表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/47

転生魔導師32話・ブレイク

 クラージュの考え。

 それは自分を『人質』にした取引きょうはく

 彼女は刃物を喉から離さずに叫ぶ。


「クオン! 大変だろうけど、タスクとアムール先生をお願い。出来る限り遠くへ逃げて。私も出来る限り、時間を稼ぐわ……!」

「クラージュ。お前は――」

「分かってる! バカなことをしてる自覚はあるわ! でも、でも……! 私はもう、失いたくない! ようやく出来た居場所を捨てることになっても、友達だけは…………絶対に、譲れない!」


 まさに不退転の構え。

 恐怖はある。憂いもある。

 それでもクラージュは戦うことを選んだ。


 自分が行える、最善の策だと信じて。


「フフ……」

「っ、動かないで!」


 マガトは下を向いて笑った。

 片手で眼鏡の位置を整えながら、堪えるように。


「度胸は認めましょう、クラージュさん。貴族の箱入り娘とは違う、高潔な精神の持ち主だ。しかし――致命的に、違えている」

「う…………っ!」


 マガトが顔を上げた途端。


 殺気を伴う、とてつもない魔力が放出された。

 息苦しさを覚えるほどの濃密なエネルギーは、隣に立つキマイラの迫力に勝るとも劣らない。


 これが、マガト・サモニクスの本気。

 肌を刺すどころか抉るような殺意の奔流に、クラージュの怯えが背中越しでも伝わった。


 そんな彼女へ、マガトは淡々と告げる。


「私がその気になれば、貴女を一瞬で無力化することも容易い。競争、してみますか? 自害と捕獲、果たしてどちらが速いのか」

「あ、ぁ……」


 一歩、また一歩と。

 剥き出しの殺意を一身に受けたクラージュは、両肩を震わせながら後ろに下がった。


 それでも、刃物だけは手放さない。


 刃先はピッタリと喉元に添えたまま。

 だからこそ、マガトも未だ動かない。

 無傷で捕らえる自信は確かにあるのだろう。


 しかし万が一、自害の方が早ければ……取り返しのつかないことになるのは明白だ。

 慎重に、ならざるを得ない。


「クラージュさん。貴方に残された選択肢は、二つ。大人しく私に捕まるか、抵抗して捕まるか」

「…………〜!」


 退路は無く、助けも呼べない。


 文字通りの絶体絶命。


 クラージュはその最中でも、仲間を優先した。


 自分の身を危険に晒しながらも。


 ……もう、充分。


 彼女は人事を尽くした。


 あとは天命が来るのを待つだけでいい。


 その間、マガトの相手は――俺が、勤めよう。




「さあ、クラージュさん。答え「――あるぞ。三つ目の、選択肢」




 刃物を掴む。

 僅かに皮膚が傷付くも、強引に握り潰した。

 コレはもう、必要無い。


 俺の行動にクラージュは呆然としながら呟く。


「く、クオン……どうし、て……」

「試すような真似をして、悪かった。本当はもっと早く、こうするが出来たのに」

「え……?」


 タスクの様子を伺う。


 彼の負傷も、ある意味俺の責任。

 しかし当の本人はキョトンとしながらも、どこか安心したように息を吐きこちらを見守っていた。


「クオン君。今更何の用ですか?」


 マガトは警戒心を強めて言う。

 キマイラの視線も鋭くなった。

 相変わらず、油断も隙も見当たらない。


 このレベルの魔導師を相手取るには――『外す』必要があるな。

 俺は右手首に意識を向けながら話す。


「言ったろ。三つ目の選択肢を、あんたに教えてやる」

「ふむ……耳を貸す理由はありませんが、一応教師なので。遺言代わりに聞いてあげましょう」

「流石はセンセイ。じゃあ、遠慮無く」


 一触即発の雰囲気。

 さながらサムライ同士の決闘だ。

 互いに刀の柄を握り、探り合う。


 ほんの少しのキッカケで、抜刀は起こる。

 戦闘の、始まり。


「三つ目の選択肢。それは――」


 いつも通りの呼吸と口調で、言った。











「――封印シール解除ブレイク











 詠唱、完了。

 イタズラのような騙し討ち。

 けれど対魔導師においては案外有効な一手だ。


「こ、れはッ…………!?」

「ガルルルルルルッ!?」


 マガトとキマイラが揃って慄く。

 その反応はタスクとクラージュも同じだった。

 床が、壁が、空気が軋む。


 空間全てを埋め尽くす勢いで広まる、俺の魔力。


 真っ先に飛び退いたのは、キマイラ。

 魔力に敏感なモンスターは本能で危機を悟った。

 続けてマガトも距離を取る。


 ただしキマイラほど離れてはない。

 大声であれば会話が成立する程度の距離感。


「……久々だな。腕輪を外すのは」


 地面に落ちた腕輪を拾う。

 紫紺の宝石が埋め込まれたソレは、先程まで右手首に装着されていた装飾品。


 しかし、これはただの装飾品ではない。


 師匠から譲り受けた、封印の魔導具。

 強すぎる俺の魔力を抑制する手枷だ。

 因みに手動でも外せる。


「さて……」


 マガトは俺の様子を伺って動けない。

 俺はその間にタスクへ駆け寄り治癒魔法を施す。

 傷は深いが、生死に関わるほどではなかった。


 治療中に彼は呟く。


「今は……何も聞かない」

「……」

「だから、あとは頼んだぞ」

「ああ……任せてくれ」


 最低限の処置を終え、再びマガトの方を向く。

 奴は何らかの魔法の準備を進めていた。

 構わない。正面から打ち破る自信はある。


 そんなことより――彼女の方が、大事だ。


「クラージュ」

「クオン……」


 ふらふらと、彷徨うように歩くクラージュ。

 気力も体力も使い果たしたのか、表情は弱々しい。

 彼女は俺の変化に戸惑いながらも唇を動かす。


「凄い魔力……なのに、暖かいわ。マガト先生の魔力は、冷たくて痛かったのに……貴方のは、優しい……」

「独特の表現だな」

「本心だわ」


 そう話すクラージュに目立つ外傷はない。

 疲労の原因の大部分が、精神的なもの。


「すまない。クラージュの決意を、無駄にするようなことをして」

「……そんな風に思ってないわ。私は、私がやるべきことをやっただけ。クオンは、クオンの思う通りにすればいい。まぁ……力を隠していたのは、少し驚いたけど」


 疲れを誤魔化すようにウインクするクラージュ。


「ありがとう。そう言ってくれると、こっちも助かる」

「でも……本当に一人で、大丈夫なの?」


 彼女の不安も分かる。


 相手は幻獣と、ソレを従えた魔導師。

 加えてマガトは召喚魔法の使い手。

 まだ見せてない手札も沢山あるだろう。


 それでも……


「この腕輪、預かっててくれないか?」

「それはいいけど……」

「師匠から貰った、大切な物なんだ――必ず、受け取りに戻る」


 そう言いながら腕輪を手渡し、背を向ける。

 丁度、闘技場の中央に立つマガトと目が合った。

 互いの準備が、整う。


「……うん、分かったわ。頑張って、クオン!」

「あぁ……フィジカルアップ」


 俺は軽く頷き、強化魔法を詠唱。

 抑圧されていた魔力を惜しみなく使い、肉体を強化。マガトが待つ中央まで駆け抜ける。


 その途中、複数の魔法陣が眼前に展開された。


「サモン・バグズパレード」


 辛うじて聴こえたマガトの呪文詠唱。

 直後、魔法陣から複数のモンスターが召喚された。

 十、二十、三十……尚も増え続けるモンスター。 


「ギ、ギチギチギチギチギチギチギチギ」

「びおおお! びおおお! びおおお!」

「リーッ……リーッ……リーッ……リーッ」


 どのモンスターも昆虫型。サイズは小型犬から始まり、大きい個体で成人男性ほど。

 真横に広がり、こちらの進路を塞いでいる。


 マガト本人は群体を超えた先にいた。

 周囲をモンスターに守らせ、自分は新たなモンスターを召喚……お手本のような召喚魔導師の戦い方。


「まあ……」


 右腕を、頭の辺りまで持ち上げる。


「何匹いても、関係無いけどな」


 持ち上げた右腕を水平に動かしながら、呟く。


雷撃ケラヴノス


 腕の動きに連動し、雷が迸った。


「ギチギチギチアアアアアアアアアッ!?」

「び、びびびっ!? びびびびおおおお!」

「リー………………………………………………」


 真横に走った雷はモンスターを焼き焦がし、一匹残らず絶命へ追い込む。

 ものの数秒で死骸の海が出来上がっていた。


 戦闘、とすら呼べない『蹂躙』。

 流石のマガトも笑みを消している。

 俺は奴へ近づきながら、声高に言った。


「そういえば、まだ三つ目の選択肢を言ってなかったな――俺がお前を、ここで倒す。この選択肢が最もハッピーエンドに……近い」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ