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15話・最上級

「はぁ……」


 大きなため息を吐くクラージュ。

 手元のポトフから立ち昇る湯気と混じり、吐息の勢いで香ばしい匂いが俺の元に届いた。


 実技訓練の授業から約四時間後。

 俺はタスクとクラージュと共に魔導学園の食堂へ赴き、束の間の休息を味わっていた。


 食堂は本校舎の一階にあり、窓口で食べたい物を注文し別の窓口で受け取る。料金もそこで支払う。

 二階席もあるが貴族専用だ。


 食堂の雰囲気は思いの外カジュアルで、和気藹々と食を楽しむ学生の姿は前世の若者と変わりない。

 逆に二階は高級レストランのように厳粛そうだ。


「どうした? ため息なんか吐いて」


 鶏肉のトマトソース煮込みを切り分けながら言う。

 煮込み料理は山奥暮らしの時にもよく作っていたので、参考になればと食堂メニューの中から選んだ。


 タスクは分厚いステーキと丸い形の硬そうなパン。

 クラージュはポトフとサラダ。

 けれど彼女の食べ物は少しも減ってない。


 反対にタスクは黙々と食べ進めている。


「アムール先生の授業を受けて、不安に思ったの。私、王国魔導師団を目指しているから色々覚悟してたつもりだったけど、まだまだ甘かったわ。結局、最後まで走れなかったし……」


 クラージュは力無く言う。

 まだ入学して二日目なのに、彼女はもう自分の将来についてある程度考えているようだ。


「驚いた。魔導師団へ入るのが夢なのか」

「夢ってほど壮大でも無いわ。ただの目標よ」

「……理由を聞いてもいいか? 勿論、無理に言わなくてもいい」


 純粋に興味が湧く。

 知り合ってまだ二日目のクラスメイト相手に話してくれるかどうかは、微妙な話題だけど。


 するとクラージュは大袈裟だと笑ってから話した。


「そんなに畏まらなくても話すわよ、秘密にしているワケでもないし――私が魔導師団を目指しているのは、凄くシンプル。証明したいのよ、自分の力を」

「証明って……誰に?」

「この国に」


 戯けた様子も無く、彼女は言い切る。

 傲慢さから溢れる自信とは違う。

 自らの澄んだ碧眼のように爽やかだ。


「また大きく出たな」

「あら、笑わないの?」

「笑う要素がないだろ」


 純然な事実を告げる。

 無言を貫いていた隣のタスクも頷く。

 俺たちの反応に彼女は驚き、次いで微笑む。


「ありがとう。大抵の人は小馬鹿にするか、話半分に聞いてるだけだったから……嬉しいわ」


 穏やかな表情。

 幾分、元気を取り戻したようだ。

 凛々しい顔つきの方がやはり似合う。


「気にしなくていい。それより冷める前に食べよう、勿体無いぞ」

「あ、そうね」


 何だかんだで俺も食べ損ねていた。


 切り分けた鶏肉をフォークに刺し、トマトソースと絡め口内へ運ぶ――美味い。

 柔らかい肉とトマトの酸味が食欲を促進させる。


「ところで、クオンはどうして魔導学園に入ったの? 聞いてもいいかしら?」


 今度はクラージュが質問するターン。

 会話の流れ的には自然だ。

 鶏肉を咀嚼し、飲み込んでから答える。


「ここで学ぶことがあると思ったからだ。まあ、そのキッカケ――魔導学園の存在を教えてくれたのは、育ての親だけど」

「育ての親?」

「そのままの意味だ。捨て子だった俺を、師匠……育ての親が拾ってくれたんだ」

「……ふーん」


 ジッと、何故か俺を見つめるクラージュ。

 服や顔も別に汚れてない。

 理由が分からないのでスルーした。


「だからまあ、真面目に授業を受けて卒業するのが目標だな。当たり前っちゃ当たり前だけど」

「それが普通で、充分立派よ」

「……かもなぁ」


 彼女の言葉に同意を示す。

 今思い出したけど……俺、高校中退してた。

 原因は不明だが、辞めたことだけは覚えている。


 今回こそは卒業したい。




 ◆




 午後の授業は『魔法基礎学』から始まる。


 担当はメロウ・カーム先生。

 セミロングの桃色髪をポニーテールに結んでいる。

 目の色も桃色。


 服装はクリーム色のセーターにロングスカート。

 自己紹介で「このクラスの副担任のアムール先生は、魔導学園時代の同期なのよ」と言っていた。


 クラスメイトは今朝の授業を思い出し震える。

 彼女も鬼のような指導を始めるのではないかと。

 しかし、その心配は杞憂に終わった。


「それじゃあ皆んな、魔法基礎学の教科書を開いてね。今日は魔法の等級について勉強するわよー」


 メロウ先生は……甘かった。


 なんかこう、母校に来た教育実習生って感じ。

 生徒との距離が近く、先生と言うよりOBに近い。

 優しい分には困らないので、文句は無いけど。


「魔法に『等級』が割り振られているのは、皆んなも知ってるよね?」


 意識を授業へ戻す。

 魔法は習得難易度毎に等級が設定されている。

 下から順に下級、中級、上級、最上級。


 日常的に見かけるのは中級までだ。

 下級魔法は一般市民の間でもよく使われ、戦闘には向いてないが調理や洗濯等の家事に役立つ。


 中級魔法は多くの魔導師にとっての主戦力であり、俺がよく使う『魔弾』や『電流』もこの等級だ。

 消費魔力も少ないから使い勝手が良い。


 そして上級からは難易度が格段に上昇する。

 本職の魔導師でありながら、一つも習得出来ずに生涯を終える者も少なくないと聞く。


「上級魔法は、すっごく習得が難しいの。でも、落胆する必要は無いわ。雑な上級魔法は、工夫を凝らした中級魔法に劣るもの」


 ただ強い魔法を覚え、使うだけでは足りない。

 状況を俯瞰し、最適な魔法を選ぶのが真に優秀な魔導師だとメロウ先生は語る。


 彼女の授業はイメージに反してまともだった。

 等級という派手な要素だけに囚われず、広い視野と知識を持って『魔法』を教えている。


 成る程。これは確かに魔法基礎学だ。

 一人感心しながら勉強に勤しむ。

 それから暫く経ち、授業終盤。


「メロウ先生ー。最上級魔法って何ですかー?」


 女子生徒が最上級について質問した。

 するとメロウ先生は「ん〜」と少しだけ困ったように唸りながらも、生徒の質問に答える。


「最上級魔法はね、他の等級とはちょっと……ううん、かなーり違って特殊なのよ」

「特殊?」

「そう。上級魔法は工夫次第で中級魔法でも似たようなことが出来たりするけど、最上級は無理ね。強力すぎて、代用が効かない。例えば――」


 言って、彼女は黒板に文字を書き出す。


「最上級魔法の一つ『極衣ごくい』。全身に各属性……例えば火属性なら火を纏うことが出来て、身体能力も上がる。強化の度合いや各属性の出力も、上級以下の魔法と比べたら段違い。純粋に上位互換なのよね」

「へぇー」


 要するにスゴい魔法ってことだ。最上級は。

 特に極衣は一度の詠唱で強化と属性変換、二つ分の効果を得られる。しかも各属性の現象は常時発動。


 一秒が生死を分つ戦闘において、この差は大きい。


「でもぉ、最上級魔法なんて使えるのはそれこそ限られた人だけよ? 現職の魔導師団でさえ習得者は数える程度――あら、いけない。もうこんな時間?」


 気づけば鐘が鳴っていた。


「は〜い、今日はここまで。また次の授業で会いましょう? 予習復習を忘れずに、ね」


 右目のウインクをし、メロウ先生は退出して行く。

 残す授業も後一つ。

 最後まで気を抜かずに取り組もう。

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