課金要素はねぇ
新学期になり、留学生が増えた。
といっても、自己紹介自体はリアンの誕生日パーティーで済ませているので今更なんだけど、今後お茶会なんかでの組み合わせも考えないといけないので、手間は増えるという面では若干面倒。
ただ、留学生組はパビリオンなどは使用せず、サロンやカフェで昼食を取るようで、わたくし達の関与しない所で学院の生徒との交流を深めているらしい。
ただ話によると、わたくし達を『薔薇様』と呼んでくる生徒に便乗して、ファンクラブのような親衛隊を作ろうと画策しているという話もあって、やっぱりここは女子校か? と思ってしまう時もある。
でも、リアンって今の時点で女生徒から人気があって、よくプレゼントとかを貰っている。
毒見や不審物でないかチェックをする為、開封などは王宮に戻ってから行うようにしているけれども、モテる女も大変だよね。
そういえば、乙女ゲームなのにヴァレンタインイベントとかなかったな。
……え、なかったよね? うそぉ、乙女ゲームなのに? 今更だけど、乙女ゲームなのに無かったよ!
シナリオライターはそれでいいのか? 好感度を上げるチャンスじゃないの?
ファンタジー物だから採用しなかったの? クリスマスイベントも無かったけど、え、乙女ゲームよね?
げ、現代物じゃないからだと思っておこう。
精神衛生的にその方がいい。わたくしだって、今までヴァレンタインとかクリスマスとか思い浮かばなかったしね。
ハハ、こんな所で喪女の実力が発揮されたよ!
新年や新年度の概念はあるのに、偏った世界観だな。新年は長期休暇に思いっきりぶつかるから、自分の領地に移動中もしくは領地に到着して改めて祝うっていう人もいるし、王都に残っている人は王都で祝うっていう感じだね。
領地に帰る貴族も多いから、国王主催で新年のパーティーが開かれるっていう事はない。
そのために社交シーズンは盛大に行われるっていう感じなのかな。
辺境、すなわち国境なんかを守っている領主は、戦争や緊迫状態だった時代は社交シーズンでも領地から離れなかったそうだけど、今はそれが無いからね。
この国の最後の戦争は、確か百年前だったかな。
魔王が(表向き)封印されて、国同士の小競り合いがあったんだよね。
今は同盟や条約で、気軽に戦いを吹っ掛けるなんて出来ないけど。
戦闘要素が絡む乙女ゲームじゃなくて本当によかったわ。
イベントで魔物と戦うけど、テキストイベントだからプレイヤーは特に行動選択とかなかったしね。
「次はダンスの授業か。いちいち着替えるのがやっぱり面倒ですね」
「普段着ているドレスは、成人してから着用する夜会用のドレスとはまた違いますもの。今から慣れておく必要がありますわ」
「ヒールにも慣れておかなければいけませんよ」
「初めてヒールを履いた時は足が痛かったし、赤くなったものじゃ」
「流石にここの所は無くなって来ましたが、それでも長時間ダンス用のハイヒールを履いていると足は痛くなってしまいますね」
「わたくし達でこうなのですもの。学院での授業でしかダンスの練習をなさらない方は大変ですわよね」
「そうですね」
わたくし達はそんな会話をしながら、学院が用意した練習用のドレスに着替えるために移動を開始する。
乙女ゲームでは、ドレスを切り裂くとかっていう定番のイベントがあったりするけど、あの乙女ゲームには無かったなぁ。
本当に、悪役令嬢はヒロインに対しては嫌味を言うぐらいしかしなかったもん。
だって、婚約者に恋愛感情持ってなかったしね。
今なら分かるけど、あんな婚約者に恋愛感情を持つわけがないわ。
実際に乙女ゲームをプレイしていた時は、こういう設定も珍しいと思っていたけど、そもそも攻略対象にライバルが出るっていう乙女ゲームも、実際そこまでないよね。
小説には盛り上がるからって当て馬が出る事はあるけどね。
よくある好感度上げて行く系の乙女ゲームだから、最初は塩対応をされるんだけど、だんだん甘くなっていくっていうのが普通だけど、一時から一部で流行りだした悪役令嬢逆転系の小説は、ヒロインが最初からもてはやされたりしてるよね。
いや、悪いとは言わないけど、古き乙女ゲームユーザーとしては、最初から甘々展開というのはちょっと物足りないが、十八禁系なら、サクッとイベントを進めるためにはそっちの方がいいのかなぁ?
難しいところだよね。色々種類があったもんなぁ。
ああいうのは、時代と共に変化していく物だよね。
メイドに手伝ってもらってダンス用のドレスに着替えると、ダンス練習用の特別教室に向かう。
上位貴族の子女を集めているクラスの為、男女の人数が同じと言うわけにもいかないので、婚約者が同じクラスにいる人はともかく、基本はランダムで相手が決まったり、交代したりする。
リアン達は婚約者がいるにも関わらずランダムで相手が決まるけどね。
まあ、ダンスの授業は好きだからかまわないし、上位貴族のクラスというだけあって、致命的にダンスが出来ないっていう人もいないから大丈夫なんだけど、三馬鹿とペアになると最悪なんだよね。
流石に踊れないっていう事はないんだけど、自分勝手なリードが多くて、振り回されるからペースが崩れるんだよ。
ヒロインとのダンスイベントはあるけど、うまく踊れないヒロインに最初塩対応だったのって、自分のせいだったんじゃない?
それで、好感度が上がると息が合ってくるというか、ヒロインに合わせるようになってくるとかなんじゃないかな。
このクラスは、留学生も入れて男子生徒の方が多いから、女子生徒が数人と踊るようになっている。
大抵は爵位が高い生徒。つまりはわたくし達だね。
学院に入った頃は緊張されたこともあるけど、流石に何年も同じクラスに居るからね、相手も慣れたよ。
留学生はそもそも高位の存在だから、緊張とか無縁だろうしね。
しかし、去年から本当に実技とか実習の授業が増えて、いよいよ大人の社交行事に向けて動き始めるんだって実感がわいてくる。
元々淑女教育は叩き込まれているけど、より一層細かくチェックされるようになるんだよね。
本当に、ドレスさばき、姿勢から指先、カップの持ち方から飲む角度、お菓子を食べるタイミングまで事細かにチェックされるんだよ。
会話の選び方もチェックされるし、教師がいるお茶会は個人的に開く社交のお茶会と違って緊張感が半端ない。
しかも、この国の物だけじゃなくて、近隣諸国のマナーも習うから混乱する令嬢もいるんだよね。
上位貴族だと、諸外国の来賓をもてなす機会もあるから、語学だけじゃなくてその国の歴史やマナーも叩き込まれるんだよ。
場合によっては嫁いだり婿に行く場合もあるしね。
ダンスの授業は一部を除き問題なく終わり、僅かに上がった息を整える。
この国にはコルセットが無いぶんましかもしれないけど、これでコルセットで締め付けられたら、内臓が口から出るわ。
この国のドレスの流行というか、乙女ゲームの仕様上、コルセットがないんだよね。
その部分だけは運営を褒めてあげてもいいぞ。
そういえば、留学してきた王女や令嬢達は、ちゃんとこの国の流行を調べているのか、近隣諸国にある従来の厚化粧&きつい香水ではなく、新しいファンデーションによる薄化粧&ほのかな香水っていう形になっている。
ドレスもこの国の物に合わせる感じだね。
国によって流行ってやっぱり違うから、留学する場合は留学先の情報をチェックするのは怠っちゃいけないのよ。
恥をかくのは自分だしね!
ダンスの授業が終わると、また着替えないといけないんだけど、その際に汗をぬぐうのも忘れてはいけない。
着替え用の下着は使用人が持っていてくれるんだけど、使用人を付けてもらえない人は自分で持っていたり、汗をぬぐうのも自分でする事になる。
わたくしは生まれ変わってから、お世話をされる生活に慣れてしまっているけど、前世では何でも自分でしていたんだよね。
今思えば当たり前の事だけど、偉かったわ。
そんな事を考えながら着替えが終わって教室に戻ると、次の授業の準備をしなければいけない。
まあ、わたくしがするのではなく、お付きのメイドがするんだけどね。
「ツェツィ、どうかしましたの?」
「さっきのダンスで、最後のターンがいまいち腑に落ちなくて」
「けれども、先生は特に何も言っていませんでしたわよね?」
「だからこそ、腑に落ちないんです」
いつもなら注意されるところなんだけど、それが無かったのは、見逃されたのかチェックミスなのか、後々響いてくるのか……。
いや、わたくしだけの責任じゃなく、パートナーになった男子生徒の成績にも関わってくるから気になっちゃうんだよね。
この先、密かにサイレント減点地獄が始まるのだとしたら、やばいよねぇ。
何人もいっぺんに踊っていたから、教師が見逃していたっていう可能性を信じたい。
乙女ゲームではステータスはあったけど、採点方法までは無かったんだよね。
よくある選んだ項目が上がる代わりに、特定の項目が下がるっていう感じだったはず。
それでなくても、ヒロインって乙女ゲームが始まる半年前に貴族になって、最低限のマナーを叩き込まれただけだから、初期ステータスがめっちゃ低いんだよね。
周回、すなわち隠しルート以外の三人+ハーレムルートをクリアする事で初期ステータスが上乗せされていって、やっとグレイ様ルートが解放になるんだよ。
そう、すなわち、初期ステータスじゃ、どうあがいてもグレイ様ルートに入るステータスにはなれない。
周回するごとに少しずつステータスは上乗せされて行くんだけどね、最低四周しないと最低値が足りないわけだ。
うふふ。アプリ版でのグレイ様ルートは鬼だったわ。
底上げした初期ステータスでも、選択肢一つでバッドエンドだったしね。
選択肢でバッドエンドなら、ステータスを上げる意味とはって何度思った事か!
まあ、パソコン版にはステータスなんてなかったから、アプリ版になって課金目的で追加された要素なのかもしれないけど、ぶっちゃけ意味はない気がする。
あ、いや。一定以上のステータスになるとご褒美イベントあってスチルが登場するんだったわ。
攻略対象から貢がれるアイテムの他はガチャだったから、攻略対象に合わせたドレスと装飾品、髪型の組合せとかもあったな。
うん、パソコン版はそう考えると課金がない分楽だったかも。
アプリ版とかになると、どうしても初期投資を回収するために課金制度がねぇ。
ガチャ地獄に嵌まったことはないけど、友人が一時嵌まっていたな。
途中で現実に戻って来たけど、あのまま突き進んでいたらやばかったね。
そういえば、この世界って結局アプリ版なのかパソコン版なのか分からないんだけど、どっちなんだろう?
メイジュル様がスライムを飼っていたみたいだしパソコン版かなぁ?
でもそれをつぶしたから、アプリ版になった?
うーん、分からんなぁ。
がっつり描写は省かれたとはいえ、アプリ版でも悪役令嬢は悲惨な目に遭うっていう匂わせはあるしな。
…………いや、本当にさ、ヒロインまで転生者で、ヒドインじゃない事を心の底から願うわ。