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26話・暗雲

 初めての課外授業はテンポ良く進んだ。

 実際に戦う者は勿論、自分の番を待つクラスメイト達も何かを得ようと真剣に見ている。


「うおらあっ! アイアンフィストォ!」

「……」


 拳を鋼鉄化する魔法を唱えたライト。


 初めての訓練でアムール先生に制圧された生徒だ。

 元々荒っぽい気性なのか、鋼鉄化した剛腕を振り回し果敢に攻め立てている。


 しかし対戦相手は軽やかに避けていた。

 まるで風に舞う花弁のように。

 必要最小限の動きで消耗を抑えている。


「ハアッ、ハアッ……! くそっ……!」

「……そこ」

「ぐうっ!?」


 呼吸を整える為に生まれた、僅かな隙。

 瞬間、女子生徒――コクヨウは華奢な体を潜り込ませ、鋭い拳を鳩尾に打ち込む。


「……突風の術」

「のああああっ!?」


 続けて詠唱。反撃を許さない二段構えの攻撃。

 コクヨウの拳から発生した突風は、彼女の何倍も大きいライトの体を吹き飛ばす。


 前世では考えられない、この世界特有の光景。

 それにしても……さっきコクヨウが使った魔法。

 アレが俗に言う【忍術】だろうか?


 アズマ国は独自の技術系統を確立している。

 その技術こそ忍術。とは言え名称が異なるだけで、実際は魔法と同じだと師匠から教わった。


 ただ、発動までのプロセスが微妙に違うとか。

 ――ゴールは同じでも、そこへ辿り着くルートは幾つもあるってことさ、とも言っていたっけ。


「そこまで! 勝者、コクヨウ・アズマ!」


 地面に転がるライトを見て、アムール先生が言う。


 コクヨウは拳を収め、いつもの脱力した様子に。

 一方のライトもすぐに起き上がる。

 意外にも手加減していたようだ。


「ほんと、何者かしらねあの子は」

「ああ。ただの学生って雰囲気じゃない」


 クラージュは驚きと称賛を半分ずつ混ぜて言う。


 かく言う俺も驚いていた。

 徹底的に無駄を排した立ち回り。

 隙を見逃さず、常に先手を取り続ける思考。


 全て『実戦』を想定した動きだ。

 彼女も俺と同じように、入学前から本格的な戦闘指導を受けていたのかもしれない。


「クラージュ、タスク。次はお前たちの番だ」

「「はい!」」


 クラージュとタスクの名前が呼ばれる。

 二人は落ち着いた様子でクラスメイトの前に出た。

 両者は十五メートル程度の距離を空けて向き合う。


 注目されているのは、やはりタスク。

 獣人特有の身体能力と戦闘センスを当初から発揮していた彼の実力は、既に多くの者に知られている。


 対するクラージュも負けてない。

 面倒な仕事も率先して請け負う彼女の真面目さは、当然魔法の技術にも活かされていた。


「双方、用意はいいな?」


 二人の間に立ったアムール先生が言う。

 マガト先生とメロウ先生は、何かあった時すぐ動けるよう左右の壁際で各々待機している。


「はい!」

「問題無く」


 快活に応えるクラージュと静かに頷くタスク。

 生徒同士の模擬戦は、これで最後。

 心地良い緊張感が仄かに漂っていた。


「いいだろう。それでは――始め!」


 模擬戦、開始。

 クラージュとタスクは互いに様子を伺う。

 視線は真っ直ぐ相手の方へ。


 けれど足元の注意も怠らない。

 観戦中、足を取られた生徒を何人も見たからだろう。特にクラージュはすり足気味の歩法だ。


 対してタスクは迷いのない足運び。

 踏み慣れた道のように、足元への注意は最低限。

 必然、先に仕掛けたのは彼だった。


「闘気錬成!」


 俺の知らない魔法を唱える。


 途端、彼の全身が青白いオーラに包まれた。

 恐らくは獣人にとっての肉体強化。忍術のように、名称が異なるだけで根本は同じと思われる。


「ハアアアッ!」


 野生的なフットワークを見せるタスク。

 クラージュは速度で敵わないと考えたのか、後退せず留まりその場で迎え撃つ構え。


「――ウェポンズ!」

「むぅ!」


 タスクが拳の間合いへ入ろうとした、瞬間。

 クラージュは紫紺色の両手斧を生成し、横へ薙ぐ。

 直前に察知したタスクは立ち止まってこれを回避。


 両手斧を振り抜いたクラージュは、その勢いを殺さず一回転しながら再び攻撃。

 遠心力が乗った分、破壊力は一撃目以上。


 だが、それは当たればの話。


 タスクは深追いせず、一撃目を避けた時点で数歩後ろに下がっていた。

 結果、空を切る音だけが響く。


「流石に速い……コレはちょっと、不向きかしら」


 言って、クラージュの持つ両手斧が霧散した。


「ウェポンズ」


 そして新たに詠唱。


 彼女の手に握られたのは、レイピア。

 斧と同じく半透明の紫紺色だ。

 次々と武装を変える異色の魔法。


 これが彼女の得意魔法『武器庫』。


 系統は物質変換。

 魔力で武具を形作る至極単純なもの。

 しかしそのレパートリーは多彩。


 武器庫魔法はワンフレーズの詠唱だけで、自らが思い描く武具を自由に物質化出来る。

 つまり見えない武器庫を携えているようなものだ。


 一見地味だが、相手にしたら厄介に違いない。


「いくわよ……!」

「……受けて立つ」


 素早く右手を突き出すクラージュ。

 タスクは左手の甲で防ぎ、弾く。

 すかさず手元へ戻し、再度突き。


 クラージュのレイピア捌きは巧みだった。

 素の身体能力で劣るタスク相手に一歩も引かず、前へ前へと連続攻撃を途切れさせない。


 そんな攻防が一分程続いた。


「くっ……!」


 均衡が崩れたキッカケは、タスク。

 雨のような刺突を受け続け、遂に防御を捨てた。

 彼は後方へ大きく飛び、仕切り直しを企てる。


「ッ、ウェポンズ!」


 タスクが防御を捨てた、僅かな隙。

 クラージュもまた、既存の行動を捨てた。

 レイピアを消し、新たな武具を作りながら突撃。


 ここが攻め時だと考えての行動だろう。


「ハアアアアアアッ!」


 作り出したのは、槍。

 先に後退したタスクとの距離を埋めるのに充分な長さを備えたその槍を持ち、彼女は疾走。


 前傾姿勢のまま槍を突き出す。

 狙いは胴体中心部。よく見ると刃先が潰れているので、仮に直撃しても大事には至らない。


 決まった――クラージュは、僅かに口角を上げる。


「……ぬぅん!」


 ほぼ同時に、タスクはしゃがみ込む。

 驚異的な反射神経だった。

 目標を失ったことで矛先は空を切る。


「きゃっ!?」


 更に真下から左腕で槍を押し上げクラージュのバランスを崩すと、今度は低空のジャンプ。

 高低差を利用したハイキックを放った。


 まさに伸縮自在。獣人の身体能力を活かした戦法に対応出来ず、クラージュは右肩へ蹴りを受ける。

 だが彼女もただでは転ばない。


「バレット!」


 空中に浮き、動けないタスクへ魔弾を撃つ。

 しかし魔弾は彼の元へ届く前に、霧散。

 青白いオーラに阻まれバチっと消えた。


 その隙に着地したタスクは掌底で追撃。

 インファイトの間合いに入り、リーチを失ったクラージュは彼の格闘術に苦戦する。


 短剣を作り応じるも、練度の差は明らか。


「っ……!」


 やがて尻餅をつき、目前に拳を突きつけられる。


「どうする? オレは続けても構わんぞ」

「……やめておくわ。拳の間合いに入られた時点で、私に勝ち目はないもの」


 両手を持ち上げるクラージュ。

 降参の意思表示をしながらも、その表情はまだまだ戦い足りないと訴えていた。


「勝者、タスク・ブルーネイル!」


 アムール先生が勝敗を口にする。


 クラージュは少し、攻めが素直すぎたな。

 早々に勝利を確信したのもツメが甘い。

 まぁ、今回負けても次がある。


 これは模擬戦。実戦と違い何度でもやり直すチャンスがあるのだから、過剰に落ち込むこともない。

 俺は二人を労うために近づく――その瞬間。


「……ん?」




 複数の、強烈な魔力反応を感知した。




「っ――全員、伏せろ!」


 力の限り叫ぶ。

 僅かに遅れて教師陣も異変に気づいた。

 直後、四方八方から魔法が放たれ――

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