20話・リザルト
「見て、雨がやんだわ」
突発的な豪雨だったのか、洞窟に身を寄せて三十分も経たないうちに雨天は終わった。
灰色の雲が風に流され、本来の青空が頭上を覆う。
「そういえば……クラージュはスポット、どれだけ回れたんだ?」
特別演習の課題を思い出す。
結局俺はスポットを一つしか見つけてない。
続ける意味も無いし、このまま終えるつもりだ。
「五つ全て回ったわ。それで帰る途中に強い雨が降りそうだったから、見かけた洞窟へ行こうとしていたの。あとは知っての通りね」
「凄いな。全部見つけたのか」
「最初は難しかったけど、探せば探すほど簡単になったわ。クオンはどうなの?」
「俺は――」
自分の状況を伝える。もう諦めていることも。
「そう。残念だけど、無理をして体を壊したら元も子もないわ。来年以降も演習はあるのだし」
「ああ。大人しく戻ることにするよ」
俺とクラージュは洞窟を出て、共に出口を目指す。
スタート地点に帰るまでが特別演習だ。
帰り道に関しては問題無い。
山暮らしの頃に使っていた『索敵魔法』を使う。
本来の用途は獲物の追跡だが、自分の歩いた痕跡を探せばそのまま帰り道の標に応用出来る。
師匠から教わった知恵の一つだ。
因みにクラージュは地道に印を付けていたようで、スポット探しよりも帰る方が大変だと言っていた。
それも含めての課題なのだろう。
クラージュには励まされたし、せめてものお礼にと帰り道は俺が先頭を引き受ける。
モンスターとの戦闘を避けて進むこと約一時間。
無事にスタート地点まど戻れた。
「ありがとう、クオン。助かったわ。ちょっとズルいかもしれないけど……」
「気にするな。自分が付けた目印を辿っていても着いたと思うぞ? 時間が早くなっただけだ」
「そう言ってくれると嬉しいわね」
悪戯っ子のように笑うクラージュ。
今日だけで、色んな彼女の顔を見た気がする。
成り行きで過去も知ってしまったし。
今、一番仲が良いのは彼女かもな。
「お前たち! 無事だったか!」
「アムール先生?」
遠くに立っていたアムール先生が駆け寄って来る。
普段の彼女からは想像も出来ない穏やかな表情を浮かべていたが、安否確認を終えると元に戻った。
「はい。私達は特に大きな怪我も負っていません」
「……んんっ。それは何よりだ」
ワザとらしく咳き込む先生。
人の良さが隠し切れていなかった。
同時に思う。
もし、俺がドロンを……クラスメイトを殺したと知ったらどんな反応を見せるのだろうか?
クラージュにも同じことが言えた。
隠すことに罪悪感を覚える。
明確な殺意を向けられた以上、こちらも実力行使に出なければ本当に殺されていたとしても。
「魔導師団の職員が魔導具の回収と検査を行なっている。すぐに行くといい」
「「はい」」
一旦先生とは別れ、魔導師団の方へ向かう。
探知魔導具と救援魔導具を提出し、簡単な治癒魔法で軽度の傷は癒やしてもらえた。
重傷者は仮説テントに運ばれる。
何人か既に、世話になっている様子だった。
「閉会宣言はここ、南のスタート地点で行う。他の参加者が集合するまで待機しておくように」
閉会は一緒に行うようだ。
言われた通り待っていると、他のスタート地点から続々と参加者が南地点に集まって来る。
手応えがあった者、逆にスポット全制覇には至らなかった者と表情は様々。
総じて疲労困憊なのは言うまでもない。
けれど平然としている者が一人だけいた。
「タスク」
「クオン、クラージュ。一緒に居たのか?」
「ええ。クオンとは途中で合流したの」
狼の獣人、タスク・ブルーネイル。
彼の衣服は殆ど汚れてない。
血色も良く、活力に満ち溢れていた。
「そうか。オレは三十分と経たずに課題を終えたせいで、ずっと暇でな……正直拍子抜けしたぞ」
「三十分!? ど、どういうこと?」
驚くクラージュ。俺も内心では大きく驚いた。
するとタスクは自らの鼻を指差して言う。
「明らかに自然物とは違う人工物の匂いが混ざっていた。嗅ぎ分けるのは容易い。それにこの程度の森、オレにとっては街道とさして変わらない。故郷の自然は、もっと厳しかったからな」
「な、成る程。流石獣人ね……」
誇るワケでもなく淡々と告げるタスク。
彼にとっては簡単な課題だったらしい。
同じ内容でも、受ける者によって難易度は変わる。
「自分の長所を再確認出来て良かったじゃないか」
「ふむ……そういう考え方もあるのか」
緩い雰囲気で合流したレッドイーグルの面々。
この後閉会宣言が行われ、課題達成者の名前が読み上げられた。全体の三分の一程度が達成している。
最後に未帰還者の報告。
当然、ドロンのことだ。
既に救出隊が捜索を始めていると職員は言う。
だが彼が戻って来ることはない。
こうして特別演習は慌ただしく幕を閉じる。
蓋を開けて見ればドロンとの勝負……殺し合いが殆どで、演習にはほぼ参加してない。
来年、もしやる気があればまた参加しよう。
――そして、特別演習から三日後。
「今日は皆さんに、悲しいお知らせがあります」
朝のホームルーム中。
陰鬱な表情を浮かべたマガト先生が、ドロンの死をクラスメイトへ伝えた。
死因はモンスターによる捕食。
捕食されたあとの残骸が多数見つかったらしい。
身に付けていた物の特徴からドロン・ワルナーと判断。演習中の事故として処理が進んでいる。
演習参加者は『死んでも自己責任(意訳)』の同意書を書かされていたので、この流れは予定調和。
あとはワルナー家が嫡男の死に納得するかどうか。
未だワルナー伯爵は何の反応も見せてない。
密かに暗躍しているのか、それとも……
どちらにせよ、降り掛かる火の粉は払うのみ。
「ドロン、死んだってよ」
「ふーん」
「これでちょっとは平和になるな」
クラスメイトの反応は淡白だった。
彼の死を喜ぶ者はいないが、悲しむ者もいない。
ドロンの性格が如実に現れている。
邪魔者が消えて一安心、程度の関心だろうか?
少なくとも難癖を付けられることは無くなった。
聞けば各地で問題行動を繰り返していたようだし。
モンスターに襲われた最期を疑う者もいない。
日々の態度がどれだけ周りに影響を与えているのか、その教訓を得る。まぁ――最も教訓が必要だったのは、死んだ本人なんだけどさ。
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