表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/136

馬鹿だしなぁ

「おや? ツェツィ、口紅の色を変えたのか?」

「ふふ、やっと紅花の口紅を作る事に成功したのよ。どう?」

「いい色だ。しかし、紅花というのは結構前に入手していたが、ツェツィが苦戦するとは珍しいな」

「そうでもないわよ? 紅花の花を摘む時間は限られているし、詳しい作り方は前世でも秘伝だったから、大まかな事しか分からないもの。試行錯誤を繰り返して、やっと物になったわ」

「そうなのか」

「ただ、コスト的に平民向けとは言えないわね。高級品になってしまうわ」

「貴族向けと考えれば問題ないだろう」


 グレイ様の言葉にわたくしは頷く。

 紅花で作った口紅は、特別に作らせた容器に入れており、わたくし達親友四人組は色違いのお揃いのデザインにしている。

 筆に含ませた水の量や、人によって発色具合が変わるから、オンリーワンの口紅になるし、上から透明のリップやグロスを塗ると、艶も出るし色持ちもいい。

 それに、紅花の口紅自体は乾いたら色落ちしないんだよ。

 濡れたら落ちるけどね。

 ファンデーションやアイライン、アイシャドウやチークも全て薄く付けているけれど、スキンケアと日焼け止めをしっかりしているので、肌荒れの兆候もない。

 リアン達は、ゲーム補正でもかかっているのか、日に日に輝きを増していって、男女ともに人気が集まっている。

 我が親友達の女性としての輝きが、羨ましくて仕方がないよ。

 適温に調整されたガゼボで、のんびりとお菓子を食べつつ、ここに来るようになって変わらない、いや、わたくしが通うようになって目で楽しめるようにと増やされた花もあるけれども、それでもやはり馴染みのある景色に、しみじみとしてしまう。

 南側の領地でサツマイモを量産する理由の一つとして、アンジュル商会で鬼饅頭を販売する事にした。

 今回持って来たのはその試作品。

 あ~、ほうじ茶も美味しいし、この季節には合うねぇ。

 グレイ様も、慣れない食べ物でわたくしの食べ方を見て参考にしつつ、鬼饅頭を食べている。

 ちなみに、グレイ様に味に関して聞いた事はない。

 味音痴ではないのだけれども、わたくしが作った物は何でも美味しいと言うので、意味がないのだ。

 これに関しては、今度ハン兄様やリアン達にお願いする予定になっている。

 わたくしも、昔に比べてそれなりに体も成長しているので、食べるのに四苦八苦するというのも少なくなった。

 それでも、リアン達に言わせればわたくしは体つきが小さいので、口も小さいとのことだ。

 まぁ、大口開けておはぎや肉じゃがやハンバーグ食べている人から見たら、そう見えるよね!

 わたくし達と信頼しているメイドしかいないからって、普段の淑女教育はどこいったんだよ。


「次に考えている商品はなんだ?」

「ん~。生パイかな」

「どんなものだ?」

「こう、パイ生地を船状に焼いて、カスタード風味の生クリームを乗せて、その上から砕いたサクサクのパイ生地をかけて砂糖を振りかけた物よ。クリームの味付けを変えれば種類も増えるわね」


 わたくしの説明に、グレイ様は想像力を働かせているようだ。

 転生してから分かったことなのだけれども、わたくしは実践して教える事は得意なのだが、言葉で説明して教えるというのは苦手なようで、己の事ながら表現力の乏しさが怨めしい。

 その点、リーチェはそういう事は得意で、多くの芸術家のパトロンをしているだけあって、表現力はとても豊かだ。

 クロエはどちらかと言えば要点だけを伝える派、リアンは過剰表現になって余計に混乱させる派かな。

 それにしても、週に一度のグレイ様のお茶会も、完全に習慣化しているよねぇ。

 もちろん、頻度としては学院で一緒になっているリアン達との女子会の方が多いし、時間も長いんだけど、年齢が上がってグレイ様のしている仕事のハードさを知れば知るほど、一、二時間とはいえ、時間を作ってもらう事が申し訳なくなってしまうのよね。

 けれども、グレイ様にその事を言えば、わたくしとのお茶会が激務の疲労を癒すのだと言われてしまい、断る事も出来ない。

 グレイ様の為に、わたくしももっとお役に立ちたいのだけれども、何か方法はないかなぁ。

 執務は、まだ早いって言われて、提案はさせてもらえても、具体的な書類仕事なんかはあんまりさせてもらえないんだよね。

 前世でしっかり仕事をしていたわたくしなんだから、少しぐらい仕事を任せてくれてもいいのに。

 グレイ様だって、わたくしの年齢では書類仕事をしていたっていうのに、ずるいわよね。

 こんな風にイケメンムーブをしなくてもいいのに。


「そういえば貴族の間で、ツェツィをいつ後宮に迎えると正式に発表するのか、と話題になっているな」

「それねぇ。どうするつもりなの?」


 わたくしの言葉に、グレイ様はにっこりと微笑む。


「いつがいい?」

「それ、わたくしが決めるの?」

「私はいつでも構わないぞ? ただ、そうなった場合後宮の妃を排除しなければならないので、少々待ってもらうが」

「新しく入ったお妃様を何の罪もなく追い出すのは、まだ無理じゃないの?」

「そこがネックだな。しかし、出来ない事はない」

「聞くのが怖いんだけど」

「私は、妃には後宮以外にも出入りを許しているからな」


 にっこりと微笑むグレイ様に、わたくしは首を傾げる。

 それがなんだというのだろう。


「四人の妃に今のところ男の様子はないが、先に入っている二人はいつでも出す事が出来る。残った二人も、時間の問題だろう」

「何を企んでいるの?」

「あの二人は、自分か私に似た色を持つ子供が出来ればそれでいいと思っているらしいからな」

「顔立ちでばれるんじゃない?」

「母親側の親族似、とでも言えば済むと思ったのかもしれないな。まあ、無駄だが」

「なんで?」

「魔力による親子を鑑定する魔道具を『塔』が作成した」

「なんでもありだな!」


 学院に設置している魔力判定器と言い、『塔』は何を目指しているの?

 しかし、そんな魔道具があるのなら、生まれた子供がどれほど親に似ていなかろうと、逆に親に似た色を持っていようとも、親子判定が出来るわけか。

 うわぁ。それって国法を変える事が出来るレベルの魔道具なんじゃない?

 今までは継承権争い、言ってしまえば、庶子で本当に自分の子供か分からない場合でも、その家の当主の長子である事で継承権を認め、継承権争いを無くしていたけれども、それが『確実に』当主の子供だって分かるようになるんだよね。

 能力が無くて、長子の補佐として飼い殺しされるしかない子供にも希望が持てるようになるのかな?

 でも、そんなにうまくはいかないか。

 継承権を実力主義ってしたら、継承権争いでまた兄弟殺しとか出てきそうだもんね。

 前世でも、わたくしが生きていた時代よりもちょっと遡れば、当主の座を巡って血みどろの争いとか、そんなに珍しくないし、わたくしが生きていた時だって、それこそ会社の利権や社長の座を巡ってどろどろの足の引っ張り合いはあったもんね。

 遺産相続とか、友達の話だけどやばいやつはやばいって聞くし。

 前世の現代社会でもそうなんだから、ファンタジー色のこの世界だったらなおさらなのかもしれないよね。

 うーん、大変だわ。

 その点、我がデュランバル辺境侯爵家ははっきりしているよね。

 愛人を作らなくても複数人の子供が出来るのは当たり前の、多産な家系だもん。

 この場合、嫁いできた女性に負担が大きい気もするけど、そこはきっとファンタジーの恩恵で何とかなってるに決まってるんだよ。

 ナティ姉様は女騎士で体力もあるから大丈夫。うん。

 とにかく、子供は二人以上っていうのは常識で、三人以上が出来るのも珍しくない。

 記録では、七人産んだ女傑も居るそうだ。年子だとしてもすごいと思うんだ。

 よくドクターストップかからなかったよね。

 お父様にも兄弟が居るけど、他の家に婿や嫁に行ったんだって。

 学院での恋愛結婚だったらしいよ。

 平民になっても実力のある人だから、生活に困らない。

 ただ、平民になってしまったから、我が家との交流は向こうから遠慮しているみたい。

 普通の平民として暮らしているので、貴族に関わりがあると思われると面倒だとか、いざというときに自分達を盾に迷惑をかけると申し訳ないから、だって。

 その潔さはお父様とよく似ていると思う。

 いや、爵位をとっとと譲って諸国漫遊の旅に出たお爺様とお婆様に似ているのかな?

 っていうか、わたくしは本当にお爺様とお婆様に会った事がないんだけど、こっちから手紙を送れないせいでわたくしが生まれたことも、お母様が亡くなった事も知らない気がする。

 薄情だと思う気持ちもなくはないけど、そもそもお父様曰く、『何を目的』にいきなり諸国漫遊をすると言ったのか分からないそうで、二人の事を聞くと良く遠い目をされるのでわたくしはいつの頃からか、お爺様達の事は聞かなくなっていた。

 そんな事を考えて鬼饅頭をパクっと食べて、もぐもぐとしてから、そろそろ秋も終わるから、わたくしの誕生日パーティーの準備をしないといけないなぁと考えた。

 去年はあんな騒ぎがあったから、今年は何の問題も起きないといいんだけど。

 それにしても十三歳になるのかぁ。

 乙女ゲーム開始まであと約三年、これまで出来るだけの事はしてきたつもりだけど、どう転ぶかはわからないよね。

 少なくとも、ヒロインが登場する前に婚約解消出来ていればいいんだけど。

 微妙に時期的にギリギリになりそうなのが問題よね。

 学院に通っている生徒は、本当に一部を除き、リアン達が婚約を解消したいと心の底から願っている事を知っているし、グレイ様がそれを後押ししているのも知られている。

 もし、ヒロインが『嫌がらせをされた』と言っても、信じるのは馬鹿三人組だけだろう。


「ねぇ、グレイ様」

「ん?」

「まさかとは思うけど、婚約解消が間に合ったとして、世界の強制力で馬鹿じゃなくてメイジュル様達がそれを理解しないとか、ないわよね?」

「流石にそこまで愚かではないと思いたいが……」


 グレイ様も強く否定出来ないのか。

 うーん、前世で読んだ小説には、もう婚約破棄されているのに、それを知らない馬鹿な攻略対象が悪役令嬢を責めるっていうのがあったよね。

 そうなったら、慰謝料を取れるように、婚約解消をする時の契約書に『そんな事』が起きたら慰謝料を払うって明記してもらった方がいいって伝えておこうかな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あ〜馬鹿だからやりそうだね〜(笑) そして落ちぶれてから『縒りを戻してやる!』ってほざく迄がテンプレですね〜(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ