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全員濃いね

「美しい人。貴女に出会えた事は、私の人生の中で、もっとも喜ばしい事です」


 リアンの誕生日パーティーで紹介された、来年度からの留学生の一人である、ヴァルドン王国の第五王女、ファシェン様は、なんというか……王子様? 女騎士? っていう感じの人だ。

 どうやらクロエが好みドンピシャだったようで、紹介された瞬間からクロエの手を取り、手袋の上から指先にキスをして、周囲から黄色い悲鳴が聞こえて来た。

 こ、濃い人が来たなぁ。


「あの画家に注目されるとは、マルガリーチェ様はお目が高い。自分も彼はいつか花が咲くと思っていたのですが、いやはや、先を越されてしまいましたね。芸術家関係だけではなく、多くの方面のパトロンをしているというその姿勢、まさにマルガリーチェ様は慈愛の女神のようですね」


 ルナウェル王国の第三王子のトゥルージャ様は、留学前からリーチェの噂を聞いていたらしく、今回の留学もリーチェに会いたかったからだそうで、出会ってしばらく話したら、リーチェが芸術方面だけじゃなく、娼館や孤児院のパトロンもしていると知り、以前にもまして興味深いと、それはもう嬉しそうに微笑んでいる。


「メイベリアンお姉様。本日はお誕生日おめでとうございます。これ、わたしが選んだ首飾りなんです。ふふ、ちょっとデザインに凝ってしまって、間に合わないかと思ったんですけれど、出立前に間に合ってよかったです。肖像画で見た、メイベリアンお姉様の瞳の色と同じ琥珀を使っているんですよ」


 バークバード王国の第二王女である、シェルティナ様は、以前からリアンの噂を聞き大ファンだったようで、ずっと留学をしたいと言っていたのだが、国王である父親が頷かずとん挫していたが、押し切ったらしい。

 同じ学年に入ってくる新しい三人も濃いけど、他の学年に入ってくる留学生も結構濃かったなぁ。

 わたくしの学年には他に留学してくる人はいないけど、他の学年にお茶会に呼ばないといけない年頃の王女や令嬢がいるからそっちの対応が面倒だな。

 そういえば、グレイ様が「目的をはき違える小娘が多い」とか言ってたけど、あわよくばお妃様の地位を狙って送り込まれた?

 しっかし、紹介してもらった留学生は、言わなくても分かると思うけど、全員美形。

 これが、ゲーム補正ってやつなのか?

 でもやっぱりこんな留学生はいなかったよねぇ。攻略対象でなくても、モブとして出てきてもおかしくないはずなのに、かすりもしないんだから、変だよなぁ。

 それでいったら、辺境侯爵家の令嬢であるわたくしがモブな時点でも微妙なんだけど、まあ、それはストーリーに関係しないって事で、納得するとしても、留学生が攻略対象なのはお約束なんじゃないの?

 そんな事を考えつつ、仲良くしている六人の邪魔をしちゃ悪いかなぁと、僅かに距離を置いていると、それに気が付いたファシェン様が声をかけて来た。


「まあ、ツェツゥーリア様。そんなところにいないでこちらにどうぞ」

「そうですよ。お美しい四人を、いえ、六人を拝見出来るのは眼福という物です」

「メイベリアンお姉様達は、学院では薔薇様と呼ばれているのだそうですね。素敵、憧れてしまいます」


 逃げ遅れた、じゃない、巻き込まれ、でもなく、仲間に入れて貰えた。

 いつも通りに三人の傍に行くと、すっと「逃げるな」と言わんばかりに囲まれてしまった。

 くっそ、こんな目立つ主要人物集団にモブを放り込むなんて、なんという仕打ちっ。

 そうしていると、マドレイル様までやってきて、八人という大きな集団になってしまったわたくし達は、リアンが本日の主役という事もあり当然目立つわけで、余計な厄介事も訪れる。

 周囲からは「目の保養」だの「貫禄が」だの「これからが楽しみ」とか聞こえてくるけど、わたくしはモブなんだよなぁ。

 こんなキラキラ軍団の一員にしないで欲しい。

 それでも、和やかに話をしていると、わざとなのか、カッカと足音を立てて近づいてくる人がいて、そちらに目を向けると、案の定メイジュル様達が来た。

 内心ため息を吐き出したが、仮にも第二王子相手なのだから、かろうじて笑みを浮かべて視線を向ける。


「各国の代表ともあろう者が、こんな所にいるなど。嘆かわしい」


 第一声がそれか、とため息を吐きたくなるけど、ぐっとこらえる。

 メイジュル様だって、相手は各国の王族なのだから、下手な態度はしない、と信じたい。


「今後のクラスメイトとして、友好を深めてはいけないと?」

「トゥルージャ様。友好を深める相手をお間違えのようだ。それとも、貴殿は王族とただの貴族の違いも分からないと?」

「まあ、驚きました。そのような事をおっしゃる王族と友好を深めなければいけないなど、我が国では学びませんでしたよ」

「ファシェン様の国は女王が治めているからな。行き届かないところもあるのだろう」

「え? 本気で言っていますか? 近隣諸国で最も豊かな国であるヴァルドン王国に対してそんな事を言うなんて、メイジュル様は言っては何ですが、この国とヴァルドン王国に軋みを生みたいのですか?」

「シェルティナ様、勘違いをしないで欲しい。そうやって言葉尻を持ち上げて好き勝手に言うから、女は、なんて言われるんだ」

「おや? それでしたら、また女性を体験してみますか? 今度はもっと長い期間」


 マドレイル様の言葉に、メイジュル様達が一斉に顔を青ざめさせた。

 薬はもう持ってないらしいけど、脅し文句にはちょうどいいね。


「女性を体験?」

「実はですね…………」


 聞かれてしまったので、マドレイル様が経緯を説明すると、初めて知った三人が笑いをこらえるために、ファシェン様とシェルティナ様は扇子で口元を隠し、トゥルージャ様は手で口元を隠した。

 馬鹿にされたと感じたのか、メイジュル様達が顔を真っ赤にしてこぶしを握り締める。


「しかし、女性の苦労を知ったのなら、男としても磨きがかかったのでは? 思いを共感出来るというのは、強みですからね」

「全くですね。自分は体験したいとは思いませんが、貴重な体験だと思いますよ」

「ふふっ。そんな魔法薬があるなんて初めて知りました。やはり世界には知らない知識が沢山ありますね」


 必死のフォローをしつつ、震えた声で言う三人に、メイジュル様達はやはり馬鹿にされたと思ったのだろう、次の瞬間大声を上げた。


「無礼な! 自分の国に居場所がないお前達を受け入れてやっているのに、その態度は何だ!」


 その声に、シン、と静まり返り視線が集まる。

 何言ってんだ、このクソ馬鹿。


「大体、お前達と俺では価値が違う。俺に声をかけてもらった事を喜ぶべきだという事を、分かっていないようだな!」

「おい、愚弟。妾の誕生日パーティーで随分な暴言を吐いてくれる物じゃな。お前とこちらの方々の価値が違う? そうじゃな、お前のような愚か者と比べるのも烏滸がましい」

「は?」

「毎年のこととはいえ、そなた達は妾の誕生日パーティーに参加するにふさわしくないようじゃ。今からでも、退席するがよい。来年以降も、参加せんでよい。ルーカスもじゃ。側近であるにも関わらず、メイジュルの行動を止められなかったのじゃから、同罪じゃ」

「なっ、私は貴女の婚約者ですよ! それを、誕生日パーティーに呼ばないなど、何を考えているのですか! 常識という物がないのですか?」

「国の恥を晒すよりはましじゃ。分かればそなた達三人は即刻退場せよ」


 リアンがそう言って出口の方を扇子で指すと、メイジュル様達は顔を真っ赤にしてリアン達を睨んで出て行った。

 微妙な空気が流れる会場に、リアンの鳴らした手の音が響く。


「皆の者、心配をかけてすまなんだ。妾の誕生日パーティーはまだ続く故、時間の許す限り楽しんでいくがよい」


 リアンがそう言えば、止まっていた音楽が再開され、空気も先ほどの事はなかったかのようになる。

 学院の生徒はメイジュル様達の行動は知っているし、生徒から親に話はいっているはずだから、あそこまでひどいと思ってなかったにしろ、見切りを付けるにはちょうどいいきっかけになったんじゃないの?

 泥舟に乗りたい人はそのまま乗って行けばいいしね。

 メイジュル様達が居なくなって、しばらく和やかに話していると、人が割れてその間からグレイ様が登場した。

 他国の人や貴族の対応が終わったのかな?


「面白い余興だったようだな」

「兄上、メイジュルはどうにかならぬのか? クロエがあまりにも可哀想じゃ」

「そうだな。『今は』クロエールの婚約者ではあるが、今のままでは婚約の継続は『ない』だろう」


 グレイ様がはっきりとこういう事を口にする事はないので、わたくし達は目を瞬かせてしまった。

 匂わせることはあっても確定させる事を言わないのがグレイ様だったのに、どんな心境の変化?


「メイベリアンとルーカスの婚約も、『考え物』だ。宰相も、次男が長子であればと執務の間に『嘆いて』いる」


 いや、本当にどんな心境の変化!?


「……そういえば、マルガリーチェも随分とひどい婚約をしているんだったな」

「はい、陛下」

「それは『気の毒』に。お前はメイベリアンの大切な親友なのだからいつでも私に『相談』しなさい」

「勿体ないお言葉です」


 深々と頭を下げるリーチェだけど、これは下準備が出来たっていう合図なのかなぁ?

 でも、次のお相手がふさわしい地位を得るのは、それぞれまだ時間がかかるんじゃない?

 それも含めて解決?

 それならそれで別にいいんだけど、事前説明はして欲しいって思ったりするんだよねぇ。


「ツェツィ。『いつも』私に助言をしてくれたり、様々な事を『手伝って』くれる事、大変『嬉しく』思っている。『今後も』私の良き『パートナー』として『期待』している」


 …………あ、これはあれだ。

 どっちかっていうと、国外から来た留学生たちへ向けた牽制だ。

 わたくしを最後にしたのは、印象を強くするためと、わたくしと仲がいいリアン達も特別だって周知させるためね。

 あとは……うーん、まさかとは思うけど、新しく来た留学生を取り込もうと画策しているとか?

 リーチェとリアンは好きな人がいるし無理だよね。

 クロエは、一応マルドニア様が居るけど、意識はしていないから、狙うならそこ?

 公爵家だから他国から王族を受け入れてもおかしくはないけど、クロエってば面倒な立場になったなぁ。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ…クロエが落し所ですかねぇ…(笑)
[一言] 異母姉の誕生日パーティーで招待された留学生に彼らの国や彼らを貶める発言する王族とそれを止めない側近、異母姉に追い出されたあとに現れたグレイによってもう見限りのカウントダウンが終わりに近づてき…
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