けの害獣駆除だ。


 当然、まともな人間は誰もやりたがらない。


 故に役目を押し付けられるのは社会の底辺。

 身寄りのない子供や、仕事を失った大人。

 あるいは最初から社会に馴染めなかった者。


 そして、この俺自身も。

 生活費を稼ぐ為、定期的に依頼を受けている。

 学費は師匠が既に全額支払っていたようだ。


 ――彼女の思い出に浸りながら歩いて、暫く。


 三階建ての、立派な建物に辿り着いた。

 強度重視のしっかりした外観。

 窓は刑務所のように鉄格子付き。


 異様な雰囲気漂うここが、冒険者ギルド本部。


 ギルドの門を叩いたのは二年前。

 修行の一環で冒険者登録を行い、ある程度の依頼を受けていたのがキッカケ。


 最も、当時は近隣のギルド支部だったけど。

 本部に通い始めたのは引っ越してからのこと。

 収入源確保の為、再び活動を始めた。


「……相変わらずだな」


 フードを深く被り直しながら呟く。

 軋む扉を開けた先は、荒くれ者たちの巣窟。

 少なくない人数に意味もなく睨まれた。


 挨拶代わりの威嚇。まるで野生の猛獣だ。


 今の俺は灰色の外套を羽織っている。

 金属製の胸当てに、魔獣皮のブーツとグローブ。

 腰には鞘に収まった片手剣。


 パッと見は何処にでもいる冒険者の格好。

 もし学園の制服のまま訪れていたら、まず間違いなく絡まれる。ここはそういう所だ。


 視線を気にせず歩き、大きな掲示板前へ向かう。


 ギルド一階の構造は、大別して二つ。

 向かって右側は受付窓口。

 職員がカウンターの奥で待機している。


 ここで依頼の受注や達成報告、登録等を行う。

 どんな依頼も必ず窓口を通す都合上、いつも混む。

 受付嬢の容姿に比例して列が長くなる傾向にある。


 反対の左側は掲示板。


 掲示板には多数の依頼用紙が貼り出されている。

 冒険者は望む依頼を選び、受付で手続きを済ませれば受注完了。


 期間内に達成出来れば報酬を貰える。


 逆に失敗した場合は違約金を支払う。

 払えない者は問答無用で強制労働施設送りにされてしまう為、依頼は慎重に選ぶのが鉄則だ。


「うーん……」


 現在残っている依頼はどれもこれも魅力に欠ける。

 生捕りにした魔獣の散歩とか、ダメだろ色々と。

 他は浮気調査、草毟り、剣術の家庭教師――


「よお、クオン」


 依頼を吟味していると、背後から声をかけられた。


「残念だが、もうロクな依頼は残ってねえぞ?」

「そうらしいな」


 振り向いた先に立っていたのはスキンヘッドの男。

 彼の名はバン・ロッカ。

 元冒険者のギルド職員だ。


 引退した冒険者がギルドに就くのは珍しくない。

 現役時代の知識と経験を活かせるし、何より乱暴者の多い冒険者相手に臆さず対応出来る。


「せめて昼前には来ないとよ」

「昼間は他に、やる事がある」


 学園に通っていることは誰にも話してない。


「んじゃ、そんな忙しいお前さんに耳寄りの情報があるぜ?」


 最初からそれを話すのが目的だったのか。

 返答も待たずにバンは話し始める。


「明日、日帰りの商隊護衛に欠員が一人出ちまった。その商隊は度々ギルドを利用してくれる上客なもんで、出来れば空いた穴は埋めておきたい。心情的にも、戦力的にもな。そこでクオン、お前に代わりを務めてもらいたいってワケよ。どうだ?」


 急な欠員の補充。

 基本自分勝手な冒険者は、依頼当日に仕事を投げ出すことも少なくない。


「依頼主は信用出来る相手か?」

「そこは信じていい。ギルドの名に誓ってな」

「……分かった。なら、受けるよ」


 丁度依頼を探していたのだし。

 明日は休日で学園も休みだ。

 久々に王都の外へ行くのも悪くない。


 一つ気がかりなのはクラージュだが、一目も憚らずに彼女を拐うつもりならとっくにやっている。

 現状、強引な方法は取らない筈だ。


 仮に拐われても、取り戻せばいい。


「おお! 助かった! いやぁ、欠員の補充だからって中途半端な奴は送れねぇから困ってたんだ」

「大した信頼だな」

「そりゃそうだ。冒険者ランクは飾りじゃないぜ? シルバーランクさんよ」


 ニヤリと笑うバン。


 冒険者は実力に応じてランク分けされている。

 下から順にブロンズ、シルバー、ゴールド。

 更に各ランク帯、下位と上位の二種がある。


 俺のランクはシルバー下位だった。


「それで、詳細は? 出発が明日の朝なら、すぐに準備を始めたい」

「おう。コレを読めば大体分かる」


 依頼用紙を手渡される。

 一般的な護衛依頼と遜色ない内容だ。

 特別変わった点はない。


 商隊故に、規模が大きいってことくらいか。


「行き先は……マトヤ?」

「そこそこ大きい街だな。目立つ特産品の類はねえが、王都に近くて馬車の数も多い。だから商人の行き交いが盛んで、青空市場の人気もたけぇ」


 中々面白そうな街だ。

 とは言え明日は早朝に出発しマトヤへ着いたあと、再び王都へ戻るので観光の暇は無い。


 機会があれば、プライベートで訪れよう。


「そろそろ帰る。準備もあるしな」

「そうか。今日は悪かったな、無理言って。依頼、よろしく頼むぜ」

「ああ」


 軽く返事をして、俺はギルドを出て行った。

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