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43話・Opening

 放課後、俺は蔵書塔を訪れていた。


 学園の生徒であれば自由に利用出来るこの施設は、当然本の貸し出しも行っている。

 特別に読みたいタイトルがあるワケじゃない。


 時間を潰すのに丁度良い小説を探していた。

 中央の螺旋階段を登り、目当ての小説コーナーへ。

 本棚は塔の階層毎にジャンル分けされている。


 比較的人気の小説コーナーは三階フロア。

 因みに古い魔導書等の貴重な書物は地下にあり、一般の生徒は閲覧どころか立ち入りも許されない。


 許可証を手に入れるには、学園内で何らかの役職――生徒会や風紀委員会に所属する必要がある。

 他には特別優秀な成績を収めたり。


 学園長から推薦を貰う、という方法もあったな。


 一応興味はあるが、わざわざ面倒な役職に就くほどの好奇心は抱いてない。

 機会があれば、程度の考えだ。


「……あれは」


 やがて目的の本棚付近へ辿り着く。

 しかし既に先客が居た。

 紫髪の三つ編みに黒タイツ。


 どうにも見覚えのある後ろ姿だ。

 ただ、万が一別人だったら恥ずかしい。

 先に他の本棚を回ろうと考えた、瞬間。


「クオンさん?」

「あ」


 先に彼女がこちらへ振り向く。

 額の紋様が文字通りのトレードマーク。ブルーシャークのリネット・メディウムだった。


 リネットは怪訝な表情を浮かべて言う。


「そんな所で何を?」

「いや、何でもない」

「……? まぁ、貴方がそう仰るなら」


 今来たばかりの雰囲気を装って近づく。

 よく見ると彼女は分厚い本を四冊も抱えていた。

 腕が小刻みに震えている。


「半分持つ。迷惑なら拒んでくれ」

「あっ……いえ。ありがとう、ございます」


 一瞬だけ戸惑った様子。

 余計な真似をしたか?

 けれど屋内では基本、魔法の使用は厳禁。


 肉体強化無しで階段を降り、一階の貸し出し受付カウンターまでリネットを行かせるのは心苦しい。

 転倒の可能性もあり得るからな。


 そんな風に考えつつ、真上の本を手に取る。


「ん……これ、ロイ・マックスの〈騎士道シリーズ〉か。全冊読んだことあるけど、面白かったぞ」

「ほ、本当ですかっ!」


 手に取った本の表題を見て呟く。

 途端、彼女の瞳がエメラルドのように輝いた。

 レンズ越しでも分かる興奮具合。


「あ、ああ。本格的な読書家ってワケじゃないけど、小説は偶に読んでる。冒険譚や英雄譚ばっかりだけどな」


 血湧き肉躍る冒険活劇なんかは大好物だ。


 何せこの世界の娯楽はまだまだ未発展。

 平民の娯楽は大概が酒、ギャンブル、性交。

 気軽に手を出せば身を滅ぼすモノばかり。


 その点読書は良い。


 自分だけの世界に没頭出来る。

 あとは魔法の研究と改良。これも面白いので、何もない休日は自室に篭りがちだ。


「では……ジャック・アイの〈脳内神話〉は?」

「読んだ」

「マーグル・ルグーマの〈ドラゴンの手綱〉はっ?」

「まだ。けど、いつか読みたいと思ってはいる」

「是非、ご検討ください。とても素晴らしい読後感を味わえると約束します」


 本の重量を忘れる勢いで話すリネット。

 感情表現に乏しい第一印象から、一転。

 今の彼女は年相応の活力に溢れていた。


「でも、ちょっと意外だったな。リネットと俺の好きなジャンルが被ってるなんて」

「はい。私も、同年代の同性と感覚がズレている自覚はあります。そもそもクラスには読書好きの方が少なく……だから嬉しいです」


 本を胸に寄せ、微笑むリネット。

 一瞬だけ、ドキリと胸が高鳴った。

 クラージュとはまた違うタイプの笑顔。


「ところで……クオンさんは、ここへ何をしに?」

「単なる暇潰しだ」

「成る程。では……もう少しだけご一緒してもよろしいでしょうか? 何処か、別の場所で」

「構わないぞ。話し相手になってくれるのなら、こっちとしても好都合だ」


 これ以上話し込むと他の利用者への妨げになる。

 幸い、今は近くに誰も居ないけど。

 蔵書塔はあくまで本と向き合う空間だ。


「では早速――」

「ああ、でもその前に」


 俺は本棚の前へ赴く。


「〈ドラゴンの手綱〉を、借りておきたい」

「……ふふ。はい、こちらにありますよ」




 ◆




 互いに借りたい本を申請し、無事受領されたあと。

 蔵書塔から歩いて十五分辺りの休憩所――陽射し避け付きのベンチに、俺とリネットは腰掛けた。


「……入学して、もう二ヶ月近く経つのか」


 ポツリと呟く。

 様々なことが立て続けに起こる学園生活。

 山奥暮らしと比べ、明らかに時の流れが早い。


「早いものですね」

「ああ。もう二ヶ月経つと、今度は長期休日の期間に入る。あっという間だ」


 長期休日は夏休みのようなものだ。

 殆どの生徒は実家へ帰省すると聞く。

 俺はどうしようか……帰る場所も無いし。


 まぁ、今考えても仕方ないか。


「そういえば……ランカとは、いつ知り合ったんだ? かなり親密そうだったけど」


 リネットとランカの人物像は正反対。

 正直、結び付きの接点が思いつかない。

 するとリネットは苦笑しながら言った。


「いえ、ランカとは入学以前……生まれた時からの付き合いです。同じ日に産まれたんですよ、私たち」

「へぇ。じゃあ幼馴染みってやつか?」

「はい。元々、親同士の関係も深く……姉妹のように育ちました。血の繋がりは無くとも、互いに家族だと思っています」

「家族……」


 二人のやり取りを思い出す。

 確かに、あの遠慮の無さは家族の雰囲気に近い。

 仲の良い友達相手とは異なる感覚。


「なんか良いな、そういうの」

「そうでしょうか?」

「ああ。俺も、生みの親と育ての親が違う。だからリネットの気持ちは、少し分かる。家族であることに、血の繋がりは必須の条件じゃ無いって」


 これは、俺の願望かもしれないけど。

 前世の親を、家族とは思いたくない。

 あんなのはただの、害獣だ。


「……悪い。変なこと言った」

「気にしないでください。私も同様の考えですから――ふふ。本の趣味以外にも、共通点がありましたね」


 彼女は俺の顔を見て、くすりと笑う。

 ……妙に恥ずかしい。

 自作の詩集を見られたような気分に陥る。


 居た堪れなくなり、話題を変えた。


「なぁ……さっき俺がドラゴンの手綱を借りた時、リネットも騎士道シリーズ以外のタイトルを借りていたよな? あれはどんな本だ?」


 聞くと、リネットはその本を持ちながら言う。


「これは〈勇者伝説〉。私の一番好きな物語です」

「!」


 脳裏にクラージュの顔が浮かぶ。

 今度彼女と観に行く予定の演劇と、同じ題名。


「もしかして、既にご存知でしたか?」

「ああ。今度観に行く予定の演劇と、タイトルが同じだった。それだけだから、内容は知らない」

「成る程。恐らく、この本を原作とした内容と思われます。勇者伝説は歴史ある物語ですから。劇の題材に選ばれてもおかしくありません」


 太鼓判を押すリネット。


 そんなに面白いのだろうか?

 原作を無視して作られた数々の作品を知っている身からすれば、少し怖い。


「どんな物語なんだ?」

「人類滅亡を企む魔王を倒すため、選ばれし勇者が仲間と共に冒険を繰り広げる……内容自体はオーソドックスな英雄譚です」


 最早古典に等しい王道ファンタジーか。

 その分、大きく外れることもあるまい。

 テンプレの所以は実績があるからこそだ。


「……私は幼い頃、勇者に憧れていました。ヒロインの巫女のピンチに颯爽と駆けつけ、悪を挫く。単純な勧善懲悪だからこそ、忘れてはいけない正しさを思い出させてくれる物語です」


 思いの外、乙女チックな理由だった。

 前世で言うところの、白馬の王子様。

 王子様の部分を勇者に言い換えれば分かりやすい。


「ありがとう。事前情報としては充分だ」

「私が勝手に話しただけですから、お気になさらず。演劇、楽しんで来てくださいね」


 お淑やかに笑うリネット。

 その後――俺たちは好きな小説について語り合い、最後に演劇の感想を伝えると約束し解散した。

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