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1話・転生、闇の中に見た光

 ――最初に感じたのは寒さだった。


 手足の感覚が無くなるほどの極寒。

 雨風にでも晒されているのか、ポツポツと体を打つ微弱な衝撃が熱と体力を奪っていく。


 加えて何故か視界は不明瞭。

 黒と白、灰色ばかりで何も見えない。

 突如訪れた異常事態に俺は戸惑う。


 ここは……何処だ?

 どうして体が思うように動かない。

 まるで他人の体を使っている感覚。


 いや、今はそれよりもこの寒さだ。

 冗談抜きに凍え死んでしまう。

 しかし体は動かず、声も発せない。


 こうしている間にも衰弱は進む。

 ああ、クソ……どうしてまたこんな目に遭う。

 思い起こされるのは幼少期の記憶。




 俺は、実の両親から虐待を受けていた。




 殴られては買い出しに行かされる毎日。

 教育はもちろん、食事も満足に与えられない。

 時には万引き等の犯罪行為も迫られた。


 酷いのは単なる暴力ならまだマシってところ。

 耐え難いのは真冬の夜。庭に放り出され、そこで一夜を過ごすのは体力以上に精神が削られる。


 自分が何者なのか、本当に忘れてしまう。

 人は生きる意味を見失うと、自死すらせずただただ時が過ぎるのを待つだけの肉塊と化す。


 ――今の俺は、その時の症状一歩手前だ。


「……ァ」


 助けを呼ぼうと喉を震わす。


 だが漏れるのは微かな呻き声だけ。

 仮にまともな発声が出来たとしても、ゴウゴウと鳴る耳障りな風音が全て掻き消していただろう。


 あぁ、そうか。もう終わりか。

 何も成せず、残さずに。

 ゴミのように生涯を終える。


 ある意味、相応しい結末だ。

 心中で歪に嗤う。

 もう、顔の筋肉も動かせない。


「――ッ!」


 そんな自暴自棄に陥った時。

 暖かい光が、視界を覆った。

 続けて体を抱き上げられる。


 なんだ? 助けが来たのか?


「○☆$%=」


 俺の顔を覗く何者かが呟く。

 ダメだ。上手く聴き取れない。

 それにもう、意識……が――




 ◆




 どうやら俺は助かったらしい。

 曖昧な表現は、未だ現状を把握出来ていないから。

 今は暖かい部屋で寝かされている。


 相変わらず身動きは取れず、五感も機能しない。

 暗闇の中で意識だけがあるような感覚。

 しかし不思議と恐怖は薄れていた。


 元鞘に収まったような安堵感。

 少なくとも、命の危機は去っていた。

 ただ、拭えない違和感は当然の如くある。


「◇:€<^#→■」


 俺を助けた謎の人物。

 辛うじて分かるのは輪郭だけで、あとは容姿も喋る言葉もまるで理解出来なかった。


 多分、女性だとは思う。

 体の柔らかさや声の高さから推測した。

 ただそれにしても、体が大きすぎる。


 俺は一応成人男性だぞ?

 なのに軽々と抱き上げ、今も温かい液体をスプーンらしき物ですくい食べさせている。


 分からん……分からんが、何も出来ない。

 やがて強烈な睡魔に襲われる。

 悪夢なら、早く覚めてくれますように。




 ――数ヶ月後。




 俺は色の識別能力を取り戻していた。

 おかげで分かったことが沢山ある。

 現在暮らしている場所は広めの木造住宅。


 ログハウスと言えば想像しやすいだろうか?

 暖炉付きで過不足無い環境だ。

 そこで謎の美女と生活している。


 これだけなら羨ましいと思われるかもしれない。

 しかし、事はそう単純ではなかった。

 ……結論から述べよう。


 俺は異世界の赤子に転生していた。


 名前は『クオン』。男の子だ。

 最初は何かの冗談かと思ったよ。

 けれど時間が経つごとに現実を知る。


 明らかに日本語とは違う言語。異なる文化。


 極め付けは『魔法』の存在。

 手品のマジックではない本物の魔法がこの世界には存在し、一つの技術体系として定着していた。


 その事実に気づかせたのが、俺を拾った女性。

 彼女は日常生活で気軽に魔法を使っている。

 暖炉に火を灯したり、薪を風の刃で割ったり。


 そんなワケで生まれ変わり先は日本ではない。

 問題は転生の原因だ。

 転生したってことは、前世の俺は死んだのだろう。


 しかし俺は自らの死因を思い出せない。

 もっと言えば、自分の人生の記憶が虫食い状態のように所々欠落していた。


 けれど一般常識等は覚えている。


 そこに転生した理由が隠されているのかも。

 病死か事故死、あるいは自殺。

 少なくとも老衰では無いだろう。


 老衰にしては、俺の精神が若すぎる。

 多分、二十代くらい。

 まぁ……わざわざ死に際を思い出す必要もない。


 とりあえずはゆっくり成長しよう。

18時頃にもう一度更新します。


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