表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/47

転生魔導師37話・鏡の空

 ――課外授業の騒動から、一週間後。


 国家魔導師団の事情聴取を受けた俺は、行動を制限されることもなく普通に学園へ通えていた。

 これにはもちろん、ワケがある。


 クラージュ達に口裏を合わせるよう頼み、マガトは『あの場にいた四人全員が協力して倒した』というシナリオになっているからだ。


 極衣同士のバトルは知られてない。

 おかげで学生の身分は守られている。

 まぁ、正直に話しても信じてくれないだろうし。


 俺の力に関して、一応秘密は保たれた。


 次はクラスについて。

 結論から述べると、生徒たちは全員無事。

 メロウ先生の奮闘で負傷者は殆どいない。


 怪我を負ったのは闘技場に残っていた者のみ。


 その俺たちが受けた傷も既に癒えている。

 この辺りは流石、異世界クオリティ。

 極まった治癒魔法は欠損すら治してしまう。


 莫大な治療費に目を瞑れば、だけど。


 そんなワケで数日前に授業再開。

 新しくレッドイーグルの担任教師に任命されたアムール先生も、変わらず指導に励んでいる。


 ただ、全てが元通りというワケにもいかない。


 マガト・サモニクス。

 彼については情報統制が入り、事件の首謀者であった事実は伏せられていた。


 寧ろ唯一の被害者として悲しまれている。

 真実を知るのは当事者と国の上層部のみ。

 特別困らないので、別に構わない。


 詳しい調査は魔導師団が勝手にやってくれる。


 変わった点と言えばそれくらい。

 巻き込まれたレッドイーグルの生徒たちは暫く注目の的だったけど、喉元過ぎれば何とやら。


 今はもう、元の日常を送れている。


 穏やかで安全な毎日。

 しかし……ことクラージュに関しては、今後も予断を許さない状況が続く。


 彼女を狙う者の正体が、判明しない限り。




 ◆




「悪い、遅れた」


 放課後。

 中庭に呼び出された俺は、開口一番に謝罪。

 メロウ先生の仕事を手伝って少し遅れてしまった。


 ……手伝わされた、という表現が正しいかもな。


「ううん、気にしないで。私もさっき着いたばかりだわ」


 待ち人のクラージュは本当に何とも思ってない風に言い、花壇近くのベンチに腰掛けた。

 口調は柔らかいものの、表情はやけに堅い。


 そんな彼女に合わせ、一人分の空間を開けて座る。


 ひゅう、と一陣の風が吹いた。

 人通りが少ない影響か、肌寒い雰囲気。

 既に多くの生徒が下校を終えている。


 中庭に居るのも俺たちだけ。

 だからか、花の香りがより鮮明に感じられた。

 時計も無く、緩やかな時間が続く。


 とは言え黙ったまま過ごすワケにもいかない。


「それで……今日は何の用だ? 話しなら、校舎内でも出来るだろ?」


 言いながら、呼び出された理由を推察する。

 恐らくは他人に聞かせられない内容。

 愛の告白……は、論外として。


「――クオン!」


 考えていると、クラージュは突然立ち上がった。

 そして勢いよく頭を下げながら言う。


「貴方の強さを見込んで、お願いがあるの! 私を…………鍛えてほしいわっ!」

「……どういう意味だ?」


 予想外の言葉に戸惑う。

 だが冗談とは思えない真剣な態度。

 どうあれ無下な対応はしたくない。


「とりあえず頭を上げてくれ。話し辛い」

「……分かったわ」


 素直に面を上げるクラージュ。

 決意に満ちた、絶世の美貌。

 その碧眼は真っ直ぐ俺を見据えていた。


「まず聞くが、鍛えるって何をだ?」

「実戦を視野に入れた、戦闘能力よ」


 言い淀むことなく答える。


「本気か?」

「ええ。私は、強くなりたい。これ以上、クラスメイトや周りの人達に迷惑をかけない為に――最低限、自分で自分の身を守れるくらいには」

「……成る程。そういうコトか」


 合点がいく。


 彼女は今も尚、狙われている身。

 新たな刺客が送られて来る可能性は充分にあり、またスパイがマガト一人という確証もない。


 自分の為ではなく、あくまで他人の為に。

 俺とは根本的に違う強さへの向き合い方。

 命のやり取りにおいては、綺麗事かもしれない。


 ――だからこそ。


 一週間前、彼女を助けた。

 自分には無いモノを持っている少女。

 ここで失うには、惜しい。


「……分かった」

「っ、じゃあ!」


 パァッと、クラージュの顔色が明るくなる。

 こうして見ると、本当に普通の女の子だ。

 なのに彼女を取り巻く環境は、それを許さない。 


 なら、せめて。


「ああ。俺でよければ、付き合うよ。ただし、人にモノを教えるのは初めてだ。その辺は考慮してほしい」

「勿論、教えを請う立場なのは弁えているわ。でもやっぱり……ありがとう、クオン!」


 満面の笑み。

 万物を照らす、太陽のような眩しさだった。

 ――あぁ、そうか。


 似ているんだ。彼女の、屈託のない笑顔が。

 次、いつ会えるか分からないあの人と。

 無意識の内に重ねていた。


 思わず、自嘲的な笑みが漏れる。


「……礼を言うのは、こっちだな」

「え? 何か言った、クオン?」

「いいや。何でもない」


 誤魔化すため、空を見上げた。

 青々とした好天。

 しかしよく見ると灰色の雲が点在している。


 まるで今の状況を象る、鏡。


 行方不明の師匠。

 クラージュを狙う刺客。

 どれもこれも、すぐには解決しない。


 まぁ、でも。


 親に虐待されていたあの頃とは、違う。

 俺自身、身も心も強くなった。

 頼もしい友人もいる。


 だから――待ってろよ、師匠。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ