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11話・クラスメイト

 入学式は案の定退屈だった。

 学生にとってはスピーチも説教も大差ない。

 今日入学したばかりの新入生なら尚更だ。


 そんな時間を終えると、いよいよクラス発表へ。

 多目的ホールを出てすぐの所に設置された掲示板には、新入生の名前と所属クラスが記されていた。


 魔導学園は学年ごとに三つのクラスが存在する。


 レッドイーグル。

 ブルーシャーク。

 イエローパンサー。


 この三つがクラスネームだ。

 三つのクラスに優劣は無い。無いが、どのクラスが最も優秀か競い合うのが伝統らしい。


 俺は掲示板の前に集う人混みへ入る勇気が無く、魔法で視力を強化し所属先を確かめる。

 だが多数の後頭部が邪魔をし、結局苦労した。


「俺は……レッドイーグル、か」


 ようやく自分のクラスを知れた。

 視力強化を解除し、学園の全体図を思い出す。

 一年生の教室は本校舎の二階。


 ここから遠くはないが、初日から遅刻もまずい。

 さっさと向かってしまおうと歩きかけたその時。

 異彩を放つ存在が目に留まった。


「……迷子?」


 幼い少女だった。

 外見年齢は十歳前後。

 140センチに届かない身長。


 艶やかな黒髪をポニーテールに結んでいる。

 瞳の色も黒。

 日本人のような肌色で、着ている衣服も和風。


 ノースリーブの浅葱色の着物に藍色の帯。

 下半部はミニスカートのように短く、しかもかなり際どいスリットが入っていた。


 太ももは編みタイツに覆われている。

 総じて幼い外見に似合わず露出過多気味だが、不思議と下品な雰囲気は無い。


 あえて例えるなら……くのいち?

 本物の忍者なんて見たことないけど。

 如何にも『くのいち』っぽい衣装だ。


 彼女は掲示板から離れた位置に立っている。

 式に参列した保護者の子か?

 入学式のゴタゴタで、誰も気づいてない。


 仕方ない、これも何かの縁か。

 自分も捨て子だったからか、妙な親近感を覚えた俺は推定迷子のくのいちへ声をかけた。


「一人でどうした? 迷子か?」

「……」


 少女は沈黙。顔も合わせてくれない。

 俺の聞き方が悪かったな。

 迷子に迷子か? と聞いてどうする。


「お父さんかお母さん、分かるか?」

「……いない」

「いない? あー、新入生にお兄さんかお姉さんがいるのか」

「兄も姉もいない」

「え……じゃあ一人で来たのか?」


 こくりと頷く少女。

 そして懐から何かを取り出し、俺の顔面へ突きつけながら淡々と言った。


「わたしが新入生。母はいるけど、今日は来てない。だから一人」

「……!?」


 我が目を疑う。


 少女が持っていたのは魔導学園の学生証。

 この学生証は特殊な素材と製法が用いられており、持ち主が触れると中心が淡く発光する。


 彼女の学生証は――しっかり光っていた。


「新入生だったのか……悪い、勝手に迷子だと勘違いしてた」

「気にしてない」


 少女は落ち着きを崩さず、常に無表情。

 自動音声のマネキンと話している錯覚に陥る。

 生気が感じられないというか。何というか。


「ん? お前、制服はどうした」


 魔導学園にも制服は存在する。

 青色のブレザーに白のボトムかスカート。

 加えて男子はネクタイ、女子はリボン。


 最も特徴的なのは『ポンチョ』だ。


 背中に学園のエンブレム(鷲と鮫と豹)が刺繍されたポンチョは、一目で生徒だと分かる。

 現に俺も今、着ているしな。


 とは言えポンチョは式典用。

 常に着る必要はない。

 が、目前の少女は完全私服だ。


「一番小さいサイズを頼んだけど、合わなかった。だからいつもの服。許可はもらってる」

「成る程なぁ……」


 彼女の体格はどう見ても小さい。

 想定されたサイズを下回ってしまったのだろう。

 だが当の本人は何とも思ってない様子だ。


 俺は少し、考える。


 迷子でないならこれ以上関わり合う必要もない。

 しかし俺と彼女は同級生。

 名前くらいは聞いてもいいのでは?


 ……相手が美少女って要素は別に関係ないぞ!


「今更だけど、俺はクオン。家名は無い。同じ新入生だし、一応よろしく」

「……」


 つまらなそうにこちらを見る少女。

 すると思いの外素早く動き掲示板の方へ向かう――間際にポツリと言い残した。


「……コクヨウ・ヤイバ。掲示板、空いてきたからもう行く」


 反応を返す前にさっさと行ってしまう。

 掲示板の前が空くのを待っていたようだ。

 わざわざ追いかける必要もないか。


 名乗り返してくれたことだし。

 同級生ならまた会えるだろう。

 俺はコクヨウの顔と名前を記憶しその場を離れた。




 ◆




 魔導学園の校舎内は古風ながらも清潔だった。


 煉瓦の壁、石造りの床は風情に溢れる。

 外観は城のようだったが、内部は装飾こそファンタジーなだけで構造は日本の学校と相違無い。


 廊下を歩き、レッドイーグルの教室へ。

 引き戸式の扉を開けると、既に数名の新入生が一足早く着席していた。


 彼らが俺のクラスメイトになる。


 教室の形は正方形。

 入って右側に黒板が貼り付いている。

 黒板の前には教卓。


 教卓より先が生徒たちのスペースであり、長方形のテーブルが幾つも並んでいる。

 後ろ側へ進むほど緩やかな坂道を描く。


 高校の教室と言うより、大学の講義室に近い。


 四十人程度なら楽に座れそうだ。

 座席の指定は特に無く、先に到着していたクラスメイトも好きに座っている。


 俺は真ん中辺りの場所を選び、座った。

 椅子は木製。

 ギシリと鳴る軋みが年月を感じさせる。


「……」


 時間だけが過ぎていく。

 次第に座席は埋まり始めるが、皆初対面ということもあり誰も口を開かず物静かだ。


 まあ初日はこんなものだよな。


 高校一年生時の顔合わせも似た雰囲気だった。

 これが進級して二年生になると、友達や知り合いが増えてクラス替え直後でもある程度は話せる。


「隣、いいか?」


 なんて考えていたら声をかけられた。


「ああ。勿論良い、ぞ」


 言葉に詰まる。

 声の主は『獣人』の男子生徒だった。


 青い体毛に同じく青い瞳。

 身長は180センチ前後。

 筋肉質で丈夫そうな肉体。


 そして……明らかに人間とは違う頭部。

 首から上は完全に『狼』の顔だ。

 凛々しい顔つきは狼ながらも美形に映る。


「獣人を見るのは初めてか?」

「……その通りだ。気を悪くしたなら謝る」

「いや、いい。オレも人間を初めて見た時は驚いた。どの種族も同じだ」


 獣人の彼は気さくに笑う。

 寛容な相手で助かった。

 場を和ませる為に会話を続ける。


「エルフとサキュバスのハーフなら、知り合いにいるんだけどな。獣人をこの目で見るのは初めてだ」

「……その知り合いの方が珍しくないか? エルフもサキュバスも希少種族だぞ」

「そういえばそうだったな」


 師匠はレア中のレア種族だった。

 獣人と違い、見た目はほぼ人間だから異種族の感覚が殆ど無かったと今更ながら思う。


「フ、面白い奴だな……オレはタスク・ブルーネイル。お前の名前を聞いても?」

「クオンだ。家名は無い、よろしく」

「ああ。よろしく」


 とても自然な流れで名前を知れた。


 因みにこの国で家名が無いのは別に珍しくない。

 家名を持っているのは貴族か成功した商人。

 平民でも古い家系は持っている。


「……む。クオンお前、もしかして入試の第一試験で首位だった奴か? 見覚えがある」


 タスクが俺の顔をジッと見ながら言う。


「よく覚えてたな」

「やはりか。あの試験、オレも首位を狙っていたからな。だが結果はお前の独壇場……肉体強化には自信があっただけに、少し落ち込んだぞ?」

「悪いな。俺も負けられなかった」

「なに、オレも次は負けん」


 闘争心を燃やすタスク。

 負けず嫌いなのかもしれない。

 その後も会話を続けること数分。


 教室には見たことのある顔も現れていた。

 入試の時に出会った金髪の少女に、さっき顔を合わせたばかりのコクヨウ。


「あいつらもレッドイーグルだったのか」

「知り合いか?」

「ああ。一人は名前も知らないけど――」


 瞬間、俺の声は何者かの怒鳴り声に遮られた。


「臭う! 臭うぞ! この教室、ケモノの臭いで充満している! 空気が不味い!」

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