表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/47

28話・守るための囮

「ふぃ、フィジカルアップ!」


 慌てて肉体強化魔法を再度唱える。

 両腕を可能な限り広げ――キャッチ。

 いわゆるお姫様抱っこの形で受け止めた。


 ズシリと落下エネルギー分の重みを味わう。


「あ、ありがとうクオン……危なかったわ……」


 両腕に収まったクラージュは言う。

 顔色の悪さに加えて乱れた金髪の様相は、とても本調子とは呼べない雰囲気だ。


「お礼は要らない。それよりどうしてここに?」

「……アイツらの狙いは、私でしょう? なら、私が囮になればいい。クラスの皆んなを、これ以上危険な目に遭わせたくないもの」

「それは……」


 言葉に詰まる。

 クラージュを囮にして他のクラスメイトを逃すのは、一応俺も考えてはいた。


 だが敵の詳細な目的も戦力も分からない状態で彼女を囮に使うのは、リスクが高い。

 殺されない保障はどこにも無いのだから。


「それにクオンとタスクだけに任せるのも、心配だったわ。あ、別に実力的な意味じゃないわよ? ただ……マガト先生の最期を見た後だと、ね……」


 暗い表情を浮かべるクラージュ。


 要するに、彼女は誰にも傷付いてほしくないのだ。

 他人の為に動ける人間。

 俺には無い、高潔な魂の持ち主。


「分かった。まあ、俺も勝手にやってるからな。今更一人二人、身勝手な奴が増えても変わりない」

「貴方も皆んなの為に動いたのに……捻くれた言い方だわ」

「……過大評価だ」


 言いながらクラージュを降ろす。

 するとタスクが警戒心を強めて言った。


「二人とも、お喋りはそこまでだ」

「タスク!」

「クラージュ、やはり賊の狙いはお前のようだ」


 視線の先。転落した二人組は起き上がり、フードを外しながら悪態を吐く。

 共に人相の悪い男だった。


「クソが。ガキを攫う楽な仕事の筈だろうが!」

「黙れ。ここでしくじったら本当に終わりだぞ」

「チッ……分かってんよ」


 敵は今も健在。

 闘技場の中心付近で戦うアムール先生への加勢も考えたが、まずは目前の敵に集中する。


 それに一瞬見た限り、まるで人数差はハンデだと言わんばかりにアムール先生は暴れていた。

 余計な心配ってやつだろう。


 メロウ先生もその点は気にしてなかったし。


「おいガキ共。その女、こっちに寄越しな。今なら楽に殺してやるよ」

「渡すと思うか? この状況で」


 クラージュを庇うように立つ。


「くくっ、だよなぁ……だからこそぉ、ぶっ殺し甲斐があるってもんだよなああああああっ!」

「ゴズ! 先走るな!」

「うるせぇマルサ! お前は援護でもしてろ!」


 ゴズと呼ばれた男は一直線に向かって来る。

 一方もう片方のマルサは、心底煩わしい表情を浮かべながらも右手を持ち上げた。


「単細胞が……ジャベリン!」


 形成される水の槍。

 上空に浮かぶ五つの槍は、ゴズの特攻へ追従するかのように射出される。


 だけどまぁ、速度は遅い。

 俺は慌てず丁寧に詠唱した。


「ウォール・シールド」


 イメージは煉瓦。

 一つ一つ、強固に接着して壁を積み上げる感覚。

 数秒と経たず、厚い半透明の防壁が出現した。


 防壁は飛来した槍を全て弾く。


「ハッ! 高跳びは得意だぜぇ!」

「バレット!」

「ウェポンズ!」


 防壁を前にしたゴズは、高く跳躍して回避。

 その行動を読んでいたタスクとクラージュは、奴の動きに合わせて詠唱した。


 氷の魔弾と紫紺の弓矢。

 まず、タスクの撃った魔弾がゴズを狙う。

 続けてクラージュは弓の弦を引き絞り、発射。


 魔弾と魔矢が立て続けに放たれる。


「うおらあっ! ロックアーマー!」


 この攻撃に対し、ゴズは岩の鎧を纏う。

 関節を除くほぼ全てを岩石で覆った奴は身を守りつつ、隕石のように質量を伴って防壁の内側に落ちた。


 ただし今度はしっかり地に足をつけている。


「ハッハー! どうだこの鎧は!」

「フン。ついでによく回る口も塞いだらどうだ?」

「あぁ? 汚ねえ獣人風情がナメんなっ!」


 握り拳を作り、大きく右腕を引くゴズ。


 対するタスクは開手で待ちの姿勢。

 見え見えのテレフォンパンチだが、突如頭上から複数の矢が降り注ぐ。


 属性変換系統の『雨矢レインアロー』。

 雨のように矢を撃ち続ける中級魔法。

 術者は勿論マルサだった。


「任せて! ウェポンズ!」


 クラージュの詠唱。

 彼女は鎖付きの鉄球……チェーンアレイを生成。

 頭上で振り回し、矢の尽くを叩き落とす。


 この場は二人に任せて大丈夫そうだ。

 俺が狙うべきは援護に徹しているマルサ本体。

 タイミングを見計らい、防壁の側面から飛び出る。


「所詮ガキだな、バレバレだ! ソーンウェイブ!」


 自分が狙われていることに気づいたマルサは、即座に意識を迎撃に切り替えた。

 地面から噴出する、水の如き棘。


 剛柔併せ持った水の棘は、蛇のように唸りながら俺を串刺しにしようと襲いかかってくる。

 けれど相変わらず全体的に鈍い。


 魔法の速度、持続性は術者の力量に左右される。


 奴のはまるで覚えたての子供が使った魔法だ。

 手練同士の戦闘では、緩急をつける為にあえて速度を落とすこともあるが……そういう様子でもない。


「ケラヴノス」

「なっ……!?」


 惜しみなく上級魔法を唱える。

 枝分かれした雷は、水の棘を物ともせずに穿った。

 マルサはその光景を見て愕然。


 この程度で驚くなら、大した実力じゃないな。


「く、このっ!」

「カレント――暫く気絶しててくれ」

「があああああああああああっ!?」


 接近し、電流を帯びた掌底を腹に打ち込む。

 殺さないのはあとで情報を吐かせる為だ。

 クラスメイトの前で堂々と殺すのも躊躇われるし。


「ゴズの方は……うん、思った通りだ」


 ゴズを相手に戦うタスクとクラージュ。

 戦況は終始、タスク達の方が有利に映った。


「だああああああっ! いい加減! 死に! やがれってんだああああああっ!」

「ぬぅん!」


 デタラメに繰り出された殴打をタスクはギリギリで躱し、伸ばされた右腕を横方向へ押す。

 バランスを崩したゴズの先には、クラージュ。


 彼女の手に握られていたのは、巨大なハンマー。

 柄の長さは二メートル弱。

 頭の部分は人の顔を軽々と潰せるほど分厚い。


 本来の細腕では到底持てない規格外の鈍器を、クラージュは遠慮無く掲げて振り下ろす。

 原始的かつ、効果的な使い方。


「ハアアアアアアアッ!」

「あぎっ! が……!?」


 モグラ叩きならぬ、ニンゲン叩き。

 ゴズは咄嗟に両腕を揃えてガードしたが、腕ごと吹き飛ばし頭部へ強烈な一撃を加えた。


「め、めが……ちか……ち、か……あぁ…………」


 結局その一撃が決定打になり、岩の鎧は錆びのようにボロボロと剥がれ落ちる。

 ゴズも白目を剥いて倒れた。


「ハアッ、ハアッ…………やったわ!」


 額に浮かぶ汗を拭い、喜ぶクラージュ。

 ハンマーに何らかの魔法で『重さ』を付与していたのだろう。疲労が隠せてない。


 何はともあれ、これで襲撃者二人の無力化に成功した。あとはメロウ先生達が無事に脱出出来たことを願おう。


「二人とも、体は?」

「え、ええ。私は大丈夫」

「オレもだ」


 タスクもクラージュも目立つ怪我はない。


 両者共に落ち着いている。

 俺が言うのもおかしいけど、担任教師の死を目の当たりにしても動じないのは大した胆力だ。


 既に修羅場を潜った経験があるのかもしれない。


「賊は二人とも気絶している。今のうちにオレの氷で拘束しておくぞ」

「ねぇ、アムール先生が心配だわ。相手は四人もいたし、加勢を――ッ!?」


 クラージュがアムール先生の安否を気にした瞬間。

 背中に、凄まじい威圧感を浴びた。

 発生源は丁度アムール先生が戦っている位置。


 俺たち三人は揃って反転。そこには。






「――グガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」






 禍々しい、一匹のケモノ。

 ケモノは衝動のままに吠える。

 その雄叫びは、骨の髄にまで響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ