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25話・課外授業

 今日は澄んだ青空が広がっていた。

 俺は窓際という当たり席の特権を活かし、雲一つ浮かばない快晴を思う存分味わっている。


 八人乗りの馬車内は窮屈だが、贅沢は言えない。

 それに魔導具のおかげで揺れも殆ど取り除かれているので、充分に快適な移動と言えた。


 遡ること約二時間前――俺たち一年レッドイーグルは課外授業の為に王都を発った。

 移動手段は学園が用意した八人乗りの馬車が四つ。


 日帰りで、夕方頃には王都へ帰れる予定だ。


 課外授業の内容は『屋外での魔法行使』。

 厳密には学園という守られた箱庭ではなく、何が起きてもおかしくない外の世界での訓練。


 授業を行う場所も自然豊かな場所と聞いている。


「……お! 皆んな、街が見えたぞ!」


 俺とは反対側の窓際席に座る男子生徒が叫ぶ。

 つられて他の生徒も窓際へ集まり、ぎゅうぎゅう詰めになりながらも各々感想を言い始めた。


 直接訓練場所に向かうのではなく、一旦近くの町に寄って小休止の後に授業を行う。

 徒歩で行き来可能な距離感らしい。


「タスク、大丈夫か?」

「……あぁ」


 正面に座るタスクへ話しかけた。

 彼は重々しい表情を浮かべながら呟く。


「馬に直接乗るのは、問題無いのだがな……どうも乗り物は肌に合わない」


 タスクは所謂乗り物酔いに苦しんでいる。

 現代日本の車両に乗っても酔う者が一定数居るのだから、こればかりは仕方ない。


「そろそろ着くみたいだし、もう少しの辛抱だ」

「……まだまだ未熟だな、オレも」


 恥じるように拳を握るタスク。

 乗り物酔いは未熟どうこう以前の問題では?

 気が紛れるのなら何も言わないけど。


 その後すぐに馬車は町へ辿り着く。

 宿場町なのか、規模に反して人通りが多い。

 乗り物よりも人混みで酔いそうな雰囲気だ。


「ふぅ……空気が美味い……」


 馬車を降りて早々、タスクは深呼吸を行う。


「……オレは風通しが良い所で休んでいる」

「一緒について行くか?」

「そこまで迷惑はかけられない。心配は無用だ」


 そう言い残してタスクは歩き出す。

 一人になりたい気分も分かるのでそのまま見送った。タスクなら集合時間に遅れることもない。


 さて、俺はどう暇を潰そうかな。


「あ、クオン君だー。おーい!」

「メロウ先生、突然走ったら危ないですっ!」


 別の馬車から聴き覚えのある声が二つ分届く。

 年齢もテンションも生徒以上のメロウ先生は、いつもの笑顔を浮かべながら小走りでやって来た。


 そんな後ろに疲れた表情のクラージュも続く。

 セリフだけ見たら彼女の方が教師だな。

 因みにメロウ先生は課外授業の補佐としている。


「メロウ先生、クラージュ。二人とも何か用でも?」

「んー? 特に無いわよー? 強いて言うなら、何となく話したかっただけ、みたいな?」

「まだ話したりないんですか……」


 惚けるメロウ先生の横でため息を吐くクラージュ。

 聞けば馬車の移動中、ずっとメロウ先生のマシンガントークの相手をさせられていたようだ。


「いい加減にしてくださいよ、もうっ」

「あはは、ごめんなさいクラージュさん」


 二人のやり取りに違和感はない。

 元々、責任感が強そうなクラージュのことだ。

 メロウ先生の話を辛抱強く聞いていたのだろう。


「じゃ、私は授業の打ち合わせがあるからまたね〜」


 片手で手を振りながら戻って行くメロウ先生。

 自由だなぁ、本当に。

 なんて思っているとクラージュが言う。


「ねぇ、折角だし一緒に見て回らない?」

「いいぞ。実はタスクが乗り物酔いでダウンしているから、飲み物でも買ってやろうと思ってたところだ」

「タスクが? 少し意外だわ」


 乗り物に弱い顔じゃないものな。


 その後、俺と彼女は短い間ながらも宿場町を探索し清涼感のある果実水を購入。

 タスクへ渡し、英気を養ってもらった。




 ◆




 宿場町から歩いて、約三十分後。


「着きました。ここが本日の『教室』です」


 開口一番にマガト先生が告げる。

 俺を含めたレッドイーグルの生徒たちは、彼の背後に建つ巨大な建造物に目を奪われていた。


 恐らく円形上であろうその建物は石造り。

 幅広の壁には複雑な模様が刻まれている。

 高さも周辺の木々を越えるほど。


 しかし、最も目を引くのは『植物』だ。


 建物の大部分を蔦や苔が覆っている。

 自然のカーテンは年月を感じさせ、久しく本来の用途として使われてないことを容易に想像させた。


「ここはかつて、とある国が建造した闘技場……その、残り香とでも言いましょうか。廃墟と化してはいますが、建物の強度事態は衰えていません。故に学園が買い取り、授業の場として偶に利用しています。因みに普段は観光地としてそこそこ人気らしいですよ?」


 マガト先生の説明を聞きながら中へ入って行く。


「うおっ!? あ、危ねぇ……!」


 一人の男子生徒が転びかける。


 室内は外以上に繁茂した空間が広がっていた。

 特に床は木の根が唸るように生えており、足元を疎かに歩けば瞬く間に転んでしまう。


 元々、ここはどんな部屋だったのだろうか?

 面影が殆どない部屋を進むと、開けた場所へ。

 言わずもがな、闘技場のメインステージだ。


「一部、派手に壊れてるな」

「ええ。戦闘の跡だわ」


 俺の言葉にクラージュも同意する。

 メインステージは中々に荒れていた。

 一部の床は埋没し、ヒビ割れも多数。


 文明と自然、そして破壊。

 まるで何かのアート作品を見ている気分に陥った。

 最も、破壊跡については推測出来る。


「俺らと同じく、ここを課外授業に使った先輩方の痕跡だろうな」


 派手に暴れたのは間違いない。

 そしてこうなるに至った理由、それは――


「皆さんにはこれより、この場で模擬戦を行なってもらいます。普段と違う環境での魔法行使は、将来必ず役に立つでしょう」


 マガト先生の言葉に騒つくクラスメイト達。

 模擬戦を行うとは聞いていなかったからな。

 しかも普段の校庭や訓練所とは異なる環境。


 否が応でも緊張が高まる。


「これよりお前たちを二人一組に振り分ける。その一組が模擬戦の組み合わせだ、心しておくように」


 説明を引き継いだアムール先生が言う。

 直後、次々と名前が呼ばれ始める。

 規則性は無い。基準も不明だ。


「――クラージュ・アバンギャルド、タスク・ブルーネイル。お前達で最後だ」


 友人二人の名前が呼ばれる。

 クラージュとタスクの模擬戦か。


「よろしくね、タスク」

「ああ。悪いが手は抜けないぞ」

「当然。模擬戦だけど、本気でやらなくちゃ意味ないもの」

「フ……それもそうだな」


 タスクは乗り物酔いから復活していた。

 順番も最後だし、悪影響は出ないだろう。

 ……問題があるとすれば、俺の方か。


「アムール先生。俺の勘違いでなければ、まだ自分の名前が呼ばれていません」


 何故か俺だけ名前を呼ばれなかった。


 約一名、退学どころか退界させてしまったせいで在籍者が二十九名に減り一人余るのは必然だが……そう考えていると彼女は不敵に笑って言う。


「安心しろ、クオン。余ったお前はこの私が直々に相手をしてやる」

「えぇ……」


 本気で声が漏れてしまった。

 鬼教官との模擬戦……嫌な予感しかしない。


「何だ? 不満でもあるのか?」

「い、いえ、とんでもない」

「なら問題はない筈だ」

「はい……」


 面倒だ、という気持ちを隠しながら頷く。


「時間もない。各自十分で準備を終え、その後最初に名前を呼ばれたペアは前に出て始めろ。ルールはいつもの授業と変わりない」


 メロウ先生の授業では模擬戦も行っていた。

 殺傷力の高い魔法は当然使用禁止で、降参又は先生の判断で勝敗が決まる。


 俺は指示に従い準備運動をしながら空を見上げた。

 いつのまにか、灰色の雲が空を隠している。

 マイナスイオンも合わさり少し肌寒い。


 通り雨の予感を覚えつつ、準備運動を続けた。

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