表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/47

30話・正体

 マガト・サモニクス。

 一年レッドイーグルの担任教師。

 年齢は四十代後半。


 ツーブロックの緑髪に銀色の眼鏡。

 年季の入ったスーツ姿は教師と言うより近所のおじさん、あるいは父親の雰囲気に近い。


 穏やかで、常に優しい笑顔の持ち主。

 それが俺のマガト先生へ対する人物評。

 概ね好意的。欠点らしい欠点もない理想の教師。


 ――しかし、その評価は今この瞬間に瓦解した。


「……奇妙ですね」


 警戒を解かずに呟く。


「俺の知るマガト先生は、ついさっき死んだように見えました」

「演技ですよ。ギリギリ、心臓は逸れていました。あとは治癒魔法でどうにか」


 いつもの穏やかな笑みを浮かべるマガト先生。

 その笑顔が、ひどく不気味に映った。

 得体の知れない悪寒が背中を伝う。


「面倒なので、簡潔に聞きます。マガト先生、黒幕は貴方ですか?」

「はい」


 あっさりと、彼は認めた。

 バレバレの悪戯を白状するように。

 そんなマガトに異議を唱えたのは、クラージュ。


 彼女は狼狽しながらも懸命に唇を動かす。


「ま、待って……ワケが分からないわ! どうして、マガト先生が……!」

「ふむ……クラージュさん。貴方は基本的に優秀ですが、突発的なアクシデントに弱いですね。この状況、一々説明しなくても私が『敵』であることは一目瞭然。理由なんてものは、無力化した後にいくらでも聞き出せますよ?」

「っ……!」


 教師然とした指摘。


 続けてマガトは指を鳴らした。

 乾いた音が鳴った後、それまで借りてきた猫のように静かだったキマイラが吠える。


「グガオオオオオオオオオオオオッ!」

「アレは、私が召喚しました。アムール先生の実力が思いの外高く、そして共犯者が想像以上に役立たずでしたので、致し方無く」


 キマイラがこちらを睨む。

 明確な殺意が伴った視線。

 マガトはあの幻獣を完全に従わせているようだ。


「う、動けん……何だ、この圧力は……禍々しい、修羅の如き…………くっ……!」


 動きを封じられたタスク。

 クラージュは腰を抜かし、尻もちをついていた。

 アムール先生は未だ重傷。


「ですがまあ、いいでしょう。貴方達に妨害された時はヒヤリとしましたが、結果的にクラージュさんはこの場に残ってくれました。これで目的を達成出来ます」


 スッと、右手を伸ばすマガト。

 レンズ越しの眼光はクラージュを捉えている。

 そのままの口調で、奴は衝撃的な事実を話した。


「いやはや、それにしても貴方の出自には驚きましたよクラージュさん。まさか王家に連なる者どころか、王家そのもの――闇に葬り去られた、現国王の実の子だとは。記録から抹消されたとは言え、本物の姫を攫うのは流石に初めての経験です」


 瞬間。俺は懐からある物を取り出し、投擲。


「バレット。無駄なこと、を……っ!」


 即座に魔弾で撃ち落とすマガト。

 だが撃ち落とされた物体――蓄電石は、弾けながらも雷光を放出し彼の視界を潰した。


 この鉱石は電気を溜め込む特殊な性質を持つ。

 更に強い衝撃を受けると溜め込んだ電気を放出し、強烈な発光現象を引き起こす。


 なにかと便利なので、常に懐へ忍ばせている。


「走れ! アムール先生は俺が抱える!」

「……」

「クラージュ!」

「っ、あ、クオン。ご、ごめんなさい……!」


 叱咤激励を飛ばし、クラージュを走らせる。


 タスクも状況を察して既に動いていた。

 互いに言いたいこと、聞きたいことはあるだろうけど……アムール先生の治療がまだ終わってない。


 まずはこの場を逃れることが先決だ。




 ◆




「……よし。とりあえずは安心だ」


 ヒールライトの光を消しながら呟く。

 今可能な治療は終えたが、アムール先生はまた気を失っていた。無理もない。


 マガトの前から離脱したあと……俺たち三人は、闘技場の控え室と思しき空間に逃げ込んでいた。

 一応、師匠直伝の人除けの結界を張っている。


 幻惑系はあの人の得意分野。

 そう簡単には見つからない……と、信じたい。

 現状、マガトの実力は未知数だ。


 用心するに越したことはない。


「タスク、警戒ありがとう。もう大丈夫だ」

「礼には及ばん。寧ろ、オレがお前に感謝すべきだ。クオンがいなければ、きっと既に……」

「そういうのは、ここを凌いでから話そう」

「すまない……」


 部屋の出入り口付近で見張りをしていたタスクは、両耳を垂らしながら言う。

 いつもの堂々とした落ち着きは見られない。


「……マガト・サモニクス。ただの教師かと思っていたが、奴は一体何者だ?」

「まあ、何処かのスパイだろうな」


 手の込み具合からして、間違いない。


「わざわざ自分を死んだと思わせる偽装までしてたんだ。元々学園に送り込まれてたスパイで……仲間にクラージュを攫わせたあとも、教師として居続ける為の仕込みってところか? 死にかけた奴を犯人の仲間と疑うのは、難しいからな」


 あるいは、マガトの背後に潜む何者かの要望。

 彼がスパイだと仮定するなら、雇い主や依頼主が必ずいるワケで……


「とにかくマガトは、何らかの理由でクラージュの身柄を狙っている。そして正体が露見した今、手段を選ばすに来る可能性が高い」


 結局重要なのは、そこ。


 マガトの猛攻をどう退けるか。

 キマイラという機動力が奴にある関係上、完全に逃げ切るのは難しい。


 恐らくは、真正面から戦うことになる。


「……体を休めておく。何かあったら呼んでくれ」

「ああ」


 タスクは座禅を組んで瞑想を始めた。

 雰囲気こそ暗いものの、まだ折れてない。

 彼は問題無いだろう。


「さて……」


 チラリと、視線を部屋の隅へ送る。


「別に、話したくないなら話さなくてもいい」

「……そういうワケにもいかないでしょう?」


 暗い雰囲気のクラージュが言う。

 彼女は自虐的な笑みを浮かべていた。

 普段の凛々しく勇ましい姿はない。


 先程マガトが口にした、クラージュの『出自』。


 俄には信じ難い内容だ。

 しかし当の本人はこの様子。

 戯言だと切って捨てる方が浅慮かもしれない。


「じゃあ、聞いてもいいのか?」

「……ええ。と言っても、語れることは大して無いわ。特にクオンは」


 俺は既にクラージュの過去を知っている。

 幼い頃に理由も分からず実家を追放され、そこで不当な扱いを受けながら育った苦い記憶。


 正直、彼女の出自については興味が無かった。

 大事なのは今のクラージュ。

 それに俺とて過去を隠している。


 けれど……本人が口にしたいと望むなら。

 黙って聞き届けるのが友人の役目だろう。

 特別演習の時とは、逆。


 今度はこちらが要望を聞く番だ。


「…………私の本名は、別にあるわ」


 そしてクラージュは語り出す。

 墓穴に埋めた骨を掘り起こすように。

 忌避感を押し殺しながら、言の葉を紡ぐ。


「ソレイユ・メイジ――それが私の、本当の名前。マガト先生が言っていた通り、王家の娘よ」


 認めた。

 自分が王家の一族だと。

 驚きと同時に、妙な納得を覚える。


 輝くような金髪に澄んだ碧眼――同年代の少女に比べ、彼女は『出来が良すぎる』と密かに感じていた。

 髪、瞳、肌、匂いに至るまで。


 同じ人間とは思えない、美の集積体。

 けれど、それも王家由来なら分かる。


 貴族も含めた王族は、見た目に煩い。

 少しでも自らの『血』を良く保つ為、内外問わず美しい者を囲い優れた容姿の子孫を残す。


 そんなある種の交配を繰り返した結果、王家の血を流す者は総じて美形の傾向が強い。

 クラージュはその最新、とでも言うべき存在。


 完璧に近い美少女なのは、道理だった。


「五歳くらいの頃までは、王家の教育係に育てられたわ。妙な言い方だけど、普通の王女として生きてた。でも……私の存在はその時点で、秘匿されていたの」


 当時の私は知らなかったけどね、と付け足す。

 子の存在を隠す親。

 不穏な要素を感じずにはいられない。


「上流階級の風習には疎いが……子供が産まれたら、祝って周りに知らせるものじゃないのか?」


 ましてや跡継ぎが重要な王族だ。

 国を挙げて祝ってもおかしくない。

 俺の一般論にクラージュは頷いて答える。


「ええ。本来なら私の両親もそうする筈だった……産まれた子が、私だけだったらね」

「……どういう意味だ?」


 一旦区切ってから、彼女は告げた。

 理不尽に起きた、転落人生の始まりを。


「双子が産まれたら、片方は間引く――冗談みたいな風習が、王家にはあったのよ。そして私には……血を分けた、双子の妹がいたわ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ