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21話・プール清掃の手伝い

 魔導学園に来て一ヶ月近くが経つ。

 王都暮らしにも少しずつ慣れ、クラスメイトとも程々に交流し穏やかな日々を過ごしていた。


 今日最後の授業は、マガト先生の召喚学。

 メインは召喚魔法だが、召喚系統は支配系統と密接に関わっているため後者も一緒に学ぶ。


「――このように、召喚魔法は上手く扱えば実力以上の力を出せます。その逆もまた然り。格下だと侮っていた使い魔に、思わぬ反撃を受けることもあります。使い魔を単なる道具と見下すのは、自らの首を絞める行為に等しいと考えてください」


 担任教師でもあるマガト先生の授業は人気が高い。


 優しい語り口に加え、分かりやすい授業内容。

 生徒の質問にも真摯に答えている。

 嫌いになる方が難しい人だ。


「そろそろ時間ですね。少し早いですが、区切りが良いのでここまでにしましょう。お疲れさまでした」


 パタンと教科書を閉じるマガト先生。

 いつもならこの後、日直の生徒(今日はクラージュ担当)が号令を出して終わる。


「時間も余ったので、一つお知らせを。近々、課外授業を行う予定があります。詳しいことは正式な日程が決まり次第お伝えしますが、頭に入れておいてください――では日直の方、号令お願いします」

「はい!」


 左隣に座っていたクラージュが立ち上がる。


 ……課外授業か。

 何をするのかまだ分からないけど、授業の一環なら特別演習と違いクラス全員参加なのは間違いない。




 ◆




「ごめんなさい。手伝わせちゃって」

「どうせ暇だし、気にするな」


 放課後。

 俺は日直の仕事で教材用魔導具を備品室へ運ぶクラージュの仕事を手伝っていた。


 運んでいるのは両手で抱えるサイズの箱。

 特別重いワケではないが、二箱重ねて運ぶと視界の下半分を遮るので少し危ない。


「一人だと荷物で視界が悪くなるし、鍵や扉の開け閉めにも苦労する。前の日直で経験済みだ」

「そうなの。じゃあ次にクオンの番が回ってきたら、今度は私が手伝うわ」

「ああ、その時は頼む」


 他愛のない会話を交わしながら一階へ。


 備品室は学園の一階にある。

 道中はトラブルも起きず、無事に備品室へ辿り着き二つの箱を元の位置に納めた。


 ――コトが起きたのは、その帰り。


 鍵を返そうと職員室に訪れると、アムール先生とメロウ先生が何やら話し込んでいた。

 彼女達の組み合わせに違和感はない。


 魔導学園時代からの同期のようだし。

 実際二人の組み合わせは度々見かける。

 問題は表情。実に「困ってます」という顔色だ。


「……どうする?」

「……アムール先生は副担任だし、声をかけてみるわ。生徒の出る幕で無ければ普通に帰ればいいし」

「分かった」


 相談の結果、声をかけることになる。

 鍵を返し終えたあと、クラージュが話しかけた。


「アムール先生、メロウ先生」

「クラージュ? クオンと一緒にどうした」

「いえ、先生方がお困りの様子だったので」

「そうなのよ〜、ハァ〜……」


 メロウ先生がこれ見よがしにため息を吐く。


「あっ、そーだ! ねぇアムール、いっそクラージュさん達にも手伝ってもらうのはどう?」

「はぁ? お前は何を――」

「ここじゃあ話すのに向いてないし、一旦廊下に出ましょ」


 名案が浮かんだとばかりのメロウ先生は、アムール先生の背中を強引に押し廊下へ連れ出して行く。

 俺もクラージュも仕方なくその後に続いた。


「と〜ちゃく、と。うん、ここなら大丈夫ね」

「メロウ、どういうつもりだ?」

「あの、メロウ先生。私からも説明を……」


 真面目な二人はさっきから困惑気味だ。

 そんな彼女達を見てメロウ先生は楽しそうに笑う。


「もちろん話すわよ。実は今度、授業でプールを使う予定があったんだけど〜……」


 彼女の言い分はこうだ。


 まず、この学園にも水泳競技場……プールがある。

 ただその用途は泳ぐ為というより、水属性魔法の練習として使われるのが主な利用方法だ。


 当然、日常的に使っていればどんな物も汚れる。


 プール施設も例外に漏れず、清掃業者が今週末に来る予定だったが……相手側の都合でキャンセルされてしまい、途方に暮れていたとメロウ先生は言う。


 最悪、二人だけで清掃することになるとも。

 今年の管理者はアムール先生と彼女らしい。

 ……段々と考えが読めてきた。


「成る程。それは大変ですね」

「でしょ〜?」

「アムール、生徒相手に愚痴をこぼすな。大体お前と私なら問題無く清掃可能だ。だから学園側も私達に管理を一任している」

「それよ。特別給与が出るワケでもないし、管理なんて……責任取らされるだけじゃない、ハァ〜」


 俯き、割と本気で落ち込むメロウ先生。

 教職が大変なのは何処の世界も同じか。

 見ていると胸が痛ましい。


 しかし次の瞬間、彼女は勢い良く顔を上げた。


「だぁから! 二人には掃除、手伝ってほしいの! お願い〜!」

「ちょ、メロウ先生。これは……」


 二人と言いながら俺の手を握り、上目遣いで懇願しながらさり気無く胸元へ腕を寄せるメロウ先生。

 完全に『手慣れてる』女の所業だった。


 そんな彼女の頭へ手刀が振り下ろされる。


「あいたっ!?」

「いい加減にしろ、メロウ」

「う〜、お願いしてただけなのにー」

「ふざけるなバカが、全く……第一これは、私とお前の問題だ。私の生徒を巻き込むな」


 とてつもなく真っ当な事を言うアムール先生。

 立場は同情出来るけど、結局は彼女達の仕事だ。

 これでこの話しはお終い――


「私、手伝っても構いませんよ?」

「えっ、ほんとクラージュさん!?」

「はい。週末なら予定も空いています」

「やった〜!」


 クラージュが自ら手伝うと言った。


「まて、クラージュ。このピンク頭への同情は要らないぞ? これも教師の仕事だ」

「ピンク頭……ああいえ、私も魔導学園の生徒なので。プールもいつか使うかもしれないし、今のうちに慣れておきたいなって考えただけです」


 とは言うものの、実際は親切心だと思われる。

 彼女は誰かの助けに入ることを厭わない。

 その理由を、俺は既に知っていた。


 過去、救われなかった自分への代償行為。


「そうか……いや、ここはありがとうと言うべきか。正直助かる」

「気にしないでください」

「うんうん! あっ、一通りの掃除が終わったら遊びに使っていいからねっ! 貸し切り状態よ〜」


 言いながらアイコンタクトを送ってくるメロウ先生。女子の水着を見せてやるからお前も手伝え、という言外の取引を迫られていた。


 俺は小声で彼女に告げる。


(……アムール先生の水着)

(任せなさい。エロいのを用意するわ)


 堂々と仲間を売ったピンク頭さん。


 一瞬、こんな方法で女性の水着姿を拝んでいいのかと葛藤したが――労働に対価が発生するのは社会の常識だ。ブラック企業、断固反対!


「先生、俺も手伝います。学園の生徒が園内施設の清掃を行うのは当然です」

「お前は急にどうした」

「クオン?」

「どうもしてないです」


 怪訝な顔を浮かべるアムール先生とクラージュ。


 メロウ先生だけがニヤニヤと笑っていた。

 もしあの人が約束を守らなかったら、裸にひん剥いて個人鑑賞会を開こう。


「一応もう一人か二人、助っ人お願い出来る人がいたら呼んでくれる? 無理に誘わなくても大丈夫だけど」

「はい。声はかけてみます」


 ここから更に追加メンバーか。

 俺はタスクくらいしか心当たりがないけど、こういうのには興味無さそうだ。


 殆どの生徒も無性労働はやりたくないだろう。

 水着をエサにすれば男子は無限に釣れそうだけど、俺が嫌だ。野郎の体は見たくない。


 ……ダメもとで、アイツを誘ってみるか。


「じゃあ週末、昼の九時に集合ね。もちろん水着持参! 皆んなで遊ぶわよーっ!」

「違う、やるのは掃除だバカ!」

「あはは……」


 こうして急遽、プール清掃という名の水着ショーが開催決定された。

 主催、メロウ先生。観客兼審査員、俺。


 ――なんかスゲー青春っぽいぞ!

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