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3話・十歳

「バレット」


 魔法を唱える。

 生成された雷の弾丸は、激しく回転しながら対象――ビッグボアと呼ばれる猪に放たれた。


 属性変換魔法・魔弾。

 通常は属性を伴う魔力で弾を形成し撃つだけの魔法だが、俺は独自のアレンジを加えていた。


 魔法発動のプロセスはメールのやり取りに近い。

 術者が特定のキーワード……つまりは呪文詠唱(術式でも可)を行うと、世界がそれを受信。


 詠唱内容に合致した魔法の発動を許可し、タイムラグの後に現象として引き起こされる。

 上記のやり取りを行う対価に必要なのが魔力だ。


 要するに通信料だな。

 なおここで言う世界とは人が認識出来ない高次元領域(プロセスを解明出来ないが故の言い訳)を指す。


 これが大雑把な説明。


 本題はここから。

 魔法は特定のキーワードで発動する。つまり新しい魔法=まだ誰も唱えたことのない言葉、ということ。


 言い換えれば存在する魔法には限りがある。

 オリジナル魔法を創造するのは不可能――と言うより、この世界の定義だとそれは魔法ではない。


 けれどオリジナリティを生み出すことは可能だ。

 詠唱の際に強くイメージを付与すれば、世界が誤認して通常とは細部が異なる現象を引き出せる。


 この技術を『術理改変』と呼ぶ。

 俺は魔弾に術理改変を施し、銃器から射出される弾丸のイメージを与えた。結果――


「ブモオオオオオッ!?」

「あっ」


 弾丸はビッグボアの眉間に直撃――する事なく、数センチ上を通過し肉を抉った。

 狙い通りに当たっていれば即死だったろうに。


 命中率を上げるための回転付与。

 ジャイロ効果と言い、物体は回転すると安定性が増す。回っている間だけ自立するコマが良い例だ。


 とは言え過剰な回転は逆に不安定を孕む。

 物体の重量に見合った回転速度が必要だ。

 今回は少し、調整を誤った。


「まあ、結局倒せるから関係無いけど」

「ブモオオオオオッ!」


 怒り心頭のビッグボアを見据える。

 環境は森。視界は小枝等の遮蔽物に邪魔されてはいるものの、敵の姿は明瞭だ。


 何せビッグボアは名の通りデカい。

 見た目は猪だけど、大きさは牛に等しい。

 真正面から突進を受ければ一撃で戦闘不能だ。


 故にまずは、機動力を確保する。


「フィジカルアップ」


 強化系統の魔法を唱えた。

 全身に魔力を張り巡らし、身体能力の向上を促す。

 この世界の戦闘では必須技能だ。


「っ!」

「ブモォ!?」


 強化された脚力で大地を踏む。

 枝葉を吹き飛ばしながら一気に距離を詰め、ビッグボアの懐へ潜り込むように身を屈めた。


 突然移動速度が変わった俺に驚くビッグボア。

 パワーもスピードも驚異だが、小回りが効かないのは巨体を見れば一目瞭然。


 俺は腰を捻り、抉るように拳を突き上げた。

 更に打撃の瞬間、拳に属性変換魔法で雷をグローブのように纏わせ殺傷能力を高める。


「ハアアアアッ!」


 雷撃の拳は、狙い違わずビッグボアの顎下へ。

 衝撃と電撃を合わせた二重攻撃に、ビッグボアは後ろ足を残し巨体を宙に浮かした。


 即座に左足でハイキックを繰り出し、追撃。

 蹴りはビッグボアの側頭部を打ち抜いた。

 強化魔法任せのゴリ押し。荒っぽいが確実だ。


 魔法使いだからと中遠距離に拘る必要はない。

 寧ろ接近されたら終わりの魔法使いは二流だと、師匠は言っていた。あの人体術も普通に強いんだよな。


「ブ、モ…………」


 頭部への蹴りが効いたのか、ビッグボアは横に倒れてそのまま息を引き取った。

 生きる為とは言え、直接命を奪うのは抵抗がある。


 肉も皮も余す事無く使うのがせめてもの供養か。

 とにかくこれで肉は暫く保つだろう。

 俺はビッグボアの死体を背負って帰路に着いた。




 ◆




 この世界にはモンスターと呼ばれる生物が棲む。


 通常の動物と比べて遥かに強力かつ凶暴。

 加えて詳細な説明は省くが、モンスターは身体機能の一部として魔法まで扱う。


 そんなモンスターと単独で戦う許可を、俺は数ヶ月前に師匠から得ていた。ログハウス周辺限定だが。

 もちろん最初から戦えたワケじゃない。


 生き物を殺すことへの抵抗感はあったが、最終的には慣れた。

 何故ならそれが、この世界の常識だから。


 十年もあれば順応する。

 以降、実戦経験を積む為に毎日戦っていた。


「ただいま」

「おかえり、クオン。成果はどうだい?」

「見ての通り」


 ログハウスに戻ると師匠が外で出迎えてくれた。


 異世界に転生してそろそろ十年経つ。

 俺の体は相応に成長しているが、彼女の外見は五年前どころか十年前からも一向に変わってない。


 エルフとサキュバスの血は嘘じゃなさそうだ。

 そんな師匠はビッグボアを見て訝しむ。


「鍛えたのはボクだけど……キミ、本当に十歳? まあ、モンスター退治に行かせてるボクもボクだけどさ」

「ビッグボアくらい、多少魔法が使えるなら誰でも倒せるよ。この程度じゃ威張れないや」

「その謙虚さも、クオンの美徳だね。うんうん、ボクは賢い弟子を持てて幸せだ」

「ははっ。師匠は大袈裟だなぁ」


 内心で冷や汗を流しながら笑う。


 十歳じゃないからな、本当に。

 魔法の勉強が面白くて、ついつい自分が子供であることを忘れて色んな事を覚えてしまった。


 師匠の教え方が上手いのもあるけどさ。


「し、師匠。ビッグボアを解体したいので、手伝ってください」

「もちろん良いとも」


 その後は師匠と共に手早く解体作業を済ませる。

 学習と成長、実戦の毎日。

 充実した日々に、俺は確かな満足感を得ていた。

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