02 平常心
調査のため魔物のそばに行くたびに、僕の影の薄さはどこまで通用するのか試してみた。
分かったことがひとつ。
僕が気持ちを乱さなければ、どんな魔物にも気付かれない。
平常心であり続ければ、鼻息がかかるくらいに近づかれても気付かれることは無い。
どんな時でも平常心でいられるように訓練しようとしたけど、そもそも訓練の必要などない事に気付いた。
例えば目の前で人が魔物に襲われていた場合。
惨劇を見ても全く平常心を失わなかった自分は、もしかして異常なのかと考えたりもした。
世界が自分を無視するなら自分も世界を無視しても良いと思うと、気が楽になった。
それからは、余計なことを考えないで仕事をこなしている。
適当な土地を旅して魔物分布を調べ、大体のことが分かったら他の場所へ。
分布調査員として有能であると評価された僕は、ある程度自由に行動する裁量と評価に見合った報酬を得て、あてどない旅暮らしを続けていた。
新種発見で一攫千金などということはまだ無かったけど、特に贅沢もしていなかったので貯蓄だけはかなりのものだった。
恋人どころか友人のひとりもいなかったので、金を貯め込んでるという情報が周囲に知れ渡ることも無く、つまりは安全で平和な毎日だった。
老若男女、数えきれないほどの魔物の犠牲者を見ても何も感じなかった僕は、
ある時、いつも通りに仕事をこなしていたのにいつも通りじゃない行動を取ってしまう。